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再審の男  作者: 藤澤トオル
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ウィッチ・ワン・ベター?

 陽介はアダムの肩を掴み、睨みつける。

「アイツは後進育成に励んでるはずだ。それがどうして」

アダムは臆さずに答える。

「私の一存だ。私が彼らを向かわせた」

「……彼ら?」


 アダムは陽介の手をどけながら言う。

「……北欧地区外交官長『ゴードン』、探偵『シャルル』もだ」

陽介はアダムの胸ぐらを掴み、壁に叩きつける。

「お前……人か?」

「さあ。人にしてはいささか永く生きすぎているが」


 陽介はアダムの瞳を見る。曇りのない瞳。陽介を見据えるその眼からは邪な感情など一切なく、ただひたすらに目の前の自分をみていた。陽介はアダムを突き飛ばすように離す。

「それで、俺にどうしろと?」


 アダムは毅然とした態度で答える。

「カルロス・ロレンツィーニと共に捜索に向かってほしい」

陽介はアダムの首根っこを掴みあげる。

「なぜその名をあげる」

「適任だからだ」

「殺したはずだ」

「生きている。正確には、生き返った」



 アダムを突き飛ばす。唾を吐き捨て、踵を返す。

「……残念だよ、本当に残念だ。参加したいのは山々なんだが、俺には無理だ」

アダムは陽介の足首を掴む。

「離せ。俺には俺の生き方と家族がある。そんな簡単に捨てられるもんじゃない」

「……あの立方体だ!!」


 陽介の足が止まる。陽介はアダムを見下ろす。

「あの『黒いやつ』か?」

「そうだ……あの立方体が、全ての原因だ……!」

流れ出る鼻血を拭きながら、アダムは此度の状況を説明する。



 事は陽介達の転移から始まる。漆黒立方体の活動が確認され、ホルスト達シュタインベルク家は現場に急行した。しかし残っていたのは死体だけであり、ホルストはその真意を理解した。ホルストは予定通り漆黒立方体を人類始まりの地であるアフリカ大陸、そこのタンザニア……具体的にはキリマンジャロ山頂に輸送した。


 彼らはそこで行く末を見守り、ゆくゆくは大地の怪物を呼び起こして討伐を謀った。だが怪物は別な場所で再封印され、漆黒立方体はその機能の使い道が無くなり、解体と浄化が決定した。


 その直後だ、『カルロスの復活』は。漆黒立方体の封印が解かれ、約2000の魂を糧にしてカルロスの肉体が急速に修復された。カルロスの肉体は魔術協会地下に保管されていたが、彼は覚醒とともにあることを忠告した。

「今すぐ装置を破壊しろ」


 それから数日後、キリマンジャロ山は隔絶領域となり、少しずつ範囲を広げていった。すぐさま連合軍が組織されて調査へと向かったが、帰還者はごくわずか。しかもその帰還者も重症で、無傷の者は誰一人いなかった。カルロスに尋問するも彼は多くを語らず、ただ『壊せ』とだけ言い続けた。


 そこで動いたのがリカルドとゴードン、シャルル達だった。あらゆる分野のスペシャリストをかき集め、さらに彼らを万全な状態で連れていく為の部隊も組織された。



「……そんな彼らと連絡が途絶えてから、すでに4日経っている」

「義兄さん達には頼んだのか?」

「断られた。『これは人の業だ。私達が介入するには、いささか度が過ぎる』とね」


 陽介は頭を抱える。要するに、これは人類や世界を脅かす問題には成り得ないということ。なら自然放置しても人類なら乗り越えられるということ。陽介が介入しなくても解決するに違いない。


 だが、『解決に必要な人数』と『中身』は別だ。総人口の8割近くを必要とするかもしれないし、人間国宝全てと引き換えの解決かもしれない。滅亡は免れれど、停滞や後退はする。たしかにそんなことまでシュタインベルク家に責任を取らせるのはお門違いだ。とはいえ、解決できるのにしないのは問題である。


