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再審の男  作者: 藤澤トオル
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さようなら、あなた

 ホルストは語り出す。

「まず、娘の目に書かれている文字ですが実はそれがどこの文字なのか私にもわからないのです。さらに言えば…ソレはアリシアにしかありません。特別、と言えば聞こえはいいですが、要は『ハズレ』ですね」

「ハズレとは?」

「制約と契約をさせられます」

ラインハルトがそう言い、話し出す。

「まず制約ですが、『いつか使用した代償を払う』必要があります。これは後遺症とは別にあります。しかし、本人の成長によって一定の基準を越えれば、制約からは解放されます」

「だから、『鍛え直した』と」

「はい。続いて契約です。これに関しては非常に複雑で、アリシアは後遺症で記憶の繋がった人間が過去に背負った物を『背負い続ける必要』があります」

 アリシアはそこで気づく、イーリスの父親が言っていた言葉の意味を。つまり、過去にドラゴンと盟約を結んだ者が同じ目を持っていたのだ。

「この二つが文字に由来する私達とアリシアの違いです。ただ…」

「なにか、他にあるのですか?」


 ラインハルトが言い澱んでいると、ホルストが言葉を繋ぐ。

「失敗したんですよ、アリシアは」

「何にですか?」

「制御です。非常に申し上げにくいのですが、『今のアリシア』は、『本来のアリシア』ではない」


 「…え?どういうこと?」

動揺するアリシアの質問にホルストは淡々と答える。

「そのままの意味だ。お前が今まで紡いできた記憶は『お前のではない』。『誰かの記憶』だ」

「そう、この傷覚えてる?」

カリーナは頬の傷をアリシアに見せた。かなり昔に刃物等で付けられたものであった。

「…うそ。私はそんなこと」

「俺のも見るか?」

今度はラルフが足の傷を見せる。同じような傷跡だった。


 ラインハルトがナイフを取り出し、動揺しているアリシアに渡す。そして、テレーゼがマリオネットを用意する。ラインハルトはアリシアに語る。

「刃物の傷というのは、各々の癖がでる。アリシア、お前は見たところ刃物を得物にしてはいない。…試してみるか?」

 深呼吸してから、アリシアはマリオネットに傷をつける。ラインハルトが陽介に尋ねる。

「あなたの得物は剣と伺っています。どうでしょうか?」


 その傷跡は、たしかにカリーナとラルフに付けられたものと同じ癖が現れていた。

「…同じ癖があります。しかし、訓練すれば誰でもこのようなことは出来ます」

陽介の意見にラインハルトは的確に反論する。

「そうですね。ではあなたは、彼女が刃物の扱いを訓練しているのを見たことがありますか?」

「…ありません」

「答えは明白ですね」

「違う…私は…違う。カリーナ姉さんも…ラルフ兄さんも…」


 ホルストが立ち上がりながら言う。

「とはいえサエキさん、本当にありがとうございます。娘を鍛え直しただけでなく、『連れてきて』いただいけるなんて。そろそろ連れ戻そうとしていたんですよ。ですが、あなたのおかげで探す手間が省けました。ラルフ、テレーゼ、アリシアを連れていけ」

「「わかりました、父さん」」

ラルフとテレーゼは、呆然として独り言を呟いているアリシアの両脇を掴んで横にある部屋へ連れていこうとする。

 陽介も立ち上がりながら尋ねる。

「ちょっと待ってください。アリシアに何をするんですか?」

ホルストは答える。

「何って…簡単な話ですよ。『記憶を変えます』。自分の使命を思い出させ、余計な物を省き、『本来のアリシア』にします。あぁ、アリシアがあなたを忘れるのが怖い?でしたら、あなたの記憶は『操作』しましょう。これなら、二人とも互いを覚えていませんので問題ないですね」


 アリシアはその言葉を聞き、抵抗する。

「いやだ!!忘れたくない!!離せ!!」

ラルフはアリシアに言う。

「何を言っている?何を忘れたくないんだ?今ままでお前が紡いできたのは記憶は『アリシアのじゃない』だろ?元の自分に戻るのが怖いのか?あぁ、サエキさんの事が心配なのか」

