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いばらの森の眠り姫~Sleeping Beauty~

作者: 見習いさん

シャルル・ペロー童話集にも取り上げられ、グリム童話集では、『茨姫』(いばらひめ)として類話が取り上げられている。また、ジャンバティスタ・バジーレの『ペンタメローネ』所収の『太陽と月とターリア』も類話として知られている。『眠りの森の美女』『眠り姫』の訳題もある。"Sleeping Beauty"(スリーピング・ビューティー)の英語題で呼ばれることもあり、同タイトルの小説も発行されている。

昔々、ヨーロッパのある国にサンシャイン王という王様がいた。

「そろそろ子どもがほしいなあ」

なかなか跡継(あとつ)ぎの子供に恵まれず、子宝(こだから)祈願(きがん)をしていたが、やっとのことで美しいお(ひめ)様を(さず)かった。

「おぎゃあ!」

「生まれたわ!」

「おめでとう!」

当時は妖精(ようせい)が人間の運命を左右すると信じられていたため、サンシャイン王は国中の妖精を洗礼式のお祝いに招待して丁重(ていちょう)にもてなし、お姫様の名付け親になってもらうことにした。

「洗礼の儀式を行いましょう」

「分かりました」

宮廷(きゅうてい)行事の責任者であるクレッシェンドが調べたところ、この国には7人の妖精がいることが判明した。

「決めました」

「何ですか?」

「名前を決めましょう」

「分かりました」

そこで、その7人の妖精全員に名付け親になってもらうことにした。

「夜明けに生まれたことから、オーロラにしよう!」

「そうしよう!」

お姫様は、「夜明けの光」という意味をもつことから、オーロラ姫と名付けられた。

 さて、洗礼式も無事に終わり、その後の祝宴には主賓(しゅひん)の妖精たちをはじめ、たくさんの人が(まね)かれていた。

「ん?」

クレッシェンドは慎重(しんちょう)にもう一度招待客のリストを見直し、確認してうなずいた。

「うん、万事ぬかりなし」

やがて王宮の広間には大勢の招待客が集まった。

「オーロラ姫の登場です!」

「皆様、ご静粛(せいしゅく)に!」

フロレスタン王とムーンライト王妃(おうひ)様、乳母(うば)たちに()かれてオーロラ姫も姿を現した。

「ローズピンクから、優しさを」

「イタリアンレッドから元気を」

「マンダリンオレンジからおうようを」

「レモンイエローから呑気(のんき)を」

「ミントグリーンから勇気を」

「ロイヤルブルーから友情を」

「ラベンダーパープルから知性を」

主賓である7人の妖精たちは次々に優しさ、元気、おうよう、呑気、勇気、友情、知性の美質をオーロラ姫に(おく)った。

 7人目の妖精が贈り物をし終わったその時、突然邪悪(じゃあく)な空気が立ち込めたかと思うと、ねずみが引く二輪車に乗り、醜悪(しゅうあく)な小姓たちを連れて、年老(としお)いた妖精マレフィセントが現れた。

「もう一人、ここにいる…」

カタラビュットは真っ(まっさお)になった。

「何たる失態なんだ!」

こともあろうに一番性質の悪い妖精がリストから()れていた。マレフィセントは言った。

 「まったくなんて礼儀だろうね。敬意を(はら)うべき年長の私を招待もせずに()じをかかせるなんてさ。ところで式典の責任者は誰だい?」

そして真っ青になっているクレッシェンドのところへ行くと、その頭の毛を全部むしりとってしまった。そして(さら)に恐ろしい調子で続けた。

 「それでもさ、私はこのオーロラ姫にちゃんと贈り物をくれてやるよ。姫はさっき妖精たちから贈られた美質に恵まれて誰も見たことがないぐらい美しく成長することだろうさ。だけど大人になる前に、(いと)(つむ)ぎの(はり)に指を刺されて死ぬだろうよ。ワッハッハッハ…。」

 マレフィセントの恐ろしい笑い声が響く中、サンシャイン王もムーンライト王妃様もみんな真っ青になってしまった。城にも、不吉な空気が立ち込めてきた。その中でローズピンクの精の(りん)とした声が響いた。

