第7話 初日の朝
作者は富士高出身ではないため、架空の「芙士高」になります。
あらかじめご承知おきください。
数日が経過し、僕たちは入学式を迎えた。
「クラス、どんな人たちがいるんだろう?」
「まあ、ヒーロークラスは人数が少ないので、一つにまとめられるのだろうがな」
久朗と話しながら、校門をくぐる。
ちなみに余談ではあるが、ヒーロークラスは芙士市内だけでも、いくつかの学校に分散して設けられている。
一か所に集中させて、ヒーローを敵視する人間に狙われたりする危険性を下げるためにこうなっているらしい。
「えっと……芥川漣、神崎久朗、清水晶、御門祐樹、南野みかん……みかん?」
「……ずいぶんと個性的な名前のようだな」
どうやら、この五名が今年度のヒーロークラスのメンバーらしい。
いったいどんな人たちなのだろう?
「そろそろ入学式が始まると思うわよ」
声をかけてきたのは、舞先生だ。
スマートフォンで確認すると、確かにあまり時間はない。
久朗と一緒に、体育館に向かった。
指定された席に座り、始まりを待つ。
「これより芙士市立芙士高等学校、入学式を始めます」
式は滞りなく進んでいく。
校長先生の名前は芹沢大河というらしい。
校長の話は長いものと相場が決まっているのであるが、比較的短時間で済んだのが少し意外であった。
先生の紹介が進んでいく。
舞先生の名字は「冬花」……って!?
「なあ、冬花ってあの、冬花コーポレーションだよな」
「しっ、今は声を出さないで」
小声で久朗とやり取りする。
冬花コーポレーションとは、タクティカルフレームの生産においてトップシェアを誇る会社だ。
ヒーローたちの間だけではなく、世間一般でも極めて知名度の高い会社である。
特徴的な名字であるため、他の冬花さんであることはあまり考えがたい。
式が終わった後に、思わず久朗と二人で顔を見合わせてしまった。
「あの人、お嬢さまだったんだ」
「確かにあの車は、高級車だったな」
気さくではあるものの、品のある雰囲気だったのも納得できる。
クラスに向かうと……そこに待っていたのは、男子が一人と女子が二人であった。
三人で話し合っているところを見ると、もともと知り合いなのだろう。
会釈しながら、教室に入る。
「おや、今年はハーレム状態なのか?」
こちらに気づいた男子生徒が、声をかけてきた。
あれ? ハーレムって……?
「これはまた。自画自賛になってしまいますが、レベルの高い子が集まったようですね」
一緒に話していた女子生徒が、そう付け加える。
癖のないストレートの髪を肩まで伸ばしており、品がよさそうな雰囲気だ。
「にゃむ……かっこただしみかんは除くかっことじ、というところかにゃ……」
眠そうな顔をした少女が少し自虐的に言うが、彼女も十分魅力的な顔立ちをしていると思う。
……あと、胸がとっても大きく、制服からはみ出しそうになっているような……?
「えっと……純粋な質問なんだけれども、男子が三人なのにハーレムっていうのかな?」
僕がそう尋ねると……三人ともきょとんとした表情に変わった。
「晶、やっぱり男だと思われているようですね」
ストレートヘアの女子生徒が男子用の制服を着た人物に、声をかけた。
「まあ、この服装だからな!」
って、晶っていう人は女の子だったの!?
「にゃむ……計算が合わない。晶を除くと、そこの男の子しか男子生徒はいないはず」
みかんと名乗っていた少女が、訝し気な表情でそんなことを口にした。
そこの……という視線の先には、当然久朗の姿が。
「もはや、お約束としか言いようがないな」
久朗が笑いながら、こちらの肩を叩く。
「あの……僕、男です……」
三人とも目を見開いた。
眠そうにしていたみかんでさえ、目を見開いている。
驚きの声が出されようとした瞬間に、教室のドアが開いた。
入ってきたのは……舞先生だ!
「はい、五人ともストップ。これからオリエンテーションを始めます。教壇にある表に従って席についてね」
五人とも慌てて自分の位置を確認し、着席した。
「初めまして……ではない子もいるけれども、まあいいか。担任の冬花舞です」
黒板に、綺麗な文字で氏名が記載される。
「とりあえず、自己紹介から行ってみようかな……あいうえお順で、まずは芥川さんから」
「初めまして。芥川漣ともうします。趣味はカードを使った占いです。よろしくお願いします」
トップバッターであったにもかかわらず、すんなりと自己紹介を終えた。
簡潔にまとめたことからしても、かなり頭がいいであろうことが推測できる。
「次は神崎君ね」
……ここで、ネタに走らなければいいのだけれども……。
「神崎久朗だ。趣味はコンビニの珍しいものを試すこと。よろしく」
比較的無難な答えで、ホッとする。
まあすぐに変人であることが、ばれるのだろうが……。
「清水晶。趣味はスポーツ全般。よろしく!」
男性用の制服を着ていた少女が、快活に自己紹介を行った。
うう、少しドキドキしてきた……。
「は、初めまして。御門祐樹です。趣味は体を鍛えることです……あと、僕は男性なので、その点はご承知ください」
少しだけ、かんでしまった。
久朗の生暖かい視線が、悔しい。
「南野みかん。趣味は寝ることと食べること、そしてお風呂。よろしく~」
また少しだけとろんとした表情になりながら、最後の一人が自己紹介を終えた。
「ところで質問だけれども、冬花ってあの冬花だよね!」
晶が舞先生に対して、質問を投げかける。
「ええ。確かに私は、冬花廣政の妹よ。だけど普通の先生に対するのと同じように、フレンドリーに接してほしいんだけれども……ダメかな?」
舞が手を合わせながら、お願いした。
「もちろん、私はそうするつもりだ」
久朗が真っ先にこたえる。
「僕も!」
僕も慌てて、それに賛同する。
残りの三人も、素直に同調した。
「よかった。冬花の妹ではなく、ちゃんと一人の先生として見てくれて」
舞先生は舞先生で、結構苦労しているようだ。
「とりあえず、連絡事項などはあまりないわね。後はヒーローとしての能力評価があるので、保健室に行きましょう」
僕たち五人は、保健室に向かうことにした。