シュタインベルク家
シュタインベルク家。アリシアの実家。そこは非常に巨大な屋敷で、いくつもの棟をつなぐ通路が綺麗に整備された庭園を通り抜けるように作られている。金持ちの家、と言っては印象が悪いかもしれないが、1つの芸術作品として洗練されていると言えるだろう。
アリシアは門を開け、扉に付いている獅子を象った錠を鳴らす。
しばらくすると扉が開き、メイドらしき女性が出てくる。
「はい、どちら様でしょうか?」
「…ただいま」
扉が閉じられ、走るような足音が遠ざかっていく。
「…どういうことだ?」
「そりゃあ、久しぶりに帰ったから大騒ぎでしょ。ねぇ?」
「俺に聞くな。俺は独り暮らしの経験ないんだから」
「…嘘でしょ?それであの知識量?」
「元の世界は教育制度がしっかりしてるのさ。やる気ない奴でも、皆学校に行くからな」
「へぇ、いい世界なのね」
「…どうだろうな」
数分後、扉が開いて別な女性が出てくる。
「あら、本当にアリシアだ。にいさーん!本当にアリシアだよー!デカイよー!私よりおっぱい大きいよー!」
「姉さんやめて!」
「なに?気にしてんの?いやぁ、小生意気な妹が…だれそいつ」
アリシアの姉が陽介に指をさす。陽介は一礼してから答える。
「申し遅れました。妹さんと同職で、懇意にしていただいてもらっています。『ヨースケ・サエキ』です」
「これはご丁寧にどうも。ほとんど見ない顔立ちね。どこ出身?」
「えーっと…東の方です」
「へぇー!嫌いじゃないわ!もうちょっと身長高いと好みなんだけど!でも合格ね!」
「『アリシアの』だろ?人のものとっちゃ駄目じゃないか」
男が姉の上から顔を出してきた。彼が『にいさん』なのだろう。
「すみません、こんな入り口で。…本当にデカイな」
「おっぱいの話はいいでしょ!」
「でもデカイじゃん。テレーゼのを見ろ」
「うん。大きい」
「やめろぉ!!」
応接室に通された。アリシアの父親が帰ってくるのが2日後なので、とりあえず陽介とアリシアは先程の兄妹と会話を始める。
最初に話を始めたのは兄。
「申し遅れました。私の名前は『ラルフ』。こちらは妹の『テレーゼ』。本当はあと二人いるのですが、生憎今は外出していて。話を変えましょう。どうしても気になるのでお伺いしますが、妹とはどういう関係でしょうか?いくら同職で懇意にしているとはいえ、わざわざ家にまで連れてくるというのは…」
陽介は悩む。何からどう話していいのかわからないのだ。一から話すには長すぎる。しかし話すわけにはいかないので、かいつまんで話す。
「彼女とは通じる所があり、その関係でここまでご一緒させていただいています」
「ん?それって結」
「テレーゼ、やめておけ。わかりました、それでは彼女とはただならない関係であると判断していいですね?」
「私は構いませんが…」
アリシアの方を見る。アリシアもこちらを見ていて、目が合ってしまい気まずくなった。すぐに二人は目を反らす。
ふとラルフとテレーゼの方を伺うと、ニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「…どうされましたか?」
「大した事ではないんです。幼い頃に全てを恨むようにして家を飛び出した妹が、こんな風になったと思ったら…つい笑みがこぼれてしまいました」
「可愛いわぁ、我が妹ながら可愛いわぁ。好い人見つけたわねぇ!私に頂戴よ」
「あげません!」
「あら残念。それで、あなたはどうなの?ヨースケさんについて」
アリシアは少し悩んでから答える。
「…まあ、それなりには」
「キャー!可愛い!!」
「テレーゼ、落ち着け。大事な話を忘れていました。どういったご用件でしょうか?その…妹と添い遂げるためのご挨拶ということなら、私どももそれなりの対応を」
