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再審の男  作者: 藤澤トオル
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星の支配者様

 とある街の裏路地。ある二人は殴りあいの喧嘩をしていた。…否、喧嘩と呼ぶにはいささか一方的過ぎるだろう。腰に剣とショットガンを携えた男がタンクトップの男のパンチを受け流してはカウンターを繰り出している。タンクトップがよろめけば足を引っかけ、体勢が崩れた所に回し蹴り。


 タンクトップは気絶するが、剣が汚水をかけて起こす。

「ゴホッ!ゴホッゴホッ…オエッ。なんだこれ…」

「起きろ、お前からまだ報酬を貰っていない」

「なめやがって…クソ!」

立ち上がろうとしたタンクトップの顔面に右ストレート。タンクトップはまた気絶した。


 同じような事が数度繰り返されたあと、タンクトップは泣きながら拝むように話し出す。

「やめてくれ…約束の品は払うから…殺さないでくれ」

「分かればいい」

剣はタンクトップから特殊な皮で覆われた本を受けとる。剣はタンクトップを気にせずにその場を立ち去った。


 その本の名前は『ネクロノミコン』。剣の男…佐伯が持つ魔導師エイボン…別名『エイボンの書』と同じ神話に登場する魔導書である。佐伯はその本を即座に読み終え、燃やす。

「…襲ってきたやつらの記憶、姿。間違いない、魔王の正体は…」




 マリーは現在、拠点に帰り平穏な生活を謳歌している。一応目的地には行ったのだが、いくらなんでも一人では困難と判断され、報酬を支払われて帰還を促された。事実上の戦力外通告であったが、マリーはそれに関して特にショックを受けることはなかった。それよりも、何も言わずに姿を消した男の行方が気になって仕方ないのだ。


 日課となった、集会所への訪問。今日も彼はいなかった。仕方なく野良でパーティーに加わる。長い年月はこなしていないが、彼とのコンビ経験が大半を占めるマリーの技術は決してベテランに劣るものではなく、断る者はごく稀だった。


 この日もBランクの依頼を素早く終わらせた。きちんとパーティーが機能していれば、マリーには造作もないことである。

「…依頼、終わりました」

「お疲れ様でした。その…変わりましたね、戻ってきてから」

受付嬢の心配をマリーは素っ気なく返す。

「そんなことないですよ、心に余裕がないだけですから…」

「ちゃんと休んでますか?休息も大事な仕事ですよ」

「問題ありません。きちんと睡眠と食事は行っています」

「そういうことではなくて…私でよろしければ、ご相談に乗りますよ?」

マリーは作り笑いを浮かべながら出口の方へ立ち直り、顔だけ向ける。

「心配なさっていただけるだけで、私は大丈夫ですよ」


 集会所の外は日射しが強く、マリーは手で遮りながら空を見上げる。

「…サエキさん、あなたは大丈夫でしょうか?」




 魔王軍の侵攻開始から約1ヶ月、戦況はほぼ膠着状態となっていた。単純な動員数だけで見れば連合軍の方が圧倒的に有利であるはずが、魔王軍の兵士の強靭さやドラゴンなどの強力な生物により拮抗状態になってしまった、その状況まで保つ事に成功している。やがて各方面から帰還した開拓者も合流し始めたが、戦況には大きな変化はなかった。せいぜい、超大量の犠牲を払って魔王軍の前衛要塞を落とせるかどうか、くらいである。


 また、魔王軍本陣の魔王城は四方を連合軍に囲まれているが小高い丘の上にあるため無闇に近づこうとすれば集中攻撃を受け、上空からの接近も旋回するドラゴンに打ち破られてしまう。苦肉の策として後方から大規模魔術を放つも、謎の防御魔術により無傷。こちらは手札を一枚消費しただけとなった。


 リカルド・ファルキはそんな魔王軍本陣攻略軍冒険者部隊の一部隊長を任されている。彼は軍隊に詳しい人間ではないが、人並みよりは知識量が豊富である。徹底したバディ行動を取らせ、敵を倒すことよりも生き残ることを優先させている。そういう要因もあって、彼の部隊は非常に欠損率が低いうえに攻略速度も高めであった。


