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再審の男  作者: 藤澤トオル
78/100

ティーチング・ソウル

 ナイフを構えて突進。薙ぎ払いに派生する可能性は極めて低い。サイドステップで避けつつ、その手首を捻り上げる。思わず落としたナイフを足で蹴り飛ばし、首根っこを掴み上げる。

「終了!……評価は?」

佐伯は生徒の首から手を離し、ナイフを拾いあげる。

「んー……Cですね」

生徒は落胆した。



 3年Aクラス『対人戦闘』の授業。佐伯の得意とする分野である。今回はナイフを持った人間と素手の人間の戦闘訓練だ。

「妥当だな。君はどう判断した?モーゼス」

主任講師『ドゥイリオ』の問いに答える。

「先制攻撃、突撃の構えで加点。反撃を出来なかったので減点。……そんなところですかね」

ドゥイリオは頷きながら言う。

「私もほぼ同じだ。あえて付け足すなら、魔術の使用が見られなかった所だな」


 採点された生徒はその場でへこんでいた。佐伯はそんな生徒の頭を掴んで撫で回す。

「ちゃんと合格したんだから自身持てよ~」

「……ですが、ギリギリですよね」

「BよりのCだ。それともなんだ、Sが欲しいのか?」

ドゥイリオの問いに生徒は恥ずかしそうに頷いた。


 ドゥイリオは腕を組んでため息をついたあと、手振りで佐伯にナイフを渡すように指示する。渡されたナイフで軽く遊んでから、生徒達に言う。

「要望に答え、これから『評定S』の演舞を行う。私とモーゼス先生でやるので、しっかり見ておくように」

ドゥイリオが佐伯に耳打ちする。

「最初は私だ。流れで頼むが、本気でやるなよ」

「わかってます」



 生徒達に囲まれ、二人は構える。殺気がない以上、ギャンブルめいた戦闘には絶対にならないだろう。互いに目線を反らさぬまま、ドゥイリオが言う。

「クラス番号7、開始の合図は任せた」

「わかりました……初め!」


 予定通りドゥイリオが仕掛ける。片手を前にだし、軌道をわからなくさせている。佐伯はその腕を払いながらナイフに備える。下から顎を狙った軌道。身を仰け反らせて回避。

「『舞姫』!」


 属性を悟らせない詠唱。佐伯はバックステップで間合いを取り直し、魔術を見極める。佐伯のいた地点に四方八方から水が飛んできた。威力は皆無だが……訂正、粘性がある。この男、何気なく佐伯を転ばせようとしていた。


 佐伯は他者の記憶から得た魔術を再現するために唱える。

「『爆裂槍 氷』」

佐伯は氷の槍をドゥイリオに投げつける。ドゥイリオは紙一重で回避。彼の後方にあったターゲットが爆発四散した。


 そちらの衝撃に気をとられていた生徒にドゥイリオは一喝。

「まだ終わってないぞ!」

ドゥイリオの構えが変わった。目線で決着をつけるよう指示している。佐伯もそれに応じるように構えを変える。


 佐伯が先に仕掛けた。アリスやリカルドに見られたら大爆笑必須のノロマな突進。ドゥイリオは軽く佐伯の手を払いのけ、足を引っかけて転ばせる。回転を加えて反撃するか?いや駄目だ。これは約束稽古、ドゥイリオを勝たせるための戦いだ。佐伯は受け身を取り、立ち上がろうとするが、その首筋にはナイフが突き立てられていた。