 「ご安心なさいませ、王様、王妃様。幸い私はまだ姫に贈り物をしておりません。私には年長者であるマレフィセントの(のろ)いを全部取り消す力はありませんが、(うす)めることはできます。確かに姫は糸紡ぎの針に指を刺されますが、死にはしません。深い眠りにつくだけです。そして10年たった時、ある王子が現れて姫の眠りを()ますことでしょう」

 サンシャイン王もムーンライト王妃様も、ローズピンクの精の贈り物に少なからず安堵(あんど)した。

「安心しました」

「よかったです」

「ありがとうございます」

マレフィセントはローズピンクの精の助け舟が気に入らず食ってかかったが、他の妖精たちもローズピンクの精に味方してマレフィセントを非難したため、旗色(はたいろ)が悪くなって呪いの言葉をわめきちらしながら二輪車に乗って退散して行った。

 

サンシャイン王はさっそく『糸紡ぎを使うことも持つことすらもまかりならぬ。(そむ)いた者は死刑に(しょ)する』というお()れを出して、糸紡ぎを国中から追放した。

 さて、15年の月日がたち、太陽の光のように(かがや)金髪(きんぱつ)、薔薇のように赤い(くちびる)、長身、スリムなスタイルの美しいオーロラ姫は15才の誕生日を迎えた。姫は妖精たちの贈り物通り、心優しく誰にでも()かれる美しいお姫様に成長した。

 

 そのめでたい日に糸紡ぎを使っている(むすめ)たちがいた。 

「やめなさい!」

そこへ見張りの兵士とともにクレッシェンドがやってきて、その場面を目撃(もくげき)してしまった。説明しよう。糸紡ぎを持っている者は死刑になってしまうのだ。しかし悪気などかけらもないこの(むすめ)たちをマレフィセントの呪いに脅えて処刑するなど、あまりにむごすぎる事態にクレッシェンドが(なや)んでいるところへサンシャインン王がやって来た。

 仕方(しかた)なく娘たちの糸紡ぎの件を報告すると、王の表情はみるみる(けわ)しくなって、娘たちを処刑せよと命令を下した。

「彼女たちに(ばつ)を与えよ」

娘たちは突然(とつぜん)の災難に泣き(わめ)き、あたりにはマレフィセントの大好きなまがまがしい空気が立ち込めた。 

 そこへムーンライト王妃様がやって来てわけを聞き、

「娘たちを(ゆる)してくれるように」

とサンシャイン王にとりなした。今日はオーロラ姫が大人と認められる大切な日。こんなめでたい日にむごいお仕置きをしては姫の美徳に傷がつくというものだ。

「姫の美しさを(けが)すわけにいかない」

最初は、命令は命令だと(かたく)なだったサンシャイン王だが、次第に王妃様のムーンライト言葉に心を動かされ、娘たちは無罪(むざい)放免(ほうめん)となった。

そして、寛大(かんだい)なサンシャイン王のお城はオーロラ姫の誕生祝い一色となった。

「姫様、お誕生日おめでとうございます!」

「ありがとうございます!」

花園(はなぞの)にはたくさんの若い男女が集まって、色とりどりの花輪を持って踊り出した。

「さあ、踊りましょう」

輝くばかりに美しいオーロラ姫も友人に囲まれて姿を現した。姫の花婿(はなむこ)候補(こうほ)である異国の4人の王子たちも到着し、姫の美しさを(たた)えながら、姫と優雅な踊りを踊った。

 

 そこへ見慣れぬ老婆(ろうば)がやって来て、オーロラ姫に小さな花束(はなたば)を差し出したので姫は喜んで受け取り、手に持ったまま踊り出した。

「受け取れ」

「ありがとう!」

ムーンライト王妃様や侍女(じじょ)たちは素性の知れない老婆の花束を取り上げようとしたが、素直で疑うことを知らないオーロラ姫は、茶目っ()たっぷりに王妃様たちの間をすり抜けて花束をかかげるように踊った。 

 と、花束の中の何かがオーロラ姫の白い指を突き刺した。実は、糸紡ぎの針が入っていた。姫は、

「ちょっとつついただけ」

とみんなを安心させようとしたが、みるみるしびれが姫の身体を(おそ)った。洗礼式の呪いを思い出し、サンシャイン王もムーンライト王妃様もみんな(あお)ざめてしまった。やがて姫は動かなくなった。