追い討ちをかけるようにテレーゼが言う。

「大丈夫よ、サエキさんも悪いようにはしないから。ラルフ兄さんがちゃんと後処理も考えてるの。なんなら、あなたにゆずってあげるわよ。まぁ、覚えていたらだけどね」

 アリシアの顔から血の色が抜けていく。彼女はやっと思い出す。なぜ自分が家を飛び出したのか。なぜ家に戻るのが嫌だったのか。



 この家は、狂っている。



 突然ラルフは吹き飛ばされら壁に叩きつけられる。アリシアはテレーゼが呆気に取られている隙に彼女を組伏せる。

「残念ながら、アリシアをあなた方に渡すわけにはいきません。彼女とはまだパーティーの契約を解いていませんので」

ラルフを殴り飛ばした陽介は、剣を抜いて構えながらホルストにそう言った。ホルストは陽介に反論する。

「彼女は私の娘です。あなたのものではありませんよ?たとえパーティーだとしても、親の意見の方が上だと考えていますが」

「アリシアに決める権利があると私は考えています」

「彼女の精神は幼い頃で止まっているのです。なら、幼い心の成長を助けるのは親の務めでしょう?」

「子の心…親知らず!!」

 陽介渾身の突きは、カリーナに止められた。

「あら、予想以上に速い。ちょっと速めに動いて正解だわ」

ホルストは隣の部屋へと移動しながらラインハルト達四人に言う。

「好きにするといい。ただし、二人とも殺すなよ。後処理が面倒だ」

「「「「わかりました。父上」」」」



 「待て!!!」

追いかけようとした陽介だったが、ナイフを二本持つラインハルトに防がれる。ラインハルトはそのまま他の三人に指示を出す。

「3、1で対処する。カリーナが1でアリシア。わかったな?」

「身内に優しいお兄さんね。その心遣いに免じないで、遠慮なくいかせてもらうわ」

カリーナはそう言い、テレーゼを拘束していたアリシアの首を掴みながら窓を破り庭園へと移動する。

「ゴホッゴホッ…あぶなかった」

ラルフが目を覚ます。テレーゼがラルフに治療魔術を行った。それを確認して、ラインハルトが言う。

「ラルフ、わかっていると思うがお前のデータはあてにするな。それと、このままでは俺は『負ける』」

「了解、兄さん」


 ラインハルトは陽介の剣を振り切り、間合いを取る。そして、陽介が少し後ずさったあとの地点に上からラルフが襲いかかる。陽介は対処しようとするが、テレーゼのマリオネットが行動範囲を狭めていた。

 目を『起動』し剣を逆手に持ちつつ、しゃがみながらマリオネットを巻き込むようにして斬り上げ。ラルフの剣とぶつかりあった。筋力的には陽介が有利なのでそのまま振り下ろす。ラルフは叩きつけられる前に受け身を取る。

 ここで始めて気づいたが、3人とも既に『起動』させていた。通りで陽介の速度についてこれるわけだろう。

「前に2、後ろに1…いや、2か!」

「流石の分析能力。やはり実験台に相応しい」

ラインハルトはそう言いながら斬りかかってくる。二本のナイフを交互に出しながらリズムを作り陽介を翻弄。急にそのリズムを崩して同時突き。

 ナイフ二本持ちの相手は始めてだったが、その動きから予測はある程度していたためなんとか一方的な展開にならないようにするのは成功。ただし、脇腹に突きを軽く食らってしまう。しかし陽介もただでは食らわない。ラインハルトの肩に剣を突き刺した。

 ラインハルトはすぐさまラルフと前後交代。陽介にとって最悪のタイミングでラルフが剣で突きを放つ。左腕の霧で勢いを減退させてもなお、深々と刺さった。

「サエキさん、まだ全力じゃないでしょ?」

ラルフがそう語りかけている途中に、テレーゼのマリオネットが陽介を掴み庭園に投げ出す。



 このままでは負ける。そう思った陽介は受け身をとりながら即座に治療。広い空間は守備範囲が広くなるかわりに、敵味方共に攻撃のレパートリーが増える。陽介にとってはあまり良くない状況と言えた。

「…ジヤヴォール、頼む」

陽介の背後に『何か』が現れる。ラインハルト達なら抵抗可能であろうが、いないよりはマシというものだった。

 ラインハルト達がやってくる。

「なるほどそれが…いいでしょう。ラルフ、テレーゼ、予定変更だ。『アレ』に触れるなよ」

「「了解」」

すぐに見破られた。かといって、引き下がるわけにはいかない。


 陽介は果敢に攻める。ラインハルトは一瞬反応が遅れ、先程と同じ位置に食らう。ラインハルトは敢えて深く刺し込ませ、同じようにナイフを突き刺す。陽介はジヤヴォールを、ラインハルトはラルフを同時に後ろから襲いかからせる。ラインハルトはナイフを離しながら片腕を犠牲にして側宙回避。陽介は裏拳で対処。ラルフはそこから蹴りを放つが、陽介の全身を使った剣の振り下ろしで逆に縦に切断された。