 ドゥイリオはナイフを仕舞い、佐伯を立たせる。

「あの魔術は少しヒヤッとしたぞ」

「当然でしょう、氷魔術ですから」

「フッ、食えん奴だ」


 呆気に取られていた生徒達にドゥイリオが言う。

「これが、満点以上の成績が欲しい奴にやってほしい動きだ。ポイントは『接近の仕方』、『攻撃への対処』、『魔術使用のタイミング』。大体この3つだ」

佐伯が補足する。

「生徒達同士による演舞で試験を受ける場合は、魔術使用に関してはある程度大目に見ます。事故ると危ないからね」


 生徒達の間で自然と拍手が起き始めた。ドゥイリオがナイフを最初の生徒に返す。

「お前がC判定の理由、わかったか?」

「……はい!!出来れば……もう一度、受けさせてください!」

「期間内なら何回受けても構わん。ただし、練習を積んでからだ」



 教師用更衣室で着替えながら二人は会話をする。

「驚いた驚いた!モーゼス先生、凄い動けるじゃないか!」

「ハハハ、この科目を選択した以上はしっかり訓練しておかないと。私としては、ドゥイリオ先生こそ素晴らしいです」

「いやぁ恥ずかしい。だがロゼ先生に比べたら私の動きも最早ロートル、そろそろ座学に移ろうかと考えてるんだ」

「ご冗談を。あんなに機敏に動けていたじゃないですか」

「所詮子どもだまし、見る人が見れば笑われてしまうよ」


 着替え終えた二人は職員室へと移動する。

「そういえばドゥイリオ先生は学年主任とのことでしたが、やはり忙しいですか?」

「まぁ……そうだな。担当科目に加えて担任の仕事、そして学年主任、忙しいと言えば忙しい。あぁ、別に主任の仕事が多いというわけではないよ?それに、やりたくてやっていることだからね」


 途中、生徒とすれ違った。フランシスカだ。

「あ、その……えっと……」

「おはようフランシスカ、授業間の移動は速めにな」

「は、はい!」

フランシスカは小走りで離れていった。

「あの制服……2年Aクラスか。ということは、昨日モーゼスがロゼと授業をしていたな」

「ええ。優秀で真面目な生徒でしたよ、放課後質問に来るくらいには」

「ほぉ、そりゃ珍しい」


 職員室内には、やはりほとんどの講師はいなかった。佐伯とドゥイリオの席は近いが、話せる距離というわけでもなかった。佐伯は本を取り出し、続きを読みはじめる。


 昨日はたしか……主人公の騎士と青年が仲違いしたあたりだった。ここから作者はどうやって話をまとめていくのだろうか?ページをめくる。




 ……あぁ、なんということだろう。まさか村が件の戦争の主戦地になってしまうとは。使い物にならない装備を身に纏い、村人達を必死に逃がそうとする主人公。大切なものを護るために、彼女は再び剣を握る。しかし数の暴力に押され、次第に追い込まれていく。


 天が主人公に味方した。彼女を知る者達が現れ、村人の避難に協力してくれたのだ。装備を変え、生き別れたはずの愛馬にまたがり、彼女は戦場を駆ける。逃げ遅れた者はいないか?負傷した者はいないか?邪魔をするなら、私は戦う。


 敵軍の将、すなわちライバルが立ちふさがる。主人公は馬から降り、一騎討ちに応じる。かつての戦でも敗北を喫した相手。苦々しい経験を味わわされた、屈辱の相手。だが一方で、主人公は彼に感謝もしていた。だって、そのおかげで主人公は自分の知らない人達を知ることが出来たのだから。


 勝敗は呆気なく決した。頬に傷を負ったものの、主人公の剣がライバルの剣をはたきおとしたのだ。しかし主人公はライバルの首を取ることなく、剣を収める。実はライバルの策略でこの場所が主戦地になったが、この土地の戦略的価値が低い事が双方の軍に露呈、ただちに撤退が開始された。敵同士とはいえ、ここで殺し会う必要性はほぼ無くなったのだ。


 主人公は再び馬にまたがり、あの青年を捜す。謝罪せねばならないことが、沢山ある。どうか生きていてくれ。……見つけた。小さな子どもをだき抱えている。どうやら母親が瓦礫の下敷きになり、子どもを彼に託したが、彼もまた負傷してしまったようだ。幸い、子どもに怪我はない。


 風が舞い上がり、辺りの炎が強くなる。馬に子どもを託し、自軍へと先に戻らせた。自分を置いていけと言う青年の言葉を無視し、主人公は青年を助ける。しかし時既に遅し。帰り道は失われた。青年は傷だらけの腕で、泣きわめく主人公の頬を撫で……。



 戦争終結から数年後。騎士長の横には、片腕のない男がいつまでも仲睦まじく寄り添っていたのだった。




 佐伯は本を閉じる。思わずため息が出た。安堵と疲労のため息。素晴らしい没入感を与えてくれる小説だった。溢れんばかりの感情を誰かと共有したい。酒を飲みながら、この小説について語り合いたい。そう思わせる小説だった。不意に時間を確認すると、いつの間にか昼時を過ぎていた。

