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第二話・馬鹿の考え休むに似たり

私が住んでいる下町に自称父親が迎えに来たのは、迷惑極まりない早朝であった。寝ぼけながらも浮足立つ一応母親。「これから食堂の仕込みの手伝いがあるし、行きたくない!」と言い張る私を表通りに停めてある豪奢な家紋入りの馬車に押し込み、隣町の素敵なサロンにぶっ込んで言い値でドレスや装飾品を買い着せ飾られた。


さらにその隣の騎士伯の領地に入って、私はやばい汗が止まらなくなった。着せられてる感あふれる、黒の貴族用のドレスに汗染みがついてしまうではないか!

「ここがこれから家族で住む屋敷だ」と塀しか見えないお屋敷の外壁をドヤ顔で披露した自称父親と、「まぁ~~~あ!なんて大きくて立派な門なの!?」とくぐり抜ける大門をきゃっきゃ評価した一応母親と、「この騎士伯の領地の高台にある屋敷って騎士伯様のお屋敷じゃないの?ホラ吹くにしても不敬が過ぎるよ」と現状把握に努めようとしている私。自称・一応の二親との気持ちの乖離が過ぎる。


玄関に向かう敷地をドナドナされていると、急にスピードを上げて曲がる豪奢な馬車。

おぅ!?やっぱり豪奢、急に曲がっても大丈夫!

どこぞの物置のCMを思い出した…


「いやぁん!?」とわざとらしく声を上げて、一応母親は隣に座る自称父親にしなだれかかった。

「こんな乱暴に運転するとは!後で御者には罰を与えておく!」自称父親はキリっととした台詞を脂下がった表情で一応母親に告げていた、(何の茶番を見せられてるんだ)な私の白い視線はガン無視だ。

2人とも無駄に顔面偏差値が高いので黙っていればいいものを。金髪碧眼の貴公子然とした自称父親と淡い金髪にヘーゼルの瞳の儚げな乙女と見える一応母親。台詞がアレなだけに、安い貴族社会の舞台の様だ…知らんけど。


キャッキャウフフしている自称・一応の2人から目を反らすと、玄関までのアプローチにしてはやけに景色がグニグニと進んで行く。

アレ?正面にあったであろう、お屋敷過ぎてませんか?集合住宅みたいな建物も通り過ぎましたよ?馬小屋!?でかっ!。馬もたくさんいるみたいだ…頭に角が生えたり、背中?に翼が生えた馬らしき生き物は、この際馬扱いでいいだろう。規格外な敷地の広さや生物に唖然とするしかない。

お屋敷に入る前にオリエンテーションっすか?敷地内のご紹介?

「ちょっとおかしくない?お屋敷は通り過ぎたみたいだし…」と声を出すや否や、「来たぞ!」「引きずり出せ!!」と馬車の外から罵声が上がる。


コレ、やばくね!?来たってのは多分馬車の事だろうし、招かれた客であれば引きずり出せなんてそんな呼びかけもされる訳がない。

「止まったらマズい気が!!」と自称・一応との気持ちの乖離を正すべく声をかけたが、馬車が急に止まり自称・一応が物理的に距離を縮めてきた。あぶね~!狭い馬車だったら正面衝突だよ!!無様に床に這いつくばっている自称・一応の二親を見下す様な体勢を取ってしまっているなと思っていると、無情にも馬車の扉は開いてしまった。


鎧に身を包み、腰には立派な剣を佩いた男性が扉をしっかりと開けている。騎士様らしい姿ではあるが何か違和感を感じる。

…感じるものの「引きずり出せ!」との罵声が周囲から現在進行形で聞こえている状況下では、違和感なんてファーラウェイだ。騎士様のお出迎えも嬉しくもなんともない。

私が知らないだけで、騎士伯領では客人をもてなす時は荒々しく迎え入れるのか?と遠い目をして騎士様を見つめるが、騎士様は這いつくばる一応・自称を見るだけだ。いや、ただの視線では無く、射殺す勢いの眼力だ。這いつくばっててよかったなと思うレベル。


「…今から這いつくばって許しを請うのは殊勝な事だが、その姿は主の前でしてこそ価値があるのではないか?ああ、それとも何か?今まで虐げてきた娘への謝罪か?」冷え冷えとしたバリトンボイス。違う時に聞きたかったな~、背中がゾクリと冷えるのは色っぽさではなくその冷めた口調と眼力のせいだろうか。

物騒な言葉の羅列に飛び起きたのは自称父親の方が早かった「貴様!ダグラス!誰に向かってその様な口をきいている!?主といえばこの私の事ではない…」「馬鹿者!!誰が主だ!!恥を知れ恥を!」食い気味に罵倒された自称父親はヒクリと顔を歪ませて、二の句が告げられなくなっている。無駄なイケメンが台無しだ。


「やだ!怖い!!この人誰!?旦那様!何なの!?」一応母親は自称父親の背に隠れる様にして怯えた視線を騎士様に向けている。出たよ!必殺技。潤んだ瞳で下から見上げれば大抵の男性は参ってしまうんだ。騎士様も脂下がった顔をして「お怪我はありませんか、レディー?」と手を差し伸べる……事は無く、同様に冷えた声で言い放った「婚姻関係にない男性を旦那様と下町では呼ぶのか?それとも、この男からそう呼べと言われたか?貴族籍でもないお前と、まだ辛うじて貴族籍であるこの男との婚姻関係は認められんぞ」「だって!でも!やだ!怖い!!旦那様ぁ~」取り乱しつつも自称父親へのボディータッチは忘れない、一応母親。安い貴族舞台ではなく、安い場末のスナックだった…知らんけど。


大きなため息を付き騎士様は自称父親の首根っこを掴んで、ペイっと馬車の外に投げ捨てた。軽っ!?

