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再審の男  作者: 藤澤トオル
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ブロークン・ワールド

 男の返答にカリーナは軽く笑いながら返す。

「『人とは何か?誰にもわからぬ。我は旅人、答え探す旅人』。書いてあったはずよ?」

 男は本を閉じて近くの木箱の上に置いたあと、カリーナを指さす。

「君は今に満足しているか?その瞳、満足しているようには見えない」


 カリーナは手のひらを上にむけ、呆れた様に首を振りながら答える。

「そうね、どこかの誰かさんに自分の無力さを教えられ、どこかの誰かさんに私の旅路を邪魔され、どこかの誰かさんが許可を得ずに力をばらまいているのを取り締まらければならないくらいには満足してないわね」


 男はゆっくり近づいてくる。足音は全く無く、浮遊感がある。

「私なら、君を満足させることが出来る。正確には、満足に足るものを与えよう」

「ほんとに?私、こう見えても結構疑い深いのよ?」

「問題ない。試せばわかる」


 男はカリーナの顔の前に手のひらを向ける。

「君は、幸福になれる」

男の手からまばゆい光が放たれ、カリーナを呑み込んだ。



 男は踵を返し、闇へと消え去る。

「なるほど、そういうことだったのね」

男は後ろから服を掴まれた。漆黒の顔が後ろを振り返る。

「力を貸与し、他者に成長させることで自らが動くことなく力を取り戻していく……実に合理的な方法だと思うわ。でもね」


 男の虚空に向かって放たれたチョップ突きは男を貫通し、鮮血が華を咲かせた。

「『誰が』力を成長させているのか、しっかり認識しておくことね」

カリーナは手を引き抜き、男を蹴り飛ばす。


 付着した血液を蒸発させつつ男の方を見据える。動きは全くない。

「起きろ!私から逃げられると思うなよ、元『魔王』」

「……その名は捨てた。かつて『キングジョー』と崇められた男も、神の前では無力だった」

男は浮遊感を持ったまま起き上がる。


 男は再びカリーナを指さす。

「……そうか。その瞳、道理で満足していないわけだ」

「その通り。私にあるのは『あなた自身』。あなたが持つ『満たされぬ心』。私とあなたの間に貸し借りはなしよ」

カリーナも男の虚空を指さす。

「私とあなたの仲じゃない。その敗北した顔、見せなさいよ」

「互いの存在を確認してからそんなに経過していないと思うのだが……まぁいいだろう」

男はゆっくりとフードを外す。



 虚空から現れたのは、眉間に突き刺された様な傷のある、全体が小石などでズタズタにされた、最早人の顔とは言い難いものであった。

「……これはまだ修復途中の顔でね、神に敗北した際の傷は未だに癒えていないのだよ」


 カリーナの予想通り、『遺体』と同じ状態だった。これであの本に記載されていた『魂の召喚』と『肉体の復活』が行われたことが確定してしまった。しかも復活したのはあの『魔王』だ。もう本人にその気がないとはいえ、あの惨状を再び引き起こすかもしれない。


 男は手袋を取り、その手を見せる。まるで老人のようなその手に生気は感じられず、動いていることが不思議で仕方なかった。

「肉体もそうだ。瓦礫の底から発掘された私の肉体は、張り付けにされて数週間雨にさらされ、鳥についばまられるようになってから燃やされた」

「知ってる。提案した人物、それを主導した人物も」


 男は手袋をつけ直しながら鼻で笑う。

「別に彼らを恨んじゃあいない。君達と我々、結局どこまでいっても平行線のままで交わることはない、それだけの話だ。どんなに手を取り合おうとも、我々にとって君達は食材で、君達にとって我々は生存競争を生き抜くために立ちはだかった巨大な壁であることに違いはなかったのだ」


 男は再びカリーナに手のひらを向ける。今度は黒い光が集まっていた。

「……ここまで建前。本心を話そう。やはり偽るのは良くない。……今な、」





「最っっっっ高の気分だ!!!!!」

男の手から黒い閃光が飛び散り、周囲の民家を巻き込みつつカリーナに襲いかかる。カリーナは腕を一回転させて防御陣を作成しガード。

「そう来ると思ってたわ。だって私、今が最高だもの」


 戦闘体制をとるカリーナ。男は再び手のひらに力を集めながら言う。

「そうだ、まだ名乗っていなかったな。俺は『ジョセフ・イイジマ・キングストン』。俺を殺した神の国と、お前達の魔術本部がある国のハーフだ」


 この魔王、全てを知っていた。自分のことどころか、世界のことも。ようやく合点がいった。このジョセフと名乗る男、全て知ったうえで『侵攻』してきたのだ。あらかじめどうなるかわかったうえで、対策をして別な世界から現れたのだ。もしかしたら『敗北』も折り込み済みだったのかもしれない。今となってはどうでもいいことだが。