 補給の為一度撤退したリカルド。本陣の救護所は治療魔術により復帰が速くともほぼ満杯状態であった。医師に尋ねる。

「やはり、難しいですか?彼女の復帰は」

「えぇ。傷口から砂利や金属片が混入されていて、簡単に治療が出来ません。命に別状はないんですが…どうやっても痛みは消せません」

ベッドに仰向けになって眠っている右腕の千切れかけた女性は、リカルド部隊の数少ない重傷者であった。


 彼女は近接戦闘を得意とする冒険者で、当然ながら優れた技術を持っていた。上空から熱線を放射してくるドラゴン達に対しても飛行魔術を用いて果敢に挑んでいた。だが一瞬の判断ミスで背中に矢を受け、そちらに気をとられた隙に…ドラゴンに右腕を食いちぎられた。遥か上空から気絶状態で落下した彼女であったが、バディが上空で回収しそのままこのベッドまで運ばれてきた。


 幸運なのは、急いで運ばれたことで一命はとりとめていること。不運なのは、急いで運んだことによりバディの服に付いた不純物が傷口に入り込んでしまったこと。いっそのこと死なせてしまった方が良かったのか、それともこれで良かったのかバディは苦しむ彼女を見ながら苦悩し、戦線には復帰できずにいた。


 リカルドは女性のそばに座ってうつむくバディに声をかける。

「いつまでそうしている気だ?」

「…私はあなたの様に強くないんです。英雄なんていう器じゃぁないんですよ、私は」

「それはそれでいい。俺が聞いているのは、そうしていてもお前はただのお荷物だっていうことだ。ここを離れるか、戦いに行くか決めろ」

バディはリカルドの胸ぐらを掴みあげる。

「そんなこと言われなくてもわかってますよ!でも連れ帰っても彼女が治る確証はなくて、戦場に出てもまたバディをこんな目に合わせてしまうんじゃないかと怯えて…俺は、どうしたらいいんですか!?」


 リカルドは氷の様な眼差しで答える。

「知らん、俺はお前じゃない。お前は彼女の為に出来ることを最大限しろ、言いたいのはそれだけだ。わかるな?お前が祈って治るなら祈り続ければいい。そうじゃないなら…やれ」

バディの手を放し、踵を返して歩きだす。そして、救護所を出る前に振り向かずに呟く。

「…金なら俺が払う。本当に彼女を救いたいなら、な」

それだけ言い残して、リカルドは去っていった。



 続いてリカルドが向かったのは仮設倉庫。武器や弾薬、その他必需品等の補給物資が配給されている。バディの『タチアナ』に尋ねる。

「終わったか?」

「はい。ですが…なんですか?この銃は。ずいぶん不思議なデザインですけど」

タチアナから銃を受けとる。それを軽く扱いながら答える。

「俺の唯一知ってるアサルトライフル…をモデルにした銃さ。性能はともかく、デザインは完璧だ」

「隊長、アサルトライフルとは?」

「自動小銃…いずれ歩兵の主力となる兵器だろう。俺は実験も兼ねて使わせてもらっている。タチアナも使うか?」

「大丈夫です。慣れているこちらのほうが確実ですので」

タチアナはそういってボルトアクションライフルを掲げる。最新鋭の兵器で一般には出回っていないが、一部精鋭部隊には普及している代物だ。


 互いの装備品を確認したあと、リカルドは戦場へと歩みを進めるが、タチアナが後ろから申し訳なさそうに尋ねる。

「あの!…彼女らは大丈夫でしたか?」

「…一応、金は払うとだけ言っておいた。それに、俺が深く関わることでもないだろう?」

「…本当は?」

「…お前もわかってるはずだ」

「そうですね。失礼しました、行きましょう」



 戦場へと向かう二人、それを見つめる男と女がいた。男はそれを見つめて少し笑みを浮かべたあと立ち去った。女は仮面越しにそれを眺め仲間から召集がかかるまで続けていた。その後男は一人で戦場へと走りだし、女は他の仲間と作戦会議をした。



 時刻を揃え、一斉に連合軍は突撃を開始。凪ぎ払わんとするドラゴンを魔術師部隊が引き付け、陸上部隊は騎士の大楯や物陰に隠れつつゆっくりと着実に歩みを進める。魔王軍もアンデッドなどだけでなく強力な生物を配置し、歩みを止める。

