第1話 転生先は、なんとあの……!
明けましておめでとうございます!
新連載スタートです。
勇者アベルの持つ白銀に輝く聖剣が、親友だったセリオスの胸を深く貫く。
「セリオス……なんでだよ……。俺たちは一緒に魔王を倒した仲間じゃないか」
慟哭しながらのアベルの問いに、口から血を流すセリオスは薄く笑う。
「……仲間だった時もあったけれど、私はずっと君が憎かった。なぜ君だけが光り輝いているんだろう。私の光は失われたのに」
無理に言葉を発したからか、セリオスはゴボリと血を吐いて、ゆっくりと後ろに倒れた。
セリオスの胸から聖剣が抜かれ、アベルの手に伝わっていた手ごたえがなくなる。
まるで世界から一切の音がなくなったかのような静寂が訪れる。
そしてセリオスが倒れる音が響いた。
「ああ、私の光……」
仰向けになったセリオスは、まるで手に入らぬ何かをつかみ取ろうとするかのように、空に向かって手を伸ばす。
だが伸ばされた手は何もつかむことができず。
そのまま力を失って、自らの血の海の中に沈んだ。
「セリオーーース!」
「ああああ。推しが……推しが死んじゃったぁぁぁ!」
病室のベッドの上で読んでいた本を閉じて胸に抱いた私は、もう消灯の時間だというのに思わず叫んでしまった。
「確かに最終巻だからラスボスのセリオス様が倒されるかもとは思ってたけど……。でも改心してハッピーエンドだっていいじゃなーい!」
私、桜井真奈は、病弱で入退院を繰り返していたせいで同年代の友達がほとんどいなかった。唯一の友達は漫画や小説のキャラクターたち。
物語の中でなら、私も普通の子と同じように生活をして、笑って、学校に通って、そして異世界で冒険することもできた。
特にお気に入りなのは「グランアヴェール」というお話。
小説だけでなく、漫画化したり映画化されたりしたこの作品は、出版不況と言われた時代に大ブームを起こし、最新刊の発売日には書店に長蛇の列が並んで社会現象にまでなった。
物語は王道のファンタジーで、聖剣を手にした少年が様々な人々との出会いと別れを繰り返して成長していき、魔王を倒す為の旅を続けるというもの。
主人公とその仲間だけでなく敵キャラの苦悩にも焦点を当てたお話は、あらゆる世代の共感を得た。
そして私の最推しは、セリオス・ローゼンベルク。
学園に入学する前に最愛の妹を失い、感情を失ってしまう氷の貴公子だ。
アイスブルーの切れ長の瞳に、後ろでゆるく結んだ銀色の髪。
そのビジュアルだけでも好みなんだけど、セリオスの婚約者でありパーティーの回復役でもあるヒロインの王女が、魔王討伐の旅に同行するうちに勇者に惹かれていくのを知って静かに身を引こうとする描写が、凄く好みで大好きだった。
そして苦難の末に魔王を倒して王都に凱旋するんだけど……なんとセリオスはラスボスとなって主人公の行く手を阻むのである。
なぜラスボスになったかという事は語られないまま、セリオスは主人公と対決し……。
そして、敗れてしまった。
「セリオス様を幸せにする会の会長の私としては、どう幸せにするかをずっと考えてたのに、こんなのないよ。だって国宝級……ううん、世界遺産級イケメンのセリオス様だよ? 幸せにならないなんて、おかしい」
看護婦さんに見つかると本を取り上げられてしまうので、私は声が漏れないように布団を被って呟いた。
だったら黙ればいいんだけど、あまりのショックに口に出さずにはいられない。
「私が妹だったら、セリオス様を絶対幸せにしてあげられるのに」
セリオス様の妹も病弱で早く亡くなってしまうんだけど、もし私が妹だったら、絶対に根性で長生きするわ。
だってセリオス様が兄なのよ、兄!
そんな幸せな境遇なら、一分一秒でも長生きしなくちゃもったいない。
「しかも最後まで勇者に乗り換えた婚約者の王女を愛してたとか尊い。尊すぎるー! はぁぁ、大好き」
私は本を抱えたままベッドに仰向けになる。
そして小説を両手で持ってもう一度読もうとした時――。
「うっ……!」
胸に鋭い痛みが走った。
急に息ができなくなる。
発作だ。ナースコールしないと……。
震える手でボタンを押す。
そして――。
発作を起こした後の目覚めはすっきりしない事が多い。
でも無事に乗り越えられたんだと思うとホッとする。
だってグランアヴェールの最終回をまだ読んでないし。
セリオス様は死んじゃったけど、回想シーンでまた登場するかもしれないから、絶対それまでは死ぬに死ねない。
そんな事を思いながら、病室の白い天井を見上げ……んん?
天井が白くない?
というより、真っ青な空に白い鳥が飛んでいて虹のかかっている絵が描いてある。
よくヨーロッパのお城の天井に描かれてるやつに似てる。
もしかして病院の特別室に移ったとか?
それにしても天井にこんな絵を描くかなぁ。
とりあえず起きてみようと思ったけど、体が動かない。
「あ……うー……」
それどころか声も出ない。
こ、これはかなり危険な状態なのでは……。
言うなれば、かなり死にかけというか、なんというか。
そこへドアが開く音がする。
見たこともないような美しさの少年が私を見下ろす。
驚いた私は体の中が熱くなって息ができなくなる。発作が起きたのだ。
息を吸って吐いて、と呼吸を整えようとするがどんどん苦しくなる。
思わず助けを求めて伸ばした手が小さい。
誰かが手を握ってくれた。
でも……。
私は、そのまま意識を失った。
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