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再審の男  作者: 藤澤トオル
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魔術と魔法

 アダムは陽介とシンディに尋ねる様に話す。

「本人の許可が降りたため話すが、君達はシュタインベルク家についてどれほど知っているかな?」

「全く知りません。本人が話したがらないので、無理に聞く必要はないと考えていました」

「了解した。では、1から話させてもらおう」


 シュタインベルク家の成り立ちは不明だが、歴史にその名前が歴史に現れたのは魔術協会の創設時。主要出資者の1人として現れた。それ以来、不定期に行われる協会の会議への出席が許されている。

 シュタインベルク家もまた魔術師の一族で、協会にも属している。ただし、彼らの研究内容は異端で、『魔術によって魔術に打ち克つには』という事を念頭に置いている。その異端さから、研究の評価は魔術協会内においてあまり良いものとはいえない。

 しかし、魔術を簡易な物であるという認識の拡大に一役買ったため、それまで世論からの評価があまり良好ではなかった魔術協会のイメージアップに勤めた功績がある。

 このように、魔術協会と深い関わりを持つにも関わらず、協会内の権力闘争に全く関与しないため、上層部から気味の悪い一族だと言われている。


 「…それで、ミズ・アリシアはシュタインベルク本家5人兄妹の末の娘だ。彼女の兄や姉は、言うなれば彼女という」

「それ以上はやめてください」

アダムの言葉を遮り、アリシアがいつになく強い口調で静止する。

「これは失礼した。では、その事を避けて言おう。ミズ・アリシアの他者の記憶だが、やはり直接君の父上に尋ねるのが最適と思われる。自分の秘密をこの二人に知られるのが怖いのか?それとも、兄妹と顔を会わせるのが気まずいのかな?」

「どちらもです」


 「しかし、他者の記憶が見えるなど時空間の魔術を研究している人間なら最高の研究材料じゃないか!どうして活かさない?」

イブラハがそうアリシアに尋ねた。3人は薄々感づいていたが、このイブラハという男、研究の為に倫理観を投げ棄てることの人種だろう。だから、この質問の意味も『なぜあらゆる手段を使い自分で自分を実験しないのか』ということに違いない。そういう意味合いも考えて、アリシアは返答する。

「使う度に精神が蝕まれていくので、研究中に発狂してしまってはどうしようもないと思い、活かしていません」

「そうか…非常に残念だ。私の専門は『創造』だが、君の左目も大変興味深い。なぜ赤黒い色をして」


 アダムが唐突に話題を切り替える。イブラハにこれ以上喋らせると危険と判断したのだろう。

「そういえばミス・シンディは魔法使いだったね。専門は何かな?協会に協力している魔法使いに同系統がいるかもしれん」

「花ですね。ただ、他の魔法使いと同様に見える精霊に制約はないと思います」

「花か…。始めてだな。エリィ、今いる魔法使いは?」

アダムは秘書の『エリィ』に尋ねる。エリィは淡々と答える。

「『土』が2人、『火』が1人、『水』が1人、あと…例のアレが」

「5人か…花が近いのは『水』かな?」

「そうですね。彼らの精霊と一緒に見えることが多いです。ただ、土の精霊も協力していただくことがあるので、そちらもそれなりには」


 話についていけない陽介が尋ねる。

「あの、すみません。さっきからわかった振りをして聞いていたのですが、『鉱石』やら『火』やらってなんですか?」

アダムはにこやかに答える。

「ああ、慣れていない方には奇妙な会話だったね。魔法使いには専門というのがあるんだ。専門とは、『無条件に』力を貸してくれる精霊の事さ。普通は魔力とは違った何らかの対価や交渉を行うんだ。そういう貸し借りなしで力を貸してくれるのが専門の精霊。ちなみに、魔法使いの魔力は精霊を視るために使われるよ」

「アダム、そもそも魔術と魔法の根本的な違いから説明したほうがいいんじゃないか?多分、彼は魔法が『精霊が関連している』としか知らない」

「そうか、それでは説明しよう」


 魔術と魔法の根本は同じで『理解』である。ただし、その『何を理解するか』が違う。

 魔術における理解は『自らの起こそうとする現象への』理解。そして、その現象を起こすために自らの内にある『魔力』を使う。

 『詠唱』というのは理解した現象の確認作業である。そのため、訓練を積めば必然的にその詠唱時間は簡略化される。先に対価として多めに魔力を支払い、『後から』理解することも可能。『科学』は、魔術によってもたらせる現象や結果を魔力を用いずに再現しようとしたことから始まったと言われている。