「グオアアアアア!!!!!」

巨大なキメラが複数出現。把握できるだけでも、4種を掛け合わされている。キメラは銃弾を弾き、魔術師の砲撃を跳ね返し、騎士の剣を鍵爪で受け止める。


 リカルドが前に、タチアナが後方援護に回りキメラを引き付ける。

「下がれ!俺達が相手をするから、攻めろ!」

「来ます!リカルド、備えて!」

「わかっている!」

リカルドはキメラの尻尾叩きつけを右腕の籠手で受け流しつつ、股ぐらに連射。6本ある足のうち、2本が崩されバランスを崩すキメラ。タチアナはその隙を逃さず『鎖』の魔術をかけた銃弾を首に撃ち込む。


 キメラは当然の様に銃弾を弾くが、命中した瞬間、弾丸は形を変えて元の大きさからは想像もできないほどの最大全長を持つ数本の鎖に変化。それはタチアナの右腕と繋がっており、すぐに引っ張りキメラを締め上げ、地面に杭を打ち込んで動きを完全に封じる。リカルドはキメラの頭部に籠手を槍に変化させて突きを放つ。さらに籠手をモーニングスターの先端に変化させたあと、槍に戻して引き抜く。中枢部を完全破壊されたキメラは肉体を維持できなくなり、爆発四散。


 ここで気を抜くリカルドではない。すぐさま別方向から飛んできた砲撃を目から赤い閃光を走らせながら回避。タチアナは砲撃範囲外にいたため、問題なし。

「タチアナ、索敵しろ。地中含めてな」

魔術効果が切れ、鎖の無くなった地面から杭を引き抜きつつ『気配感知』をスキル魔術併用する。

「…地中は問題ありません。それと、申し訳ありませんが砲撃の爆音により苦戦地域の詳しい位置は…」

「了解した。それでは部隊には苦戦地域の援護を優先させ、見当たらなければ予定通り侵攻させろ」

タチアナは部隊のバディ数分に砕かれた魔石を用いて連絡。

「各員、了解とのことです」

「よし。さて、上空は…ん?」

「どうされました…か?」


 二人が見上げると、空が赤と黒で染まっていた。赤は魔王軍の血で、黒は魔王軍と、『何か』が発している霧だ。何かは翼を生やし全体像が掴めないものの辛うじて人の形をしており、常に黒い霧の様なものを漂わせながら魔王軍を蹂躙している。また、目らしき場所からは青黒い閃光が散り、それが黒と赤の世界に軌跡となって残っている。


 何か…悪魔はドラゴンやそれに類似する生物を残らず壊し、食らい、成長していく。時折攻撃を受け鮮血を散らすも、霧で絡めとりつつ傷口を塞ぎながらその相手を逆に喰い散らかす。集団で襲われて身動きが取れなくなっても、霧の範囲を広げてその場から悪魔以外を『消し去る』。押され気味であった飛行魔術部隊はそこに加わることが出来ず、誤って突入した者は残らず無惨に喰い散らかされた。


 リカルドは物陰に身を潜めつつその状況をスコープで確認する。確かに魔王軍を襲ってはいるが、本当にこちらの味方なのだろうか?

「隊長、どうしましょう?私達の飛行魔術を用いる者は下がらせましたが…」

「それでいい。あれの処遇は後で決める。だが、あの黒い霧どこかで…?」

リカルドの思考を遮る様に砲撃が魔王城から降り注ぐ。上空の状況が気になるところではあるが、魔王軍がせめてくる以上そっちの方を手早く片付けねばならない。

「タチアナ、50mまで援護しろ」

「了解」

リカルドは身をのりだし、次の物陰まで走り出す。



 悪魔は、力を与えているだけであった。この世界と悪魔の世界を繋げる『楔』役の男が、理性を失いかけながらも力を求めたから与えているだけである。虚を越え、無を越え、神を越え、空間を越え、時間を越え…楔としての機能を維持できるレベルまで力を落として、力を与えている。なぜ与えるのか?なぜ喰らわせるのか?なぜ楔は理性を失っているのか?それは悪魔にしかわからない。


