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再審の男  作者: 藤澤トオル
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姉妹の確執

 昼前、シュタインベルク家にある男達が帰ってきた。メイドはドアがノックされたのを聞き、玄関に向かう。

「はい、どちら様で」

「ただいま帰りました」

「これは失礼しました!」

メイドはすぐにドアを開け、彼らを入りやすいようにした。若い男は、年老いた男を先に家の中へと入れる。年老いた男は感謝と挨拶の意を込めて軽く片手を挙げて中へと進む。

 メイドがドアを閉じてから年老いた男は立ち止まり、呟く。

「…懐かしき臭いがするな」




 拳を一閃。避けるのではなく受け流し。相手が引き戻す前に脇腹に拳。相手がそれを回避したのなら蹴りを放つ。脚を捕まれたのなら、あえてこちらは軸足も放して蹴り。前受け身から素早く立ち上がり相手に向き直る。

 相手が起き上がる前にチョップ突き。腕を捕まれた。蹴りで凪ぎ払い。それもガード。ならば空いている反対の拳で殴り飛ばす。相手は吹き飛んだ。速く追撃。…残念、敗北。

「あー駄目だ。あのリカルドに勝てねぇ」

 陽介はテレーゼとアリシアの協力でトレーニングをしている。目標とする相手はリカルド。

 陽介は彼に一度勝利しているが、それも相手に慈悲を与えられたうえ、全ての力を解放していなかったから。要するに、『舐めプと縛りプレイ』だったから勝てたのである。本気を出したリカルドだったなら、確実に敗北していただろう。だから、彼を目標として訓練を行っている。

「嘘でしょ?これより速いマリオネットを私は用意出来ないわよ。あなたが相対的に速く感じてしまっているだけじゃないの?」

テレーゼはトレーニング用に造り出した、現在完全に破壊されているマリオネットを回収しながらそう言った。

「そうは言ってもなぁ…。あ、あれですよ。彼の最高速度は俺の『起動』状態とほぼ同じと思っていただいて構いません」

「無理でーす!アリシアはどうなの?」

「私はリカルドの戦い見てないから…」

「あ、ごめんなさい」

「気にしないで。もうそういうのは越えたから」


 マリオネットの回収が終わった段階でテレーゼがアリシアに尋ねる。

「そういやさ、アリシアはどうなの?身体能力に異常とかはある?」

「可変だからよくわからないわ。いつもは適正値にしてるから体調とかは問題ないと思うけど」

「でも開拓者ってよくわからないもの食べるんでしょ?私だったら無理」

「慣れればいける。動物の解体とかもお手の物よ!」

 誇らしげにするアリシアにテレーゼが若干引き気味になっていると、メイドが走ってやってきた。

「どうされましたか?」

陽介の問いに、メイドは呼吸を整えてから答える。

「当主様と、ご長男様がお帰りになりました!!」



 メイドが扉をノックする。

「失礼します。お二人とテレーゼ様をつれて参りました」

中から老人らしき声がする。

「ありがとう。お前は下がっていいぞ」

メイドは扉を開け、三人に入るように促す。

「失礼します」

先頭に立っていた陽介が挨拶をしつつ入る。


 「はじめまして。まずは座りたまえ。紅茶で構わないかな?」

老人はそう言い、座らせるように促した。

 老人は最奥の上座の席に、見知らぬ男女はその手前に、さらにその手前にラルフが座り、ラルフの反対は空席となっていた。

 ラルフの反対にテレーゼが座り、残っていた2席にアリシアと陽介が座った。

 座った段階で老人が紅茶を用意させてから話始める。

「私は『ホルスト・シュタインベルク』」

「はじめまして、長男の『ラインハルト』と申します」

「長女『カリーナ』よ」

「ご丁寧にありがとうございます。『ヨースケ・サエキ』と申します」

「…『アリシア』」

「知ってる」

「カリーナ、客人の前だぞ。もっと礼儀よくしなさい」

ホルストがカリーナの態度を注意した。カリーナは臆することなく髪を弄る。ラインハルトとラルフがカリーナを睨んでいるのが陽介に見えた。


 やや不穏な空気を変えるべく、陽介が話を切り出す。

「私は構いません。それで本題に」

「私に謝るのが先じゃないの?父さん」

アリシアが苛ついた口調で陽介の言葉を遮るように言った。さらに緊迫した空気になった。陽介は天を仰ぎ見たあと、深呼吸して俯く。もはや彼にこの場の空気を変えることは出来なくなった。流れに任せるしかない。

