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再審の男  作者: 藤澤トオル
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真実

 再び現場。遺体と取り出された臓器はすでに運ばれて検証されている。

 魔術による鑑定が行えるというのは、陽介のいる世界よりも優れている点かもしれない。なぜなら、『遺体に傷をつけずに』原因を調査出来るからだ。


 刑事が話す。

「しかし、複数犯を考慮すると全員該当してしまうな。運転手二人は鍵を別な犯人に渡せばいい」

「車掌は言わずもがな、開けて閉めるだけでいい。モルガンさんも同じ」

「ミス・シンディは無理だろうね。『精霊』が私怨に力を貸すとも思えない。仮に魔術が使えたとしても、魔法使いなら慣れていないだろうし。時間がかかる」


 疑問に思った陽介が口を開く。

「え、じゃあ実行犯は友人で確定していいんですか?」

「妥当だろう。ただ、このトリックを解明しなければ彼女の逮捕も不可能だろう。彼女は『開けられない』のだから」

「あと、凶器よね。なんだかんだ言って発見されてないわ」

「それと、内臓の意味だな」

「…調べるしかありませんね」


 友人の女性をアリシアが、被害者を背丈が近いシャルルが演じて確かめる。そこでわかった点がいくつかあった。

・開けた直後に刺そうとした場合、用を足しているなら避けられないが、手洗い中なら一撃は不可能。

・壁の傷の位置から判断して、開けてからすぐに乱闘になったわけではない。

・床などに付着している血液は多目に見ても一人分。被害者の者である。

・殺してから内臓を摘出されている。そうでなければ、的確に抜き出すことは不可能。


 シャルルが笑いながら言う。

「やはり、摘出された内臓が鍵だね。なぜ『この臓器なのか』」

「あとは、接点だな。それが一番動機になる」

 議論が難航するなか、アリシアが口を開く。

「…お腹空きません?」

「確かに。頭が働かないのはそのせいかも知れない」

「殺人現場の横で食事かぁ…」



 食事を取ったあと、摘出された内臓について会話する。最初に口を開いたのはシャルル。

「内臓について思いついたことを言っていこう。私は、何かしらのメッセージであると捉える。ただ、連続殺人を示唆するものではない」

「それは同意見だ。今まで担当した事件でも無闇に内臓を取り出したという話はない。それこそ猟奇殺人だ」

「私は…うーん。犯人かその協力者が肝臓に異常を持っていたとか?」

「あり得る話だ。だが、それだとしたら肝臓は持ち去るはず」


 シャルルが尋ねる。

「ミズ・アリシアはどう思うかな?」

「…逆、なんじゃないでしょうか」

「と、言うと?」

「犯人や協力者の肝臓に異常があったのではなく、被害者の肝臓に異常があった」

刑事は被害者の状態を確認したあと、言う。

「いや、被害者の肝臓に異常はない」

「もともと異常があって、取り除いて『臓器移植』を受けた。そして、それが犯人等の関係者の臓器だった」

「それを傷つけるのは忍びないので、肝臓だけ取り除いた、と?」

アリシアは刑事の質問に頷く。


 刑事は立ち上がりながら言う。

「すぐに確認を取らせましょう。暫しの間離れさせていただきます」

「ありがとうございます」

刑事は部屋を退出し、他の警官に指示をだす。


 「さて。ミズ・アリシアの推理の合否を測定している間に我々は別な物の推理を行おう」

「凶器と、返り血ですね?」

「ああ。死体とはいえ血液が付着しないわけではないからね」

 再び現場検証。どうやっても返り血はかかってしまうようだった。また、血痕から犯人は正面から摘出したことも解る。


 暫く考えていると、シャルルが嬉しそうに呟いた。

「…そうかそうか。それなら出来る。全く問題はない。魔術も必要ない」

「何かわかったのですか?」

「ああ。でも本当に臓器提供を受けていたのかわからない以上は憶測でしかないから、話さないよ。混乱させるわけにはいかない」

「こいつ…」

「ハッハッハッ、探偵とはそういうものさ。推理を披露するのはここ一番という時だけだよ。あと、もう少し協力してくれないかな?」

シャルルの顔は嬉々として輝いていた。


 数十分後、刑事が3人の前に行き、話を始める。

「まず臓器のことからお話しましょう。アリシアさんの推理通り、被害者のレオポルドさんには臓器提供の経験がありました。当然『肝臓』です。そして、その提供者はすでに亡くなっております。ここからが問題です。その提供者と関連する容疑者は二人。『ベンジャミン・ポートマン車掌』と『モルガン・フェレ』です」



 刑事が話したのは次のようなことだった。

 レオポルドは生まれつき肝臓が弱かったが、医者には治療が不可能と言われる。しかし、医者の提案により、『魔術師による臓器交換』を受け入れる。その魔術師というのが『モルガン』。

 臓器交換はこの世界の医学では不可能だが、魔術師ならば可能であった。しかし、臓器というのは簡単には手に入らない。大抵は交換希望者に持参してもらう必要があった。今回も例に漏れず、レオポルドは臓器を入手する。


