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第11話 広大との訓練

「げぷっ。食べ過ぎた……」

久朗(くろう)の食べているのを横で見ていただけで、食欲が失せたかも」


 食事を終えて、僕たちは家に向かう。

 ちなみにあのお店では、スイーツ系は取り扱っていなかった。

 みかんちゃんは少し残念そうにしていたけれども……こちらはむしろ、ホッとしている。


「お帰り、結城(ゆうき)、久朗」


 家に帰ると、(ふみ)が声をかけてきた。

 庭にある観葉植物に、ホースで水を与えている。


「ただいま。母さん」


 僕はそれに応えた。

 この家に引き取られてすぐの時は、なかなか「母さん」と言えなかったのを思い出して、少し懐かしい気持ちになる。


「そういえば、神崎(かんざき)の両親はヒーローの間で有名だという話があったのだが……?」


 久朗が母に尋ねた。


「まあ、プラチナランクの夫婦というのは、結構珍しいからね」


 あっさりと文が答える。

 その内容は、十分驚愕に値するものであった。


 ヒーローの中でもプラチナランクは、世界中すべてを見渡しても、せいぜい100人に満たない数しか存在しない。

 そのうち二人が夫婦であるということが、きわめて異例であるということは容易に想像できるだろう。


「なんだ、知らなかったのか?」

 広大(こうだい)――父さんが、話に加わった。


「知らなかった――驚きすぎて、まだ現実感がない」

 僕は、そう答えるのが精いっぱいだった。


「さて、それではいつもの日課をこなすとしよう」

 広大が僕たちに告げた。


 僕たちの訓練は筋トレ、実戦形式のもの、そして瞑想などの内観を組み合わせたものだ。

 まずはストレッチで体をほぐし、それから筋トレ。


「18、19、20……うん、3セット終了」

「こちらも、今終わったところだ」


 今日は腕立て伏せだ。

 明日はスクワット、明後日は腹筋というように鍛える部位を変えて行っている。


「この回数だと、少し物足りないかも」

「いや、あまりやりすぎるのもよくないぞ。無理をしても逆に体を痛めるだけだからな」


 僕のこぼした言葉に、広大が答えた。


「それに、これはあくまで下地作りだからな。実戦形式が本番だ」


 次は実戦形式だ。


 僕は木刀を構える。

 広大も木刀を握り、お互い間合いを詰める。


「はっ」


 僕から攻撃してみた。

 広大はそれを手首の動きを使って受け流すと同時に、こちらの体勢を崩そうとする。


「っと」


 このくらいならば、十分想定の範囲内だ。

 次は連続攻撃。


「せい! や! は!」


 上段、下段、袈裟……どの方向から攻撃しても、余裕の表情を崩すことができない。

 今までもずっと訓練では頑張ってきたのだが……決定的な一撃を入れられたことは、まだ一度としてないのだ。


「動きに少し、無駄があるぞ」


 広大が、ほんの少しだけ体勢を崩した僕に対して、軽く一撃を入れる。

 ごくわずかな、自分では隙と思っていなかったほどの乱れすら見逃してくれないのか……。


「ほい、一本」


 悔しいという気持ちもあるが、さすがという気持ちが強い。


 ――言われてみれば、父のすごさは最初の訓練の時から際立っていた。


「お前の向いている方向性は、剣だな。それをとことんまで鍛えるといいだろう」

 

 その言葉に従ってずっと剣をふるっていたのだ。

 そしてヒーローになって判明したギフトは、「折れない剣」。

 一目見ただけで、その人間の方向性を確認できてしまうというのは、生半可なことではない。


「次は久朗の番だぞ」

「分かった、やってみる」


 久朗の動きは、相変わらずトリッキーだ。

 僕だったら何度か直撃を喰らってしまったと思うくらい、虚実を取り混ぜた動きを見せる。

 だが広大の表情には、全く焦りが見受けられない。


「右……と見せかけて左、と思わせて本命は飛び道具!」


 久朗が懐に入れたダーツまで、取り出してきた。

 先にガードをつけているとはいえ、そこまでするか! 


