第116話 解釈違いは許しません
はあああああああああ?
ちょっとちょっと、解釈違いは止めてもらえる?
お兄様は妹を溺愛してるの。そこは譲れないの。
だってその最愛の妹が死んでしまったから、表情筋が働かなくなって氷の貴公子なんて呼ばれるようになったくらいなんだよ?
それが実は妹を憎んでました、なんて言ったら、ただのマザコンじゃない。
シスコンのあまり闇落ちしたのは許せるけど、というより、あーなるほどねーって納得しちゃうけど、マザコンが原因でラスボスになったとか無理!
無理無理無理!
そもそもお兄様は私のことを「レティシア」なんて呼ばないし、こんなのぜーったいにあり得ない。
お兄様の偽物め!
お兄様を返せー!
私の体が魔力を放出した時のようにピカピカと光る。
その光が偽物のお兄様を焼き尽くした。
「私のお兄様は世界一素敵なんだからー!」
と、叫んだところで目が覚めた。
目の前にはモコがいて、私の顔をなめていた。
「モコ?」
「きゅうっ」
嬉しそうなモコが私に頬ずりをしてくる。
えっと……何がどうなってるの。
まだちょっと頭がフラフラするけど、寝たまま辺りを見回してみる。
私がいるのは家具もなにもない部屋だった。下に布を敷いて寝ていたみたい。
自分の部屋じゃないし、宿でもない。
ここは一体どこだろう。
あ、そういえば、埃を凍らせる幻想的な光景の中でたたずむ麗しのお兄様を見て興奮して倒れたんだった。
妹として見慣れているはずなのに、まだまだ覚悟が足りなかったね。
でもあの麗しさに興奮しないほうが無理だよ。
モコが必死に魔力を吸い取ってくれたけど、それでも吸収しきれなくて体が光って、さらにキャパオーバーして寝落ちしたんだね。
と、そこで背中のぬくもりに気がつく。
お、お兄様⁉
なんとお兄様が私を抱きしめて寝ていらっしゃるぅぅぅ!
これはなんのご褒美ですか。
ぶわっ、っと膨れ上がる魔力を、モコが急いで吸収してくれる。
「モコ、ありがとう」
モコにお礼を言ってから、なんでお兄様が添い寝してくれているのかとか、状況を把握するために周りを見る。
きょろきょろと視線だけを巡らせると、お兄様だけではなくエルヴィンやマリアちゃんもいた。
なるほど。これは、安全のために雑魚寝をしたっぽいね。
人の気配は皆無だったけど、盗賊の襲撃を見張る門番がいるわけでも、魔物を弾く結界があるわけでもないから、当然の行動だ。
さすがに村全体は無理でも、この建物くらいなら「敵は外」のお守りが効きそう。
今からでも貼りに行こうかな、と思ったんだけど……。
このぬくもりを手放せない!
だってえええええええ。
お兄様にぎゅーってされてるんだよ?
しかもさ、お兄様の寝顔見放題。
いつもはお兄様のほうが早起きをするから、こんな機会は滅多にないもん。
思う存分堪能しないとー!
私はもそもそと体勢を入れ替えて、お兄様と向かい合う。
ああああああああ。
お兄様の寝顔ぉぉぉ。
ありがとうございますありがとうございます。
本当に幸せですー!
それにしても、今まで見ていた夢も最悪だったなぁ。
夢にしたって、あのお兄様はあり得ない。
だってお兄様が妹を溺愛しないわけがないもんね。
って、その妹って私なんだけど。
うへへへへ。
転生して良かったなぁ。
それにしてもリアルな夢だった。
最後の偽物お兄様はともかく、小説の中のお兄様は、もしかしたら小説の中で描かれていなかっただけど、本当はこうだったんじゃないの、って思ってしまったほど。
とはいえ、あんな偽物が出てくる夢なんだから、本当のわけはないんだけど。
だって、小説のお兄様も現実のお兄様も、絶対にあんなことは言わない。言ったとしたら、それはもうセリオス・ローゼンベルグではありえない。
それっくらい、お兄様のシスコンは、私のブラコンと双璧になる人としての根源なんだから。
「うっ、レティ……行かないでくれ」
そうやってニマニマしていたら、お兄様が何やら眉間に皺を寄せてうなされている。
む……。
お兄様の健やかな眠りを邪魔するとは、なんとケシカラン夢だ。
しかも私がどこかに行っちゃう夢とか、許せない。
だって私は、お兄様が望む限り、いつでもどこでもずーっとお兄様の側にいますからね。
「お兄様、大丈夫ですか?」
そっとお兄様の肩を叩く。
でもお兄様は苦しそうにしているだけで目覚めない。
……おかしい。
お兄様は気配に敏感だから、私がこれだけ起こそうとしていたらすぐに起きるはず。
ううん。よく考えたら、私が起きた時点でお兄様も目覚めていないとおかしい。
私は起きあがって、お兄様の体をゆさぶる。
「お兄様、起きてください、お兄様」
だけどお兄様は全然目を覚まさない。
ぜったいにおかしい。
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