 それに対し、魔法の理解は『起こそうとする現象に関連する世界への』理解。世界というのは、関連する現象と古くから密接な関係を持つ精霊の事である。

 魔法使いにおける『詠唱』は、精霊と交渉し、その現象を引き起こしてもらうこと。そのため、全く同一の精霊に同一の現象を引き起こしてもらう場合に詠唱は必要ない。

 精霊には大きく分けて2種類、『誰にでも見える』か『魔法使いにしか見えない』かである。ただし、魔法使いが交渉を行えば『全ての精霊が見える』と言われているが真偽は不明。

 よって、魔術と魔法の起こる結果は同じでも、過程が全く異なる。


 イブラハは説明に補足する。

「魔術師の詠唱に関しては、算数が分かりやすい例だろう。63という数字は『7を9回足した数』だが、『7+7+7+…』といちいち繰り返していては時間がかかる。だから、『7×9』とする。これが『詠唱の簡略化』。126も同様に『7+7+7+…』を『7×9×2』。無論、『21×6』でも『63×2』構わない。この場合、すぐに『63×2』が126であると分かる人と分からない人がいる。分かる人は素質があり、分からない人は他よりも訓練が必要となる」

アダムがさらに補足する。

「魔力の先払いは、同じように126を例にとると、126という解を先に提示する。そこから、『126=…』と計算する。『63×2』でもいいし『7×9×2』でもいいんだが、そこは魔術師の力量だろう」


 数学は得意でなかった陽介も、流石に算数レベルの計算は余裕であるし、バイトでも良く同じような事はしていたため理解できた。

「分かりやすい説明をありがとうございます」

「恥ずかしながら、私も良く理解せず使っていました。そんな深いものだったのですね」

「私もです」

アリシアとシンディが続けてそう言った。良くわかっていないのが自分だけでなかったことが分かり、陽介は安心した。アダムはアリシアと陽介を見ながら尋ねる。

「君達の力は理解を必要とするのかな?」

「いえ、感情と理性に任せて使用しています」

「なら、それは魔術ではないよ。理解こそが魔術の根幹なのだから」


 礼を言って立ち上がろうとした陽介達を止めながらアダムは言う。

「おっと、まだ君達にはまだ知らなければならないことがあるよ。『魔力の個人差』についてだ」


 魔力は色や16進法や特殊な図形など様々な方法で表されるが、最も一般的なのは『色彩』である。ほぼ無限にある色の組み合わせは視覚的にも日常的にも理解しやすいということらしい。もっとも、魔術協会では16進法の方が広まっているが。

 まず最初に決定されるのが『基本色』である。これは魔力を持つ人間の根幹部分にあたり、これがその人の得手不得手を決定すると言っても過言ではない。例としては、『赤』ならば炎や血統由来の力を得意とするが、風に関する力の行使は困難となる。『赤紫』ならば赤の性質に加え、紫由来の毒物や特定植物の力に対する優位を得られるが、大地に関する力も困難となってしまう。


 次に行われるのが『彩度』と『明度』である。分かりやすいのは彩度の方であろう。彩度が高ければ高いほど原色の持つ性質に近づく。ちなみに、現在のところ『完全なる原色』の人間は発見されていない。一方、明度はその人間の『正負』を表す。明度が高いほど『世界の意向』に沿い、低いほど反する。ただし、必ずしも明度の高さが良いとは限らない。言ってしまえば、高ければ高いほど世界から『束縛されている』とも言い換えられるのだ。



 その話を聞き、佐伯は尋ねずにはいられない事があった。

「私は魔術というものが使えません。ですが、今の話を聞いて少々思い当たることが出来ました。……不躾なお願いではありますが、私の魔力の色を見ていただけないでしょうか?」