 ただ、楔は与えられたモノを最大限使い、自らの使命を果たそうとしているということだけは事実である。捕食による『高速学習』で他者と記憶が混じり自我が崩壊に向かっていても、決意だけを頼りに力を振るい、喰らい、先へ進もうとするのだ。辛うじて残っている人としての意思が、連合軍の味方をしているが邪魔をするならば容赦なく喰らうし、しなければ手をだす必要性も感じなかった。


 ただひとつの決意、それだけが楔を悪魔の道具ではなく人間にさせているのだ。


 だから、目の前のバイアクヘーが肩を引き裂こうと関係ない。黒い霧が動かせるように繋げてくれればそれでいい。ただ、邪魔だから喰らいながら殺す。シャンタク鳥に脳髄を引きずり出されかけても関係ない。機能が停止しないのなら、逆に脳髄を引きずりだして喰らうまで。ただ、邪魔ではあるので殺す。ドラゴンが自らの身体を引き裂き、燃やしつくしたとしてもどうでもいい。すぐに身体を無理にでも繋ぎ止め、逆に引き裂いて喰らい尽くし、惨たらしく殺す。


 目の前に立ちはだかるならば殺す。攻撃を加えるのなら殺す。害意を持ったのなら殺す。殺す、殺す、殺す、殺す…。




 気づいた時、魔王城上空にいたはずの竜の首が左手に持つ剣に刺さっており、自らを覆う黒い霧は晴れ、地面が空になってそちらへと加速していた。悪魔は去り、そこには楔に戻った男だけがいた。

「…駄目か。理性を断っても、肉…体…の…ほ…う…」

空中で楔は気を失い、そのまま地面に叩きつけられた。






 連合軍本陣。佐伯は救護所のベッドで目を覚ます。体が動かない。回復を完全に捨て、受けた傷を全て動かせるように無理矢理繋げていた弊害が今頃現れているのだろう。頭も破壊されたのか、一瞬自分が何者であるかを忘れそうになってしまった。動かそうとするたびに激痛が走り、身体が悲鳴をあげる。


 それでもなんとかして横を向くと、リカルドが腕を組んで目をつむっていた。リカルドは佐伯が起きたのを察して片目をあける。

「…やっと起きたか。ここは連合軍本陣だ、安心していい」

「…なぜ生きてる?」

「助けたのは俺じゃない」

リカルドは指で横に立つ仮面の女性を指す。女性は軽くお辞儀したあと、立ち去る。その後ろ姿に向かって佐伯は尋ねる。

「なぁ。俺とあんた、どこかで会ったことないか?」

女性は振り返らず答える。

「…無くはない。あなたは覚えていなくてもしょうがないけど」

「…そうか。命の危機を救っていただき、ありがとうございます」

「…私も、救われたことがあるから」

そう言い残し、女性は去っていった。


 女性が完全に消えたことを確認してからリカルドは尋ねる。

「…本当に覚えてないのか?」

「…あぁ。あの力は理性を失わないと駄目なんだよ。4段階目らしいが…原理は俺もよくわかってない」

「そっちじゃなくて…まあいい。とにかく、お前のおかげで攻略が大分進んだ。感謝申し上げる」

「…別にいい。魔王を倒す、それが仕事だからな」

「開拓者、辞めたのか?」

佐伯は顔を濁らせながら答える。

「…ああ。俺は世界に閉じ籠って、それを維持するのが限界だ。…もう、外の世界を見る力は残っちゃいない」


 気まずい空気を作ってしまったリカルドはさらに尋ねる。

「じゃあ今は冒険者か。固定のパーティーメンバーはいるのか?」

「いるにはいるが…俺が黙って出ていった。こんな姿は見せられねぇし、巻き込むわけにはいかないだろ?」

佐伯は左腕を僅かに動かす。静脈と動脈は共に黒く変色し、甲から肩まで青色のタトゥーの様な紋様が刻まれていた。よく見ると、佐伯の人相もリカルドの知っていたものと変わっていた。髪の色素が抜けて白髪が増え、黒かった右目には青みがかっており、目の下にはクマが出来ていた。

