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第3話 金色のバグ

早速ブックマークしてくれた人がいました。

本当に、ありがとうございます。

 ARゴーグルの表示によると動かないバグは、小さな公園にいるようだ。

 全速力で、そこに駆けつけると……。


「あれは!」


 二人の目の前に広がっていたのは、コクーンにつつまれた一人の少女と、それを守るようにして戦っている一体のアプレンティスであった。

 胸部にはひび割れがあり、肩は片方が吹き飛んでいるという有様で、ギリギリ間に合ったようである。


 アプレンティスが戦っている相手は、今までに見たことがないほどの、大型のバグ。

 金色の甲虫みたいな形状で、いかにも「強敵」という感じがする。

 アントが人間の大きさだとすると、こちらは中型のトラックくらいありそうだ。

 ……正直、少し怖さを感じる。


「行くぞ、結城(ゆうき)!」


 久朗(くろう)が加速する。

 僕も負けずに、前に出る。


「この大きさのバグに、アプレンティスで対抗するのは厳しいと思う。僕たちは足止めに専念して、他のヒーローがたどり着くのを待つしかない!」

 足止めだけならば、僕たちでもできる可能性がある。


「足止めもいいが――別に、倒してしまっても構わないのだろう?」

「久朗、それは死亡フラグ」


 こんな時でも平常運転な久朗の心臓には、一体どんな毛が生えているのだろう?


「加勢する!」


 叫びながら、僕は相手に切りかかる。

 目の前のアプレンティスに集中していたそいつは、完全に不意を打たれたようだ。


 ザクッと、ガツンの中間のような音がする。

 ダメージが通っていないというほどではなさそうだけど……正直、いい音とは言えない。


「あ、ありがとうございます」


 アプレンティスから、女性の声が聞こえた。

 どうやら、女性の準ヒーローのようだ。

 僕たちと同じように「守る」ために試験を捨てて、駆け付けたのだろうか?


「シッ!」


 久朗が、腰につけていたダーツを3本まとめて投げる。

 一応突き刺さってはいるものの、決定打にはほど遠いダメージしか与えられていない。

 それでも、こちらの攻撃によって相手の意識をそらすことくらいはできたようだ。


 ギガァ! 

 金色のバグが、悲鳴のような声を上げる。


「えい!」


 少女を守っていたアプレンティスが、腕にはめられていた棒状の武器を、バグに押し付ける。

 バリバリという音とともに、青い光が飛び散る。

 どうやら、電気を帯びた武器のようだ。


「このバグの攻撃方法は、マシンガンのようなものと、ショットガンみたいなもの、そして体当たりです!」

「どれも回避しにくそうな攻撃だな!」


 久朗がぼやく。

 近接戦がメインの僕にも、少しきついかも。


 シャーッ!! 

 金色のバグが、口から大量の弾丸を発射した。

 彼女が言っていた攻撃の一つ、マシンガンだ!


「くっ!」


 完全に回避することができず、数発喰らってしまった。

 数発だけなのに、衝撃でかなりの痛みが走り、装甲にひびが入る。

 これが直撃だったら……それこそ、シャレにならないことになりそうだ。


「このぉ!」


 今までに学んだ技を、次々と叩き込む。

 削れてはいるものの、決定打には程遠いという実感がある。


 連続攻撃を繰り出しているときに、ヤツの動きが止まる。

 チャンス到来と思い、大ぶりの攻撃を当ててしまったのが、間違いだった。


 ドガッ!! 

 静止状態から、一気にこちらに向けて突進する。

 体当たりとは聞いていたものの、このような形とは思っていなかったため、まともに喰らってしまう。

 胸部装甲に大きなひび割れが入り、息が詰まる。


「結城、いったん下がれ!」


 久朗が前に出る。

 そして拳銃を構えて……って、おい! 


 至近距離からの連射で、ダメージを与えようとしたのだろうが……中に入っているのは当然訓練用の弾で、相手を怒らせるだけの結果になってしまうのでは? 

 実際当たったものの、ほんのわずかに相手の外皮がへこんだだけで……。


「と見せかけて、本命はこちらだ!」


 撃ったところと反対側に回り込むように動き、もう一方の腰につけていたナイフを突き刺す。

 こういうトリッキーなところがあるのが久朗の戦い方の特徴で、力押しになりがちな僕としては、正直うらやましいと思うところがある。


 それを追うように、ヤツがそちらを向き……まずい! 


 シャッ!! 

 口の部分から、散弾が発射される。

 いくら久朗の運動能力が高いとはいえ、これは回避できそうにない! 


