約束
「...お前達の目的はわかった。南からの来訪者か。なるほど、流石にスヴィラホルムは礼儀というものをわかっているな。お前達の事を舐めてかかっていた。それでは本題に移ろう。『もう一人はどこにいる?』」
不安な表情を見せるイーリスに対し、陽介は的確に返答する。
「流石は王、全てを見通していらっしゃる。かの者は別行動を取っております。私どもが帰還することがなかったとしても、かの者が連絡役になれるように」
「嘘ではないな?」
「ええ」
クラウスは職業スキル『審判』を用いて真偽を見極める。
判定は、真であり偽でもある。この男は、嘘と本当を散りばめて話している。それをさらに見極めてこそ、王という者。
別行動というのはおそらく真。となると答えは1つ。
「連絡役というのは嘘だろう?それをどうやってお前達は伝えるのだ。申してみろ」
「はっはっはっ。申し訳ありません、少々王を試してしまいました。どうか無礼をお許しください」
「構わん。2度目はないぞ」
「ありがたき温情。では申し上げます。この地にいると言われるドラゴンについて調査しています」
ドラゴン、その言葉を聞いただけでもクラウスは反吐が出そうだった。今にもその言葉を吐き出したサエキという男、切り刻みたい。
しかし、クラウスは深呼吸をしてから陽介に尋ねる。
「本当だな?」
「ええ」
スキルを再び使う。判定は真。
状況から判断するに、彼らの真の目的はおそらくドラゴンの秘密か『ブルーランド』の崩壊だろう。
この男は優秀で、もう一人に関しても性別すら漏らさなかった。しかも、こちらの質問には真実を話すのに、深い所までは全く話さない。誘導尋問も試してみたが、望ましい成果は得られなかった。クラウスとしては、やりにくいことこの上ない相手だった。
クラウスはあることを思いつく。賭けではあるが、成功すれば全てが上手くいく。
「2人とも、良いものを見せてやろう」
「...それは?」
「ドラゴンだ」
アリシアは手記を懐にしまい、小部屋を出る。間違いなくこの先にいるのはイーリスの父親。
「...交渉出来るのか?私に。いや、やるしかない」
巨大な空間へと続く扉を、アリシアは開ける。
その空間は、王宮の内装と違い人工的な措置が全くなされていなかった。それでも周囲の輝きは王宮に勝っている。
奥には鱗がいくつも剥がされ、羽と口は鎖で縛られ、胴には巨大な杭が打ち込まれている満身創痍の30メートルほどのドラゴンが横たわっていた。
アリシアは龍を起こさないよう、慎重に移動しながら封印について調べる。
『何をしに来た、人間』
頭に知らない声が響く。見回しても誰もいない、ということはドラゴンのテレパシーだろう。
答え方がわからず、右往左往していると再び脳に響く。
『念じよ、さすれば通じる』
『始めまして。私の名前はアリシア。あなたの娘さんの...護衛を務めています』
ドラゴンは片目を見開き、アリシアを見つめる。
『なるほど、それでその左目か』
『私の左目をご存知なのですか?』
『ああ、知っているとも。悠久の時を越えて先祖の約束を果たしてくれたこと、心より感謝申し上げる』
『は、はぁ。早速ですが、質問があります。私どもは、あなたを娘さんと再開させるためにあなたの封印を解こうと画策しているのですが』
『封印などされていない』
ドラゴンから出たのはアリシアの思いもよらない言葉だった。事情をもっと詳しく聞かねばならない、それも簡潔に。
『お話いただけますか?ただ不幸なことに、私は速く娘さんの所に戻らねばなりません。簡潔にお話していただけるとありがたいです』
『請け負った。結論から言おう、私は動こうと思えば動ける。しかし、翔ぶことも大地を駆ける事も出来ない。こうなってしまったのは全て私の責任だ。その自責の念から、私は甘んじてこの処遇を受け入れている』
『何をなさったのですか?』
『この国の首がすげ変わる時に、力を貸す代わりに同胞の身の安全を約束させたが、裏切られたのだ。それで同胞の骨で出来たこの杭を打ち込まれ、ここにいる』
『娘さんにその事をお話しましょうか?』
『言うな、彼女には私の様になってほしくない。炉を授けたなら、早急に彼女は立ち去らせてほしい』
『炉とは?』
『我が一族の誇りだ』
次の質問に移ろうとした瞬間、足音が響く。アリシアは隠れる場所を探すが、見当たらない。万事休すと思っていると、ドラゴンは語りかける。
『我が胸の内に入りこむといい』
『感謝します』
王の間の奥にある階段、そこを下ると『ブルーランド』の力の象徴であるドラゴンが眠る場所にたどり着いた。
クラウスは陽介とイーリスに語りかける。
「ここに入れる者は王宮でも僅か。光栄に思うといい。もっとも、過去には勝手に入った不敬者もいるが」
陽介は歩きながら『気配感知』をする。人の反応は空間に自分を抜いて3、間違いなくアリシアはここにいる。なんとしてもアリシアが見つかることだけは避けねばならない。
陽介はクラウスに尋ねる。
「この空間は、いつ頃から存在するのですか?」
「この王宮は改築を何度も行っているのだが、その最初の時から既に存在しているらしい」
3人はドラゴンの目の前に立つ。荘厳な雰囲気を漂わせるドラゴンは、僅かな呼吸の揺れが揺れがなければ死んでいるように見えた。
「やぁ、久しぶりだな。私が就任して以来か」
クラウスの語りかけで、ドラゴンは目を開ける。片目しか開いていないが、それもそのはず。片目がないのだ。
ドラゴンは3人を目視すると、再び目を瞑る。
「残念、気にくわなかったようだ」
陽介の頭に声が響く、しかしそれを悟られてはいけないのは明白。陽介は出来るだけ平静を保ちながらそれを聞く。
『我が娘に会わせてくれたこと、感謝する。失礼ついでにお願いがある』
陽介は念じながら返答する。
『お願いとは?』
『私に埋め込まれている炉を、彼女に授けてほしい』
『心臓ではないのですか?』
『あぁ。私が死ねば、この国の者達は私を解剖して炉を摘出する。それは避けねばならない事態だ。頼む』
『承りました』
しばらく辺りを見回した後、3人は再び王の間へと戻っていった。
アリシアはそれを確認してから姿を現す。
『咄嗟の事態への対応感謝申し上げます』
『気にするな。それよりも、もう一人の護衛には伝えたが炉の事、頼んだぞ。それと、君に一つ忠告をしておく、あの男の護衛についてだ』
『はい』
陽介とイーリスはその後、王宮の一室で過ごした。クラウスは全力で王宮内部を探らせたが、侵入者は見つからなかった。
異邦の軍到達まで、あと2日。




