事情聴取〈2〉
個別に行われる事情聴取。最初はアレクセイから。
被害者との交友関係も把握している刑事が質問する。
「アレクセイさん、あなたはどうやら被害者の男性と同郷らしいですね。何か彼と事情のもつれがあったりしたんじゃないですか?」
アレクセイは穏やかに笑いながら返答する。
「まさか。レオポルドさん?でしたっけ。あのような人と友人であったなら、私は別な職に就いていますよ。彼の名前も始めて知りましたし。あ、噂では聞いていました。凄いお金持ちが近所に住んでいると」
彼の主張は何ら矛盾しない。事実、レオポルドは『一等車』に乗っていたので、彼が金持ちということは理解できる。
しかし、刑事は敢えて踏み込んで聞いてみる。
「そんなお金持ちが羨ましく…刺し殺した。なんてことは?」
「それなら、アレクセイさんでなくてもいいはずですよ。それこそ、『誰でもいい』はず」
「確かにそうですね。これは失敬。お二人から質問はありますか?」
刑事が陽介とアリシアに話を振ってきた。
「じゃあ私から。石炭をボイラーに入れるとき、どのくらいすすが付着しますか?」
陽介の質問に少し考えてからアレクセイは答える。
「そうですね…石炭を落とさなければ『ほとんど着きません』。ただし、『持ってくるときにはかなり付着します』」
「ありがとうございます。こちらからは以上です」
次はクルト。
「クルトさん、あなた…嘘をついていますよね?」
刑事はいきなり直線的な話を振った。陽介とアリシアは思わず刑事の顔を見る。彼の顔には何かありげだったので、2人は信頼することにした。
「な、なんですか急に!嘘なんてついてません!」
動揺するクルトをなだめながら、刑事は言う。
「なにもあなたを犯人と決めつけているのではありません。ただ、犯人を庇っているような状況になっていたとしたら…あなたも同罪、かも?」
「そ、それは…申し訳ありません、隠していたことがあります」
「お話して、いただけますね?」
クルトが話したのは、事故発生よりも前のこと。彼が制御を担当している時、彼は不幸にも社員証を落としてしまった。それもボイラーの付近に。慌てた彼は燃料を投下させずに捜索。発見には成功したが、列車の到着を遅らせる原因となった。
「…社員証無くしたなんて事がバレたら退職は免れないし、かといってそのままにしていても駄目だし…すみませんでした」
「あなたが到着を遅らせたことで、助かるかもしれなかった命は失われました。しかし、結果は変わらなかったのかもしれません。もう隠し事はありませんね?」
刑事の言葉にクルトは力なく頷いた。
これで減速した謎は理解できた。クルトが嘘をついていない様子と、不慮の事故ということを考えると、殺人とは関係ないだろう。
刑事は二人に確認する。今度はアリシアが質問した。
「事故発生当時、あなたは休憩中とのことでしたが、普段と違って異常はありましたか?なんでも構いません」
「そうですね…強いてあげるなら、普段よりも速度が速いように感じました。ただ、速度は燃料の投下量に依存するのでいつも一定とはいきませんけど。でもアレクセイがそんなミスをするのかなぁ?」
「アレクセイさんはこのお仕事の経験が豊富なんですか?」
クルトは嬉しそうに話す。
「えぇ!ベテランですよ!私なんか一緒に仕事をしていただけるだけで光栄ですから!」
そうして、クルトへの質問は終了した。
刑事はクルトな部屋を出たあと、二人に尋ねる。
「どうですか?何か掴めますか?」
陽介は『高速学習』したプロファイリング知識を思い出しながら考える。
「クルトさんは無関係でしょう。これ以上何かを隠していてもさらに罪を重くするだけですし。自らの職が失われる危険を考えている人間が殺人、ないしそれに加担なんてことは到底できない」
アリシアがふざけて質問する。
「演技、という可能性は?」
刑事と陽介は同時に言う。
「「それはない」」
「はいすみませんでした」
車掌。
刑事は質問する。
「あなたは第一発見者ですが、何か気になった点はありますか?」
「やはり、取り出された内臓ですね。その…怖いですよ。あれって、何かメッセージがあるんでしょう?」
