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第三話・盗人清々しい

1ベル=1円、1ベルダ=1万円とご換算下さい。

舞台の上の荘厳な椅子に座った少女は微笑みながら言葉を続ける。

「とりあえず、貴様の処遇は後で分かる事になる。黙っておれ」「貴様!?」自称父親はもう名前呼びすらされない扱いになり下がった様だ。更に言葉を発するつもりの自称父親に向かって、言わせねぇ~よとばかりに、壮年の男性(多分祖父)が話を進める「先に罪状を読む、その際も黙っておれ。言い訳や申し開きは聞いてやらんこともない」…曖昧な”無くはない”の言葉尻をここで捉えても仕方がなく、「黙って聞いてろ言い訳すんな」のお貴族様言語か?と諦めの境地で罪状を聞くことにした。


聞く覚悟が出来たのは私だけだったようで、「何よ!?その罪状って!人を罪人みたいに!!失礼じゃないの!!旦那様は立派な騎士様なのよ!爵位も継ぐ凄い人なんだから!」と一応母親が意見を述べているようだが、子供の癇癪を見ている様だ。

「エリザベス!私を信じてくれているんだね、ありがとう!!」先ほど、耳が悪いのか頭が悪いのかと確認を取られていた自称。両方悪いに違いない。


壮年の男性が自称・一応の周囲の騎士達に頷くと、騎士達は手際よく自称・一応に猿ぐつわをかませ、自称は後ろ手に、一応は胸の前で両手を縛られた。早っ!?モガモガと何かを訴えている様だが何も聞こえないのでこれ以上の恥の上塗りは避けられるようだ。

私にも何か対策をするのかと思っていたが、目があった騎士様は小さく首を横に振るだけだった。


壮年の男性は朗々とした声で罪状を告げていく。

姦通罪、反逆罪、機密情報漏洩、敵前逃亡、及び逃亡教唆、横領、借金踏み倒し、児童虐待。

…姦通罪が初っぱな言い渡された時に、一応が声にならない声をあげ暴れ始めたので足も縛られて転がされている。お妾さんだとの自覚がなかった様だ。

最後に児童虐待を挙げてくれたのは、少し胸のすく思いがした。物々しい罪状の中取ってつけた感があるがそれでも嬉しかった…コレって私に対してだよね?もしかしたら、正面に座っている少女に対してのものだろうか?


色々首をかしげたくなる事もあるが、概ね異議なし。

自称に別の伴侶がいるのに私が生まれている事で姦通は成立しているし、「今日俺ダリーし、危ね~から討伐の仕事サボってきた」「そうよ、そう!危ない仕事なんて他の人に任せたらいいのよぉ~」と数年前から昼日中に自称が家に来てキャッキャウフフする事も増えていた。馬鹿正直に「イチャコラするから、家に帰ってくんな」と私に言い放ったため、家に入れなくなったことを裏の食堂の夫婦や近所のおじさん達にチクった私が機密情報漏洩に当たるのだろうか?

「俺はこんなショボい仕事をするためにいるんじゃない」と自称が言えば「もっと自分を生かせる仕事すればいいわ!ショボい仕事だったら別の人でいいじゃない。しなくてもいいわよ、うちにいなさいよ」って一応がよく言ってたな。自称バンドマンと養う共依存女のソレだ。


横領と借金踏み倒しが解せぬ。私の知らない間にうちにお金を使っていたのだろうか?

