事情聴取〈1〉
現場検証。陽介はそれに参加せず、過去の捜査履歴や捜査方法などを見せられている。代わりにアリシアが参加し、情報を集める。
先程紛れて見たときよりも詳細な情報が入手できた。
事件は列車内にあるトイレの個室空間で発生した。被害者は男性で、備え付けの手洗いの横にうなだれる様にして死んでいた。服装は一般的な旅行者の服装で、詳細な身元は現在確認中。判明しているのは、『名前』と『行き先』。『レオポルド・ベルモンド』で行き先は『フランクス共和国の首都』。
犯人ともみ合ったような形跡が至るところに見られ、その中に刃物の様な跡もあることから、恐らく犯人はなんらかの刃物で殺害を試みようとしたと思われる。
外傷は多いが、直接の死因は『絞殺』。このことから、犯人は一度刃物を落としたか奪われた可能性が高く、それによって乱闘になったと考えられる。
最大の謎は、丁寧に摘出されている『肝臓』。連続殺人を示唆しているが別な意味があるとも考えられ、犯人の動機に関連があるのではないかと言われている。
状況を一通り確認してからアリシアは警察官に質問する。
「トイレ自体の機能と、それに伴う結果はどうですか?」
「トイレには鍵がかけてあったが、ピッキングの痕跡はない。特殊な鍵ではないことから『解錠』の魔術が使える人間か、『鍵屋系』スキルを所持している人間、あとはマスターキーを持つ人間だろう。トイレに窓はないから、逃げ道はここしかないし」
完全な密室にはなり得ないが、スキルと魔術に関して絞ることが出来たのは大きいだろう。
残された人達からさらに『能力鑑定』を行い、絞られたのは6人。運転手二人と車掌と男性一人と女性二人。陽介の『高速学習』については、備考欄に記入が見られなかったため解放された。ちなみに、その男性とはシャルルである。
「ハッハッハッ。まさか私も疑われる側に入ってしまうとは!面白いこともあったものだ」
「というか、当然ですよね。探偵には必須技能でしょう?」
「うむ。確かにごもっともだ」
『学習』を終えた陽介も混じり、容疑者達に質問をしていく。
「それじゃあ、運転手の方々からお名前と当時の状況の説明をお願いします」
刑事のそう言った言葉を聞き、運転手の年長の方が話し出す。
「私の名前は『アレクセイ・チェルチェソフ』。関連する魔術やスキルはしていませんが、列車内で3人だけが持つマスターキーを所持しています。運転は私ともう一人の交代で作業をしているのですが、発生時は私の番でしたのでずっと制御に付きっきりでしたよ。もう一人もそんなに動ける範囲は広くないので、事故現場まで向かったとすれば目撃証言があるはずです」
次に話し出したのは、紹介にあったもう一人。
「運転手の『クルト・デュッケ』です。私もマスターキーを所持していますが、アレクセイさんとは違い加えて『解錠』魔術を所持しています。使用経験は乏しいので、完全な解錠をするには時間がかかります。説明にあった通り非番だったので、少し離れてタバコを吸ったあとに水分補給をしていました。そのあとは...景色を眺めていましたね。ただ、客車を汚してはいけないと思っていたので、中には入っていません」
刑事が質問する。
「失礼ながら、なぜ解錠魔術を?あまり必要なご職業には見えないのですが」
「実は、幼い頃に兄にふざけて地下に閉じ込められてしまったことがあったんです。そのトラウマで学びました。まあ、その後はそのような経験もなく、ちょっと珍しい特技みたいな扱いです」
「ありがとうございます。それでは、次の方どうぞ」
話し出したのは車掌。
「車掌の『ベンジャミン・ポートマン』です。叔父が『鍵師』で、彼とは仲が良いので、時折遊びに行っていました。そのため、私もその技術をある程度は身に付けています。『解錠』スキルはDランクです。また、同じようにマスターキーを所持しています。事故発生時は、列車内の忘れ物点検と安全確認、体調の優れないお客様がいないかの確認のために車内を見回っていました。一定の箇所に留まっていることは少なかったので、目撃者は多いはずですよ」
刑事が質問する。
「あなたが被害者のトイレを解錠した、間違いありませんね?」
「ええ、被害者の友人の方から『1時間ほど前にトイレに行ったきり、戻ってこないので確認してほしい』と言われたのでマスターキーを用いて解錠しました。その様子はご友人も目撃なさっているはずです」
