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第■■話:二人

 めを、ひらくと、ふしぎな、かんかくが、した。


 ぶくぶくぶくと、なにかがうごく。


 だれ?


「————成功だ」


 だれかが、ふるえている。


 なんにもない。なんにもない。


「これが———か」


 ふたりになった。このひとは、おとうさん


「あぁ————本当にあの子なのね」


 さんにんになった。このひとは、おかあさん。


 ぶくぶくぶくと、なにかが動く。


「よくやってくれた五十嵐。これであの子は———」


 わたしのなまえ。


「魂の構成要素である『因子』の観測/同定/結合/侵食/固定。その過程全てをクリアした世界初の事例だ。———しかし、分かっているな五十嵐?」


「もちろんですよ。これはあくまで非合法的な行為。全ては十大家系(オリジナル)にのみ還元されます」


 おとうさんは、どこかにいっちゃった。


「五十嵐さん。この子はいつから生体ポットから出せるのでしょうか」


「『因子』に誤作動がなければ、来月には通常通りに活動が可能でしょう」


「あぁ………そうなんですね」


 おかあさんが、ないている。


-----------------


「この———化け物っ!」


 頬に痛みが走る。


「…………っ」


「貴方のような化け物。どうして生み出してしまったのかしら! あの子と同じ顔をして、お母さんだなんて呼ばないでちょうだい!」


 涙を流す母親の顔を眺める。しかし少女には、なぜ自分の母親が泣いているのか理解ができなかった。どうしてこの人はこんなに怒っているのだろう。何に嘆いているのだろう。と不思議な表情を浮かべる。


「————無理でしょうね! 貴方のような(むくろ)が、人間のような、あの子のように笑うはずないですもの!」


 痛みが走った右頬に触れる。どうやら口端も切れており、ツーッと顎をつたい血が地面へと落ちる。


「……………」


「あの子と同じ顔、同じ声なのに…………どうして、どうして! こんな化け物が生まれたのよ!」


 泣き叫ぶ女性。それをただ眺める少女という異質な光景が広がる。女性の感情を理解できない幼い少女は、ふと、自分の母親が泣いていることは酷く悲しいことであることを思い出した。


「———ひっ!? 近づかないで! そ、そんな恐ろしい魔力—————」


 部屋に男の人たちが飛び込んできた。


 どうして自分を取り押さえるの。どうして————自分とお母さんを遮るの。そう心の中で悲鳴をあげる。


 考えても、考えても分からない。


『お母さんはどうして、私を怖がるの?』


 まるで自分の生まれを恨むように、彼女の心の底でこんな思考が生まれた。


『どうして————私には感情がないのだろう』



-----------------



「————大丈夫、だから」


 命が(こぼ)れた。足元いっぱいに広がる血痕。生暖かい血の感触。むせ返るような鉄の匂い。涙よりも先に、胃液が込み上げてくる。


「あぁ………あぁ………」


「大丈夫。大丈夫だから」


 その人は私は抱きしめる。もう命が尽き果てようというのに、今まで以上に、力強く抱きしめる。


「わ、私は————」


 崩壊した街並み。ビルは倒壊し地面は抉り取られている。まるで巨大な災害の被害にあったのか、それとも戦場になったのかと疑いたくなる光景。


 巨大な道路を中心に車や看板は端に集まっており、巨大なナニカが通ったことを感じさせる。


 自分とその男性は道路の真ん中で膝をつき、向かい合っていた。


 酷く天気がいい。周囲の光景とは正反対の快晴。気持ちのいい青空と、自分たちの頭上を一羽の鳥が飛んでいる。


「———。悪いのは全部、僕たちだ。身に余る願望を抱いた僕たちの自業自得なんだ」


 自分の耳元で、弱々しくそう言った。


「でも……私は————」


 魔力を使用しなんとか止血を試みるが、彼の血は止まってくれない。彼は幾つかのことを言うと、自分を強く、強く抱きしめる。


「————が妹になってくれて、よかった」


 そう言って彼は静かに息絶えた。


--------------


「———市にて昨夜、大規模なガス爆発が発生しました。関連会社は原因を調査していますが、経年劣化を疑う声もあり、調査が急がれます。幸いなことに軽症者含め、被害者はいませんでした」


 灯っていたテレビの電源を落とし、ため息をつく。


「隠蔽はギリギリ間に合いましたね………。敷地が大きかったことと、外部に展開した結界のおかげですね。本当に……彼処に侵入するなんてどんな神経しているんですか」


 管理局によって施された情報操作によって、屋敷での爆発事故は隠蔽された。異能による事件は容易に人々を不安に陥れる。可能な限り人々には周知せず、人知れず解決することが求められる。