家は借家で家賃を支払っていたし、ツケをしながらの買い物ではあるがそれだって毎月ちゃんと支払っていた。家令のセバスが出納帳をつけていたし、私が裏の食堂で稼いだお金をセバスに「支払いに回す」と毎度毎度取り上げられていたんだ。


「こんなにお金がかかるんですよ!」と一応にかかる服飾や装飾品の支払いが書き込まれた出納帳をセバスに投げつけられた事だって一度や二度ではない。「お前の稼ぎが悪いから毎月大赤字だ!」と、私に対して怒鳴られても困る。


正式に働きに出られない私の稼ぎなんてたかが知れている。「そんなに金がかかってるんなら、お母様の服やら髪飾りを買わなければいい」「食費にも事欠いてるんだから、生活費に回せ」「お父様に金を出せと頼め」「たまに来るだけで、金も出さないのはヒモじゃないか」と言ったら、毎回鬼の形相で狭い家の中を追い掛け回されたくらいだ。


そもそも、お貴族様でもないのに、なんでいるんだ家令セバスと侍女マイヤー。いい年してんだからお前たちも働け。うちにパラサイトせず、他所で働け!そんな私の意見なんて3対1で却下され、「食費に事欠いている」とニヤリ顔でセバスに言われ、私の分だけ食事が出なくなった。




納得のいかない事もあるが、ここで「異議あり!!」と声高に叫ぶのはまずい事だとは分かる。

「働きもせずによそでは旦那気取りかよ!」「お情けで騎士団に入れてもらってたくせに」「のうのうと盗んだ金で生活しやがって!!」罪状の読み上げが終わった後から、周囲の声がよく聞こえるようになった。

すっと少女が右手を挙げるとその声達も収まる。


「まどろっこしい事は嫌いでな、罪状を告げるのみにした。異論があるなら述べるが良いが…何かあるか?其の方しか分からぬ事もあるだろう?」自称・一応を通り過ぎた少女の視線が痛いくらいに刺さる。俯くな、怯むな!「…発言をお許しいただけますか?」精一杯背筋を正し正面を見据えて発言の許可を願った。「許そう」「この度は、申し訳ございませんでした」出来る限り姿勢を低く礼をとる。


「本日騎士伯様の喪が明けると知りながら、この様な暴挙に出たこと。本当に申し訳ございません。騎士伯様のご冥福をお祈り申し上げます。…発言の許可、ありがとうございました」再度礼を取ったまま時間だけが過ぎていく。「それで、終わりか?他に申す事はないのか?」焦ったような壮年男性の声が聞こえるが、苦しい姿勢ではあるが、このままキープだ。「礼はとらずとも良い、私からも其の方に聞きたい事がある」

楽しげに鈴の音の声が響く、っっしゃ!勢いは抑えつつ礼の姿勢から起立に戻る。


「暴挙に出たとあるが、其の方とそこに転がる母親はこの騎士伯領に連れて来られると知っていたのか?」右手を脇息に置き頬杖をつく姿勢をとって少女が問う。「恐れながら、存じませんでした」足元では一応がモガモガとうごめいている、ピカピカ光る芋虫の様で気持ちが悪い。「多分、この”一応”母親も知らされてなかったと思います。”自称”父親が迎えに来たのは2の鐘が鳴る少し前でした」知らされてたら、そりゃ前日から大騒ぎだったろうよ。早い時間に起こされたセバスもマイヤーも驚いてたくらいだ。


「…では、知らなかったのだな?其の方の言う”自称”父親っ…ゴホン!から、いつ聞かされた?」急に言いよどんだが、むせているが大丈夫か?心配ではあるが、質問に答えねば。「騎士伯様のお屋敷の塀の横を通る時に、今日からここで家族として生活すると聞かされました」ざわざわとしたどよめきが周囲から聞こえてくる。


「……急だな。それで、其の方は”自称”父親の事はどのくらい知っていたのだ?口調は改めなくても良い、知っている事を包み隠さず述べよ」少女には私に語彙力が無い事もバレているようである、どうせ下町の囲っている家族の事なんてとっくに知っているだろうに。「恐れ入ります。どのくらいと言われましても…ほとんど何も知らないというのが私の知っている事です。住所不明、年齢不詳、職業”自称”騎士団所属、爵位を継ぐと言い出して早3年?継ぐ継ぐ詐欺の”ヒモ”と認識してます。あ、本妻がいてうちの”一応”母親は妾だろうなと私は思ってました」