「やっべ」

次の授業は5限とはいえ、昼食抜きはキツイ。慌てて昼食を食べる。そういえば、同じ作者の本はあるのだろうか。図書館に行って調べてみよう。


 図書館は流石教育機関というべきか、王立というべきか、総数が把握できないほどの本で埋め尽くされていた。この世界の紙の価値は、現代世界に比べれば十分高価である。とはいえ、一般的な本は庶民の手に届かないというほどではない。


 だが、ここにある本の大半は分厚く、一般本とは価値が天と地ほどの差がある。そんな本が大量に集められている。当然、新書もある。佐伯の持つ『ハウゼン村の戦乙女』は第三版だったので、そんなに新しいわけでもないので、同じ作者の本がある可能性は高い。


 図書館の検索装置を使っておおむねの場所を見つけ出す。あった、3階の奥。佐伯は途中で見かけた他の本に目もくれず、そこへと歩いていった。


 作者の文字配列順に規則正しく並んだ本達。

「……お、あったあった。ここのは……初版か、流石だな」

とりあえず、今持っているのと同じものは見つけた。他の本はどうだろうか?


 以外と有名な作者なのだろう、かなりの本が並んでいる。何から見ればいいか悩んだので、適当に一番新しそうなのと一番古そうなのを手に取る。パラパラとめくり、落丁や落書きがないか確認する。問題なさそうだった。受付で申請し、職員室に戻って机にしまった。



 そうこうしている内に5限の時間が近づいていた。授業は確か……1年のS。標的の見極めの時間だ。薬物投与による判断は不可能ということは事前に知らされている。何のために投与した、と言いたいところだが、あの時点ではまだこの任務は決定していなかったのを思い出した。


 担当教師はロゼ。開始前に釘を刺された。

「標的がいるけど、過度の接触は控えるように。あと……彼は規格外で、学院創立してからきっての逸材よ」

「わかってます。他の生徒とは違うんでしょう?」

「生徒どころか、教師でも彼をもてあましてるわ」

アリス……いやカルロスレベルか?もしかしたらリカルド以上かもしれない。気を引き締めねば。


 昨日と同じような紹介の流れをし、授業が始まった。標的の顔は事前に見ていたので、すぐにわかった。黒い髪と眼、特徴はないものの、均整の取れた容姿、見た目からはあまり想像のつかない筋肉量、平均的な身長。……そして、隠しきれていない魔力。こちらを威圧しているのか?いや、多分制御の仕方を知らないだけだろう。やはり『規格外』ということか。


 授業は『魔術基本』。2年のやっていた事のさらに初歩、といったところだろう。詠唱に関しても、6節であればB判定がもらえる。しかしそこはSクラス、全員が3節以内の発動をし、標的に至っては、詠唱無しで実戦使用可能レベルの威力を発揮していた。


 生徒達に応用の指示を出したあと、佐伯がロゼに言う。

「なるほどなるほど。やっぱりSクラスというだけあり、凄まじいですね」

「今年は特に、ね。有名貴族のご子息や有名人の子孫、挙げ句の果てには皇帝陛下のご兄弟まで」

「ご兄弟?」

「今の皇帝陛下はとても若くいらっしゃるの。柔軟な発想をお持ちの方。歳は確か……まだ20代ね」

「失礼ながら、前皇帝陛下は?」

「生きていらっしゃるわ。『私に統治は向かん』とかなんとかおっしゃられて、早々に現皇帝陛下に譲り渡した。ただ、芸術の方面ではこの上なく素晴らしい才能をお持ちね」


 中学校の頃に触れた歴史で、将軍職でありながら将軍としては無能だったが芸術家としてそれなりの評価を得た人物がいたのを思い出した。それの発展型のような人物なのだろうか?まぁ、佐伯が会うことは恐らくないだろう。皇帝陛下も会うには会ったが、場所は最悪だったし、遠目だった。



