第100話 トロールとの戦い
「トロールだ!」
その姿を認めたエルヴィンが叫ぶ。
トロールは身の丈が三メートルを超える巨人で、全身が岩のような硬い皮膚に覆われている魔物だ。肌の色は灰色がかっていて、ところどころ苔や泥が付着している。
大きな黄色い目はぎらついていて、その目の下には深いしわが刻まれている。
鼻は大きく潰れ、口元には鋭い牙がむき出しになっていて、口を開けて吠えるたびに、悪臭を放つ唾液が飛び散る。
うわぁ。めっちゃキモい。
確かトロールって凄く強いんじゃないっけ。
長い両手の先の爪は鋼のように鋭くて、何でも切り裂く力を持っているようだった。
トロールの足元には大地を踏みしめるたびに深い足跡が刻まれ、地面が揺れる。
動きは遅いけど、あの腕で攻撃されたらひとたまりもなさそう。
攻撃を受けないようにして倒さなくちゃいけない。
「トロールには魔法が効きづらい。ラン、レティとマリアを守れ! エルヴィンとアベルは剣でトロールの足を狙え」
トロールは低く唸り声を上げながら、ゆっくりと私たちに近づいてくる。
それを見たお兄様が指示を飛ばす。
「アベルは右から回りこんで右足を狙え。エルヴィン、最初は風魔法で援護を。レティ、足止めのお守りを飛ばして。マリアは怪我をしないように注意して! ランは僕と一緒に腕の攻撃を防御だ」
「分かった!」
「任せろ」
「了解です!」
「はい!」
「承知した」
ほぼ同時に返事をして、トロールと対峙する。
私はあらかじめ作っていた『足止』お守りを取り出す。
角ウサギで実験した時はちゃんと足止めができたけど、トロール相手でも効きますように!
思いっきり投げると、ペタッとトロールに貼りついた。
このお守りは二重構造にしていて、表を『足止』裏を『貼』にして縫い合わせてあるのだ。
ゆっくりと、トロールの足が止まる。
「ぐわおぉぉ」
動けないことに怒ったトロールが腕を振り回す。
その風圧だけで倒れそうになるけど、ランが前に立って庇ってくれる。
「ありがとう、ラン」
「どういたしまして」
黒髪に執事服のランはめちゃくちゃカッコイイ。
中身が聖剣おじいちゃんだって分かってても、こうして守られるとキュンキュンしちゃうね。
腕の攻撃をお兄様とエルヴィンが引き付けている間に、アベルがトロールの右後ろに回りこんできた。
アベルの持つ勇者の剣が、トロールの皮膚を切り裂き、血が飛び散る。
でもトロールはその痛みに怯むことなく、さらに激しく腕を振り回してアベルを追い払おうとする。
トロールが右足とアベルに気を取られている隙に、エルヴィンが左足に切りつける。
お兄様はトロールの腕を凍らせて動きを止めようとしていた。
「折り紙君一号もトロールの足を攻撃!」
私は千羽鶴をポケットから取り出す。紙に「式神」と書いて折った鶴は、本物の式神のように自在に動く。
なんとなく個性まである、私の強い味方だ。
折り紙君一号はリーダー気質で一番攻撃力が強い。
カッターのような羽が、トロールの足を切り裂いた。
そして目にもとまらぬ早さでトロールの足元を飛び回り、トロールの意識を釘づけにしている。
それでもトロールの体は固くて、なかなか致命傷を与えられない。
「先に腕を落とす」
そう言ってお兄様が、鋭い氷の矢をいくつも作ってトロールにぶつける。
「凍てつけ」
ああああああ。
こんな場合じゃないのにカッコイイ~!
白銀の髪が風になびいて、アイスブルーの瞳が鋭さを増してトロールを睨む。
この世の美の結晶とでもいうべきお兄様の美貌に、全世界がひれ伏してしまいそう。
「グオアァァ」
氷の矢がトロールの足元に刺さり、そこからどんどん凍りついていった。
トロールが大きく右腕を振りかぶる。
「トロールの右腕に、折り紙君カッター!」
私は折り紙君に命令をして、右腕を狙わせる。
アベルとエルヴィンが同時に同じ場所を狙った。
いける!
トロールの右腕が根元から切り落とされていく。
次は左腕!
「左腕に折り紙君カッター!」
びゅんと飛んでいく折り紙君一号が、鋭い羽でトロールの左腕を狙う。
するとアベルが大きく跳んだ。
「うおおおおおおおぉぉ!」
勇者の剣を振りかぶって、トロールの左腕を一刀両断にする。
折り紙君一号は、紙一重でその攻撃に巻き込まれるのを避けた。
あっぶな。
もうちょっとで折り紙君まで切られるところだった。
攻撃の要である腕を落としたトロールは、すでに脅威ではない。
「エルヴィン止めを!」
お兄様の号令で、エルヴィンの大剣がトロールの首を刎ねる。
「やった!」
嬉しそうなエルヴィンの声と同時に、どうと、トロールの首が地面に落ちる音がした。
やがてゆっくりと足元の氷が溶け、トロールの岩のように巨大な体がドォーンと地響きを立てて、倒れていった。
ふぅ。倒したね。
攻撃を受けたら即死っていうくらい強そうだったけど、やっぱりこのパーティーって規格外だわ。
こんなに大きなトロールをあっさり倒しちゃった。
「トロールをこんなにあっさり……」
アベルがなかば呆然としながら呟く。
もしアベルたちの住んでいた村にこんなに大きなトロールが現れたら、大騒動だもんね。
小さな村の一つくらいは軽く全滅してしまう。
「凄い……」
マリアちゃんも、驚きのあまり目を丸くしていた。
いや、でもこれさ、ランとモコがほぼ参戦してない状態だし、私も指輪の魔力を使ってないから、全力じゃないのよね。
全力で戦ったら、発生したての魔王くらいはすぐ倒せちゃうんじゃない?
『おそらくそうなるだろう』
ランが心話で伝えてくる。
だよねぇ。
そう思いながら、私はトロールとの戦いによってグチャグチャにされたテントを見る。
(こっちの片づけのほうが大変そう)
『違いない』
ため息をこぼすと、ランが唇の端で笑うのが見えた。
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