「…そうだな。確かに、事情が良くわからない奴にはキツイだろう」

「リカルドは…わかるのか?」

「当然だ。俺と似て非なる力だからな。俺が神から授けられたとするなら、悪魔に魂でも売ったところだろう?」

「ほとんど正解だ」



 会話をしているとタチアナが入ってくる。佐伯とは初対面である。

「紹介しよう。俺のバディ、タチアナだ。タチアナ、こいつが佐伯陽介だ」

「よろしくお願いします、タチアナです。先日のご活躍、素晴らしかったです」

佐伯は言葉が引っ掛かる。

「ちょっと待て。『先日』?」

「そういや話してなかったな。お前は3日程寝込んでいた」

「…戦況は?」


 リカルドが説明した戦況は、非常に厳しいものだった。佐伯が制空権を完全確保したあと、彼を運んだ仮面の女性を筆頭とした新大陸方面の開拓者が本格参戦。魔王軍は徐々に追い詰められていた。そろそろ魔王城のみ、というところで魔王本人が謎の大規模魔術を発動し、各地に触手を持つ巨大な海産物型の生物達が出現。それは圧倒的な力を持ち、順調だった連合軍は押し返されて再び泥沼と化していた。


 説明を終えたあと、状況の悲惨さが伝わり沈黙が訪れる。

「…ここにいる奴は?」

「2体いるんだが…1体は黒い触手と緑の目を持つ何か。もう1体は生ける炎の様な奴だ」

佐伯はさらに尋ねる。

「リカルド、『オーガスト・ダーレス』や『H・P・ラヴクラフト』という名前に心当たりはあるか?」

「いや、ない」

「…クトゥルフ神話は?」

「…ゲームのやつか?」


 クトゥルフ神話。H・P・ラヴクラフトが見た夢を元にし、彼を含む様々な作家がそれに関して書き出した本の集まり、それが一種の神話体系を成している様に見えたことから、そこに出てくる『神』の名前をとってクトゥルフ神話は産まれた。内容は宇宙的恐怖やラヴクラフト本人の価値観に由来しており、あらゆる人々を魅了するその神話は様々な創作物に利用され、TRPGという形でそれ自体がゲームにもなっている。リカルドが言う『ゲーム』も、そのTRPGである。


 だが、佐伯の結論はゲームではない。

「そこに出てくる『旧支配者』っていただろ?…そいつらが、今召喚された奴だ」

「…まさか。そんなはずは」

「あるんだよ、俺の持ち物にエイボンの書があるのが証明だ。ただ、幸運なことにこいつらは『原作』とは違う。あくまでも原作を利用して産まれた『別物』だ」

「…と言うと?」


 佐伯は身体を起こしながら答える。

「…クトゥルフ神話の設定を活かしたネットゲームがあってな、そこに出てくる奴とほぼ同一だ」

「…転生者か?」

佐伯は静かに頷く。

「参ったな、3人目かよ…」

「正確には違う。魔王は別の世界から干渉してきたから『2+1』と表現した方が正しい」

リカルドが尋ねる。

「…お前がそのゲームをプレイしていた、というのは理解できる。だが、魔王の目的がわからん。ゲームと関係あるのか?」

「基本はない。だが…それもプレイヤー次第だ。そういう『設定』のプレイヤーなら…やるかもな」


 佐伯はそう言ったあと、荷物から薬を取り出して静脈に流し込む。人体に有害な薬品であることは明白だった。

「佐伯、その身体でまだやる気か?ドラッグまで使って戦うべきじゃない」

リカルドの制止を聞かず、薬物で痛みを誤魔化した佐伯はその継ぎ接ぎの身体を動かして準備する。

「俺が来た理由が、『それ』だからな。同じゲームプレイヤーとして、この世界の住人として、俺が殺さなきゃいけない」

「そうか…俺も出来る限りの協力はする」



 救護所を出ると、仮面の女性が立っていた。

「…何か?」

「…あなた、ひとり?」

「ええ。そうですよ」

「私が援護しよう。なに、いないものとして扱ってくれて構わない」

佐伯に断る理由はなかった。

「では、よろしくお願いします…巻き込まれても、文句は言わないでくださいね?」

その女性は初対面にも関わらず、佐伯に不思議と安心感をもたらせた。



 かくして、四人の戦いが幕を開けた。魔王から世界を救うため、彼らは歩きだす。

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