「ワッハッハッハ…」

と、その時勝ち(ほこ)ったような不気味な笑い声が響き、さきほどの老婆が正体を現した。そう、彼女こそがマレフィセントだ。

  「礼儀知らずの王と王妃よ、覚えているか?どうだい、私の贈り物は!ワッハッハッハ…」

 激怒(げきど)したサンシャイン王の命令で、兵士たちがマレフィセントを取り()さえようとした。姫の花婿候補の4人の王子たちもカラボスに()りかかったが、マレフィセントの相手ではなかった。

「さらばだ」

そして、マレフィセントは高笑いを残してどこかへと去って行った。サンシャイン王やムーンライト王妃様たちは(なげ)き悲しんでオーロラ姫を取り囲んだ。

そこへローズピンクの精が現れて言った。

 「ご心配には(およ)びません。姫はただ眠っているだけなのです。姫の眠りは10年ほど続きます。ある王子様が現れ姫の眠りを覚ますまで…。」

 サンシャイン王は家来たちに命じてオーロラ姫をお城の中で一番美しい部屋の一番美しいベッドに()かせた。眠っている姫はまるで天使のような美しさだった。ローズピンクの精はお城の中のすべてのものに一つ一つその魔法(まほう)(つえ)で触れて行った。サンシャイン王もムーンライト王妃様もクレッシェンドも侍女たちも兵士たちもみんな。そして馬や犬、はてはごちそうや(ろう)(そく)までも。そしてオーロラ姫が目覚めたときに困らないように、お城全体が姫と共に10年の眠りについたのだった。

「ね、眠気(ねむけ)が…」

するとまたたく間にお城は大小様々な樹、(いばら)(とげ)のある植物に(おお)われ、誰も近づくことができなくなってしまった。そして遠くの方から(とう)の先が見えるだけになった。

そして、オーロラ姫が眠りについてから10年の時が過ぎた。

「ここが、迷いの森だ」

ある時シャルル王子がお供の貴族たちを連れて森へ(かり)にやって来た。今日の狩は単なる楽しみというだけでなく、お(きさき)選びという意味合いもあったので、王子は少し憂鬱(ゆううつ)だった。近隣(きんりん)の王たちには息子しかなく、シャルル王子の相手となるような王女はいなかった。そこで、

「貴族の娘たちの中からお妃を選ぶように」

と言われているのだった。

 一通り狩を楽しんだ一行は草地でくつろぐことにした。一行は食事をしながらダンスやゲームを楽しんだ。貴族の女性たちはシャルル王子の気を()こうと愛嬌(あいきょう)たっぷりに踊ったが、あいにく王子は彼女らの誰とも結婚(けっこん)する気はなかった。

 そのうちまた狩の時間になったのだが、シャルル王子は気疲(きづか)れしてしまい、

「自分抜きで狩を続けるように」

と言いつけて一人この草地で心安らかに休むことにした。

みんなが行ってしまってホッとしていると、遠くの方に植物に覆われた(がけ)のようなものが見えた。

「あれは一体なんだろう」

と思っていると、あたりに何だか不思議な空気が立ち込めてきた。そしてシャルル王子の名付け親でもあるローズピンクの精がお(とも)を連れて現れた。ローズピンクの精は自分の前にひざまづいたシャルル王子に言った。

 「私があなたの憂鬱を晴らしてあげましょう。私は世界で一番美しく魅力的(みりょくてき)な姫を知っていますよ」

 王子が驚いて、

「その姫はどこにいるのか」

()くとローズピンクの精は答えた。

 「それではその姫の幻影(げんえい)を呼んでみましょう。もし姫があなたの気に入ったのであれば、姫のところへ連れて行ってあげます」

 そしてローズピンクの精は先ほどシャルル王子が(なが)めていた植物に覆われた崖に向かって杖を一振()りした。

「えいっ!」

するとオーロラ姫の幻影が現れた。たちまちシャルル王子はオーロラ姫に魅了(みりょう)されてしまった。

「追いましょう!」

「分かった!」

王子はオーロラ姫の幻影を追ったが、手をのばしてもするりとすり抜けてしまう。そしてオーロラ姫の幻影はある時は物憂(ものう)げにある時は快活(かいかつ)に踊り、王子の心をすっかりとらえてしまうと、あの植物に覆われた崖の方に消えていった。王子はローズピンクの精の足元にひれ()して言った。

