第41話 運動会 第五戦 結城VSミーシャ
「それでは第五試合、御門祐樹対ミーシャ=フォーウッドを始めます」
ピストルの音が鳴り響くが……ミーシャの方は、動く気配がない。
「ねえ、少しボクとお話ししない?」
僕に対して、ミーシャが語り掛けてきた。
「今年の一年って、すごいよね……まさかボク達が負けるとは、思わなかったよ!」
ミーシャが絶賛するが、正直僕たちも思っていなかった。
「でも、最後の試合くらいは勝ちたいと思っているよ」
既に一年生側の勝利が確定しているとはいえ、手を抜くつもりはないようだ。
「で、提案なんだけれども……確か結城って、オベリウスだったよね?」
ミーシャが僕に問いかける。
「うん、僕もそうだし、久朗や晶もそうだよ」
僕はそれに答えた。
「だったら、両方で歌いながら戦うのはどうかな?」
ミーシャが、僕に提案する。
「同じ歌を歌いながらなの?」
僕が質問する。
「違うよ。お互いに自分の得意な歌を歌いながら、どちらが上手いか勝負するの」
それもまた、面白そうである。
僕はうなづき、了承の意を示した。
「じゃあ、合図したら歌い始めよう……ワン、ツー、スリー、スタート!!」
ミーシャと僕が、歌いながら戦闘を開始する。
僕が選んだ曲は、「パラジクロロベンゼン」だ。
オベリウス候補になったときに歌った曲で、結構自信がある。
「じゃあ、ボクはこの曲で!」
ミーシャが選んだのは……『バンブーソード・ガール』という曲だ。
軽快なリズムに合わせて、ミーシャの機体『コリーニョ』に装備されたクオータースタッフが襲い掛かる!
「う、歌いながら戦うのって、意外と難しい……」
僕の歌が、少し途切れ途切れになってしまう。
それに対してミーシャは、流れるようなリズムがそのまま戦いに繋がっているようだ。
ミーシャの連続攻撃が、僕の『オウス』にヒットする。
クォータースタッフなので威力自体は少なめなのだが、圧倒的な連続攻撃に装甲が耐えられず、徐々に削られていくのが焦りを誘う。
更に乱れる僕の歌声。
「結城、これは実戦じゃなくて模擬戦なんだよ。ボクと一緒に楽しもうよ!」
ミーシャが歌を中断して、僕に語り掛けてきた。
言われてみれば実戦のような感覚で、相当焦りがあり……その一言で目が覚めたような気がする。
「じゃあ、僕もミーシャと同じ歌でもいいかな?」
「もちろん! 思いっきり楽しもうよ!」
僕も『バンブーソード・ガール』に歌を変更する。
軽快なリズムで、自分自身の動きが明らかに軽くなったのが実感できる。
「なんだか、二人とも楽しそうだな……少しうらやましいぞ」
久朗がぽそっと声を出したようだが、全く気にならない。
戦いというよりも、ダンスのような応酬が繰り広げられる。
そして、なんだかもっと楽しみたくなって……その時僕の機体から、光が放たれた。
『ソードチェンジ・バンブーソード』!!
僕の機体の持っていた刀が、竹刀に変化する。
こんな力を、僕は秘めていたのか……。
「あは、それでいいんだよ!」
ミーシャもご機嫌のようだ。
更に戦いの速度は激しさを増すが、踊るような戦いと歌声で楽しそうな雰囲気が、どんどん会場に広まっていく。
「それじゃあ、そろそろ終わりにするね!」
ミーシャが魔法を使う。
「いっくよ~!! 『フォーエレメンタル・バスター』!!」
四つのエレメンタルが融合し、強烈な光の波動となって僕の機体に襲い掛かる。
一気に削られ、戦闘不能になるが……どちらかというとクラッカーを浴びたような気分で、すがすがしい。
あくまでも、戦いを終えるための合図みたいな感じであった。
「勝者、ミーシャ=フォーウッド」
結局負けてしまったけれども、僕も新しい力を得て、有意義な戦いだった。
それに何より、とっても楽しかったんだ。
本当のオベリウスへの道が、少しずつ見えてきたような気がする。