 ロゼが声のトーンを変えてきた。

「それで、どうなの?標的は」

佐伯は発展内容すら軽々とこなしている標的の背中を見つめながら答える。

「……薬で判別できるほどの悪人なら、今すぐにでも遂行するんですけどねぇ」

「まぁ、一日二日で露呈するような悪人なら、たとえ有名人の親族であろうと追い出すからね、この学院は」

「おお怖い、私も気をつけなきゃ」

「そうよ~?抽選かつ年齢制限があったとはいえ、もしかしたらあの戦いを見てた人がいるかもしれないんだから」


 結局、その日の授業は全員にS判定がついた。本当はさらに上の成績をつけたかったのだが、規則は守らねばならない。一応臨時のホームルーム交代や放課後に質問があるかと思い待機していたが、そんなことはなかった。



「……以上で、本日の報告とさせていただきます」

係長はコーヒーを飲む。珍しい。というか、なぜか傷だらけであった。

「……それだけか?」

「はい。標的の魔術素養、及び実行力には驚愕しましたが、底が見えないほどではありません。運動着含めた制服に改造の跡が見られましたが、正面突破不可能な程ではないと進言します」


 イラついた様子で係長が言う。

「ドゥイリオが、お前を誉めたのか?」

「……まさか係長」

「そのまさかだ!奴は俺の知り合いだよ!最近音沙汰ないと思っていたら、アイツ教師になっていたなんて……!」

「……係長、知り合い多いっすね」

「そうだよサレンダー!自分で言うのもアレだが、俺はこう見えても優秀な人材なんだ!だからここの係長なんだぞ!」


 フェイが突き刺さる一言を言う。

「でも、『掃除係』の身分を公に明かすことは許されていないから、行政区画職員としか紹介できない、と?」

「……みんな、掃除係が『いる』ということは知ってても、『誰』ということは知らない。俺なのに。酒の席で横にいた俺なのに」


 サレンダーが声をあげる。

「あ!だから騎士長と飲みに行くとたいてい俺らに食べ終わった皿とか片付けさせてたのか!『掃除係』だから!」

「あのオッサンそんなことさせてたんですか!?」

「おいニンジャ!オッサンは流石に失礼だぞ!『おじさん』にしとけ!……ん?なんかそれも変だな」

「『おじさま』」

「それだ!」



 佐伯は係長に向き直る。

「……それで、ドゥイリオさんが私を誉めると、どんな悪いことがあなたに起きるんです?」

「……飲みに行くと、話をされる」

全員がなんとなく察した。気分が高揚しているときに、相手よりよく知っている知り合いの話を聞かされる。共通の話題が出来て盛り上がると思いきや、『掃除係』は身分を明かせないので、ボロを出してはいけないと思考が切り替わり、酔いがさめてしまう。ストレス発散の場所が、あっという間にストレスを溜め込む場所に早変わりする。最悪なことこの上ない。


 佐伯が尋ねる。

「じゃあどうします?悪い教師でも演じますか?」

「いやそれはそれで駄目だ。愚痴をこぼされる」

「そいつ酒癖最悪じゃん……酔ったら自慢話持ち出しながら自分の愚痴こぼしだすとか、俺なら絶対一緒に行かねぇ」

「いや、いつもは悪いやつじゃあないんだ。たまにスイッチが……入る」

「余計怖いですよ、それ」


 佐伯は自分の席に座りながら言う。

「というか、係長がドゥイリオさんと飲まなければいいのでは?」

「……たしかに!」

「ところで話変わりますけど、なんでそんなにボロボロなんです?」

「あぁ、別件でな」

「そうそう。それも騎士長である私が直接頼んだ任務だ」

「その通り。騎士長が今朝やって……」


 空気の入れ換えのため開けていた窓から、騎士長が顔を覗かせていた。

「よっ」

「『よっ』じゃないですよ!何をなさっているんですか騎士長!?あ、失礼しました!」

慌てて四人は敬礼する。騎士長は笑いながら手を振った。

「そういうのいいから。見ろよニンジャくんの不服そうな顔を。『なんで騎士長みたいなドクズに敬礼なんかしなきゃいけねぇんだこのボケカス係長が』って顔してるぜ?かわいそうに」