 「あの方はどこにおられるのです。私をあの姫のところへ連れて行ってください。あの姫こそ私が待ち望んでいた女性です」

 「それでは私についておいでなさい」

 ローズピンクの精がそう言うと、金や宝石で(かざ)られた真珠(しんじゅ)(がい)の船が現れた。そしてシャルル王子はローズピンクの精と共に船に乗り込んだ。

「行きましょう」

「分かった」

船は森を抜け、険しい景色の中を進んで行き、やがてツタや茨で覆われたサンシャイン王の眠れる城へと辿(たど)り着いた。

 どこに城門があるのやらわからない状態だったが、ローズピンクの精が魔法の杖を一振りするとツタや茨はひとりでにほどけて門が現れた。

「門が開けた!」

すると中から城を見張っていたマレフィセントとその手下たちが姿を現した。

「戦いの火蓋(ひぶた)は切られた」

「さあ、命を()けて、かかってこい!」

ローズピンクの精に守られたシャルル王子は(つるぎ)を抜いて勇敢(ゆうかん)に戦い、マレフィセントとその手下たちを城から追い払ってしまった。

「中へ入ろう!」

「うん!」

そして、王子は城の中へ入って行った。

城の中はぞっとするような静けさだった。死んだようにみえる人間や動物たちがあちらこちらに横たわっている。

「カー」

「ぐー」

しかしそのうちいびきなども聞こえ、みんなただ眠っているだけだということがシャルル王子にも分かってきた。

「ここは…眠りの国なのか?」

そして、王子は蜘蛛(くも)の巣を払いながら城の中を進んで行った。

 やがてシャルル王子は姫が眠っている部屋へ到着した。眠っている姫は神々(こうごう)しいばかりの美しさだった。

「なんて美しき(ひめ)(ぎみ)なんだ」

シャルル王子はハッと胸をつかれてしばらく見とれていたが、やがて姫に近づいてひざまつき、接吻(せっぷん)した。 

 すると姫は目を覚まし、優しく愛らしい眼差(まなざ)しでシャルル王子を見つめた。

「王子だ」

そしてオーロラ姫と共にサンシャイン王とムーンライト王妃様、クレッシェンド、侍女や家来(けらい)たち、そして城全体が10年の眠りから目覚めたのだった。

「お、おはよう…」

「もう10年の時が流れていますね」

「すっかり忘れていました」

すると、シャルル王子はサンシャイン王に姫と結婚したいと申し出た。

「よろしい」

「ありがとうございます!」

王は快諾(かいだく)し、オーロラ姫とシャルル王子の手を結ばせたのであった。

それから一か月後、婚礼の仕度(したく)は整った。祝祭の日にさまざまな妖精たちが招かれている。

「新郎シャルル王子と新婦オーロラ姫の結婚式を行います」

結婚を祝福するのは、イタリアンレッドの精、レモンイエローの精、ロイヤルブルーの精、ラベンダーパープルの精である。ローズピンクの精もマレフィセントも出席している。「長靴(ながぐつ)をはいた(ねこ)」や「白猫」、「シンデレラ」、「白雪姫」といったおとぎ話の主人公たちも来賓(らいひん)として居合わせている。

華麗(かれい)なダンスが次々に踊られる。4人の妖精のパ・ド・カトル、2匹の猫のダンス、青い鳥とフロリナ王女のパ・ド・ドゥ、赤ずきんと(おおかみ)の踊り、シンデレラとフランソワ王子のダンスが披露(ひろう)され、オーロラ姫とシャルル王子のパ・ド・ドゥが続き、最後にマズルカで()(くく)られる。

「みんな、本当にありがとう」

「ありがとうございました」

「ありがとう」

「こちらこそありがとう」

オーロラ姫とシャルル王子は結婚し、妖精たちを讃えるアポテオーズの中で人々は妖精たちに感謝を表し、ローズピンクの精やマレフィセントなどの妖精たちが人々を見守るうちに、結婚式は幕を閉じたのであった。

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