その女、取り扱い注意
アリシアの部屋。ラルフが言っていたように、ほぼ物置状態であった。
「やっぱり忘れ去れてるわ。仕方ないっちゃ仕方ないけど」
「どこから片付ける?俺はどこからでも構わないが」
「じゃあ…私のベッドを救出しましょう。私が寝れない」
片付けを始めると、様々な物が見つかってきた。玩具、絵本、使わなくなった家具…玩具、そして要らなくなった服と玩具。
「玩具ばっかじゃねえか!!」
「そりゃそのうち遊ばなくなるからね。特に家は5人兄妹だから、趣味嗜好がバラバラで…」
「俺は…兄貴のお下がりばっかだったな」
「ヨースケと二人兄弟?」
「あぁ。仲は悪くなかった」
「…いいなぁ」
そう言ったアリシアの顔は、少し悲しそうだった。
扉をノックする音がした。
「どうぞー」
アリシアがそう言ったあと、メイドが数人入ってきた。
「ラルフ様に頼まれてやってきました。お邪魔でなければお手伝いさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「助かった!じゃあ、机の辺りをお願い!」
「承知しました」
片付けをしていると、若いメイドが陽介に近寄って話をしてくる。
「あの…私はアリシア様良く存じ上げていないのですが、ヨースケ様はアリシア様の旦那様でよろしいのでしょうか?」
「…違います」
「申し訳ありません!とんだ間違いを!」
「大丈夫ですよ、ラルフさんとテレーゼさんにも疑われたので。そういう風に思われるのも無理はないと思いますし」
「そ、そうですか…」
陽介が尋ねる。
「あなたは随分若いですが…もしや、アリシアが家にいない頃に雇われたんですか?」
「はい!ラルフ様にスカウトされて数年前に!アリシア様の事はお話では伺っていたんですが、直接会ったのは今日始めてで…」
「あぁ、そういうこと。そういえば、お名前を伺っていませんでしたね。失礼でなければ、教えていただけませんか?」
「『ゲルダ』と申します」
「ありがとうございます。ゲルダさん、そこに刃物落ちてますよ」
「え!?あっ!!…ありがとうございます」
「お気になさらず」
そこからさらに会話をしてわかったことだが、ゲルダの様にアリシアの事をよく知らない人は屋敷に多いことがわかった。アリシアが家を出たのはかなり速い時期だったのだろう。
数時間後、片付けは終了。ついでに部屋のレイアウトも現在のアリシアに合わせて改装された。
「みんなありがとう。私達二人だったらこんな速く終わらなかったわ」
「いえいえ。これがメイドの仕事ですので。また何かあったらお申し付けください。私どもは離れますが、丁度良い機会ですので特になければヨースケ様をお部屋にご案内いたしましょうか?」
「どーぞどーぞ。私もちょっと自室の微調整したいし」
「かしこまりました。ゲルダ、案内してやりなさい」
「かしこまりました。ヨースケ様、こちらです」
ゲルダに連れられ、客人用の部屋に案内された。客人用の部屋といっても、いつ誰が来てもいいように掃除やアメニティの整備が行き届いていた。ちょっとした高級ホテルの様である。
そこから、食事の時間等の説明をされた。
「以上で説明は終了となります。その他ご不明な点などございましたら、気兼ねなく私どもにおっしゃってください」
陽介はずっと気になっていたことを質問する。
「じゃあ早速一つあります。あなた方も魔術の研究はなさっているのですか?シュタインベルク家は魔術協会と深い関係があると伺っているので」
「いえ、していません。ただ、研究のお手伝いなどはすることがあります」
あくまでも召し使い、ということなのだろう。
それからしばらくして、食事の時間になった。どうやらアリシアと陽介に気を使ったのか、いつもよりも豪華と思われる食事を出された。
「久しぶりに妹が帰ってきたので、少し贅沢をさせました」
「それも男を連れてね」
「ありがとうございます。ありがたくいただきましょう」
陽介も一応のテーブルマナーは理解しているつもりだったが、不安だったので他の三人の動作を『学習』しつつ食べ始めた。
食事中、テレーゼがアリシアに尋ねる。
「ねぇアリシア。あなたの『目』はまだ使えるの?」
「うん。誰かの記憶と繋がるけど」
「ふーん。兄さんのはどうだっけ?」
