表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

その電話は、悪魔と繋がっているので出たくありません。

作者: Narim

ニ宮あかりは電話が苦手だった。


受話器から聞こえる聞きなれた声も、声色を真似た悪魔が自分を貶めようとしているのだと感じた。

だから、道端にスマートフォンが転がっていようが、決して拾おうとは思わなかった。


あかりがそれを手に取ろうと思ったのは、落ちているスマートフォンの脇を通り過ぎようとした、ちょうどその時、着信音がなったからだ。

まるで見計らったかのようなタイミング。何者かが、どこからか自分を見ているのではないかと思わざるを得なかった。

これは、悪魔からの挑戦状だと、あかりは思った。


ゴクリと唾を飲み、一歩ずつスマートフォンに近づく。

近づくほど大きくなっていく着信音に、これは神が与えたもうた試練であり、恐れることなど何もないと自分に言い聞かせた。


鞄から聖書を取り出し、「主よ・・・・・・」と小さく十字をきる。

2度大きく深呼吸し、路地に落ちたままのスマートフォンに挑むようにしゃがんだ。


黒く丸みを帯びた四角い箱は、つるりとしてボタンがない。

応答という文字を押してみても着信音は止まらなかった。


(これが第一の試練・・・・・・)


あかりはもう一度よく観察することにした。迂闊に触れまくっては悪魔の思う壺だ。

電話を取るような絵が入った応答という文字、そして、意味不明な数字の羅列。

なぜかその数字に見覚えがあった。


ぷつりと着信音が止んだ。


(罠だ・・・・・・)あかりは直感的にそう思った。



(動揺させて、心の隙を狙ってるのか・・・・・・!)



思わず立ち上がり辺りを見回したが、特に不審な影は見当たらない。

足元に転がるスマートフォンに視線を戻し、他の可能性を模索した。



(・・・・・・数字の秘密をあばかれそうになって、通信を切った?あの数字が悪魔を倒す鍵になるのかも)



再び着信音が鳴り出した。

画面にはあの数字が並ぶ。

数字の謎を解こうとするがさっぱりわからなかった。



「う・・・うぅ、あ、悪魔めっ!!」



あかりは、鞄から可愛らしいビンに入った聖水を取り出し、スマートフォンにぶちまけた。

パラパラと聖書をめくり音読し、とどめの塩もまいた。・・・・・・が、着信音は止まない。

なぜ悪魔の誘いに乗って電話なんかに出ようと思ってしまったのか。あかりはひどく後悔した。

道端に落ちたスマートフォンを見てしまった時から、着信音を聞いてしまった時から、自分は悪魔の罠にはまっていたのだ。



「もう、これしかない・・・・・・」



涙ぐみながら、鞄から杭とトンカチを取り出す。

杭をスマートフォンに当て、トンカチを振りかざす。



「悪魔よ、されっ!!!」



奇跡が起きた。

水と塩にまみれたスマートフォンに杭を打ち込もうとしたそのとき。

杭を支えていた手がすべり、応答の文字をドラッグしたのだ。

着信音は止み、画面の文字は、通話中へと変化していた。



「悪魔は・・・去った・・・・・・」



すべて終わった。自分は悪魔に勝ったのだと、信仰心は全てに打ち勝つのだと酔いしれていた。



「・・・・・・あかり?」



電話の中の悪魔は、あかりがもっとも恐れる人物の声で喋りかけてきた。


「おまえ、あかりだろ!他人の電話に出た第一声が”悪魔”なんて、うちのカルト狂拷問オタクな妹以外他にいない!」

「ハ、ハル兄・・・・・・」

「おまえなぁ・・・・・・いい加減、自宅の番号ぐらい覚えろよ。まぁ、ちょうどよかった。俺、携帯落としてさ、どこにあった?」


あかりはガタガタと震えていた。よりによって、なぜ。そんな思いばかりが渦巻いた。



「だって、悪魔が挑戦してきたから・・・・・・」

「悪魔が何を挑戦すんだよ。いいから、そこどこなんだよ、取りに行くから」

「だから、あかりが返り討ちにしてやったんだから・・・・・・」

「ハハハ。悪魔を返り討ちか、すげーな」


悪魔の乾いた笑い声が耳に響く。

幽霊が見えるくせに悪魔を妄想の産物だと否定し、あかりの世界を土足で踏みにじりあまつさえソレで鼻かんで捨てるような、そんな笑い声。

幼い頃から幾度となく聞いた記憶が走馬灯のようにあかりの頭を駆け巡っていた。


あかりは持ったままだったトンカチに力を込めた。

スマートフォンに寄り添うように横たわっていた杭を起こし、そっと、水と塩にまみれた画面に当てなおす。



「でもまだちょっとだけ悪魔残ってるから・・・・・・だから、だから・・・」

「・・・・・・おい・・・おまえ、まさか妙なこと考えて・・・いや、やってないだろうな?」

「ハル兄は、携帯交換した方がいいんだから!!」

「先週機種変したばっかだぞ!!」



「悪魔め!地に堕ちろ!!!」



「やめろ、何もするな、まだ助かるかもしれないから!」というハルキの声もむなしく、あかりは最後の力を振り絞り思いっきりトンカチを振り下ろし、車道に蹴り飛ばした。


穴の開いたスマートフォンは弧を描くように宙を舞い、通りかかった車にぶつかりバラバラに砕け散った。

光に反射しキラキラと散るそれは、悪魔から解き放たれ浄化したことを告げていた。

あかりは悪魔からの挑戦に打ち勝ったのだ。


つらい戦いだった。

やはり電話の向こう側にいたのは、悪魔だった。



あかりはもう二度と電話には出ないと誓った。




10年以上前に書いた話なので、スマホ操作に違和感があるかもです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