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【書籍化・コミカライズ連載中】グランアヴェール~お守りの魔導師はラスボスお兄様を救いたい~  作者: 彩戸ゆめ
第三章 魔王の出現

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第114話 夢の中で

「レティ、息を止めて」


 はいっ、お兄様!

 モコも息を止めるのよっ。


 私は埃を吸いこまないよう、声を出さずに返事をして息を止める。

 それでも息を止めているのには限界がある。


 もう限界、と思った時、お兄様の涼やかな声が響き渡った。


「アイスミスト」


 すると部屋の空気が瞬時に冷たくなり、凍り付いた埃の粒が光を反射して、まるで小さな星の欠片のようにキラキラと輝き始めた。


「うわぁ」


 お兄様の魔法で、ボロボロだった廃屋が幻想的な世界に様変わりする。


「すごい……まるで夜空の星みたい。」


 マリアちゃんが息を飲んで呟く。

 その目は凍りついた輝きに釘付けになっていた。


 氷の粒は部屋の隅々まで散らばり、重なり合った結晶が光を反射して、眩いばかりの光のカーテンを作り出していた。


 とはいえ、元は埃だけどね。


「美しいな……」


 感極まったようなエルヴィンの声も聞こえる。


 いや、凍っていても埃だけどね。

 確かに綺麗だけど埃だから、そんなに感動するようなものでもないんじゃない?


 そもそもエルヴィンは王太子なんだから、もっと綺麗なものなんてたくさん見ているでしょうに。


 お兄様がそっと手を下ろすと、アイスミストが静かに消えて、空中の氷の結晶はゆっくりと舞い降り始めた。

 そして、まるで雪が降り積もるように、床に柔らかな光の絨毯を敷いていく。


「これで、少しは見通しが良くなったかな」


 微笑みながら言ったお兄様が、周囲を見回す。

 あれほど埃っぽかった部屋が、一気に浄化されたみたいだ。かび臭かった空気も一掃されて、清涼になっている。


 なんだろう。お兄様がそこにいるだけで、廃屋がスポットライトの当たる舞台に見える。


 はっ。これがカリスマっていうこと?


「まさか氷魔法をこんなことに使うとは思わなかった」


 呆れとも賞賛とも取れる口調でエルヴィンが部屋を見回す。


「魔法は役に立つか立たないか、だよ。見栄えなんて気にしていられないさ」

「名より実、か」

「そういうこと」


 お兄様がエルヴィンにウィンクする。


 はああああああ。

 これが天国ですか? ここが天国ですか?


 神様ありがとううううう!


 あまりの尊さに興奮したらモコがぴったり張りついた。

 でもそれ以上に体の中の魔力が膨らんで、体が光って――。


『レティシア、限界を超えておるぞ』


 慌てるランの声が聞こえて。

 ぷつっと意識が刈り取られた。



 







 これは夢だ。

 なぜだかそれが分かった。


 だって前にも見たことがあるもの。

 お兄様がラスボスになってしまって、アベルに討ち取られてしまう夢。


 でもこの夢は、物語の最初から……ううん、もっと前から始まっていた。


 夢の中で幼いお兄様が生まれたばかりの赤ん坊の顔を覗きこむ。

 あれは……私?


 違う、そうじゃない。

 あれは、物語のレティシア・ローゼンベルクだ。


 その証拠に、あの子には魂がない。

 ただ体だけが、生きながらえている状態だ。


「レティ、今日はね庭にミモザの花が咲いたよ。部屋に飾ろうね」


 お兄様は。

 春には黄色いミモザを飾り。


「これはお母様が好きだった薔薇なんだ。レティの髪の色に似ていると思わないかい?」


 夏には淡いピンク色の薔薇の花を飾り。


「コスモスの花が咲いたよ。レティの髪に飾ってあげる」


 秋には薄紅色のコスモスの花を飾ってくれた。


 庭に咲いた季節の花を自ら手折り、花の香りで部屋を満たす。

 風になびく白いカーテンの向こう、寂し気に微笑むお兄様の顔が見える。


「ああ、今日は寒いと思ったら雪だ……」


 お兄様はもの言わぬレティシアに、毎日話しかけてくれていた。


 だけど。


 魂がないから興奮することもなく、レティシアはただ滾々(こんこん)と眠り続ける。


 体の成長と共に魔力が増えて、死の影が近づいてくるのを。


 お兄様はたった一人で見続けていた。


 それはどれほどの孤独と絶望だっただろう。


 最愛の妻を亡くし、娘もまた目覚めないという現実から目を背けたお父様は、ミランダに騙されて再婚し、家の中でもお兄様の居場所はなくなっていった。


 少しずつ、お兄様の笑顔が失われていく。


 そして、ついにレティシアの体が魔力に耐えられずに、命の火が消えてしまった。


 死ぬ瞬間、レティシアの目が一瞬だけ開き、紫の瞳がお兄様をとらえる。


 人形のようなガラス玉の目。

 でもその目は確かにお兄様を見た。


 そして大きな息を吐くと、その目は閉じて、二度と開かなかった。


「レティ、レティ、レティシア! 僕のたった一人の妹……!」


 それでもお兄様は、私の死を悲しんで慟哭する。


 ああ、泣かないで。

 泣かないで、お兄様。


 だって私はここにいるもの。

 お兄様の側にいたくて。その綺麗な涙をこの手で止めたくて。


 それで、私は――。


 すると場面が変わって、お兄様が学園へ入学した。婚約者であるフィオーナ姫と並んで入学式に参列している。


 あれ、でも、お兄様はフィオーナ姫に対して、うわべだけの笑みを向けているみたい。

 だってお兄様の笑顔はもっと優しくて美しくて、見ているこちらが幸せになるような微笑みだもの。


 それはエルヴィンに対しても同じ。

 未来の主君として礼儀正しく接しているけど、それ以上でも以下でもない。


 え、どういうこと?

 だって小説ではお兄様はフィオーナ姫と仲睦まじかったし、エルヴィンは親友だったはずじゃないの?


 でも目の前の三人はどうにもそういった関係には見えない。


 そして勇者が選定されてアベルが学園へやってくる。


 アベルはお兄様たちと一緒に魔王討伐の旅へ出て、表面上は仲良く旅をしているように見えるけれど、お兄様の瞳は凍ったまま。


 そして魔王を討伐するんだけど……。


 倒される寸前、魔王がお兄様に向かって何かをささやいた。

 そして、お兄様の目に、生気が戻った。


 今、何を言ったの?

 魔王はいったい何を。



もしも「面白かった」「続きが気になる」などと思って頂けましたら、

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どうぞよろしくお願いします!


いつも誤字報告をしてくださってありがとうございます。

感謝しております(*´꒳`*)

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