「それはわかりません。私からは他にありませんが、お二人からは?」
「あ、じゃあ僕から」
陽介が先に質問をする。
「車内を見回っていたということですが、事件のあったトイレの前も何度も通りましたよね?それ以前に気づくことはなかったのですか?」
「なかったですね。やはり閉じられているトイレなんて珍しいことではありませんし、臭いが漏れてたとしてもノックくらいです」
「ありがとうございます」
次はアリシアが質問する。
「それでは私からも。トイレの構造は完全に把握していますか?」
「一応はしています。個別に手洗いが備え付けられているタイプでしたよね。扉は引き戸の」
「その通りです。ありがとうございました」
次はモルガン。
「あなたは寝ていた、との事ですがそれを証明できる人はいない。ましてや、あなたの使い魔である以上使い魔に嘘を言わせることも出来る。そうですね?」
「ええ。でも、私は犯人とはなんの接点もないでしょう?というか、私だったらもっと上手く殺すわ」
「と、言うと?」
「偽装して操って、席に戻させてから死体に戻すことも可能よ」
彼女の言っていることはもっともだった。魔術師であるなら『こんな殺しはしない』のだ。
また、被害者と犯人が争っていることから相手を完封できる力を持ちうる魔術師は考えにくい。
陽介は被害者のプロフィールを確認する。彼に魔術の素養はあるが、日常が少し便利になる程度で極めようとしているものではなかった。彼女は、違う。
その後も特に質問はなく終わった。
シャルルへの質問はないので次が最後、シンディだ。
「実は、私はあなたを最も疑っています」
刑事は率直に言った。
「そんな!違いますよ!凶器を持っているからですか!?」
「まあ、そんなところです。色々と条件がそろっている。被害者のレオポルドさんはこの列車に乗る数日前に、あなたの花屋を訪ねている。そこで、何か言われたのでは?」
「それはありえないね!」
そういって入ってきたのはシャルルだ。
「…なぜかな?」
刑事は不服そうに尋ねる。意気揚々とシャルルは答えた。
「彼女の本職は花屋ではない。花屋をやっているのは、『本職に都合がいいから』だろう?」
「…それは本当かな?」
うつむいているシンディに刑事は優しく尋ねる。
シンディは涙目になりながら答えた。
「誰にも…誰にも言わないでください」
「約束しよう」
「私、幼いころから『精霊』が見えて…」
全員が察した。
この世界で使われるのは大半が『魔術』。それに対し、この世ならざる者達の力を借りて科学を超えんとする力。
「…私、『魔法使い』なんです。本を見ていたというのも嘘です。精霊と会話していました」
しばらくの沈黙のあと、陽介はシャルルに言う。
「彼女を魔法使いと見抜いていましたか?」
少し焦った様子でシャルルは答える。
「いや。私が予想していたのは『花関連の芸術家』だ。彼女が向かおうとしていた所では確かに様々な花が集まるが、メインは『庭園作成』と『インテリア』だ。花屋の内装にしてはいささか豪華すぎる、と思っていたが」
「…まさか、『精霊の集めやすい場所』を探すのが目的とはね。いやー面白い人、そりゃ園芸用品持ち歩くわ。『精霊と話をしながら』考えなきゃいけないんだもんね」
少し落ち着いてから陽介が聞く。
「じゃあ、事件発生時に加速してたのは?」
「…はい。精霊さんとお話していたら盛り上がってしまって。つい『速く着かないかなー』って言ったら…加速しました」
「かわいいなぁ!!」
「あ?」
「はいごめんなさい」
悲しそうな顔をしてシンディは聞く。
「これって…営業妨害ですよね?もしかして、あれのせいで死んでしまったのでは!?」
「ご心配なく。その…元々遅れていたので、丁度良くなったのでは?」
シンディの部屋を出て、四人は会議をする。
「魔法使い、いましたね」
「流石に魔法使いを容疑者にしたのは私も始めてです」
「いやあ、推理を外してしまった。これでは探偵失格だ」
「しかし、皆動機がありませんね」
沈黙のあと、シャルルが呟く。
「一人による犯行ではない?」
全員が硬直した。完全に見落としていた。
「現場検証をやり直しましょう」
一行は現場へと向かう。