 カリーナはジョセフの奉仕種族となった者から奪った力の一つを解放させつつ答える。

「私の名はカリーナ・シュタインベルク。覚えなくていいわ、どうせ忘れたくても忘れることが出来なくなるから」

「フフフ、期待しておく」


 ジョセフが手首をひねると閃光が一点に集まって光の球となった。その球はジョセフが上に軽く投げるとその場から姿を消した。カリーナが反射的に自身の周囲に電気網を発生させると、どこからともなく現れた光の球とぶつかり、光の球は弾けとんだ。

「わかっていると思うが、かつての俺は神との戦いの場に立てなかった」


 そういいながらもジョセフはすでに次の攻撃の準備を進めていた。

「あの時、ほんのちょっぴりだが神の力を『貰った』。かつての俺と一緒だと思ったら大間違いだぞ」

「へぇ」


 カリーナはジョセフの首を切断しつつその脳天にチョップを突き刺した。さらに心臓に手を突っ込み、その原子構成を『ないもの』に変えた。

「じゃあこのくらいは序の口よね?」

「その通り」

ジョセフは逆にカリーナの頭をつかみ、ゼロ距離で闇の如き塊をぶつける。

「これは俺のオリジナルだ」


 カリーナは首を振って闇を払いのける。

「こんな子供だましが通じると本気で思ったの?なにが『アザトース』よ、あなたの中に潜む『何か』のほうがよっぽど恐怖じゃない」

「そう言ってくれるな、俺にとってアザトース様は特別な存在なんだ」


 

 ジョセフのそれぞれの継ぎ目からタコのような触手が生え、胴体と頭をくっつけようとする。カリーナがどんな手を使っても触手は絶えず再生し、生え続けていた。

「神になった、なんて恐れ多いことは言わんが……以前よりも少しだけ近づけたんじゃないか?」


 カリーナはバックステップで距離を取る。

「そうね。でもあなたが近づいているのは、神は神でも『邪神』のほうよ?」

「素晴らしいじゃないか!クトゥルフ神話の神々は人間に『邪神』と崇められている。その言葉は最早俺への賛美と変わらない!!」

そう叫ぶ彼の身体は再結合を果たし、不浄の泥を傷口から吹き出しながら攻撃の準備に戻る。


 ジョセフの煮えたぎる身体から出る触手がカリーナに襲いかかる。カリーナは触手に触れることなく破壊していく。再生をしようとも、その瞬間に根元が爆発し、本体にダメージが与えられる。

「君は……神より強い」

「残念でした。私も彼には敗北してる」

「だとしてもだ。キングジョーでいた頃にはついぞ味わうことのなかったこの感情、なんと言い表そうか」


 ジョセフは再び触手を5本カリーナに向けて伸ばす。

「それしか出来ないのかこのサルが!!」

カリーナは一瞬の内に全て粉砕。否、地面からの奇襲。カリーナの両足に触手が絡みつく。無理矢理引き離そうとするも、それをしのぐ圧力で拘束を解除させない。さらにそちらに気をとられた隙に触手が腕にもまとわりつく。

