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再審の男  作者: 藤澤トオル
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失敗作と楔

 陽介は装備を整え、『訓練場』の扉の前で待機する。事前に説明されたルールは3つ。

・殺す気で戦うこと

・4回戦

・1回の試合時間は3分間

「準備はよろしいですか?」

案内役に、促された。陽介は静かに答える。

「問題ない」

「それでは、どうぞ。お進みください」

陽介はその言葉を受け、先へと歩く。



 そこは、よく言えばコロセウムのようで、悪く言えば実験動物の隔離観察室のようだった。

 見回していると、陽介の反対側から人がやってくる。魔術師らしい服装の男だった。

 待機していると、上の方から声が聞こえてきた。

『開始の合図はこちらで行わせてもらう。勝敗はどちらかが戦闘の意思を失う、もしくは戦闘続行不能状態になったら。双方準備はいいかな?』

二人は同時に頷く。

『よろしい。…始め!!』


 その言葉の数秒後、決着がついた。魔術師の喉には、陽介の貫手が『後ろから』刺さっていた。

「喉を潰した。詠唱できるか?抵抗してもかまわないが、俺は容赦なく横に払う」

魔術師は喋れないため、陽介の肩を軽く叩いて戦闘の意志がないことをアピールした。



 「凄まじいな、聞きしに勝るとはこのことか」

アナウンスを行いながら観察も行っている部屋で、老人は呟く。

「先生、速く終了のお声を。彼が死んでしまいます」

「おお、そうだったな」


 『勝負あり!勝者、サエキ!さて、すぐに次に移ってよろしいかな?』

敗者を治療して下げさせながら、老人はそう言った。陽介は素っ気なく返す。

「問題ない」

『よろしい。次は1体多数を調べさせてもらう』

そう言うと、魔術師が3人入ってきた。

『全員、準備はいいかな?』

全員が頷く。

『…始め!!』


 最初の一人は、先程と同じように倒した。しかし、二人目以降は詠唱する時間を与えてしまう。そこで、陽介は一人目を盾にして攻撃を防ぐ。だが、同時に放たれた魔術を防げるのは一方向のみ。片方は食らわざるを得ない。

 陽介は賭けにでる。魔術師の盾を斜めにしてその場にしゃがみ、さらに剣で防御し命中する面積を出来るだけ減らした。

 この試みは成功し、片方の魔術の回避に成功し、もう片方は魔術師の盾が食らった。

 陽介は盾をどかしつつ、しゃがんだ低い姿勢のまま高速移動して二人目の足を切断する。

 そこで再び魔術師による遠距離攻撃が来るが、回避できる場所が多い状態では当たるはずもなく、陽介は難なく回避しつつ接近。そして、首根っこを掴みながら壁に叩きつけ、気絶させた。

「…こいつら、戦闘慣れしていないな。わりと雑な戦い方だったが、それでも勝てる」

『勝負あり!勝者、サエキ!素晴らしい。だが、まだ全力ではなそうだ』

「当たり前だ。まだ『ジヤヴォール』を開いてない」

『フム、君の力を侮っていたよ。では次に行こう。魔術を用いた接近戦を得意とする魔術師だ』


 三人と入れ替わって入ってきたのは、しっかりとした装備を身に付けている大柄の男。

「魔術師も接近戦を行うんだな」

「己の肉体すら把握できん者に、肉体に関連する魔術が使えるはずがない」

「ごもっとも」

『始め!』


 流石に慣れているだけあって、初撃は防がれた。そこからカウンターを当たられそうになったが、容易く受け流す。陽介にとっては、弱くはないが強敵には到底及ばない相手だった。

 拳底で顎を打ち、相手のバランス感覚を失わせる。距離を取ろうとした男の足を蹴って、姿勢を崩させる。最後の反撃、ともとれる魔術で貫通力を高めた拳も、陽介は上手く回避。

 頭を掴んで地面に叩きつけ。男が戦闘不能になったので、終了。

『勝負あり!勝者、サエキ!』

「こんな事になんの意味がある?情報収集か?」

『そう焦るな、これは非常に重要なことなのだ。具体的には、君の脅威度を測っている』

「そういうことか。次で最後だよな?」

『ああ、楽しみにしてくれ』



 他の人間に連れられて入ってきたのは、拘束具を付けられて動くことのできない男。男と言っていいのだろうか?かろうじて人のシルエットをしているが、一見した限りでは人間かどうかも怪しい。

『私達魔術協会は実験も行っているのだがね…そこの元人間は失敗作だ。君に処理を頼む』

「まて、俺はお前らの掃除屋じゃ」

『始め!』


 その合図と共に拘束具は外れ、陽介に一瞬のうちに接近し、鍵爪を振り下ろしてきた。陽介はギリギリで防御。カウンターも考えたが、相手の性質がわからない以上は余計な手をだすことは危険。