 陽介は言う。

「……3週間だ、3週間待て。それと、人選はアンタが決めていいが、一部は俺が決める」

「構わない……では、3週間後に王宮前で」

アダムはそう言うと、去っていった。



 陽介は壁を殴りつける。

「クソ!!!!!」

「どうした?らしくないじゃないか」

アリシア……アリスだ。

「何の用だ?」

「あんまり遅いんで、ちょっと」


 陽介はスタスタと歩き始める。

「なんでもない。ちょっと嫌なことを思い出しただけだ」

「……いつもそうなんだな」

「あぁそうだよ、俺はお前らを危険な目に遭わせたくない。俺のエゴだ」


 アリスは陽介の背中に言う。

「これだけ言っておく!!……私達の事は気にするな」

「……ありがとう」




 予選準決勝。見知った顔が出てきた。シンとロゼだ。どちらも順調に勝利。舞台はそのまま決勝へと移動。


 控え室で集中していたシンの元にロゼがやって来た。

「流石ね、特に過酷と予想されていたこの首都予選でここまで勝ち残るなんて」

「決勝大会への切符は確定してるからって、ここの勝ちは譲りませんよ」

「当然。むしろ譲るか決める立場は私だ」

二人は固く握手を交わした。



 フェイと見に来ていたサレンダー。フェイが尋ねる。

「あなたの予想は?」

「4:6でリーゼロッテの勝利」

「逆ね、6:4でマクスウェルの勝利」


サレンダーが飲み物をすすりながら言う。

「まあ、どっちにせよ俺達はあの二人の限界を知らないから判断は下せない」

「ごもっとも。ニンジャならどっちかな?」



「8割ロゼだ」

アリスが尋ねる。

「その心は?」

「先に前提から話そう。瞬間速度はロゼ。殲滅力はシン。近接レパートリーはロゼ。近接攻撃力はシン。密接格闘はロゼ。密接防御はシン。魔術レパートリーはロゼ。魔術威力はシン。総合ステータス互角」

「ん?なら五分五分じゃないの?」


 陽介は会場から目をそらさずにいう。

「まだ前提だ。アリスの指摘通り、あの二人の能力に優劣はあるが、総合評価としては同じ枠に入る。年齢差を考えれば、間違いなくシンは何百年に一人の逸材と言って違いない」



 係長が横にいるジネットに言う。

「だが強さというのはそう単純なものではない。ステータスでは遥かに勝るものが格下に呆気なく負ける、なんてことも起こる」


 シンとロゼが入場してきた。開始地点まで移動している彼らを眺めながらジネットが言う。

「その原因は?」

「この場合は簡単な話だ、『経験』だよ」



「経験?ロゼさんもあんまりないんじゃないの?」

「そうだな、『実戦』や『訓練』という観点で見れば二人にそれほど差はない」

シンとロゼが構える。二人の武器は共に片手剣。防具は軽めのアーマーで、機動力を重視している。

「ところが、そういう経験ていうのは別な方法でも養える」


「「どこで?」」

シンとロゼが同時に突進。剣と剣がぶつかり合い、けたたましい金属音が鳴り響いた。

「「『日常』」」



 シンとロゼは一進一退の攻防を繰り広げる。互いの全てを出しきって行われるそれは、まさに決勝戦に相応しい戦いだ。

「日常?どうやって」

そんな二人を見ながらアリスは尋ね続け、陽介は答え続ける。

「意識の差だよ。俺らが普段やってることと何ら変わりない」

アリスは察し、黙った。


 係長とジネットは違う。意識の差、というだけならまだそこまでロゼを推す理由足り得ない。係長は言う。

「意識の差だけなら勝てはしない。なぜか?」


 シンの突きをロゼが弾いた。何故だろう、陽介にはシンの動きが少し鈍く見える。


「大抵の人は意識を変えても、それをいざという時に実行出来ないからだ。それが戦闘ということなら余計に、な」

シンは魔術を行使し、ロゼの追跡を振り切る。しかしロゼは先回りし、シンを蹴って地面にめり込ませる。


 シンが体勢を立て直すと同時にロゼがシンの脇腹を突き刺す。ダメージはあまりないが、痛みだけは大きい。

「……戦いの場に、制限などないんだ」

係長のシンとロゼを見る目は、とても冷たかった。



 ロゼとシンがいた控え室、二人が交わした握手。その時点でロゼの仕込みは完了していた。試合前にシンが集中を高めることもこの数回で把握済みだった。接触可能なタイミングはそこしかなかった。ロゼはシンに話しかけ、『それらしい話』を振って握手をする。自身の術中に陥れるための握手を。