「いえ、そこまでは……」

「思ってるよなぁ?」

「はい思ってます」

「おいニンジャ、俺に失礼だとは思わないのか?」

「あっそれは……」


 騎士長はクスクスと笑ったまま、眼だけ真剣にして話し出す。

「とまあ、ここまでは冗談だ。用事があってここに来た。丁度いいから、二人の報告をまとめて聞こうと思ってな」

サレンダーが尋ねる。

「あの、窓からやってくるのに何か理由が?」

「俺の事をよく思ってない人間は世の中に沢山いる。別に俺はそんなわけではないんだが、どうにも『騎士長が掃除係を使ってクーデターを起こそうとしている』なんて吹聴したい奴も多い。片っ端から相手してもいいんだが……めんどくさいだろう?」


 フェイも訊く。

「では、今回の任務は?」

「勿論違う。俺から与えられた任務ということになってるが、その実態は『皇帝陛下直々の任務』だ。あ、ここだけの話で頼む」

全員の態度が引き締まった。そんな重要な任務をこの男はサラッと言い、砕けた口調で流した。しかも、どちらも進行中か終了した段階で伝えてきた。


 騎士長は顔をしかめる。

「そんな態度取るなよ~。騎士長、悲しいぞ?……それで係長殿、しっかり終わらせたのか?」

「はい。痕跡はわざと残しておきました。『アレ』で、よかったのですね?」

係長の手振りで、騎士長は理解したらしい。他の3人には何かわからなかった。

「問題なし。すまなかったな、だいぶ苦労しただろう」

「いえ、致命傷は一発もなかったのでこれくらい朝飯前です」


 満足そうに騎士長はうなずいたあと、佐伯を見る。

「君の方はどうかな?」

「まだなんとも言えません。接触したのも今日がはじめてでしたし、薬物による反応もありませんでした」

「あえて大仕事になるのを与えたから当然だ。喜べ、これを終えたらしばらく君に友人を捜査する権利を与える」


 この騎士長、約束を忘れていなかった。本当は佐伯から言おうと思っていた言葉だった、それも係長を通して。だが、まさか騎士長の方から言ってくるとは思ってもいなかった。佐伯は思わず頭をさげる。

「コードネームニンジャ、全力を尽くして任務にあたらせていただきます」

「よろしい、その意気だ。では、終わったらみんなで飲みにでも行こうじゃないか。私の奢りでな」

騎士長はそう言い残し、去っていった。



 サレンダーが呟く。

「やっぱあの人苦手だわ」

「サレンダーさんもですか?」

「というか、私達みんな同じ感想よ」

フェイは胸元のネクタイを緩めながらそう補足した。佐伯は、彼に対してあまりあまり良い印象を持っていない者が自分だけでないことに安心した。


 係長が言う。

「……だが、あの得体の知れない態度こそ、彼を彼たらしめているとも言える」

「どういうことですか?」

「騎士長はあんな感じだけど、皇帝陛下からの信頼を誰よりも勝ち取っているんだ。媚びへつらっている奴よりも、帝国の利益を最大に考えている奴よりも、皇帝陛下の事を第一に思っている奴よりも、皇帝陛下の幼いからの親友よりも、あの騎士長なんだよ」

「私達の任務にしてもそうだ。皇帝陛下が黒幕とはいえ、直接渡してきたのは騎士長じゃないか」


 フェイが気を効かせていれてくれたコーヒーを啜りながら、佐伯はすっかり暗くなってしまった空を眺める。いくつもの星が瞬いていた。

「俺の生まれ故郷も、こんな感じが良かったなぁ」

「ニンジャの故郷って、どこなの?」

「んー……『日が昇る国』ですかね」




 深夜。怪しげな気配を感じた。着の身着のまま寮を飛び出す。

「……あれは?」

学院内を誰かがうろいている。いや、俺もうろついているのだが。気配遮断魔術と背景同化魔術を使いながら物陰から様子を伺う。暗くてよく見えない、夜目魔術も重ねがけする。だんだん姿がはっきりしてきた。セミロングの金髪、身長は160中盤くらいか?身体的特徴から、恐らく女性。


「……!」

こちらに振り向いた!?慌てて隠れる。口を手で押さえ、気休めながら呼吸を抑える。物音は立ててないはずだし、俺の服は黒い。そもそも、こんな暗闇で何か見えるのか!?まだコツコツと響いている。足音が遠ざかったら見てみよう。

「……そろそろ行ったか?」

身を乗り出して様子を伺う。





 眼前に、蒼白い眼と赤黒い眼があった。

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