第12話 ヒーロー概説
異次元の胃袋を目の当たりにするという、衝撃的な事件の翌日。
いよいよ本格的に、授業が始まった。
「それではヒーロークラスの、最初の授業を始める」
ヒーロークラスは、通常の高校とは大きく異なるカリキュラムに基づいて授業が行われている。
一般的な高校で学ぶものに加えて、ヒーロー独自の知識を必要とするため、このような形になっているようだ。
ちなみに壇上にいるのは、舞先生ではなく古賀守先生。
金色のバグとの戦いのときに、大きな盾を持っていたヒーローだ。
「まず、卒業後には二種類の進路があることは、既に承知していると思う。一応説明を……そうだな、結城がしてくれないか?」
いきなり当てられてしまった。
「はい! ……国家ヒーローと、民間ヒーローですよね?」
このくらいの問題であれば、僕でも答えられる。
「その通り。国家機関に所属するか、民間で警備を担当するかということになる」
以前にも述べたとおり、バグに対抗できるのはヒーローだけである。
そのため多くのヒーローは国家機関に属し、現代で言うところの「自衛隊」のような形で活動している。
そして大企業においては、自らヒーローを雇うことで緊急事態に備えており、こちらは「警備員」の上級職という形で認識されている。
「国家ヒーローは比較的安定した職業だが、民間ヒーローもまた、社会にとって欠かせない存在だ。どちらを選ぶかは、よく考えるといい」
守先生が、僕たちにそう告げた。
「次に、ヒーローの任務について説明する」
高校入学とともにヒーローとして登録され、『ミッション』と呼ばれる任務を受けることができるようになる。
バグが発生したときには『緊急ミッション』という形で強制参加であるが、それ以外にもヒーローやタクティカルフレームの力を生かした、いわゆる「アルバイト」に近いものが存在するのだ。
「国家ヒーローと民間ヒーローのどちらになっても問題ないように、学校側で一定の任務を追加で行わせる形になっているから、そのつもりでいてほしい」
国家ヒーローにはどちらかというと、火力などの専門性が求められる。
これに対し民間ヒーローには、護衛対象を最優先にしつつ、バグを倒すという高度な判断力が要求される。
求められるものは異なるが、通じる部分も多々あるため多くのヒーロークラスが設けられている学校では、このような形で任務を経験させるのである。
「もちろん、任務に応じた報酬が入る。その点は安心してほしい」
大変な仕事であるため、ヒーローが任務を行った際は国、または企業から報酬が支払われる。
それもあってヒーロークラスに所属する生徒は、比較的懐にゆとりがあることが多い。
「にゃ、質問……いったいいくらくらいになるのか、聞きたい」
みかんが手を挙げた。
「ミッションの難易度にもよるが、それなりの金額だ……舞から聞いているが、みかんが毎日あの量を食べたとしても、多少は残るくらいの金額になるぞ」
少し笑みを浮かべながら、守先生が答えた。
既にみかんの食欲については、情報が共有されているらしい。
「後は……そうだな、一番大切なことを言い忘れていた」
守先生が、少し険しい顔になる。
「お前たちならば大丈夫だと思うが、くれぐれも『ダークヒーロー』にだけはならないことだ」
ダークヒーローとは、「悪事を行うヒーロー」のことを指す。
ヒーローの力を悪用することで、多額の報酬を得ることができるため、一定の数が存在しているようだ。
当然ヒーローの敵であり、激しい対立関係にある。
「最近では『教団』と呼ばれる連中の暗躍が、話題になっているようだからな」
ダークヒーローの側は、当然一枚岩ではなくさまざまな組織が存在する。
その中でも最近力を伸ばしているのが、「教団」と呼ばれるグループだ。
このグループは、文字通り「宗教」のような形をとっている。
終末思考がベースになっているようで、過激な行動をとることもあるため、かなり危険視されている存在だ。
キーンコーンカーンコーン
「どうやら時間のようだな。次の講義では、タクティカルフレームについて説明を行う。日直、挨拶を」
「起立、礼」
日直は漣だ。
なんとなく日直だけではなく、クラス委員も似合いそうな気がする。
「あと結城。そこで寝ているバカに、思いっきり一撃をくれてやれ」
横を見ると、久朗が机に突っ伏して爆睡していた。
先生の言葉に従い、竹刀を構えて……。
「えい!!」
「ぐぎゃ!」
体罰禁止という言葉があるが、生徒同士であれば黙認されているようだ。
そのためわざわざ僕に、声をかけたのだろう。
「ヒーロークラスの最初の授業から爆睡できるとは、ずいぶん大物だな」
守先生があきれたような口調で、久朗に声をかけた。
これで僕より成績がいいのだから、神様は不平等だと思う。
この芙士高には、学食がある。
僕たちはそちらに向かうことにした。
「お弁当でもよかったが、一度くらいは学食というものを経験してみたいからな」
久朗が、頭をさすりながらそう言った。
結構いい感じに決まったようで、ぷっくりとたんこぶができている。
「まったく、恥ずかしいことをしないでよ」
初日の最初の授業から、久朗は平常運転のようだ。
「ふむ……かなり施設が充実しているようだな」
久朗が食堂を見渡して、そう告げた。
ここの学食はトレーを持ってブースに並び、欲しいメニューを告げて提供してもらうというシステムになっている。
また小鉢やスイーツが並んだコーナーもあり、それらをトレーに乗せてレジで精算するという形になっているようだ。
「なにを食べるか、少し迷ってしまうな」
「だね。……どれを食べようかな……?」
少し迷ったうえで僕が選んだのは、親子丼。
久朗はカレーと納豆の小鉢を手に取った。
「カレーと納豆、意外と合う組み合わせだからな」
小鉢に入った納豆をカレーに移しながら、久朗が口にする。
僕は少し、苦手かも……。
「むっ。期間限定なんていうものもあったのか、不覚!」
そういうものに目がない久朗が、悔しそうにつぶやいた。
見てみると、タケノコご飯……それもまた、おいしそうだったな……。
「おっ。結城と久朗発見」
晶がこちらにやってきた。
トレーの上の大盛り天ぷらうどん、トッピングマシマシが、いかにも彼女らしいと思う。
「残りの二人は、どうしたんだ?」
久朗がそう尋ねる。
「いや、いつも三人一緒というわけじゃないから。漣とみかんはお弁当組」
それに対して、晶が笑いながら答えた。
「みかんのお弁当、それこそ肉体労働者が食べるようなサイズで、迫力満点だったぜ!」
容易に情景が想像できる。
談笑しながら、僕たちは昼食を終えて教室に戻った。
普通の勉強もあるし、大変だけれども頑張らないと!