「誤算かな?」

「そうね、こんな気色悪い作戦を出来るとは思ってなかったわ」


 拘束が強まり、カリーナの肉体が悲鳴をあげ始めた。このまま四肢を奪われてはあまり良くない状況になってしまう。

「じゃあこうしましょう」

カリーナは僅かに動く右手を握りしめ、何かを破裂させた。



 直後、辺り一帯は光に呑まれ、一瞬の静寂の後、全てを巻き込んで吹き飛んだ。


 カリーナは焦土と化した近辺にある、瓦礫の山に足を組んで座っていた。本をパラパラとめくる。

「オリヴァー・ヴィトン曰く、『神は人に依る』。中々の名言だと思うんだけど……どう?」


 焼け焦げた肉片は次第に一点に集まり、ジョセフの顔となって答える。

「我は否定する。人が在る前から神は至るところにあらせられた。我々は神から大地を譲り受けているにすぎない」

「……本当に?」

「肯定する」


 カリーナは本を閉じ、瓦礫の山に置く。徐に立ち上がり、ジャケットを脱ぎ捨てる。首をコキコキと鳴らし、ジョセフを指さす。

「神とはいかなる者か?ホルスト・シュタインベルクが娘、カリーナ・シュタインベルクがその身に教示してしんぜよう」

「望むところだ。王を越え、神へと至らんとする我、ジョセフ・イイジマ・キングストンを下してみよ!」



 カリーナがジョセフの核を巻き込みながら瞬間移動。核を無理矢理もぎ取り破壊。ジョセフは死亡。再び大地から生えた触手がカリーナを包み込み、圧迫死させる。


 暗い夜空を流星が切り裂くと、割れ目から触手に覆われたジョセフとカリーナが落下してきた。

「この程度では死なないか……!!」

「お互い様よ!!」

カリーナは落下しながらジョセフの触手を掴み、自身の間合いへと持ち込む。


 ジョセフは別な触手を伸ばし防御を試みるがカリーナはそれを足場としてさらに接近。ジョセフの顔に手のひらを向ける。

「『トゥールスチャの火』」

緑色の火がジョセフを包み込み、彼に死と腐敗をもたらした。


 ジョセフは死へと進みながら呟く。

「『我、主のため奏でる者。奏でる者を喚ぶ者。我が名はトルネンブラ』」

衝撃波がカリーナの首から上を吹き飛ばした。

「人類が物理影響下にある限り、私が死ぬことはない」


 そう言うカリーナはジョセフにヘッドロックをかましていた。しかしジョセフもまた腐敗しながら再生しており、その煮えたぎる身体から銀色の液体が流れ出ていた。

「俺の名は『アブホース』。全てを喰らう者、その身から生まれた我が子すら喰らう者」


 ジョセフから伸びる銀の触手はカリーナを蝕み始めた。カリーナは動揺することなく瞬間移動して位置を変えつつジョセフの喉に貫手を放つ。ジョセフが何かを喋っているが、喉から空気が抜けてしまいヒューヒューと音を立てているだけだ。


 地面が近い。カリーナはさらに姿勢を変えて追撃をする。左手付近に炭素を用いたワイヤーを作成し、ジョセフの四肢を拘束しつつ拳銃を生成。正中線に全弾8発を撃ち込む。続いて拳銃を剣に変え、首を切り落とす。そこから剣を先程と同じワイヤーに変化。切り離された頭と胴体をワイヤーで繋ぎ合わせる。


 カリーナはジョセフを踏みつけながら言う。

「この程度で死ぬとは思ってないから……駄目押しにもう一発!」

ポケットから何かを取り出し、傷口に入れ込む。カリーナはジョセフを蹴り飛ばし、自身は空中に生成した足場に着地。ジョセフはなにもできずに地面に叩きつけられた。



 階段状に出現した足場をカリーナは悠然と降りていく。本を開き、パラパラとめくる。

「巨匠オリヴァー・ヴィトンがかいた『ハウゼン村の戦乙女』……私この話大好き」


 地面に降り立ったカリーナは本から一枚の紙を抜く。

「これね、私の父さんと母さんの話なんだって。実際は腕なんて千切れてないし、騎士だったのは父さんのほうなんだけど……大筋の流れは一緒」


 カリーナが抜き出した紙は色褪せた写真だった。親子四人の写真。

「見てこれ、私が産まれてすぐの写真よ。父さんに抱かれて泣いてるのが兄さん。この頃の兄さんはまだ可愛げがあったのにね、今じゃ片腕のない不器用なお父さんって感じ」


 再生したジョセフはカリーナをにらみつける。

「だからなんだ。ハウゼン村とはどこの話だ。お前の父親など知らん。俺は今この一秒一瞬一刹那を楽しんでいるだけだ。過去の話なぞどうでもいい」

ジョセフはそういいながらカリーナの手足を拘束し、その手から写真を奪い取る。


 触手を用いて写真を手元に引き寄せ、まじまじと見つめる。

「……どうやら、俺が転移した世界とは大違いのようだ。とても住みやすそうな世界で、吐き気を催すほどの優しい世界だ」

ジョセフは写真を自らの手でバラバラに切り裂く。


 ジョセフは触手の一本をカリーナの喉元に突きつける。

「俺はそんな世界が大嫌いだ。優しさとは、己すらも滅ぼす毒の様なものだ」

「だからあなたは他の世界を壊しに来た」

「然り。お前のことも壊してやる、カリーナ」

触手の先端が裂けて巨大な口となり、カリーナを呑み込んだ。



 カリーナはジョセフの背中に寄りかかりながら本をめくる。

「おあにくさま、私が壊れるより前にこの世界は『壊された』の」

「……なに?」


 カリーナは本をパタンと閉じ、天を見上げる。

「特別に教えてあげる、イカれた世界の真実を」

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