花の魔法使い
「駄目です」
「なんでですか!?」
「私達の職業はご存知ですよね?」
「開拓者と伺っています」
「はい。当然危険が多く存在します、それこそ殺しあいになることも。失礼ながら、シンディさんにはそういった事は不向きに見えます。なので、仲間にするわけにはいきません」
シンディは陽介の説得を聞き、諦めたようだ。
アリシアはシンディに尋ねる。
「なぜ、開拓者を?魔法使いで花屋、というのも立派な職業に思えますが」
「…精霊の言っていることを、確かめたいんです」
その話は、この世界は技術が発展しているのに『なぜ、世界の全貌を知れていないのか』という話につながった。
「魔術師が『地脈を壊す恐れがある』ということで開拓に対して否定的なのはご存知ですよね?そのせいで、長い間世界は閉ざされていました」
「開拓者という職業も、比較的新しい職業ですもんね。それまではダンジョンへ向かったり、魔物を倒したりする冒険者の一部と認識されていた」
「はい。ですので、今も魔術師達は開拓者を嫌っています」
話の途中で、陽介は気づく。今、自分たちが行こうとしている場所に。
「おいアリシア、俺達がこれから向かおうとしている場所は?」
「魔術協会」
「あなた達、死にに行くんですか!?最高位の魔術師が総動員しますよ!?」
「…シンディさん、ありがとうございます。覚悟できました」
「それでも行くんですね…」
「行かないわけにはいかないので」
シンディは咳払いをしてから言う。
「話を戻しましょう。先程述べた魔術師の意見は、未だ高齢者層と伝統を重んじる層が根強い支持をしています。ところが、彼らよりも古くからこの世界に住む精霊達はこう言います。『世界を広げ、地脈を確定させろ。それが世界の為になる』と」
疑問に思ったアリシアは尋ねる。
「むしろ、開拓は世界の自然状態を破壊する恐れがあるのでは?私は精霊を知らないのでよくわかりませんが」
「精霊は、『大衆に晒されることを嫌います』が、同時に『忘れられることも嫌います』。なので、魔法使いという人々がいます。ですが、このまま世界が閉ざされたままでは魔法使いが消え失せる可能性も充分ありうる。だから、全滅の危機を回避しようとしているんです」
「人類は、たとえ自分で自分の首を絞めても絞め殺すところまではいかない、と精霊は判断しているのですね?」
シンディは頷く。
陽介は元の世界の事を思い出す。確かに、『環境保全』なんていう事が頻繁に起こり始めたのも異様な自然破壊活動とも言える第二次世界対戦よりも後からだった。ある意味、人類が自己防衛を始めたと言えるだろう。
それをこの世界では把握している者達がいる、ということだろうか。
アリシアはシンディに提案する。
「じゃあ、こうしましょう。私達の為にだけでなく、『あなたの為にも』開拓をします。なので、私達が既存の土地にいる時は、色々と協力してほしいです」
シンディの顔が明るくなる。
「ありがとうございます!!私の家の住所を教えますね!工房にもなっているので、基本的に転居はありませんし!」
シンディは紙に住所を書いて渡した。受け取ったアリシアが早速提案する。
「ありがとう、じゃあまずは私達と一緒に魔術協会に行きましょう!」
「はい!…え?」
そこからの移動はスムーズだった。海を渡り、『大ブリタニア王国』の首都『ロンディミニュオン』にたどり着いた。
大ブリタニア王国は、この世界で最も繁栄している国だ。最近確認された西の新大陸発見にも、この国の技術が関連していると聞いた。
そんな場所にある『魔術協会本部』は、例に漏れず巨大で荘厳さで満ちていた。
不安になった陽介はアリシアに尋ねる。
「その…あるのか?アテは」
「ある!私の左目とヨースケの左腕を見せる!」
「それって、魔法使いよりなんじゃ?」
シンディには二人の秘密を話しておいた。その時の反応は薄かったが、今の反応を見る限りやはり魔術師に見せるものではないのだろう。
「大丈夫大丈夫!行きましょう!」
アリシアが一人で受け付けに行った。その間、陽介とシンディは二人きりになったので少し会話をすることにした。
「なぁ、シンディ。精霊が見えて困ったことってあるのか?系統は違うが、同じ様に人には無いものを持っている人間として聞いておきたい」
「そうですね…昔はありました。それこそ、悪意をもった精霊に付け狙われることも。私の両親は魔法使いではなかったんですが、私の体質には理解を示してくれて。かなり楽をさせてもらいました」
「じゃあ、花屋は両親と一緒に?」
「ええ。工房の作成と交換で。ヨースケさんのご両親はどうだったんですか?」
「…まあ、『いい人』だよ。ただ、俺が先に死ぬような『親不孝者』だったのは申し訳ないと思っている」
少しの沈黙のあと、シンディは尋ねる。
「もし、私があなたを元の世界に送り返すことができたとしたら、あなたはどうしたいですか?」
「…そうだなぁ、アリシア次第だ。彼女が行ってもいいというなら行くだろうし、彼女がこの世界でまだ生きていたいというならこの世界で頑張るさ」
「フフフ、本当にお二人は仲がいいんですね」
「そういう相手、シンディにはいないのか?」
「ええ。魔法使いなので」
そう笑いながら言うシンディの顔は、どこか寂しそうに見えた。
そうしていると、アリシアが戻ってきた。陽介が尋ねる。
「どうだった?」
「最高に最悪ね」
「どういうことですか?」
「簡単に言えば、話を受けてくれるけどまずは高位魔術師達と競ってみて、どのくらいの力なのかを確かめろって」
「「は?」」
「いやいやいや!!わかってるのか!?『ジヤヴォール』は誰彼構わず『どこか』に引きずり込むぞ!?」
陽介は抵抗する。自分の身を心配しているのではない、『消える可能性があるのを承知しているのか』ということを心配している。
「全部説明しましたー!はい、頑張ってね!殺し放題よ!」
「だから、『最高に最悪』なんですね…」
美味しい話には裏がある。人間性の維持はできるのか…?




