第56話 芙士警察署での打ち合わせ
そして翌日、僕たちは下見と打ち合わせのために、芙士警察署に向かった。
「うう……悪いことをしているわけではないのだけれども、どうも警察署という場所は苦手だよ」
僕の意見に、久朗を除く全員がうなづいた。
「久朗は平気なの?」
僕が尋ねる。
「免許証の発行のために、利用しているからな」
久朗、免許なんて持っていたの!?
「みかんと同じく、ネットダイブのB級ライセンスを取得した。これで家のパソコンから、ネットに没入することができる」
ネットダイブの免許は、どうやら警察署で発行しているようだ。
とはいえ、免許証の関係で利用している人でも警察署という場所を苦手としている人は、多いと思うのだけれども……。
「将来は国家ヒーローを目指しているからな。両親を安心させてあげたいし……そうなると、警察との連携も視野に入れる必要があるので、苦手なんて言っていられないからな」
そこまで考えているとは、思わなかった。
久朗は将来のビジョンが、しっかりしているようで……僕はまだ、国家ヒーローになるか民間ヒーローとして働くか、迷っている。
「まあ、まだ一年生だからな。今はまだどちらに適性があるのか、確認する時期だと思うぞ」
久朗がフォローしてくれた。
「俺は……おそらく民間ヒーローだな。国家ヒーローも悪くないと思うが、柄じゃない」
晶が話に加わってきた。
「私はどちらかというと、国家ヒーローを目指して頑張っています。安定した仕事ですから」
漣は国家ヒーローの方を、目指しているようだ。
「みゅ。国家ヒーローなんてお堅いものは無理。民間ヒーロー一択で」
みかんらしいといえば、みかんらしい。
「みかんはその前に、きちんと卒業することを目指しましょうね――前回の中間テストの結果、ひどいものでしたから」
漣がみかんをたしなめる。
赤点すれすれで、教師に拝み倒して何とか補習を免れたという状態だったので……誰も擁護しようとしない。
「にゃ! 誰も味方がいないにゃ……」
まあ、自業自得であろう。
芙士警察署につき、会議室に案内される。
「ここで茶の一つも出さないところが、いかにも警察らしいところだな」
「しっ、久朗、そういうことは思っても口に出さないでよ……恥ずかしい」
久朗は結構、思ったことをそのまま口にする癖がある。
そのため場の雰囲気を読まずに、言葉にしてしまうことがあるのだ。
それぞれ椅子に座り、担当者が来るのを待つ。
やってきたのは比較的若い、男性の警察官であった。
「芙士高校のヒーローたちだね。初めまして。石塚健吾といいます」
未成年であることを考慮して、物腰が柔らかめの人が担当になったようである。
「君たちにやってもらうのは、基本的に警察署の防衛ということになる。敵はアプレンティスが主体なので、君達でも相手できると思うが……基本的には発見次第本部に連絡を取り、どうするか指示を仰いでほしい」
事前に聞いていた内容の、復習みたいな形で話が進んでいく。
僕たちは基本的には戦闘もできる巡回役として扱われ、熟練のヒーローがメインとなって敵を倒すという形をとるようである。
「2~3体であっても、自爆装置を内蔵しているタイプの場合があるから、油断しないように」
そんな危険なタイプまで、襲撃しているなんて……。
「どうも上の方は、あまり事態を重視していないようで……もう内々で処理する段階ではないと、僕自身は思っているのだけれどもね」
石塚さんが、ポツリと口にする。
巡回をするのは、三日後の夜ということになった。
今までのパターンから、その日にまた襲撃が起きるであろうことが推測されるからである。
また、あの久遠という少女が相手になるのだろうか……?