周囲から失笑が聞こえる中「”ヒモ”?”ヒモ”とはどういう意味だ?」壮年の男性が興味深そうに聞いてくる。しまった!記憶にある言葉をそのまま使ってしまった、誤魔化さねば「”ヒモ”とはそのまま紐の事なんですが…とある国に腰にヒモを付けて水に飛び込む仕事を女性がしておりまして、そのヒモを持っているのが男性で。その様子から自力で生活せず、女性に養ってもらっている男性を指すようです。あと、首にかかると息の根が止まる事から女性が掴むとろくなことにならない男性との意味もあるようです。く、詳しくは知りませんが祖母から聞いたと侍女のマイヤーから聞きました!」そうか”ヒモ”もこの世界にはない言葉だったんだな。マイヤーが「ウィリアム様も”ヒモ”みたいな事をせず、お金を入れてくれればいいのに」とぼやいてたから、みんな知ってると思ってたよ。危ない危ない。


「…ブググっ!あ~はっはっはっ!!よ、要するに其の方は…じ、”自称”父親のっブハっ!ゴホン!!事は聞いておらぬという事だな。」後半持ち直したものの少女が大笑いした事で、断罪の場が若干和んだ気がした。「女性に養ってもらうとは?そこの愚息は其の方らに何の支援もしなかったと言うのか!?騎士伯領では多額の使途不明金が出ておるのだ」壮年男性からの質問にどう答えたらいいのかと妙な間を持たせたのが悪かったのか、横やりが入った。「養ってもらうとは何事だ!ちゃんとまとまった支援はしていたぞ!!この、恩知らずが!!!」どう抜け出したのか、自称が縛られた手をほどき猿ぐつわも外している。微妙にドヤ顔なのが三流のイリュージョニストじみててムカつく。


「いや、恩知らずも何も。一銭たりとももらってね~よ!毎月毎月金策に走ってたんだから。もらってたら家賃滞納もツケでの買い物もしてね~わ!!」「家賃?何の事だ!?」「……家賃とは、住まう家に対して支払う対価の事を言います。自分の持ち家じゃない場合は借りて住む事になるので支払い義務が発生しま…」「家賃の意味を聞いているのではない!それくらい知っている!!」意味、知ってたのか。


「そうではなく、なぜ家賃など支払うのだ!あの家は持ち家だ!!私が愛するエリザベスのために買い与えた家だ!」「はぁ!?いや、ちゃうて!!」「チャウテとはなんだ!?…それは知らんぞ」「…家賃は支払ってましたよ!セバスが出納帳をつけてます!!毎月3ベルダ!隣町の不動産屋にセバスが支払いに行ってます。私が食堂の手伝いで毎月6ベルダもらううち半分は家賃に取られてます。残りの3ベルダでお父様の愛するエリザベス様の服飾や装飾品のローンを支払って…いや、今こんな話をしている場合ですか?とにかく家賃は払ってま…」おかしな方向に話が進むのを軌道修正っと


「食堂の手伝い!?取られる!?どう言う事だ!!」おおぅ、ここでも壮年男性が横やりを。まぁ話の主導権はあちら様なのでそれはいいとして、突っ込むのそこ?猿ぐつわ外してしゃべくり倒してる自称はお咎めなしかい?「いえ、その、ご質問は本筋から逸れますので。それよりも…」壮年男性はそこで一旦質問を止めたようだが、黙ってないのが縄と猿ぐつわからの脱出を決めた自称だ。うん、知ってた。


