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第六話・枯れ木も燃やせば薪になる

1ベル=1円、1ベルタ=1万円とご換算下さい。

今まで以上に心苦しい気持ちで少女を見ると、無表情であった

「先に妾が孕んだ事で”種無し”かどうかの判断がついたから良かったと……能無しな上に種無しでは利用価値もないと母は言っていたから、分かって囲わせていたのかもしれんがな」

周りで聞いていた辺境伯やダグラス騎士様が驚いた表情で、少女を見るが無表情は崩れる事は無かった。


「婿入りした先の嫁の功績を自身の功績にできると勘違いし、周囲の領主どもからの甘言を信じた浅はかな男が騎士伯になどと…あり得ん」


つぶやく目の前の美少女、それほど身長は高くない。

7歳以降栄養失調寸前の食糧事情だった、若干発育不全な11歳の私よりも小さい。


「発言の許可は得られますでしょうか?」美少女を見下ろさぬよう、膝を折り声をかけた。


「許す」



「…今後の処遇はどうなるのでしょうか?…新騎士伯様」



「…フフフ、賢い人間は嫌いではない。…何故分かった?」

いたずらが成功した様な表情は幼い子のソレで、自然な表情に見えた。


「今後の処遇は新しい騎士伯に委ねられると、最初に聞きました。そして、処遇を言うのは貴女様でしたから」膝を折る姿勢はキツイが、立ったままだと不敬になりそうだ。


隣に立つ一応母親がヒュッと息をのんだ。のんだままにしていれば良かったものを、

「!?っそ、そんな!?なぜ?こんな子供が!?嘘よ!あり得ないわ!!」

発言の許可も得ず、立ったまま、こんな子供呼ばわり……不敬の塊!?


「!?お母様!!不敬が過ぎます。新騎士伯様に対して不敬ですよ」

一応を睨みつけるが効果はない。睨んでいても私にはぶ厚い前髪があり、両目は第三者から全く見えないのだ。


効果がないと思われたが、一応が急に俯いて…効果があったか?


「フフ、アハハ!…アハハハ!!『どっきり』ね、皆して私を騙そうとしているのでしょう?余興にしては趣味が悪いのではないかしら?」


…無かった。


効果がないどころか、逆効果と言うべきか。こちらの焦りは全く通じず『どっきり』だと言い出す始末。周囲を指差しながら大笑いを始めた。


「其の方の”一応”母親が…”か弱い”のは、頭もか?」

「ええ、残念なお考えをお持ちだとは思っていましたが…これ程までとは」

呆れて会話する美少女改め新騎士伯様と私を放置して一応の大笑いが続く。


「あぁ、おっかしい。こんなに笑ったのは久しぶりよ」


「おかしいのはお前の頭の中だ!」

皆の考えを代弁したのは、辺境伯であった。


私も気持ちが漏れ出てしまう、

「おがくずでも詰まってんじゃないでしょうか」

思わず許可を得ずに発言をしたが、私の隣に移動している美少女は「発言は許す」と笑っている。

ブフッと噴き出す音が聞こえたが、ダグラス騎士様が笑いをこらえていた。


一応は周囲を見回して恐ろしい事を言い放った。

「だって、『どっきり』でもなければ、こんな子供が爵位を継ぐなんてあり得ないわ。騎士伯様なのよ!剣技が無ければ継げないじゃない。騎士達を統率するのでしょう?子供にできる訳ないわ」手のひらをひらひらさせながらあり得ないと馬鹿にした様に言ってのける一応。周囲の騎士達が抜刀しかけているのにも気付いてない様だ。


「お前の残念な頭には何を言っても無駄の様であるから、お前からの要求は聞かんことにする。黙ってそこにおれ、首ははねずに聞く権利は与えてやろう」


呆れた様子の新騎士伯様の寛大な対処にもちろん感謝などせず、無駄口を叩こうとした一応はダグラス騎士様によって再度猿ぐつわが与えられていた。


辺境伯のエスコートにより、舞台にもどった新騎士伯様が告げる、

「そこの娘が言う様に、私が新騎士伯の爵位を賜った」

周囲の人達がワッと歓声を上げる。皆狂喜乱舞の勢いで喜んでいる。


「最初の仕事は、前騎士伯を裏切り続けた者達への処遇の言い渡しである。本来は爵位の儀の後に行うべきであるが…裏切者達がわざわざ来てくれたのでな、先に処遇を与える事にする」


