表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/69

第53話 楽屋裏での一コマ

 13時になり、体育館でのミーシャのコンサートが始まった。


 最初は穏やかな曲からスタートし、会場の盛り上がりに合わせて「ディストピア・ロックヒーロー」というアップテンポの曲につなげていく。

 会場の雰囲気を完全に読み切って、歌を選択しているようだ。


「やっぱり上手いな……これと勝負しようとした自分が、少し恥ずかしいかも」

「だな。下手な芸能人なんかでは、太刀打ちできないだろう」


 みんな歌に集中している。

 そんな中、ふと気になってライティングの方を見てみると……そこにいたのは、(かなで)さんであった。


「ねえ、久朗(くろう)。奏さんがあそこにいるよ」

 僕は小声で、久朗に話しかける。


「本当だ……彼女の歌ならば、十分に張り合うことができると思うのだがな」

 久朗も小声で、それに返した。


 一時間のステージが終わり、観客が体育館から出ていく。

 僕たちはミーシャと話をしたいこともあり、逆にステージの裏手の方に向かうことにした。


「めあは、ここでお別れなの」


 いい音楽を聴くことができて、めあちゃんもご機嫌のようだ。

 保護者がいないのは気になるものの、しっかりしためあちゃんならば一人で帰ることができると判断し、僕達はここで別れることにした。


「お疲れ~! スポーツドリンクを用意しておいたわよ」

 そこにはミーシャと(まい)先生がいて、ちょうどミーシャに飲み物を手渡しているところであった。


「あ! 結城(ゆうき)と久朗だ! ボクの歌、聞いてくれた?」

 ミーシャが僕たちに笑いかける。


「本当にすごかった……アイドルとしてやっていっても、十分にやっていけるのではないか?」


 久朗が感想を述べる。

 僕も全く同意見だ。


「まあ、ミーシャは私よりも『ローレライ』としての才能は上だからね」


 舞先生が説明を加える。

 舞先生のローレライとしての能力も、半端ではなかったのに……それを上回るというのだから、並大抵のことではない。


「既にブロンズの身分証明書になっているし、将来を期待されているわよ」


 ヒーロークラスでは、卒業までにブロンズの身分証明書の取得が推奨されている。

 無くても卒業できないというわけではないものの、三年でブロンズをとれず、焦るヒーローは一定数存在するのだ。

 逆に二年でブロンズの身分証明書を取得しているとなると、ヒーロー大学への推薦も期待できる。


「お疲れさま。わが校の生徒として、立派にステージを盛り上げたこと、感謝する」


 そこに、校長の芹沢大河(せりざわたいが)がやってきた。

 って、ほかの学校の文化祭に、校長!?


「なんだ、気づかなかったのか……開催に際し、祝電ではなく直に挨拶を述べたかったので、文化祭開始の時の挨拶の時には既にここにいたぞ」


 舞先生は知っていたようだが……僕たちはその時、まだ芙士美高に向けて歩いていた最中である。

 気が付かなくても、これは仕方がないだろう。


「そういえば舞、あの言い訳はさすがにどうかと思ったのだが……」


 校長が舞に、何か苦言を有しているようだ。


「ネットダイブの一件で、教頭がこのようなことをするとは考えておらず、それが明るみになった引き金であるヒーロークラスの面々には特に精神の集中的なケアが必要であると判断し、集団で話し合う機会を作るため外出させていただきます……確かに形式は整った文章だが、行った先が麦の宮(むぎのみや)公園で、ピクニックだったようではないか?」


 そんな文章を出していたのか! 

 確かに建前上は、問題ない文章ではあるが……行った場所が特定されているのは一体? 


「舞も守も、スマートフォンのGPS機能をオンにしたままだったからな。どこにいたのかはすぐに分かったぞ」

 それを聞いた舞が、口笛を吹くふりをする。


「まあ、建前とはいえ無断で行ったわけではないし、今回については不問とする。次からは小細工することなく、堂々と休んでくれたほうが私としてはありがたいがな」


 どうやら校長も本気で叱るつもりはなかったようだ。


「そういえば、あのバカはどうなったの?」

 舞先生が校長に問いかける。


「すんでのところで、荷物をまとめて逃げ出されてしまった。帰ってくる気配はないから、このまま無断欠勤による懲戒免職処分ということになるであろう」


 警察に逮捕されたわけではないとはいえ、まさに人生終了のお知らせといったところである。

 教頭として不適切な人間だったので、消えてしまってほっとしている。

 そのまま僕たちは、少し歓談してステージを後にすることにした。


 その時、もっとしっかり猿渡のことについて、考えるべきだったのだ。

 僕たちは後にそのことを、死ぬほど公開することになる――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