「違います」
陽介はキッパリと言った。アリシアの顔が少し曇った事に、陽介は気づかなかった。
ラルフは姿勢を正して尋ねる。
「では、その要件とは?」
「『これ』です」
陽介は右目を『起動』して、ラルフを見る。ラルフは少し驚いた表情をしたあと、笑いながら話す。
「面白い方だ。『ソレ』を持っている人が他にもいたのは驚きです。妹との共通点…なるほどなるほど。いやぁ面白い!!」
テレーゼが会話に割り込んでくる。
「へぇ、いい色してるじゃない。気に入ったわ」
テレーゼは笑いなら身をのりだし、陽介の首に腕を回して顔を近づけ…彼の右目を舐めた。
アリシアの拳が飛んできたが、テレーゼは楽々と避ける。
「…なにしてんの?」
「そっちこそ」
ラルフが制止に入る。
「二人ともやめろ。サエキさん、申し訳ない。妹がとんだご無礼を」
「問題ありません。少々驚きましたが」
テレーゼは陽介の横に座り、腕に抱きつきながら尋ねる。
「あなた案外度胸あるじゃない。アリシアより年上?どう?私と遊んでみない?」
「アリシアの一つ年下ですね。慎んで辞退します」
「嘘でしょ?じゃあ、妹に飽きたら私のところに来なさい。これあげる」
そう言って、テレーゼは陽介に石の様な物を渡してきた。
「これは?」
「連絡手段。魔力流し込めば話せるよ、ちなみに私が開発した」
テレーゼは立ち上がって部屋を出る。出ようとしたテレーゼにラルフが尋ねる。
「もういいのか?」
「いいのいいの!私に難しい話無理だから!寝てるから時間になったら起こして」
「自由奔放な妹で申し訳ない。姉はしっかりしているんだが…」
「5人兄妹とは伺っているのですが、どういう兄妹なのでしょうか?」
陽介の質問に、ラルフは答える。
「男が二人、女が三人ですね。私は次男なのですが、私の上に二人、下に二人です。アリシアは末ですね」
「では、外出していらっしゃるのは長男と長女ですね?」
「はい。兄は父の付き添いに、姉は…申し訳ない、私も知りません」
「お気になさらず。しかし困りましたね、私もアリシアもてっきりすぐ会えるものと思い尋ねたので」
「正直、私が家にいるのも珍しいんですよ。兄妹の必ず誰か一人は家にいるようにしているんですが。そうだ!よろしければ、我が家を案内しましょう。自分で言うのもなんですけど、広い家なので迷われる方も多いので」
「私は部屋の片付けしていい?」
アリシアがラルフに尋ねた。
「構わないが…ほぼ倉庫状態だぞ」
「うーん、じゃあやめる。案内についていく。終わったら手伝って」
「俺は忙しいから、メイドを何人か行かせる。それでは、行きましょうか」
シュタインベルク家の構造は大まかに分けて中央棟と、各人の工房兼自室棟と、住み込みで働いている人の住居棟と、倉庫に別れている。
中央棟には、応接室や食卓の他に書斎や客人用の寝室などがある。
自室棟は、各々のプライベートルームなのでほとんど見ることは出来なかったが、かなり広いスペースを与えられているようだった。
住居棟も同じく、ほとんど立ち入りは出来なかった。
倉庫は少し離れた場所にあり、庭園の整備用品やその他諸々が置かれていた。
総評すると、見た目よりもかなり機能的な造りになっている。
「いかがでしたでしょうか?もし今晩お泊まりになるようなら部屋を用意させますが」
「ありがとうございます。使わせていただきましょう」
「それでは私はこれで。何かわからないことがあれば、使用人に尋ねれば大抵の事は解決すると思いますので」
ラルフは去っていった。
アリシアが言う。
「よし!まずは私の部屋の片付け!ヨースケ、手伝いなさい」
「承知しました、お嬢様」
「やめて」
「はいごめんなさい」