「それよりとは何だ、私の沽券に関わるではないか!!」支払いがされてないとみなされるのが納得いかないようであるが、妾に金かけてやったった~を宣言するに等しいのでやめておけ!「お父様の沽券はこの際どうでもいい…」「いや、良くない!私はきちんと支払っておったぞ!エリザベスが困らぬ様に!!家も買った!似合うドレスも送った!今日行った店であつらえたドレスだ。お前のドレスだって送ったのに一回も着たところを見せてくれなかったな。いつも粗末なボロを着て!セバスがお前はドレスよりも侍女の様な服を好んで着るというから、そのような服も送ったのに。マイヤーにくれてやって…、私への当て付けだとセバスが言うし、難しい年ごろだからとマイヤーも言うからお前には今まで何も言ってはこなかったがな」「…ドレスや服のローンも払ってましたが?」「何処に払うと言うのだ!?嘘をつくな!私がエリザベスを想いながら作らせたドレスだぞ!」「…セバスに」


「っくっっく…両の意見を聞くとだな、其の方は家令であるセバスとやらに家賃も服飾のツケの支払いをしておった。貴様は困らぬように援助を渡していた、家も購入したというのだな?援助は誰に渡していたのだ?」少女は楽しそうに自身の父親の不貞の確認をしているが、教育上いかがなものかと思う。私に対してもだが、今更だ。「援助はセバスに毎月30ベルダは渡していた!家は6000ベルダで購入している!!あんな家に6000ベルダもと思ったが、下町ながら治安も良く周囲に店も多いからエリザベスが寂しい思いをすることも少ないだろうと、シクロホス夫人…エリザベスの母親に勧められて買ったのだ」皆が一斉に息を呑む。


「ろっ!?6000ベルダっ!?馬鹿じゃねぇの!あんなボロ家。6000ベルダも出せば、下町じゃない隣町の一軒家買えるよ!下町の相場はせいぜい出して2000ベルダだよ。ボラれてんで、ボンボンや思て足元見られとんのや!」「ボラ?ボンボン?」「しかも、援助が30ベルダて!?そんだけのお金があったら、働かんでちゃんと毎日学校へ通えたやん。給食かて食べれたやん」「キュウショク?さっきから訳の分からぬ事ばかり。何を言っておるのだ?学校にも通っておったであろう。昼間に行っても家にいなかったではないか。あまり出来は良くなくて、魔石への魔力供給が出来ぬと。だから供給はマイヤーが行っておると申しておったぞ。ただ、最近は調子が悪くて供給がうまくいかぬ事が多いと言っていたので、マイヤーには供給者を雇えと毎月5000ベル渡していたのだ。もっと勉学に励んで魔力操作をきちんと…」


「…毎月30ベルダの援助を行って6000ベルダで家を購入。ドレスと服を買って送る。それに間違いはないな?」今まで黙っていた騎士様が冷えた口調で確認をする「ダグラス!侍女への5000ベルを忘れているぞ。私は配慮ができるからな、魔力供給は年老いた者にはキツイであろう」冷えたを通り越し凍った口調で相槌がうたれる「ソレハソレハ。素晴ラシイゴ配慮デ」棒読み。

「その、金はどこから支払ったのだ?」畳みかけるように声をかけたのは楽しそうな少女であった。


「私への報奨金だ」今日イチでムカつくドヤ顔をして言い切った台詞に、周囲から怒号があがる。

「お前の金じゃねーぞ!」「部隊への報奨金盗ってんじゃねーよ!!」「何が騎士伯領は困窮しているから、領庫へ返納しただ!!」任されている部隊や騎士達の怒号だからだろうか、野太さ4割増しだ。

「うるさい!私がまとめ上げた部隊が成し得た討伐などに対する報奨金ではないか!!私がどう使おうと文句を言われる筋合いはない!!」言い切っちゃったよメンタル鋼か?「そもそも、粗野な部隊を押し付けられた迷惑料だ!」だの「討伐ばかりをさせられて損な役回りだ!」だのと大音声で言いあげる。


言っている事はおかしなことなのに、自称のばかばかしさが際立っていっそ清々しい。

盗人猛々しと言うが、猛々しさよりも清々しさが勝ってしまっている。

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