歓声が怒号や罵声に変わっていくさまを眺めながら、ぼんやりと前を見つめる事しかできなかった。

今後どうなるんだろう…考えても仕方ない事だし、そら恐ろしい事しか思い浮かばない。

売られるのか、奴隷扱いか、不貞の結果の私である。

……何より優しかったあの下町に戻れない可能性が辛い。

(泣いてまうやろぅ!?)下町への想いを馳せると涙がにじんできた…ぶ厚い前髪が隠してくれる、誰も気付きはしない。


「まず、ウィリアム!貴族籍の除籍と褒賞金の返還は先に伝えたが、あと数点ある」


二つ折りから、引きずられ、そして跪きに進化?した自称父親は俯いたまま聞いている。何も発言しないので猿ぐつわがお揃いなのかと思っていたら自主的に黙っている様子。


「一点、ウィリアムの名前を改め、今後この名を名乗る事と禁ずる。適当に短い名前をあてておけ」


ビクッと身体が動いたが…それだけだ。自称も現状を飲み込んだんだと思った…思っていた。


「二点、褒賞金の返済は当騎士伯領での仕事で返済を行う事とする。他所に出しても恥ずかしい結果にしかならん、また事情を知らぬ者が騙されても困るからな、監視の多い騎士伯領での預かりとする。職場は適当に決めてやれ」


今度は俯いていた顔を起こした。正面に顔をしっかりと向けている。


「三点、許可が出るまで、女子供との面会を禁ずる。また手をとりあって、妄言や戯言を垂れ流されても不快なのでな。夫婦、親子として生活は出来ぬが仕方あるまい」


「四点、当騎士伯領からの出立を禁ずる、また手紙等のやり取りも不可である。それぞれの禁を破った時は相応の処罰を与える、忘れるでないぞ!」


自称が何か発言するのではないかと思っていたが、発言は無くホッと胸を撫で下ろした。これ以上いらん事を言ってこっちにまで処罰が増えるのは困る。連座なんてまっぴらごめんだ。


一応がモガモガと何かを言っているが、猿ぐつわで阻まれているのでちょっとした音にしかならない。

これ以上の不敬を重ねずに済んで、ありがとう猿ぐつわとの気持ちになった。

猿ぐつわに感謝する事になろうとは、人生何が起こるか分からない。


「次に女、お前の処遇も言い渡す。大人しく聞いておけ」


「一点、エリザベスの名前を改め、今後この名を名乗る事と禁ずる。適当に短い名前をあてておけ」


「二点、今後の生活及び仕事はこの騎士伯領内とする。職場はこの騎士伯の屋敷だ、部署は適当に決めてやれ」


「三点、許可が出るまで、男との面会を禁ずる。」


「四点、当騎士伯領からの出立を禁ずる、また手紙等のやり取りも不可である」


「最後に五点、娘との接触について現時点での制限はせんが、仕事の押し付けや肩代わりを命ずる事を禁ず。お前に振られた仕事は娘にさせず、お前自身が行え。また、娘からの接触拒否が出た場合はそれを優先とする。それぞれの禁を破った時は相応の処罰を与える。何、お前が忘れたと喚こうがこれだけの証人がいるのだからな、聞いていないなどとの寝言は言わせんぞ」


途中三点目と五点目でモガモガに加えて「んぬぅ~!?」と鼻から奇妙な音が漏れていたが、アレで聞こえていたんだろうか?聞こえてないとしても、新騎士伯が言う通り証人がいるから必殺「聞いてないわ、知らないわ」は通用しない。


ああ、次は私だな。覚悟を決めて姿勢正した。

「娘、お前も”自称”父親と”一応”母親と同様の処遇となる。名前を改め、仕事はこの屋敷内だ。”自称”父親との面会も禁ずるし、住み慣れた町には許可がなければ向かう事は出来ん。女との接触が苦痛となるなら、職場の長か侍女長に願うがいい…其の方から何か申し開きは無いか?」