 ホルストは口元を少し歪ませながら言う。

「なんだ、そんなことを言ってほしくて帰ってきたのか。まだ子どもだな。すこし放逐してやったら丸くなると思ったが…いやはや、悲しいものだ」

「は!?私に『こんなもの』仕込んでおいてその言い草は」

「アリシア」

カリーナがアリシアの言葉を遮った。とてつもなく空気が悪くなる。


 少しの静寂のあと、カリーナが尋ねる。

「あなたはまず私に謝るべきじゃない?忘れているなら思い出させてあげるけど?」

「私が何かしましたか?それより父さん、なぜ私をこうしたの?」

カリーナは怒りで顔を歪ませながらアリシアに近寄り胸ぐらを掴んで顔を近づける。

「舐めてんのかゴミ野郎」

「そういうあなたは『バケモノ』でしょ」

「お前…!」

「やめろ二人とも!!父と客人の前だぞ!恥ずかしくないのか!」

 カリーナが殴りかかろうとしたところをラインハルトが声で止める。カリーナは殴るのをやめ、アリシアを睨みながら席に戻る。アリシアもまた、カリーナを睨み続ける。

 ラインハルトは目頭を押さえて紅茶に口をつけてから呟く。

「…なんでお前らはいつもそうなんだ」

カリーナとアリシアはラインハルトの問いかけを無視。


 呆れたラインハルトはホルストに目配せし、ホルストは話し出す。

「大変申し訳ない。それでは、本題に移りましょう。実は、先ほどまでラルフのまとめたデータは拝見しているので概ねの事情は把握しています。その上で、あなたから何か特別に伝えたいことは?」

陽介は全てを包み隠さず話した。


 カリーナは陽介の話が終わったあと、手を叩きながら爆笑しだす。

「アハハハハハハハ!!!馬鹿じゃないの!?まあドラゴンの娘さんはいいとして、アリシアも守りたかったってこと!?ほんとに馬鹿なことしたわね!サエキさんあなた最高!!私も守ってほしいわ、妹から!ハハハハ!!あー久しぶりに大笑いしたわ。ねぇアリシア、あんたなんで『起動』しなかったの?まさか…自分を失うのが怖かったり?アハハハハハ!!!」

 今度はアリシアが立ち上がり、カリーナを殴る。

「…フフフ。なに?図星だった?あーごめんなさい、あなたとサエキさんは素晴らしい二人三脚で繋がってますね」

カリーナはなおも不敵な態度を貫く。アリシアは涙目になりながら胸ぐらを掴んで床に叩きつける。

「ヨースケに謝れ!!」

「あ、そっち?可愛い妹!!サエキさん、妹を大切にゴフッ」

アリシアはカリーナをさらに殴る。


 「…へへ。楽しくなってきたわ」

「カリーナ、やめろ」

ラインハルトが低く重い口調で言った。わずかだが、ラインハルトとカリーナ、アリシアの瞳が輝いていたのがわかった。カリーナもそれに気づいたのか、彼女はアリシアに手振りをして退かせた。

 立ち上がり、カリーナは陽介に向き直る。

「あなたの大切な方を侮辱したうえ、あなたの覚悟を笑い物にしてしまいました。大変申し訳ございませんでした」

「何度も申しているように、私は構いません。ただ、私が言えたことではありませんがアリシアとはもう少々仲良くしていただけると幸いです。話が速く進むので」

「大変失礼しました。アリシア、一時休戦」

「…はい」

 二人は静かに座り直す。


 「やはり、家族を全員集めるべきではなかったですね」

ホルストが苦笑いをしながら陽介にそう話しかける。

「お気になさらず」

「二人くらいならこうはならないんですが…」

「ラルフ兄さんと私は苦労人ポジションだからね…」

そう語るラルフとテレーゼの顔からは疲労感が見て取れた。

 そんな彼らを見ていたら、陽介は自らの兄弟がとても優しかったことを実感していく。それと同時に、アリシアがなぜ家を飛び出したのかも少し理解できた。多分、彼らには明確な『力の差』があるのだろう。それが自動的に兄弟を格付けさせてしまっている。当然ながら、末っ子であるアリシアは成熟が最も遅い。原因はそれの可能性が高い。


 しかし、これはシュタインベルク家の問題。陽介は部外者の自分が首を突っ込むべきではないと考え、触れずにホルストに尋ねる。

「それで、私はどうなのでしょうか?」

「サエキさん、あなたの力は私どものとは似て非なるものです。私では役に立てそうにありません。ですが、アリシアの方はお伝えしましょう」

「本当ですか!?ありがとうございます!」





 ホルストは気味の悪い笑顔を浮かべながら言う。

「勿論です。あなたには娘を『鍛え直した』恩がありますから」

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