「まずは…『起動』するか」

陽介の右目が青黒く輝く。そして、失敗作の認識できない速度で後ろに回り、頭と胴体を斬り離す。

 失敗作は、慣れない手つきで頭を拾い繋げようとするが、陽介は頭に剣を突き刺す。

 そうすると、失敗作の肉体はドロドロと溶けていき、最終的には赤い水溜まりに変化した。

「終わったぞ。緩急つけたらこれか…やっぱり竜騎士団は優秀だったんだな。勝てなかったとはいえ、俺の動きに反応はしかけていたし。殺したけど」



 「素晴らしい!流石は『北欧の悪魔』だ!噂は本当だった!これならあのリカルドと痛み分けたという話にも信憑性が持てる!!」

老人は陽介の行動に興奮し、決着を告げずに近くの魔術師達に話をしている。

「先生、速く止めてください」

「お、おう。忘れていた」


 『勝負あり!勝者、サエキ!』

剣を仕舞いながら陽介は尋ねる。

「これでわかったか?『魔術の先』が」

『ああ。是非とも君とは、私個人の興味で話をしたい。無論、会長にも伝えておく。しばらく別室で待機していくれ』

最初に入った扉が開き、案内役が手招きしていた。陽介はそれに従い、歩いていった。


 移動中、アリシアとシンディと合流した。

「ヨースケさん!大丈夫だったんですか!?対戦相手を見たら、かなり高名な魔術師ばかりだったので…」

「殺してはいないから大丈夫だろう」

「あなたが無事か聞いているんです!」

「問題ない」

陽介の戦闘に関してのドライすぎる対応に、シンディは苛つきを覚えた。アリシアはそんな彼女をなだめるように言う。

「やめときなさい、戦いに関してヨースケはこういうやつだから」

「でも!…それでも、心配なんです」

「心配してくれる人がいるだけで俺は十分だよ。勝つための殺しあいじゃなくて、生きるための殺しあいが出来るようになるんだから」



 応接室で待機していたら、秘書らしき人物を連れた老人と、先程聞こえてきた声と同じ声で喋り続けている老人が入ってきた。

 喋り続けている老人は、陽介を認識するとすぐに近寄って身体を触ってきた。

「素晴らしい!これが『北欧の悪魔』の肉体か!是非とも君を解体して調べたいが…それは不味いかな?いやー!素晴らしい肉体だ!奇妙なバランスを保ってはいるが常に崩壊の危険性を持って」

「イブラハ、落ち着きなさい。申し訳ない、彼がどうしても会いたいと言っていたので連れてきてしまった。申し遅れた、私は『アダム』、この協会の会長をしている。彼が『イブラハ』」

 イブラハは、アダムに説得されて無理矢理席に座らせられる。


 全員の自己紹介を終えたタイミングで、アダムが話を始める。

「なるほど、『悪魔の楔』と『時空を越えた叫び』と『魔法使い』か…失礼ながら、三人とも魔術とは無関係に思える」

「そうですかな?私はサエキ氏が私に言った『魔術の先』という言葉通りだと思いますがね?」

イブラハは、アダムにそう疑問を投げつけた。アダムはそれを聞き、少し考えたあとに話す。

「確かに、黒魔術や時空に関連する魔術、単純な魔術の上位互換という風に考えればそれらも間違いではない」

「アダム、やはり解剖しますかな?」

「やめてくれ、私も興味深いが多分何もわからないだろう」


 二人の会話を唖然としながら聞いていた三人だったが、アリシアが話をする。

「そ、それで何か手がかりの様なものがありますでしょうか?」

二人で盛り上がっていた会話をやめ、アダムはアリシアの問いに答える。

「残念ながら、あなた方の力は現行の魔術の数次元上に位置すると仮定している。『異界の者からの力』をそのような形で受けとるなど、私は聞いたことがない」


 陽介は尋ねる。

「では、私達とは違う方法でなら力を授かった人も現時点でいらっしゃるんですね?」

「それは…」

「ん?君が殺したじゃないか」

言いよどんでいたアダムの言葉を繋げるように、イブラハはそう言った。どうやら陽介に気を使おうとしていたらしい。

「お構い無く。こちらに襲ってきた以上は排除していくだけですので」

「申し訳ない。君が最後に倒したアレが昔授かっていた元人間だ。悪魔を呼び出して契約したはいいが…彼のリソースが食い潰されてしまってね、肉体と精神を明け渡す羽目になった」

アダムの言葉にイブラハは続ける。

「そう!現状、悪魔とは『召喚』と『契約』行えない!だが!サエキ氏は『楔』を請け負っている!これは大変興味深いことだ!」

イブラハに対し、陽介は言う。

「私が『楔』になれたのは、『ジヤヴォール』消滅の危険があったからです。たとえ悪魔でも、存在が忘れ去られれば終わりですので」


 陽介の話はこれ以上進行することがないと判断し、一旦保留になった。

 アダムが言う。

「さて、次はアリシアの話に移らせてもらおう。非常にデリケートな問題なのだが、君の家の事を二人に話してもよろしいかな?」

「…どうぞ、構いません」



 アリシアの一族。その秘密は…。

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