刑事が別な警察官に確認したあと、言う。
「ありがとうございます。なるほど、ご友人と共に開けてみたら中で倒れていたと」
「間違いありません。それを見てご友人の方が悲鳴を上げて、という流れです」
次の人物は女性。
「『モルガン・フェレ』よ。職業は『魔術師』、ちなみに中位。だから特殊な鍵でなければ『解錠』魔術も3節以内で可能よ。それで、当時の話だっけ?研究の疲れで寝ていたから、よく覚えていないわ。目撃者も少ないんじゃない?でも、『使い魔』を私の周りで警戒させていたから私に対する異常はなかったことを証明できるわ」
恒例となった刑事の質問が行われる。
「『使い魔』?それはどのような使い魔ですか?」
「んー、いつもは鳥だけど...車内だから人形ね。これよ」
そう言って、モルガンは子供がだき抱えるほどの大きさの人形を見せてきた。
「名前は『ジェシカ』。森で死にかけていた亜人の魂が宿ってるわ。助ける代わりに使い魔にさせたの。喋れないけど、念話による会話は可能よ。喋るように言ってみる?」
「いえ、結構です」
シャルルを除けば、最後の容疑者だ。
「...『シンディ・バーズリー』です。職業は...花屋。他国の花を仕入れるためにこの列車に乗っていました。それで、発生当時何をしていたかですよね?えーっと...本。本を読んでいました!花の本ですね!証明できる人は...いません。ごめんなさい...友人とは現地で合流する予定だったので」
刑事の質問の時間。
「花屋、ということですが他に花に関する道具を所持していますか?」
「はい。剪定バサミとグローブ、あとはエプロン...ですかね」
「最後は私かな、『シャルル・ハロルズ』だ。職業は探偵。事件発生当時は」
「君にはすでに事情を聞いている。聞く必要は」
「私は聞きたいなー?」
アリシアが口を開く。犯人として疑っているわけではなく、シャルル本人の情報を手に入れるためだ。
「では、話させていただこう。事件発生当時、私はパイプを吸うために列車間にある外へ出ていたよ。素晴らしい天気であったので、そのまま風を浴びていたよ。まあ、寒くなったので途中で席に戻ったが。それからしばらくしたら、事件が事件が起きた」
刑事はすでにやったのか、質問はしなかった。陽介が質問をする。
「私個人の感性になってしまうのですが、あなたが移動したような感覚を私は感じませんでした。そのことについて何かありますか?」
シャルルは待っていたとばかりに答える。
「それはね、私の癖なんだ。これはスキルには載らないよ、なんたって癖だからね!私は探偵だろう?だから、当然浮気調査や対象のストーキングなども行う。そういう生活をしていたら、いつのまにか気配を消して歩き回るのが止められなくなってしまって!いやぁ、楽しいよ、私の助手はいつも驚いてくれるからね!」
「…あ、はい。以上です」
アリシアも質問はなかった。
それを確認してから、刑事は全員に話す。
「それでは、個別にお話を伺っていきますのでそれぞれ別室に待機していてください」
容疑者達は、警官に引き連れられて散っていく。
二人残った陽介とアリシア。アリシアは陽介に尋ねる。
「どう?犯人の予想含めて」
「ん?あぁ。まず最初の二人は不可能だ。俺は現場を直接見てないからなんとも言えないが、どちらかが犯人なら『すす』がこびりつくはず。拭いたとしても、拭き跡が残るだろ。探偵は...ないな。経歴を見せてもらったけど、それこそ『ホームズ』とか『名探偵なんとか』みたいな功績だったよ」
「誰それ、友達?」
「友達だったなら俺は死んでる。元いた世界の...有名な探偵だよ。話を戻そう、結論から言うと、本当に疑うべきは3人。車掌と...あのデカい人と花のいい香りがした人。俺は花屋の方がいいな、かわいい」
アリシアは陽介の顔面を殴ったあと、笑いながら胸ぐらを掴んで持ち上げる。
「失敬、ゴミがついてるからはたいてはげましたわよ。おや?こんな人の形をしたゴミは久し振りに見ましたわ!速く捨てなければ!」
「...ごめんなさい、許して」
下ろしながらアリシアは言う
「まったく!私だって...一応そういうのは気を使ってるんだけど...」
「あ?いつも一緒にいるからよくわかんねぇの」
「じゃあむしろ気づけ鈍感野郎」
未だ全貌掴めぬ殺人犯。先へ進むのは...いつだ。