「久朗!!」


 思いっきり、突き飛ばす。

 結果、久朗への直撃は避けられたものの……二人とも、散弾を浴びることになってしまった。

 装甲のあちこちにひびが入り、モニターに表示されている仮想耐久ゲージがレッドゾーンに突入する。


「結城、感謝する。そして、一つだけ策があるのだが、時間稼ぎをしてもらえないだろうか?」


 久朗が、何か思いついたようだ。


「正直このままだとジリ貧だ、お前の策に賭ける!」

「頼む、十数秒間、相手の動きを止めてくれ」

「分かった!」


 ボロボロではあるが、ここで引くわけにはいかない。

 少しよろめきながらも、相手を見据えて刀を正眼に構える。


「足止めですね!私も、援護します!」

 最初から戦っていた彼女も、スタンロッドを構える。


「まず、私がしびれさせます。その方が少しでも、時間を稼げると思いますので」

「分かった!」


 彼女がバグの左側に回り込み、スタンロッドを押し当てる。

 僕は右側に回り込み、ターゲットを固定させないように攻撃を行う。

 久朗は……何やら、ぐるぐると僕たちの周りをまわっているようだけれども……? 


 シャーッ!! 

 また、マシンガン状の攻撃が行われる。

 僕の機体が更に悲鳴を上げ、ゲージが点滅して危険であることを知らせる。

 これ以上は、持たない! 


「待たせたな、結城!」


 久朗の仕込みが完了したようだ。

「合図をしたら、あの木を切り倒してくれ!」


 久朗が彼女の側に回り込む。


「少し離れるぞ!」

「分かりました!」


 離れていく二機。

 それを追うように、バグがじりじりと動き出す。

 口を開け、マシンガンを放つが回避に専念している二機には、なかなか当たらない。

 焦れるように動き出すバグ。


「いまだ、結城!」

「うおぉぉぉーー!!」


 木に、思いっきり刀を叩き込む。

 するとその木を起点として巻かれていたワイヤーが、まとめて一気にバグに絡みつき、相手の動きが止まる!! 


「次、このワイヤーに思いっきり、電流を流してくれ!」

「分かりました!」


 スタンロッドの出力を全力にして、思いっきり放電させたようだ。

 今までの点の電流ではなく、大きな線への電流にさすがのバグも、攻撃どころではなくなっている。


「この隙に、口を破壊してくれ!」

「分かった!」


 久朗の側に行き、全力で刀を叩き付ける! 

 ピシリとひびが入り、バグが悲鳴を上げる。


「これで、どうだ!!」


 久朗がそのひびに銃口をねじ込み、引き金を引きまくる。

「訓練用の弾とはいえ、直接内部に叩き込まれれば、それなりのダメージになるだろう!」


 ――バグの口の部分は、ボロボロになっており、もう弾丸での攻撃はできそうにない。

 ワイヤーは電流と暴れたバグによって、ボロボロになり崩れてしまったものの、今までの戦いで一番のダメージを与えたという実感がある。

 これで後は、体当たりを警戒するだけだ! 


「はあ、はあ、はあ……」


 連続攻撃の反動で、息が荒くなる。

 何とか息を整えて、攻撃を再開しないと……。


 するとバグは、背中に生えていた羽を大きく広げてきた。

 そこから、何かが発せられる。


 キィーン!! 


「ぐあっ!!」


 超音波のような攻撃で、三人まとめて吹き飛ばされる。

 まだこんな、隠し玉が残っていたなんて……。


 もはや、動いているのが奇跡という状態だ。

 そして、また羽に力がチャージされていくのが、目に映る。

 このまま、蹂躙されてしまうのだろうか……。


「まに……あった!!」


 バグの体表が、いきなり大きくはじけ飛ぶ!

 そして気が付くと、目の前に大きな盾を持った、銀色のタクティカルフレームが現れていた。

 放たれた衝撃波はその盾によって、完全に防御されたようだ。


(みのる)(まい)の魔法が完成するまで、狙撃を続けてくれ!」


 盾を持ったタクティカルフレームの声に応じて、バグへと連続で銃弾が叩き込まれる。

 バグの方も回避しようとするのだが、まるで動きがあらかじめ分かっているかのように、次々と弾丸が叩き込まれる。


 更に灰色のタクティカルフレームが、周りこむように動き……急にガクッと、バグが沈み込んだ。


「落とし穴、成功っと!」

 その時に放たれた衝撃波は、これによって明後日の方向にそらされた。


「よく、頑張ったわね」


 そして、緑色のタクティカルフレームが後ろから現れる。

「これで、とどめよ――『フレスベルグ』――!!」


 バグを中心として猛烈な竜巻が発生し、体を切り刻んでいく。

 羽を広げようとして一瞬でむしり取られ、そのまま粒子になって消えていく。

 あまりにも圧倒的な破壊力であるにもかかわらず、周囲には一切の被害をだしていないところが、術者の力量を如実に語っている。


 竜巻が消えると、そこには何も残っていなかった。

 あまりにもあっけない結末に、心が付いていけない。

 これが正規のヒーローの強さ、なのか……。

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