アダムよりも先にイブラハが答える。

「いいじゃないか!今すぐやろう!」

イブラハの周囲に光の粒子が漂い始めた。

「『かの者 世界の理を 知らんとする者 我 世界の理を 教えんとする者 かの者の 理の色を 教えん』」

9節の詠唱であった。おそらく本当はもっと簡略化して行えるが、万が一を考慮してこの長さなのだろう。


 詠唱が終了してから数秒後、突然イブラハは大笑いしだした。アダム以外が呆気にとられる。そんな3人を見て、アダムは呆れた様に語りかけてくる。

「彼の悪い癖だ。きっと余程不思議な結果が出たのだろう。『これほど素晴らしい実験材料はない』とね」

「その通り!基本色『青碧』、彩度『47.43』、明度『10.38』!実に面白くない結果だ!それはそれでいい。問題は『2色目』だ!」

口に紅茶を運んでいるアダムが吹き出した。ハンカチで口元を拭きながらイブラハを見据える。

「ハッハッハッ!流石の魔術協会会長も驚くか!そう!移植手術を受けた者に見られる『混ざり』ではない!完全なる2色目!」

部屋中の視線がイブラハへと集まる。イブラハは深呼吸してからその視線に答える様に言う。

「……基本色『灰』、彩度『50.00』、明度『100』」


 その意味が陽介達にはわからなかったが、アダムは理解しているようだった。アリシアが尋ねる。

「それって凄いことなんですか?」

「あぁ。まず基本が灰ということは偏りを持たないということだ。しかもその値が50。完全なる中道だ。そして明度が100ということは…行使するあらゆる事が世界の意向であると判断していい。過去にもいなかったわけではないが…希有な存在だよ」


 陽介はそこで理解した。それが左腕の『ジヤヴォール』のことを言っているということを。それならば全て納得がいく。世界の理から産まれた存在であるジヤヴォールが世界の意向に逆らうことなどあるはずもないのだ。しかも、この結果から分かるようにジヤヴォールを『悪』と定めているのは陽介を代表とする人間の勝手であり、ジヤヴォールそのものに善悪など存在しないのだ。



 しかし、あくまでもそれがこの魔術協会の限界であることも察せた。陽介は立ち上がる。

「この度は本当にありがとうございました。これからの事にも活かしていけるよう努力します」

「そういってくれるとこちらとしても鼻が高いよ」

「私達と共に研究してみてはどうかな?君達は実験台としても研究者としても優秀だからな」

イブラハは唐突にこちらに提案してきた。

 陽介の答えは決まっている。

「アリシアに従います。私は彼女の飼い犬なので」

「私は辞退します。私は『開拓者』なので、『研究者』ではありません」


 シンディは少し悩んでから答える。

「…不定期に伺ってもよろしいでしょうか?」

アダムはにこやかに答える。

「勿論、構わないよ。ここにはそういう人達も多いからね」

「ありがとうございます」



 3人が退出したあと、イブラハがアダムに囁く。

「君も人が悪いなぁ。シュタインベルク家の末の娘さんの色を教えてあげれば良かったのに」

「頼まれていないのに私が勝手に視ただけだからね」

「それで、どうだった!?」

やはりイブラハの興味はそれだった。アダムは呆れるように言う。

「基本色『深紅』、彩度『78.46』、明度『0.21』」

「明度低いなぁ。世界の意向から反れすぎじゃないか?」

「それはあの目のせいだろう?」

イブラハはそれを聞いて納得し、紅茶を飲む。


 アダムは窓際に行き、空を眺める。夕暮れで赤みがかった空を鷲らしき鳥が自由に羽ばたいていた。誰かの飼っている鳥だろうか?なんにせよ、空を自由自在に翔る姿は人々に空への憧れを抱かせる代物だ。魔術とは世界の意向に沿う者が修めんとする技術である。では、世界の意向から反れる者とは。それ即ち…


「開拓者よ、汝らに幸運のあらんことを…」





 3人は、魔術協会を出て夕食を食べる。

「結局、なんもわかんなかったな」

「ごめんね。期待外れだったわ」

「私はすごく楽しかったです!お二人と知り合いにもなれましたし!魔術協会で沢山学習できそうですし!」

「知り合いというか仲間だけどな」

「シンディはどうする?私と陽介は私の家に向かうけど」

「実家に帰りますね。すでに連絡はしていますが、やはり心配していると思うので」

「了解。じゃあ、これからもよろしくね『花の魔法使い』さん」

「はい!」



 シンディと別れ、陽介とアリシアはアリシアの実家を目指す。アリシアの目、その答えは…。

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