「俺も繋がるぞ。慣れたが」
「慣れちゃまずいでしょ。ヨースケさんのは?」
「俺のは…良くわからないですね。今のところ『肉体が邪魔』と感じたことくらいで」
「んー?私達のとはちょっと違うのかもね。その『目』は後天的なもの?」
「はい」
「その差かもね。『体に馴染んでいない』から、そう感じているのかも。だから、馴染んできたらそのうち後遺症でると思うよ。覚悟しときなー?」
「お気遣いありがとうございます」
「いいっていいって!可愛い妹の大切な人なんだし!」
はっきり言葉に言われると、陽介は流石に恥ずかしい。それはアリシアも同様だった。
食後、ラルフが尋ねる。
「明日はどうしましょう?なんなら実験してみますか?あなたの『目』の限界を。その方が父が帰ってきた時に、スムーズに事が進むと思いますし」
「具体的にはどのような事をするのでしょうか?物によっては私も困難ですので」
「私が説明しよう!二種類あるんだけど、1つは『単純な身体能力の限界測定』。もう1つが『実戦的な戦闘力の測定』」
テレーゼの説明にアリシアが言う。
「2つ目は魔術協会でやった。実験動物も含めて全部倒してた」
「オッケー。じゃあ1つ目だけやろう!」
「わかりました」
そうして、その日は全員就寝した。
夜中、陽介は目を覚ます。自らの部屋の前で足音が止まったからだ。開拓中とは違い、比較的安全な場所だと分かっていても無意識に警戒してしまっている自分に笑いながら、陽介は状況を確認する。
この家の防犯設備もある程度把握したが、簡単に侵入できる者ではなかった。なんであれ、脅威は排除するまで。陽介は布団から腕をだし、咄嗟に抵抗できるようにした。
ノックなく部屋の扉が静かに開けられた。陽介に隠れて何かをしたいということなのだろう。
ゆっくり足音が近づいてくる。荷物を漁るようならば、飛び起きる。こちらに何か仕掛けるようなら、タイミングを見計らって不意をつく。
足音はまっすぐベッドに近寄り…ベッドに乗ってきた。陽介の上に馬乗り状態になる気だろう。完全に乗られる直前、陽介は目を開けて上体を起こし腹があると思われる位置に鋭く拳を打ち込む。
悶える声が聞こえた。完全に意図しないタイミングだったのだろう。陽介は微かに見える相手の首にチョップを入れてベッドの上からはたき落とす。そして、すぐに布団から出て相手が起き上がる前に顔面を掴みながら腕を拘束する。
「何をしている。お前は誰だ」
廊下から漏れる光に照らされ、襲撃犯の顔が照らされる。
その顔は見知った人物…テレーゼだった。
「あらあら。ばれちゃった」
「質問に答えろ。答えによってはアリシアの姉と言えど、全身を破壊させてもらう」
「わかったわかったわかりました!だからそれだけはやめて!これでもか弱い乙女なのよ!?」
「速く話せ」
「唾液とかの体液か、あなたを特定可能な物質を採取したかったの」
「は?」
「ほら!そういう反応するじゃん!」
「誰だってこういう反応する思うが?話を戻そう。俺に害を加えようとしたわけではないな?」
「うん」
「失礼しました」
陽介は拘束を解く。テレーゼは服に付いた埃を払いながら言う。
「痛いなぁ。腹にパンチして首にチョップ…一般人なら即死もありえるわね」
「夜中に襲ってくる奴が一般人だと?」
「もっともだわ。ハハハ!」
陽介が水を飲みながら尋ねる。
「なぜ俺の体液を?」
「好きだから」
「もう少し分かりやすく言っていただきたい」
「私の研究材料として最適だから私が飼育したい」
大きなため息をしてから、陽介は言う。
「…馬鹿なのか?」
「魔術師っていうのはみんな馬鹿なのよ!」
「体液ならやる。だからお引き取り願いたい」
「あ、そこは優しいのね。どうする?私はどんなのでも」
「唾液で構わないな?」
「あっはい助かります」
陽介はテレーゼの取り出した容器に唾液を入れる。
「これでいいでしょうか?」
「深夜にご迷惑をおかけしました。明日はよろしくお願いします」
「お手柔らかに」
テレーゼは物音を立てないように部屋を去っていった。
「…変な人だったなぁ」
「ただいまー!」
テレーゼはラルフの工房に行った。ラルフはテレーゼに気づき、作業を中止して質問する。
「どうだ?奴の物質は回収できたか?」
「えーっとね…」