3人目の処遇であるからか、あっさりとした通告だ。処遇に対して申し開きたい事も特にないし、一応と距離を取ろうと思えば取れる処遇にありがたさすら感じる。


「発言の許可をお願いしたく存じます」


「許す、言ってみろ」

新騎士伯ではなく、辺境伯からの許可を得た。見ると気まずそうに顔を逸らした辺境伯だが、新騎士伯様が残念そうな表情で辺境伯を見ている。


「この度は爵位の継続、おめでとうございます。末永き新騎士伯様の統治をお祈り申し上げます」

そう言って礼を取る。


「……くくくっ、其の方から言われるとはな。嫌味と考えれば良いのか?永く続けられるならやってみろと言う事か?」


「この様な状況で嫌味を言える程、豪胆ではございません。そこの二親はどう思っているかは分かりませんが、私は周囲の人々から支持される新騎士伯様が統治をされるのが筋だと思っております」


「そうか。そして、申し開きはないのか?」

楽し気に濃い紫の双眸が細められる。


「ございません。命を取られない寛大な対応、ありがとう存じます」


ざわざわと周囲の喧騒が大きくなる。

ぬるい処遇だと思っての事だろう。私もそう思う。

顔も見たくないはずなのに、憎い相手のはずなのに領地内で働かせるとは…一応と私に至っては騎士伯のお屋敷での勤務だ…直々にいびられるのかもしれない。

食事を抜かれ、保清をすることもかなわず、粗末な寝具すらないかもしれない…アレ?今までとそう変わらない暮らしじゃないか?

そう思うと少し気が楽になった。いつまで拘束されるかは分からないが、その辺りは後で聞こうと思っていると喧騒から物騒な物言いが聞こえてくる。


「働かせるなんて…もしかして本当に討伐の時、賊や魔物の壁に使うのか?」「そりゃいいや、囮にして好魔香でも炊いたら簡単に魔物の背後に迫れるぜ!」「見てくれがアレだから、観覧馬車に乗せたらいい感じに賊がひっかかるだろうよ」「峠を観覧馬車で行き来させるのか?馬鹿な貴族っぽくていいな!」「元々の素養もあって馬鹿だから演技もいらんだろうよ」「ははは、違いない!」


討伐の壁に魔物の囮役…働き甲斐のない職場だなとげんなりしてしまう。

好魔香なんて魔物寄せの道具まで使うのか、魔物退治はハードモードで決定だ。行きたくない。


「一緒の職場なんて冗談じゃないわ」「働いた事がないんだから、戦力になりそうもないな~」「何処の部署にするんだろう」「ちょっと!?侍女長の顔色凄く悪いわよ!」「部署なんて言わずに下女にして、みんなでこき使ってやればいいんじゃない?」「それいいわね」「あの子どっかで見たことある気がするんだけどな~?」「朝の訓練の時点で脱落するのではないでしょうか?」「訓練は参加させないでしょー。間違えてスキルアップとかされたら厄介ですもの」「屋敷の男性に”毒婦”に引っかからない様に気を付けてと言っておかないといけないわね」「本当に働けるのか?」

お屋敷勤めの方が討伐の壁よりは楽…と思いたい。


「簡単に死なれては困るぞ、返済が残っておるのだからな。皆も恨みがあろうと殺すのではない、捨て置くモノとて使えば資材になるのだからな。一時の感情で殺せば気持ちが晴れるだろうが、1ベルも返っては来んぞ。精々働いてもらわぬとな」

少女は細めた双眸のまま楽し気に話を続ける…内容はアレだが。


搾取に搾取を重ねた上、搾り取れなくなったら別の使い道で搾取されるんだろうか。


--枯れて尚、燃やしてまでも使われる--


……心の俳句読んじゃったよ。

初めて感想をいただきました<(_ _)>

ありがとうございます。

拙いですが、今後ともよろしくお願いします<(_ _)>

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