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再審の男  作者: 藤澤トオル
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列車内化粧室殺人事件

魔術協会は、元世界でいう『ロンドン』にある。たしかに、『それっぽい』場所と言える。

二人が滞在している場所からは最速でも数日かかる。


これは、その途中での出来事。



準備と資料作成を終了し、二人は協会最寄り駅までの鉄道に乗り込む。

出発してから、陽介は『高速学習』を始める。調べるのは...竜の生態。イーリスにはもう一度会わねばならない、約束したのだから。

アリシアは、睡眠をとる。彼女なりの『休息とは違う意味のあること』なのらしいが、陽介にはわからない。


3駅ほど進んだあと、それは起こった。


鉄道の勢いがゆっくりとだが遅くなっていく。こんなところに駅などあっただろうか?陽介は路線図を見て確認するが、存在しない。

しかし、自然災害や鉄道に不満を持つ者も多い。陽介は気にせずに学習を再開する。

そして、自然に速度は戻っていった。


その後、今度は鉄道が加速しだし、車内が騒々しくなる。暴動だろうか?万が一を考え、アリシアを起こす。

「アリシア、起きろ。様子が変だ」

「...ん?まさか。連続猟奇殺人犯でも見つかった?」



 それからさらにしばらくして、それが響き渡る。

「キャー!!人殺しよ!!」

女性の悲鳴。それを聞き、二人は同時に戦闘体勢をとる。方向的には、陽介の後方から。

「私が見てくる。何かあったら教えて」

手慣れた様子で陽介とアリシアは仕事を分担する。そして、アリシアは悲鳴の方へと歩いていく。



「ここらへんかな?」

列車間にあるトイレ。そこの前に人だかりが出来ていた。野次馬に紛れて状況を伺う。

予想より酷いものではなかったが、それでも一般人から見れば猟奇的というのに他ならなかった。

狭い空間で乱闘らしきことをした跡があり、内臓が『1つだけ』摘出されて遺体の前に置かれていた。

客室乗務員が対応に当たっているが、入手可能な情報は乏しいだろう。余計な事に首を突っ込むべきではないと考え、アリシアは陽介の元へ戻る。



警戒はしていたが特に何もなかった陽介は、戻ってきたアリシアに尋ねる。

「どうだった?」

「トイレで乱闘して、1人死亡。奇妙な点は、臓器が1つだけ摘出されてた。まあ、私が人生で最初に殺したアイツほど猟奇的ではないよ」

そう笑いながら話すアリシアを見て、陽介はそれが嬉しくもあり心配でもあった。アリシアを気遣い、陽介は優しく言う。

「無理はするなよ、俺を頼っても構わない」

「大丈夫。むしろ、ヨースケを頼れるからこそ、こんな冗談も言えるようになったの」

「それならいいんだが...。どうする?俺は関わりたくない」

「賛成」

「じゃあ、事情を聞かれたら何も知らなかったという風に答える方針でいこう」


そのまま問題の列車は近くの駅に緊急停止し、関係者と犯人らしき人物以外は解放され、列車を変えて先へと進んだ。



悲しい事に、陽介とアリシアは『解放されない側』であった。

理由は2つ。

1つ目は、事件の起こったトイレのある客車に乗っていたから。

2つ目は、陽介の個人スキル『高速学習』を捜査に役立てほしいと頼まれたから。


「なんで...ヨースケ!なんでそんなスキル持ってるの!」

「俺だって死体を『学習』なんてしたくねぇ!あれか?犯罪のプロファイルリングでもしろってのか!?」

「その通り。と言いたいが少し違う」

知らない声と共に、コツコツと足音が近づいてくる。言い争っていた陽介とアリシアは、その方向を見る。


その男は創作物ではよく見かけるのに、実際ではそれほど見かけない職業の服装...簡単に言ってしまえば『探偵』らしき服装を着ていた。

陽介は思わず尋ねる。

「失礼ながら、ご職業とお名前をお教え頂けないでしょうか?」

「私の名前は『シャルル・ハロルズ』。職業は...探偵だ」


そうだと思ったよ。

喉まで出かかった言葉を飲み込んでから陽介は再び尋ねる。

「私は『ヨースケ・サエキ』と申します。あなたもあの列車に乗っていたのですか?」

「あぁ。しかも、君達の1つ後方の席にね。警察は、君達が珍しいスキルを所持しているから捜査協力を頼んでいるようだが...私が君達に声をかけたのは別さ」

「と、言うと?」

「君達...特に君は私と近い反応を示したから。そういえば、そちらの職業を伺っていなかったね。失礼でなければ聞いてもよろしいかな?」

「開拓者を専門にしています。申し遅れました、私は『アリシア・シュタインベルク』です」

「ご丁寧にありがとう、ミズ・アリシア。開拓者か、だからその反応の良さという訳かな?」

「まあ、異常を察知しやすい方だとは自負しております」


陽介はアリシアが会話をしている間にこのシャルルという男を観察する。『探偵が』胡散臭いという訳ではなく、『この男が』胡散臭い。

彼は確かに陽介と近い反応をした、と言った。それは『どちらも』なのだろうか、それとも『後半だけ』なのだろうか。前者であれば、この男は開拓者並の警戒心を持っていることになる。

彼の服装は明らかに『探偵』だ。それが不思議でもあり、陽介に警戒心を抱かせる要因になっている。しかしいくら観察しても、その明らかな服装に目を奪われてしまう。


「ん?私の服装が気になりますか?ミスター・サエキ」

不意にシャルルが話しかけてきた。誤魔化すのは悪手と考え、陽介は率直に言う。

「えぇ。あまり見ない服装なうえ、その...失礼ながら探偵らしさをアピールしているように見えて。ついつい気になってしまいました」

シャルルは笑ってパイプを吸いながら答える。

「そうでしたか。実は、最近は誰も突っ込んでくれないので心配になっていたんですよ。『なんでそんな服装をしている、内偵とかするならもっと紛れやすい服装にすればいいのに』って」

「そ、そうでしたか。失礼しました」

「いえいえ、お構い無く。それでは私はこれで失礼。これでも探偵なので、警察の捜査に協力してきます」

そう言い、シャルルはその場をあとにした。


充分に離れた後、アリシアが陽介に話しかける。

「なにあれ」

「探偵」

「そうじゃなくて!その...こう...なにあれ」

「探偵」

「質問を変えないと...そうだ!なんであのシャルルっていう人、立ち振舞いが明らかに『こっち側』なの?」

「それマジ?」


アリシアの言葉に陽介は耳を疑った。陽介は観察していたのに、そのような雰囲気は全く感じなかった。

しかし言われてみれば、そんな気がしてくる。探偵という職業とあの服装に気をとられ、上手く観察出来ていなかったのかもしれない。

「マジ。でもさ、明らかに探偵でしょ?探偵に荒事がないと言えば嘘かもしれないけど...それでもちょっとおかしいよあの人」

「まぁ、おかしい人だな。だが犯人ではないだろ。動いてたなら、俺らは確実に気づいてたはず」

「そりゃあ...ねぇ。私寝てたけど」



列車で起きた殺人事件とそこで出会った胡散臭い男。真実は一つかもしれないが、それをみつけるのが正しい事なのかは...別。

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