「うああああああああ!!!」

 叫ぶラルフに陽介は容赦なく追撃を加えようとするがテレーゼのマリオネットが庇う。陽介はテレーゼにジヤヴォールを襲わせる。しかしラインハルトが自らの片腕を犠牲にしてテレーゼを避けさせた。テレーゼはその直後に陽介の左膝を風の弾丸で撃ち抜く。陽介は立て膝をつく勢いを利用してラルフの反対足をマリオネットごと破壊。

さらに鞘で顔面を殴り気絶させる。

「…一人目!」


 テレーゼはラインハルトの『持っていかれた』腕の治療を試みるが成功しない。三度目の治療を始めたところでラインハルトが制止する。

「奴が復帰する。ありがとう」

「でも!私のために…」

「気にするな。それよりも、隙を見てラルフを頼む。あれではもう戦えまい」

「…了解」


 ラインハルトはナイフを逆手持ちして縦に切り裂き攻撃。リカルドに近いその動作は、彼よりは洗練されていなかった。なので、簡単に受け流して蹴りを入れる。こちらは紙一重で回避された。

 たとえ相手が片腕だとしても、陽介は容赦なく攻め立てる。剣だけでなく蹴りと拳を合わせた波状攻撃に、ラインハルトは次第に押されていく。ただし、止めを刺すにはいたらない。テレーゼのマリオネットがあるからだ。彼女は非常に優秀で、マリオネットを操作しながらジヤヴォールの攻撃を避け、さらにラルフを戦域から撤退させている。陽介には到底無理な芸当だった。

 陽介は、ラインハルトが反撃を仕掛けるタイミングでジヤヴォールと瞬間的に交代しテレーゼに急接近。マリオネットを手元に戻そうとした彼女の腹に剣を突き刺す。

「二人目」


 剣を横に振り抜こうとした瞬間、陽介の首にナイフが刺さる。横に振り抜く勢いのまま反撃するが、籠手でガード。さらに腹にパンチが飛んでくるが、陽介はかろうじて受け流し。膝蹴りを放つが横から来たナイフの突きで膝を破壊される。大きな隙が出来た陽介は、回し蹴りで地面に叩きつけられた。さらに剣を持つ手の甲にナイフを刺される。

 ラインハルトが言う。

「…助かった。ありがとうカリーナ」

「いえいえ、この状況を見れば確かにあの編成にも納得がいくわ。良くここまで耐えられたわね」

蹴りを入れたカリーナの服はボロボロだった。だが、ここにいるということは…。

「…アリ…シア…は」

陽介は喉からナイフを引き抜いて治療しながら喋る。

「倒した。死んでないから安心なさい。いやー、あの子すんごい強くなってた。アレ使わなきゃ負けてたわ」


 陽介は最後の力を振り絞りチョップ突きを放つが、ギリギリのところで腕を捕まれ、へし折られる。カリーナはさらに両足を破壊し、逃げることすら許さなかった。

「抵抗をやめなさい、無駄よ。アリシアというカードを私に使わせたい?」

その言葉を聞き、陽介は戦意を喪失。

 陽介の敗北である。


 その後、彼は意識を失った。








 どこか。混濁した意識の中、誰かが陽介に語りかける。

「彼女の事は忘れて、再び自由に生きなさい。でももし、それでもあなたが彼女を思い出したのなら…」







 その日、佐伯陽介は大切な記憶を失った。

 ドーモはじめまして、作者です。稚拙な作品ながらここまで読んでいただきありがとうございます。これにて第一部完結となります。陽介の人生はまだ終わりませんのでご安心を。さて、第二部の話に移りましょう。次回更新は三ヶ日を過ぎた後の1月5日になりますが、諸事情により更新速度が週一になります。ですがその分の1話分の字数は(最初の数話と一部以外は)多くなっています。なっているはずです。


 改めて作品を読み進めていただきありがとうございます。よろしければ感想等をお書きいただけるとさらに励みになりますので、よろしくお願いいたします。


 それでは、よいお年を。

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