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再審の男  作者: 藤澤トオル
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秘密

「...死ね!!」

アリシアは身体を少し捻り、後ろ蹴りを繰り出す。

「グッッッッ!!!」

陽介は全く予想していない攻撃を食らい、悶える。もしレベルがアリシアとほぼ同じだったなら一瞬で気絶していただろう。レベル40の差を軽々と越える攻撃に恐怖しながらも陽介はすぐに次の手段に移る。

蹴った足を掴んで引き付け、首根っこを締め上げる。アリシアは陽介の肘を間接と逆方向に外し、手を離させる。そして、そのまま陽介と距離を取った。


「ゴホッゴホッオエッ...やるじゃない」

「...『痛覚遮断』の魔術効果は15分だ、出来れば治療したいんだが。俺の実力はわかっただろ?やめようぜ」

「そうね。確かにあなたの実力はわかったわ」

アリシアが戦闘態勢を解除した。陽介もそれを見て、回避姿勢を解く。

「それはそれとして...」

今度は陽介の視界からアリシアが消える。陽介はすぐさま姿勢を低くしつつ、感覚を研ぎ澄ませる。


「あなたを1発殴りたくなったわ」

陽介は背中を踏まれ、地面に顔が叩きつけられる。踏んだのは勿論アリシアだ。アリシアは陽介を仰向けにさせ、馬乗りになり...顔面を全力で殴る。全補正値を筋力に回した状態で、だ。

レベル差のお陰で気絶はないが、アリシアの『魔術耐性』が発動しているパンチなので『痛覚遮断』は解除され、激痛が走った。

「...くっそおおおおおおおお!!!いってぇぇ...」

「わかればよろしい。あなたと私の立場はこれではっきりしたでしょ?」

「あーだめだ、ヤバイヤバイ。落ち着いてくると余計痛く感じる。どうしようくっそいてぇ」

「...『治療』」

アリシアは『治療』魔術をかけて陽介と自分の傷を治し、先程まで座っていたベンチに座りなおす。


陽介はアリシアの横に座り、話しかける。

「それで...どうだ?」

「『高速学習』の効果は1度習得すれば永久なの?」

「なんとも言えないが、とりあえず3冊試した感覚では上書きはされない」

「...なるほどなるほど」


アリシアは立ち上がり、空を見上げる。

「じゃあ最後に質問。仮によ、仮にこの世界の全てを開拓し終えたらあなたは何をする?」

陽介は少し考えたがすぐにやめて、とっさに思ったことを伝える。

「誰もやってないことを探すさ。それもまた『開拓』だろ?」

「合格。よろしくね、『ヨースケ・サエキ』」

「こちらこそ、『アリシア・シュタインベルク』」

2人は握手を交わす。それは単純な契約成立の証明ではなく、互いに命を預けるに足りる人物と認識した者達の信頼の証だった。


アリシアは陽介の肩に腕を回し、話しかける。

「そうと決まったら飲みましょう!あんたもう飲める歳でしょ?まあここはあんたの国じゃないから無理にでも飲ませるけどね!!」

「俺の国でも飲める、大丈夫だ。20歳だからな」

「20歳なの!?私より歳下じゃん!じゃあお姉さんに任せなさい!」





「アハハハハハハハハハハハ!!!!!」

アリシアが陽介の背中をバンバン叩く。彼女は相当酔っぱらっている。

「楽しんでるかいヨースケェ、もっと飲めよぉ。私の奢りだぜ!?」

「その台詞は3回目だ。歳上がリードしてくるんじゃなかったのか?」

「リードしてるらろぉ!?」

アリシアは長時間飲んで酔ってしまうのではなく、短時間にえげつない量を飲んで酔うのだ。陽介は完全に逆パターンだ。それゆえに、陽介が介抱を担当することになる。


水を飲んで少し落ち着いたタイミングでアリシアが切り出す。

「そういや、東の島国から来たんだっけ?いやー驚きだよ。そんな場所があるなんて知らなかったからね!まずはそこ目指すか!」

「やめておいた方がいい。まぁ...最終目的地にはいい場所だと思う」

「そっかー。じゃあしゃあないな!」

このタイミングがしかない、そう思い陽介はアリシアにデリケートな質問を投げ掛ける。

「そういうアリシアの秘密も教えてくれよ。東の島国の事だって本当は話すべきじゃないことだぜ?」

アリシアはグラスを口に運び斜め上を見て少し考えた後に答える。

「いいよ、1つ教えてあげよう。覚悟しておいた方がいいぞ?」

陽介は息を飲み、アリシアの次の言葉を待つ。


アリシアはゆっくり左目に自分の親指を押し当てる。そして、指をどけると先程まで美しく澄んでいた青色の目は、赤黒く変色し、白目の部分には僅かに解読不能な文字が浮かび上がっていた。


陽介が呆気に取られている間にアリシアは後ろを向いて再び目をいじり、元の青い瞳に戻して向きなおった。

「どう?気持ち悪いでしょ、幻滅したならパーティーやめてもいいよ。ハハハハハハハ!!!」

陽介は質問をする。

「それが開拓者になった理由か」

「ええ、これにかかれてる文字と同じ文明を発見すること。それが私が開拓者になる理由の1つよ」

アリシアは即答した、まるで聞かれることを予測していたようでもあった。アリシアは話を続ける。

「誰かがそれを発見するのを待つことも出来たのにって顔してるわね。それはいつ訪れるの?誰も保証は出来ない、だったら自分で探すわ。そういうこと。さぁ、飲みなおしましょう!」


アリシアは強い信念を持つ女性だろう。開拓者向きと言える性格かもしれない。こうやってはっきりした目標を持つのは強さに繋がる。

だが、それと同時に彼女の脆さと言える部分も見えた。彼女は『真に心の奥から人を信頼したことがない』。

あの眼は単純に文字が書かれているだけではない、もっと別の効果がある。しかも彼女はそれを知りながら隠している。これから未開の土地へと共に進む仲間となった陽介にすら、だ。


とはいえ、陽介にも隠し事はある。陽介にとって『別の世界から転生してきた』ということに匹敵する事だと解釈し、彼はそのことについて言及しなかった。


翌日、日時を他の東方面開拓者グループと合わせて、出発した。これは特別な事ではなく、途中までの安全性を確保する目的で一般的な方法だった。

「さあ、いこうぜ。私達の新しい世界に」

「あぁ、気長に行こう」


馬車に乗り、一行は東へと進む。その先に待つのは希望か絶望か。それとも...

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