お貴族様であろう、騎士様の質問に対して返答もせず取り乱しまくっている一応母親は無視をして、対峙しなければならない騎士様に向き合って私は淑女の礼を取る。「下町より参りました、ヴィクトリアと申します。騎士様にお手数をおかけ致しますが、私からの声掛けと質問をしてもよろしいでしょうか?」くっキツイ!淑女の礼は何とかとれるとして、言葉使いは怪しい事この上ない!まともに話しかけてこない家族(一応母親や守銭奴家令になんちゃって侍女)との会話がないから、貴族相手の文言なんて覚えてね~し!


「…声掛けと質問を許す」眉間にしわを寄せながらではあるが、私を見る騎士様。射殺すほどではないので震えずに対応できそうでホッとする。「ありがとうございます。早速ですが、これから私達はどうなるのでしょうか?質問にお答えいただけない様であればそれで結構です」あ、眉間のしわが深くなった、何か踏んだ?

「質問しておいて答えなくていいとはどういう事だ。それは質問ではないではないか」眉間のしわはそのままに質問返しをされてしまった。「ここにいる”一応”母親とそこにある”自称”父親への対応を鑑みますと、その血縁である私を含めて、碌な対応はしてもらえね~なと…いえ、していただけないと思いまして。質問の時間も勿体ないではないですか」あ、また眉間が!?もう渓谷レベルだ。全身に力を入れて、肩が震えているのが薄っすらわかる、私は何かを踏み抜いた様だ。


肩を震わせる騎士様の怒号を浴びる前に、とっとと表に出た方が安全ではないだろうか?馬車内での怒号ハウリングは聞きたくない。「馬車から降りてもよろしいですか?」との質問の前にさっと出される騎士様の左手、これはエスコートなのだろうか?それとも首を持っていってペイっと投げられる流れだろうか?小首をかしげながら、首を差し出すと「何をしている」と訝しげに睨まれる。

「いえ、同じ様に対応をなさるのかと」顔色を無くし茫然と芝生の上に座ったままの自称を見ながらそう答えると、「女児に暴力を振るうのは騎士道に反する」と強引に右手を取られてエスコート…と思いきや抱き上げられてしまった。「な!?ちょっ!?アカンて!!」思わず素が出てしまって大慌てだ「アカンテ?」「いえ、騎士様!降ろして下さい!!お手を煩わせてはいけません。重いです!!最近太ったから重いんですって!」「…太ったのか?この軽さで?重いと言うのか!?」「はい!太りました最近は3食食べてます。近所のエルマさんからも、太ってきた良かったって言われてますってそれはいいんです!とにかく降ろして下さい~~~!!」


ペイっと自称を投げた後に私を抱きかかえて降ろすもんだから、周囲の罵声や怒号が一層厳しくなった。「ダグラス様!子供だからとて罪は罪です!!」「太ったって言ってるから、どうせ持ち出した金で旨いモン喰ってんだろうよ!この泥棒が!!」「近所のエルマって、もしかして二つ隣の町のエルマの店のエルマじゃないか?」「そんな近所に女子供囲ってたのかよ!?馬鹿婿は!」「近っ!?手軽に済ませたか?(笑)」「アレ?あの子見たことないか?」「まだ、残ってる囲われ女がいるだろうよ!そいつも引きずり出せ!!」


ペイっとされることなく、降ろしてもらえたが申し訳ない感が半端ない。ペイっとされた方が皆さんの留飲が下がるのではないかと…でも痛いのは嫌だしな~、とぼんやり思っていると「っいっだぁ~!」とオッサンじみた声がする、一応はペイっとされた様だ。そんな声も出るんだ。

瞳に涙を浮かべて「旦那様ぁ~」と手を伸ばす一応、「エリっザベスっ!」と感情を込めて名を呼ぶ自称…芸人のネタを思い出して噴き出してしまった。互いの様相に気を取られている自称・一応には気付かれなかったけど、騎士様には気付かれた様だ。何とも言えない表情でこちらをみている。


「さっさと移動しろ!」と別の騎士様達に引きずられるように、両腕をホールドされる自称・一応。その後をついていく私。大きい運動場の様な場所の真ん中に置き去りにされ、正面には舞台と荘厳な椅子。

誰が座るのかな~?私や自称・一応ではない事だけは分かっている。


陽があんなに高い。拉致られた時は夜明け直後の2の鐘が鳴るくらいだったから今はお昼の4の鐘の頃だろうか?陽を浴びる正面の椅子も眩しいが、それより何より自称・一応の金ぴかピンな衣装の方が眩しく…いや、うるさく感じる。自己主張が激しい衣装で、周囲の喪服とのコントラストがエグい。

素敵サロンのお素敵マダムが言っていた、今日で騎士伯様の喪が明けるそうだ。本来なら今日から喪服の着用は不要だ、皆喪服を着用しているけれど。

そしてその時騎士様の違和感に気付いた「鎧が黒い。喪服の代わりなんだ」と。

私の呟きに小さく「そうだ。我々の喪は明けない。新たな騎士伯様が起つまでは」と答えてくれたのは、どの騎士様だったのだろう。


ん?爵位を継ぐって自称が言ってなかったか?そして、この騎士伯様のお屋敷に住むんだと言ってなかったか?

騎士伯継ぐの?なんて、ありえもしない吞気な事を一瞬でも考えた私が馬鹿でした。

こんな罵声怒号で何故継げる。


色々と晴天の下に晒される、私と自称・一応のあれやこれや。

鈴の音が告げる、歪んで知らされた内容の真実。

情報過多過ぎて頭がフリーズしましたよ。

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