 二度目のため息をつき、雪那はベッドで眠っている幼馴染の前髪に触れた。


「私がいなかったら死んでたんですよ、先輩?」


 彼女の問いかけに、彼は応じない。あれだけの魔力爆発に巻き込まれたのだ。無理はない。


「止めなかった私も悪いですが、まさかあんな大物が出てくるとは思いませんでした」


 異世界からの来訪者。どの次元からやってきたのか定かではないが、突如現れた人外の魔族。


「ったく………。あなたは異世界(むこう)で何をしていたんですか? 聞いても教えてくれないでしょうけど。私だって貴方を、異世界(むこう)での先輩を知る権利はあると思います」


「命を助けたわけですし」と自分を納得させるように、呟く雪那。


 異世界から帰ってきた旅人の変わりように、一番驚いていた、いや戸惑っていたのは彼女だった。一瞬にして自分が知っている彼と変わってしまったことに、半ば受け入れられなかった。しかし、この一年。彼を遠目に見ていて、雪那は確信した。


「先輩は先輩だと」


 どれだけ壮絶な経験をしようと、何か暗い過去があろうと、彼の根底の部分は変わっていなかった。


 優しくてお人好しで、困っている人を放っておけない、快活な青年。どこまで行っても、それが彼の人間としての根底だった。


 責めるように眠っている彼を睨む。


 雪那は彼とは一年遅れで魔法高校に入学した。当然だ、年が一つ下なのだから。入学して半年。雪那は彼が立たされた立場に驚愕した。


————『無能者』


 魔力を持っていても、使えない、現出できない人間。異能の世界において最底辺の存在として彼は認知されていた。そして彼が受けていた誹謗中傷、嫌がらせ、いじめの数々。


 自分の大切な人が、そんな仕打ちを受けていて我慢できる人間はいるのだろうか。そう思えるほど、雪那の中で表現できないほどの怒りが湧き上がったことを覚えている。


 しかし————。


「———学校辞めるんじゃなかったんですか? それなのに、どうしてこんな事に首突っ込んでいるんですか」


 以前、彼から説明された目的を思い出す。


 異能と距離を置きたい。関わりたくない。それは彼の生まれや異世界での経験から導き出された答え。苦悩の結果、彼が出した答えをどうして否定できるのだろうか。


「また同じ学校に通えると思って、私は嬉しかったんですよ?」


 眠りこけている彼の頬を(つつ)く。しかし、深く眠っている彼からは何も帰ってこない。


「さて———そろそろ行きますね、先輩」


 カバンを手に取り腰を上げる。


 昼下がり。窓から差し込む光がカーテンによって淡い光へと変換され、部屋の中を照らし出す。


「よわっちい先輩は、そこで寝ていてください。私が———先輩の過去ごとやっつけてきますから」


 あの魔族がいることで彼が苦しむのなら———。


「む………」


 視界の端に余計なものが映り込む。


「女性用のパジャマ……。それにこっちには歯ブラシが二つ………。———相変わらずムカつく女ですね」


 能天気に笑う銀髪の女性を思い浮かべる。


「彼女も、彼女で壮絶な過去があるようですが……。きっと先輩はそれも知らないで、あの人と手伝っているのでしょう」


 雪那は剪定者としてこの一週間ほど、彼を監視していた。もちろん彼とその女性が同居していることは知っている。


「先輩と何もなかったことは知っていますが……どのみち、この戦いが終わったら実家に帰るわけですし、帰り支度(じたく)でもしてあげます」


 女のカンという凄まじいチートを使って、部屋中にある女性物を袋に詰め込んでいく。特に二つ並んでいる歯ブラシは許せなかったのか、一番初めに袋に放り込んだ。


 まとめた袋は玄関に置いておく。これで部屋に一歩も入らずに退去できるようになった。


「ふぅ……これで、じゃまも———来客の対応完了です。1秒でも早く帰ってもらった方が先輩も気が楽になる事でしょう」


 あくまで彼のためを思い、彼の生活を圧迫しないように気を使うテイで、独り言を繰り返す。靴を履き、玄関から見える彼の寝顔を見て、笑みをこぼした。


「先輩が起きた時には全部終わってますから。安心して眠っていてください。———私が、今後こそ旅人くんを守ってみせるから」


 そう呟いて彼女は部屋を後にした。


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