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再審の男  作者: 藤澤トオル
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別れ

隊長は陽介とアリシア、そして今命を握っているシェリーを警戒しながら陽介に話しかける。

「君達は見たところ獣人ではない、開拓者か密猟者か。この獣人の娘に助けを懇願されたのだろう?このままでは私の部隊は君に全滅されてしまうだろう。だがそうなる前に、私達はこの村を壊滅させる。そうすると君はこの娘を救えなかった事になる。それは困るだろう?」

陽介は次に隊長が言うことが分かる。交渉を持ちかける。しかもこちらに有利な条件を提示してくるはずだ。

「その顔はわかっているようだな。なら話は速い。君達は、私達がしたことを見逃す。私達は、君達とこの村に2度と手を出さない。さらにこの村に伝わる幻影魔術についても全て教えよう」


幻影魔術。陽介がシェリーの村を助ける時に提示した条件の1つだ。これにより、陽介達は助けようが見逃そうが目的は達成できる。あとは陽介とアリシアの意思次第だ。


陽介は少し考えてから隊長に伝える。

「...協議したい、時間をくれ。5分だ」

「いいだろう。私達は君達に命を握られているのだからな」

アリシアと他に聞かれないよう会話を始める。

「どうする?どちらに転んでも俺達に利益はある」

「難易度的には交渉を無視して助けるほうが高いわね。ただ...」

「ただ?」

「彼ら、別チームに連絡してもう一度この村に来るはずよ。装備も全く変えてね」

「それは契約違反じゃないのか?」

「確かめる術はある?街に戻ってから全員締め上げる?ほぼ不可能よ」

陽介はあることを思いだす、自分のことだ。自分は現在死の裁判で、再審を言い渡された者だ。悪く言えば、2度と死ぬ苦しみを味わう。良く言えば、1度目の人生では不確かな存在でしかない死後の世界があることを知っている。これを活かさない手はない。


「救おうぜ。後悔しないために」

「へぇ、良いこと言うじゃない」

陽介とアリシアは決意を堅め、隊長に向き直り、答える。

「決まったぜ。...シェリーも、この村も救って、お前らはぶちのめす」

「交渉決裂だな」


隊長はシェリーを締め上げる。それと同時にアリシアは隊長の真後ろに行き、左肩関節を外す。シェリーは解放され、隊長の足元で気絶している。

「馬鹿な!『防御魔術』の効果は!?」

「さぁ?効果が切れたんじゃない?」

アリシアは続いて顔面に回し蹴りを放つが、剣で防がれる。

「舐めるなよ、お嬢さん。私の総合レベルは...76だ!」

隊長はアリシアの軸足を蹴り払いながら、タックルをする。アリシアは辛うじてガードが間に合うも、数メートルぶっ飛び、木に背中をぶつける。

「ゴホッ!ゴホッ!...あー吐きそう。駄目駄目。ヨースケ、交代よ。雑魚はこっちでなんとかするわ」

陽介はそれを聞き、先程と別の構えをとる。

「...わかった」


隊長は防御を重視した構えを取りつつ、左肩を治療する。陽介から不穏な気配を感じ、攻めあぐねる。

(1対多ではなく、1対1の構えか...?それにしては隙が多い。あの構えからどう変化するんだ?)


陽介の構えは所謂『それっぽいやつ』である。もっと言えば、『ゲームや漫画で見た構え』だ。陽介本人もわかっているが、戦闘理論から言えば邪道そのものだ。だが、この状況でそれを繰り出すと、相手は何か意図があるのではないかと深読みしすぎる。実際は『かっこいいから』でしかないにも関わらず。

現実問題、隊長は困惑する。今まで見たどの型よりも雑で、隙が多い。それなのに、この型に絶対的な信頼を置いて構える男が目の前にいるのだ。それが不思議でならない。


痺れを切らし、隊長は切り下ろしに見せかけた蹴りを放つ。

しかし、蹴りは防がれ、一瞬生まれた隙に対し陽介は軸足の膝を突き刺す。隊長はやむなくその場に片膝を着くしかなかった。


陽介は『高速学習』により、相手の構えからの変形パターンを構築していた。そして、今の自分の技量では避けることが出来ないこともまた理解していた。

なので、全力で『防御』をして相手の動きが硬直した所を攻める作戦にした。


隊長は諦めず、その姿勢から横に薙ぎ払う。剣をその場に突き刺し、薙ぎ払いを受け止める。陽介は両手が自由になり、両腕を掴みながらそのまま隊長の顔を鎧ごと踏みつける。

ゴキゴキッと鈍い音を立てて隊長の両腕の関節が外れる。鎧のために表情はわからないが、唸っているため、相当な痛みだろう。陽介は残った片足の膝を撃ち抜く。

陽介の圧勝だった。



1対5の状況ながら奮戦していたアリシアはその様子を見て、戦っていた者達に声をかける。

「待った!あんたらのボスは負けた。この中でボスよりレベルかスキルランクの高い者は?」

隊員は顔を見合せたあと、戦意を喪失したように武器をその場に捨て、両手を上げた。そして、1人の男が男がフェイスプレートを取り、声をかける。

「...完敗だよ。捕まえた女子供も返す。だから命だけは取らないでくれ」

「わかった。それじゃあとっとと荷物をまとめて失せろ」



その日、陽介とアリシアは村で1泊することにした。村では盛大にもてなされた。

「この子の無茶なお願いを聞いていただいただけでなく、妻子まで助けていただけるなんて...なんとお礼を言ったらいいか!!」

「あはは...お気になさらず」

「いえいえ!私達秘蔵のお酒もどうぞ!」

「あ、あぁ。ありがとうございます...」


陽介が少し離れた場所で涼んでいると、アリシアがやって来た。

「どうした?アリシアも涼みに来たか?」

「うーん、まぁそんなとこ。...ねえ陽介、私のことどう思う?」

陽介は少しドキッとしてアリシアの顔を伺う。下を向いて不安そうな顔をしている。何か当たり障りないことを言わねば、そう思い答える。

「頼り甲斐のある仲間だ。アリシアが雑魚を引き付けておいてくれたから俺はあの隊長1人に集中して戦えた。だから勝てた」

「...そっか、それなら良かった」

アリシアの顔はまだ不安を残しているが先程よりは晴れ晴れとしている。何か懸念があったのかもしれないが、陽介はそれ以上聞く気にはなれなかった。


翌朝、シェリーから幻影魔術について教えてもらった。魔術関連の一定以上のランク所持者までから、姿を欺いたり、不可視状態に見せることが出来るようになる。『固定剣』による村の地点更新を済ませ、出立する直前にシェリーが話しかけてきた。

「私も...連れてってほしい!」

「駄目」

アリシアは即座に答える。

「なんで!」

「弱いから、それと...今の世界についてそんなに知らないから。私達がしてることはもっと世界を知るためにやってるの。今の世界をそれなりに知ったらそうね...考えてあげる」

シェリーは不服そうにしながらも陽介にも理由を尋ねる。アリシアの方に目を向けると何らかの意図を読み取るが、理解できなかった。

「うーん...。あ、そうだ。身長伸ばせ、子供と間違えられたら苦労が増え痛っ!!」

アリシアから肘打ちを入れられた、どうやら違うようだ。

「...わかった。でも!いつか追い付いて見せるからね!待っててね!」

「あぁ!」


2人は開拓を再開する。次の標的は...いずれか...

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