 そこから、あらかじめ起動のきっかけとなるように仕組んだルーティンをしたシンは見事に策にはまり、現在ロゼの操り人形と化している。行動が鈍いのも、ロゼがシンの行動に修正を入れているため。そして、これこそが彼女に与えられた2つ名の真意だった。



(事前に仕込みがあることをわかっていても、術中に堕ちた者ですらいつ仕込まれたかわからない誘導力。そこから行われる、舞踏のごとき戦い。ロゼの勝ちが決まっていながら、それを微塵も感じさせないその動作。対象の癖を読んで繰り出される攻撃。その一連の流れはまさに流麗で、理想的な戦闘と言わざるを得ない)

係長は冷や汗を垂らしながら呟く。

「なるほど、『麗しき闘神』だな」


 係長には、もう二人の戦いはどうでも良かった。勝敗なんてどうでもいい、気になるのはロゼが決めた『落とし所』。そう易々と勝っては周囲に示しがつかない。だからあえて『良い勝負』を演じるに違いない。


 面白くなくなる戦いではなく、面白みが変わる戦い。結末を知っていても、観客の目線を放させない戦い……まさに『美と武』を探究した戦闘だ。


 互いにそれっぽく満身創痍。おそらく二人にほとんどダメージはないのだろう。だが息が荒いのは、単純に運動量が多いから。決勝大会も見据えて、回復が間に合う程度の疲労に抑えている。



 ロゼの構えが変わった。サレンダーが呟く。

「あー終わったな、あのガキじゃ防げん」

「どうして?」

「そりゃあだってお前……」


 シンとロゼが同時に踏み出す。再度ぶつかりあう剣。だがシンの剣は折れ、ロゼの剣が彼の眉間へと迫る。


「あの流派創ったの、俺だもん」

ロゼは勝利した。




 騎士長は皇帝に話しかける。

「此度の件、どうされるおつもりで?」

「俺の預かり知らぬ話よ。それともあれか?『祖父の善意を無下にしろ』と言いたいのか?」

「そういうわけでは」

「ならよい」


 陽介達がそうであるように、騎士長を苦手する人物は多い。主な理由はその胡散臭さだ。だがそんな騎士長が苦手とする人物……それが皇帝だ。冗談を言うように本心と相手の不手際を誘い出すのは、実に面倒くさい。機微に優れすぎていて、前任者が投げ出したのも頷ける。騎士長であるから円滑に進んでいるものの、彼の内心はいつも休まらない。


 皇帝は本を閉じて言う。

「……で、予定通りやるのか?」

「当然でしょう。あなたが望まれたことですから」

「いやなに、改めて考えると結果は見え見えであったと思ってな」


 騎士長は呆れた口調で言う。

「衰えですかな?」

「馬鹿言え、はずれ値の収集と言ってもらおう」

皇帝は立ち上がり、階段へと歩き出す。

「行くぞ、もうそろそろ会食の時刻だ」

「御意」



 帰宅途中、サレンダーが言う。

「ロゼさんがやった最後の技、あれは『斬ってない』」

「ん?でも剣振るってたじゃない」

「そこが俺の仕込みよ」


 サレンダーとフェイが先程の二人を再現するように、軽くチョップを重ね合わせる。フェイの腕が弾かれた。プラプラと手を振るフェイが呟く。

「なるほど、確かに『斬ってない』わね」

「そう。『突いてる』」


 サレンダーが創った流派。それは『当て方』である。剣による近接戦闘という金属同士のぶつかり合いにおいて、武器の頑丈さというのは前提条件だ。サレンダーはそこに目をつけ、相手の武装をいかに速く破壊するか、を考え出した。


