表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/69

第1話 試験への道中

ここからが本編です。

 ――その時のことは、いまだに一番強い思い出として、頭の中に残っている――


 あの日、絶望的な状況でさした、圧倒的な光。

 黄金色のその光は、あっという間に闇を蹴散らして、僕を助けてくれた。

 その時、強く思った……。


 僕は、『ヒーロー』になりたい。

 そして今度は自分が光となって、多くの人を救いたい。


 そして僕が15歳になり、正規のヒーローになるための試験を受けられるようになった時、運命の歯車は回り始める。


 4月、少し肌寒くも桜が咲き始めた中、歩く二人の男の子。

 片方は真剣そうな表情で、もう一方は少し余裕が見られる。


「いよいよ今日だね」


 僕……御門結城(みかどゆうき)は、芙士市立芙士高校の、試験会場に向かっていた。

 ここには「ヒーロー」のためのクラスが設けられている。

 学科試験は合格したけれど、実技試験を兼ねた面接があるので、それが今日行われるのだ。


「そうだな」


 一緒に歩いていた、神崎久朗(かんざきくろう)が応える。

 彼もまた、ヒーローのクラスを希望している。

 僕にとっては「義兄弟」であり、「大切な親友」でもある存在だ。


「……ところで、それって何?」

 久朗の持っているものがどうしても気になったので、聞いてみた。


「これか? ルナスープという飲み物だ」

 ……試験の前なのに、そんな怪しげな飲み物を口にする久朗の気持ちが、理解できない。


「結城は……ずいぶん無難なチョイスだな。面白みがなさすぎる」

 手元のカツサンドと缶コーヒーを見ながら久朗が言うが、僕の方が普通だと思う。


「そのルナスープって、おいしいの?」

「うむ、トマトの風味と、ミントの香り。そしてチーズの味が強烈に混じり合って、とてつもなくまずい!」

「まずいと分かっていながら、なぜそんなものを買うの!?」

「もしかしたら、うまいかもしれないではないか。挑戦する心を忘れてはいけないぞ」


 ……頭が痛くなってきた。

 試験の最中に、気持ち悪くなったりしたらどうするんだろう? 

 まあ久朗の実力ならば、その状態でも十分合格できるのかもしれないけれど。


 ちなみに、僕の両親はすでに亡くなっている。

 そして祖父母も無くなっており、天涯孤独の僕を引き取ったのが「神崎」家だ。

 神崎家の両親もまた「ヒーロー」で、僕の憧れの存在になっている。


 ちなみに余談だけれども、「この」日本では、夫婦別姓や養子が旧姓を名乗ることが認められている。

 御門という名字が家族との唯一のつながりだったので、僕としては正直良かったと思う。


 そして、神崎家の一人息子が、久朗。

 変わったものが大好きで、新商品が出ると迷わず手に取るタイプだ。

 ペ〇シの変り種シリーズがなくなったときに大いに嘆いたと言えば、ある程度人間性が分かると思う。

 ほかにも変わった食べ物や飲み物があったりすると、真っ先に手に取って……新商品とか限定という言葉にこんなに弱い人間は、あまりいないんじゃないかな?


 性格はともかく、顔立ちや頭の良さは正直僕よりも上、だと思う。

 普段からモノトーンの服を愛用しており、わりとセンスがいい。

 今日も黒のジャケットとグレーのスラックスを着用していて、シックな感じに仕上がっている。


 ちなみに僕は白いハーフコートに、黒のスラックス。

 また、試験の際には動きやすい服装に着替えてから臨むので、二人とも着替えの入ったリュックを背負っている。


「ところで話は変わるけれども、僕の髪の毛、はねていないよね……?」


 出かける前にチェックしたのだけれども、ちょっと不安だったので久朗に聞いてみた。

 

「大丈夫だ。いつも通り、かわいらしく仕上がっているよ」


 ……うう。

 僕は……確かに、女顔だ。

 それこそ「どこからどう見ても、女の子にしか見えない」だの、「男の娘」だのとからかわれることもある。

 ちゃんとメンズファッションをしているにも関わらず、男装した女の子にみられることがしばしばあるようで……前にショッピングモールでナンパされたのは、軽いトラウマになっている。


「しかし結城よ、確実に面接に合格しようというのであれば、なぜ女物を身に着けない! そうすれば、魅力で面接官はいちころなのに!」


 !? 

 いくら久朗でも、言っていいことと悪いことがある!! 


「久朗……言い残すことはあるか?」


 腰に括り付けていた、刀に手をかける。


 ちなみに僕たちは『準ヒーロー』なので、武器の携帯が仮に認められている。

 そして、高校入学と同時に正規の「ヒーロー」として扱われ、銃刀法などの除外対象となる。

 もちろん人を傷つけたら刑法に問われるのだが、『バグ』を相手にするために武器はどうしても必要なので、そういう扱いになっている。

 本当はいけない事だと分かってはいるけれども……とりあえず今は、久朗を切り捨てたい衝動が抑えきれない。


「ちょっと待て! 確かに地雷を踏んだのはこっちだが、刀まで持ち出すか!?」

「僕が女顔であることを、気にしているのはよくわかっているよね?」


 自分でも少し、虚ろな表情になっている自覚がある。


「いや待て、本気で待て。目がちょっとヤバイ」


 その時、けたたましい警告音が、スマートフォンから流れ出した。


「これは、緊急バグ警報!?」


 その名の通り、バグが発生したときに発せられる警報である。

 バグに対抗するにはヒーローの力が必要であり、一般人は逃げるしかない。

 慌てて、スマートフォンで位置を確認すると……ここのすぐ近くじゃないか!


 更に耳をすませてみると……向こう側からざわめきが聞こえてくる。

 とても、嫌な予感がする。

 もしかしたら、あの時のように……。


「助けに行こう!」

 僕は、とっさに叫んだ。


「おい、試験はどうするんだ?」

 久朗が問い返すが、目を見てはっきりと告げる。


「ここで見捨てるようならば、ヒーローじゃないだろ?」

「確かに、そうだな!」


 久朗も同意する。

 僕たちは、そちらの方に向けて走り出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