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気がつくと私は森の中にいた。
やけに針葉樹の多い、見たことのない植生の森だ。
昨夜は普段通り、自室のベットで眠っていたはずだなのだが・・・・?
記憶と一致しない現状を不思議に思いながらも足元に淡く光って消えたものを見て、なぜこんなところにいるのかわかった。
異世界召喚だ。
魔法陣を見てもそれ自体の意味はさっぱり理解できなかったが、この場所が今までの常識が通用しない場所だということが伝わってきたのだ。
きっと、この魔方陣自体に見たもの、あるいは召喚されたものに対して知識を直接伝える効果があるのだろう。
この世界での技術の程度がどのぐらいのレベルなのかわからないが、とても高度な技術だ。間違いなく、普通の人間がいたずらに使用できるようなものではない。
まぁ、周りに人の気配はなく、そもそも人がいるかすらわからないのだが。
魔法陣を調べればわかったかもしれないが、もうすでに消えてしまっている。
周りの状況もわからず、思考に値する物もなくなったこの場所で惚けているのは性に合ない。
この場は傾斜のある森である。ならば高い場所に行けば周囲を見回すことができるだろう。とりあえず、斜面の上へ向かって歩き始めた。
さて、梢から差し込む日差しからすると、どうやら今は日が昇って数時間といったところか。
だが、ここは私にとっての異世界である。
陽が東から昇って西に沈むともかぎらぬし、雲一つない青空から雨が降るとも槍が降るとも知らぬ場所だ。
今でこそ心地よささえ感じる気温であるが、夜になるとグンと冷え込むかもしれないし、そもそも夜が来ずこのまま温度が上がり続けるかもしれない。
私は未だ「ここは元いた世界ではない」ことしか知らぬのだ。
備えなければならないことは数多くある。
その中でも優先しなければならないのは寝床だと思えた。
先に述べたように天候がどのように変わるやもわからぬこの状況では真っ先に確保すべき物だ。
雨が降ろうが槍が降ろうが支障のない寝床を確保することができれば、明日までは生き延びることができるだろう。私の常識から外れる出来事があった際に逃げ込む場所があることは生き延びる上で何より大切である。
さて、ならば寝床となる場所はどのような場所だろうか。
それを考えるにはここがどのような場所なのかを考えなければならない。
例えば、町中で寝床を探すのであれば、宿や自宅、友人の家である。だが、それが砂漠であるならば、岩の陰やオアシス等となるだろう。
では、今いるこの場所はどうだろうか。
私の感覚ではもはや1時間程度斜面を登っているが、一向に頂上に到達する気配がない。そのことから考えるに、どうやらここは高さを有する山であるらしい。少し傾斜のついた丘程度のものであればよかったのだけれど、このままでは周りを見渡すことができるような場所へたどり着くのはいつになるかわからない。
ここまでも森は続き、周囲を見渡す事のできるほど開けた場所も見つけれてはいない。また、幾度かイノシシや鹿も見かけている。あれは後で罠でも仕掛けて食料にしよう。
森のなかに全く開けた場所がないことに違和感を覚えるが、普通、人がいるような場所に野生動物は近づいてこない。この森に手入れが入っているということはないだろう。おそらくこのあたりには人の集落もないのだ。
私は当初、空き家や廃屋等を探すことを考えていたが、人の手が入っていない森となるとそれは難しそうだ。
自然が残っているのならば、洞窟や大きな木の洞を寝床とすることができるだろうが、あたりに生えている木は殆どが腕くらいの太さの針葉樹で、うろがあったとしても寝床はならなさそうだ。また、洞窟があるような崖なども見当たらない。
このままむやみに寝床を探しても見つからないような気がしてきた。
どれだけの間サバイバルを行わなければならないのかわからない。となると、少しでも力を温存しておきたのだ。そろそろ寝床を自ら作りだすことを考えたほうが良いのかもしれない。そう考えると、あたりに針葉樹の多いこの場所は非常に都合のいい場所だ。一つ一つがあまり太くないのも良い。
針葉樹は石で斧かなにか作れば簡単に切り倒せそうに思えるし、このあたりには野生動物もいる。餌にしている食べられる植物も探せばあるかもしれない。
食料の確保も容易そうであるし、拠点の材料もあたりに多く存在している。冷静に考えるとここに拠点を置くことが最善の選択に思えた。
ここに拠点を設置して、浮いた時間で食料の確保に手を伸ばそう。
そうと決まれば即行動である。
まずは拠点の形であるが、私は「差し掛け」で作ることに決めた。
作り方は簡単で木と木の間に別の木を渡してやり、それに向けて木をいくつも斜めがけする。これに木の葉や土をかぶせて完成である。昔、簡単な休憩所の作り方として先生に教わった。
あまりにも簡単であったので作り方は今でも覚えているが、よくよく考えると私は実際に作ったことはない。
まぁ、どうにでもなるか。私の座右の銘は「とりあえずやってみよう」だ。
よく考えず、素手で木を切り倒そうとしてみたが、これはあまり効率がよくなさそうである。道具を何も使っていないので力が分散するため時間が掛かるし、集中力も無駄に消費する。
途中で投げ出すのも座りが悪いので、どうにか素手で木を一つ切り倒してみたが、腕程度の木を一つ切り倒すために20分もかかってしまった。差掛けを作るには大量の木材を使用する。このままでは時間がかかりすぎてしまうのは目に見えていた。
なにか道具を作るところから始めてみようか。
手間をかけて頭を使うほうが結局早く済むことがあるというのはよくあることだ。
作成する道具として真っ先に頭に思い浮かんだのは石斧である。
材料となる石はそのあたりに落ちていて、作るのは簡単に思えるのだ。
石斧に必要なのはもちろん石である。だが、やはり頑丈な石を選んでそれを使用してやる必要がある。
地面に落ちている親指サイズのいくつもの石を見比べて適切な石を調べてみる。このあたりにはあまり大きな石は落ちていないらしい。
黄色い石はどうも砂が固まってできているようで強度に問題がある。茶色い石は金属が含まれているようだが、酸化しており脆い。
黒っぽい灰色の石にはどうも鉄がふくまれているようで、どうもこのあたり落ちている石の中ではこれが最も強度が高そうだ。これを使って石斧を作ることにした。