 その手段は不明であったが、移植と近い時期に不可思議な殺人事件が起きていた。『肝臓』が抜き取られている水死体が発見されたのだ。その被害者というのが『ベンジャミンの弟』。水死体のため、魔術などを用いて痕跡を辿っても途切れてしまい、結局犯人はわからず仕舞いで終わっていた。



 刑事が話終えたあと、シャルルが言う。

「ふむ、それならば私の推理も合っていそうだね。皆を集めてくれ」

「おっ、よく聞く台詞」



 全員が集まったのは事故のあった車両。集まったのを確認してからシャルルは話し出す。

「それでは、稚拙ながら私の推理を披露させてもらう。結論から言うと、犯人は一人。協力者が二人」

少しざわついたが、刑事が静止させる。

「続けさせてもらうよ。被害者のレオポルドなんだが、どうやら臓器提供を受けていた。その臓器は今回摘出されていた『肝臓』。これが事の発端さ」


 先程刑事から説明された事をみんなに説明したあと、シャルルは続ける。

「これが動機になった。ベンジャミンはずっと弟を殺した犯人を探していたのだろう。その過程で肝臓の臓器提供という推理にたどり着き、モルガンと知り合った。臓器提供の回数は少なく、そのほとんどが特定可能だからね。それからベンジャミンはレオポルドの身元を徹底的に調べあげ、彼の知り合いに協力を求めた。当然、知らずとはいえ不適切な臓器提供に加担したモルガンも脅してね。続いてトリックに移ろう」


 「まず念頭に置いてほしいのは『レオポルドは臓器交換されている』こと。そして、『それを行った魔術師が近くにいる』こと。さらに、条件として『レオポルドの動きを封じる』必要がある。臓器交換をする魔術師は、その臓器と交換を行った人物の状態を全て把握しているといっても過言ではない。だから、『体調を崩させる方法も知っている』。すれ違った時にでも何かを行ったのだろうが、私は魔術師ではないからその辺りはよく知らない。これによって、被害者をトイレに籠らせる。こうすればある程度抵抗されてもほぼ問題はない。籠らせたあとは、マスターキーを持つベンジャミンが頃合いを見計らってトイレの扉を解錠。なに食わぬ顔でその場を去りつつ、友人に連絡。車掌は歩き回っているのだから、乗客に声をかけてもなんら疑問を抱かれないだろう。続いて殺害方法」


 ベンジャミンが抗議する。

「待ってくれ!いくら体調が悪かったとはいえ、突然トイレの鍵が開いたら気づくだろ!そこはどう説明するんだ!」

シャルルはパイプを吸ってから答える。

「いい質問だ。私を含め3人で試してみたが、みんな気づいた。ところが、その時不幸な事に列車は不自然な減速をしてしまっていた。トイレは閉鎖的な空間だ、感覚は研ぎ澄まされやすい。当然ながら目の前の事象よりも減速に気をとられてしまった。それこそ、『襲われるのではないか』とね」

ベンジャミンは沈黙する。


 満足そうにシャルルは続ける。

「続いて殺害方法といこうか。本当は刃物で一刺し、したかったのだが、今度は被害者に幸運がやってくる。…『加速』したんだ、不自然に。今度はそれに犯人が気をとられる。その隙に被害者は抵抗し、失敗してしまう。だが、被害者は彼女をどうやって処理するべきかを考えてしまう。それが被害者の運命を分けた。犯人は必死の思いで首を絞め…被害者は死亡。約束通り刃物で肝臓を摘出。摘出時の返り血は上に何かを羽織って誤魔化す。車掌は見回りといいつつ『見張り』を行った。頃合いを見計らって扉を開け、友人を席に返す。そこで友人は凶器を車掌に渡す。その後適当なタイミングで声をかけて、今まさに発見したように振る舞い、友人は返り血を隠すために抱きつけば…以上。最後に凶器だが、まだ発見されていないことを省みるに車掌が移動時に投げ捨てたのだろう。列車間の移動を行っている車掌だから、別段怪しまれることでもないからね」



 名前を上げられた三人のうち、モルガン以外は下をうつむき、モルガンは笑っていた。

 刑事が三人に尋ねる。

「…ご同行願えますね?」

モルガンが返答する。

「私の罪状は?殺人関与?違うわね。私が彼に渡したのは体調を崩す薬なんかじゃなく、『痛み止め』よ。服用法も説明したわ」

「わかりました。しかし、事情は伺います」

三人は歩いていった。

 そんな彼らの背中に、シンディは言う。

「レオポルドさん、悔やんでいますよ。殺したこと。彼が店に来たとき、言っていました。『自分のわがままで困らせてしまった人が大勢いる。謝罪にふさわしい花を選んでくれ』って」


 その言葉は、二人には遅すぎた言葉であった。





 「いやぁ、たまには大勢で考えてみるものだね」

「ほとんどあなたがやりましたけどね」

「でも、楽しかっただろう?」

「ええ」

「それならよかった。私はこれで」

シャルルはそういってそそくさと消えていった。


 暫く呆然としていると、シンディが陽介とアリシアに声をかける。

「…あの、お話よろしいでしょうか?」

「構いませんが、なにか?」

「私を…私を仲間に入れてください!」


 花の魔法使いの申し出。その真意はいかに?

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