「視線の動きが甘いぞ、フェイントがバレバレだ!」


 あっさりと広大が対応し、ダーツを木刀ではじき返す。

 しかもその先には、久朗の姿が。


「げっ、まじか!」


 さすがにそこまでは予想できていなかったようで、ギリギリでダーツを回避するが……明らかに体勢を崩してしまい、あっさりと一撃。


「まあ、ざっとこんなものだな」


 更に二人で挑んだものの、結果は惨敗。

 まぐれ当たりではなく決定的な一撃を入れるのが、二人の当面の目標ということになっている。

 まだまだその日は、遠そうだけれどもね……。


 最後に瞑想だ。

 息を整えるという効果もあるし、心の深い部分に潜っていくような感覚があって、僕は結構好きだったりする。

 逆に久朗はこの瞑想が大の苦手のようで、時々体を動かしては肩を叩かれている。


「ふうーっ」

 大きく息を吸い込んで、僕は今日の瞑想を終えた。


「んんっ――ようやく終わったか」

 久朗もそれに続く。


「しかし、いよいよ二人とも一人前のヒーローか。これからは、肩を並べて戦うこともあるかもしれないな」

 僕たちに広大が笑いながら、そう告げた。


「そういえば母さんは確か、魔法少女だったよね?」

 ふと気になって、僕が訪ねる。


「いったい、どんな戦闘スタイルなの?」

 久朗も興味があるらしく、こちらに耳を傾けている。


「文はあまりデバイスに頼らず、『オリジナル』で魔法を使っているようだな」

 広大がそう答えた。


 この世界の魔法には、様々な種類が存在する。

 その中でも最近広く知れ渡っているのが、『デバイスマジック』だ。


「デバイス」とは、魔法の発動を補助する道具である。

 一般的にはスマートフォンが用いられ、またタクティカルフレームにおいては杖のような「発動体(スタッフ)」を併用することで、さらなる出力の向上をもたらしている。


 そしてオリジナルとは、魔法の発動形態を示したものである。


 あらかじめデバイスに、発動する魔法式を組み込んだ『プリセット』

 ルーンなどをデバイスに組み込んで、それを入れ替えて行う『アレンジ』

 そして本人のセンスで自由に魔法を使う『オリジナル』

 

 自由度の高さ、汎用性の高さではオリジナルが他を圧倒する。

 しかしその難易度から自由に使えるものはほとんどおらず、一般的な魔法使いは即座に使えるプリセットと、必要に応じてアレンジを使うことが多い。

 しかし文は、そのオリジナルを自由自在に使いこなし、絶大な力を発揮しているようだ。


「文は結構、こだわりが強い所があるからな……旧式のデバイスを使っているのだが、使い慣れたこれが一番だといって手放そうとしないんだ」

 広大が少しだけ、心配そうな顔をする。


 デバイスは、年々性能の向上が行われている。

 そんな中処理能力の低い、古いデバイスを使い続けるというのはあまり推奨されていない。


「まあデバイスの性能差を圧倒的に上回るだけの実力があるからこそ、黙認されているようだけれどもな」

 広大はそう結論付けて、話を終えた。


 運動の後は、プロテイン。

 僕たちが飲んでいるメーカーは、『ビーレジェンドリー』という会社のものだ。


「んん~!! 美味しい!!」


 僕が飲んでいるのは、ミルキー風味(ペコちゃん味)だ。

 甘い練乳のような味が、口いっぱいに広がる。

 これとココア風味(ポコちゃん味)を、訓練後には必ず飲んでいる。


「相変わらず、お子様舌のようだな」


 久朗がからかうように、口にした。


「そういう久朗は……真夏のおいスイカ風味!?」


 ここの会社は、時々とんでもない味のものを出す。

 そこが久朗の琴線に触れているようだ。


「もういっかい! さくらんぼ風味もまた、捨てがたいな」

「ペ〇シの変り種が消えたと思ったら、こんなところに遺伝子が残っていたのか……」


 思わず僕の口から、ため息が出てしまった。

 しかも興味本位で少しだけもらってみると、予想以上に美味しい所がまた、笑えるというかなんというか……。

作者もミルキー風味とココア風味、そしてカゼイン&ホエイのいちごミルク味を愛飲しています。

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