 剣の軌道は基本的に線である。ところがサレンダーの流派は線を描くように、点で攻撃をする。『線は点の集まり』を地でいく攻撃方法だ。

「当然だが、普通は無理だ。対象の一点にひたすらダメージを与え続けて破壊するなんて芸当、出来るのは俺ぐらいだ」


 そう自慢気に話すサレンダーにフェイが言う。

「でも再現されてたじゃない」

「だからスゲーんだよあの人!しっかしどこで見つけたのかねぇ?誰も使えないから本とかにもほとんど取り上げられてないのに、よく見つけられたな」



 係長が言う。

「室長、決勝大会本番だが、もしかしたら回復薬のストックを増やしたほうがいいかもしれん」

「私もそう考えていた。だが君は出ないだろ?」

「出てもいいのだが……つまらない大会になってもいいかな?」


 ジネットはひきつった笑みで言う。

「遠慮しておくよ。戦いとはいえ、見せ物だからね」

普段の様子からは想像もできない係長の冷徹な顔は、向き合った対象の気を自然に引き締めさせた。


 ジネットが思い出したように尋ねる。

「そういえばさ、私の弟子はともかくとして、君と騎士長と弟子のカレシ。誰が一番強いんだ?」

「殺害速度だけを見ても、大会ルールでも私だ。あの二人は『遅い』」


 係長の顔はいつも通りであったが、その心の奥底は完全に『掃除』の時であった。

「でも単純な速度はカレシくんが最速じゃないのか?」

「ああ見えてもニンジャはカウンター型だ。圧倒的速度差でカウンターをぶち当てる、それがニンジャのやり方だ」

「なるほど。『手を出してきたのはお前が先だ、俺は自己防衛したに過ぎない』と?」

係長は呆れた顔でうなずいた。



 陽介とアリシア。帰りに喫茶店に来ている。先に口を開いたのはアリシア。

「……で?カルロスの件、どうするの?」

アリシア、アリスには今回の件を改めて包み隠さず話した。アリスも途中までは知っている事だったが、それがこのような結末になっているとは知らなかった。


 陽介が答える。

「……やるしかないだろ。元を辿れば俺の責任だし」

「言っておくけど、兄さん達と同じく私とアリスも協力しないわ。力を使うには、あまりにも規模が『小さい』。多分放っておいても自然消滅するタイプでしょうね。それこそカルロスを殺し続ければ終わる」


 そう言いながらコーヒーをすするアリシア。だが陽介はまだ悩んでいた。頭では理解出来ていても、心が上手く制御出来ていないのだろう。

「あーもうめんどくさい男だな。ヨースケが衰えてるのはみんなわかってる。というか以前がおかしかっただけ」

「違うそういうことじゃない」

「どういうことよ」


 陽介は静かに言う。

「……エキシビション、やりたくない」

アリシアはコーヒーを吹き出した。


 陽介の胸ぐらを掴みあげる。

「やれ」

「でもよォ、リカルド達速く助けたいじゃん?」

「……リカルドをダシに使うな、本当は?」

「めんどくさい」

「そう、めんどくさい。やれ」


 アリシアは手を離し、改めて尋ねる。

「……じゃあさ、なんで3週間待たせたの?」

「準備と、皇帝への謝罪」

「なるほどねぇ……」


 アリシアは何か思い付いたように言う。

「じゃあこうしましょう。予定通りエキシビションをやる。大会も見る」

「それじゃあ遅く」

「そこでの上位何名かをチームに入れてく」

「……は?」


 呆気にとられている陽介を尻目に、アリシアは着々と席をたつ準備を進めていた。陽介はアリシアを掴む。

「まてまてまて、どういうことだ」

「言葉の通り。国で強いやつら集めたならそりゃいけるでしょ」

「そういうことではなくてだな……」


 陽介の背中を叩く。

「口答えしない!はい、スタート!なんなら訓練手伝うわよ?」

「えぇ……」



 強引に決められた今後の予定。陽介に選択権などないのだ。

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