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再審の男  作者: 藤澤トオル
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ステータス

 「大変申し訳ありませんでした」

ここは開拓者集会所の2階にある宿泊施設の一室、陽介とあの吐いた女性がいる。そして、女性は陽介に対し土下座をしている。


 時はやや前に戻る。女性が吐瀉物を撒き散らした後だ。

「...」

陽介は硬直したまま考える。このまま下手に動けば周囲に被害を広げてしまうかもしれない。かといってなにか対策をしなければ慣れている服装を転生して早速失うことになる。

 刹那の思考ののち、陽介はこの世界の可能性にかけた。周りの人達に向かって叫ぶ。

「誰か!浄化系の魔術を使える人は!?この女性は危険な状態だ!この散らばった物体をどうにかして処理してほしい!」


 一瞬の静寂の後にある人が手を挙げる。

「わ、私使えます!でも、その...ゲ...いえ、吐瀉物の処理に使ったことは無くて」

「多分大丈夫ですよ、汚いものですから、これ」

陽介は必死の思いで魔術師の浄化魔術に頼る。

「わ、わかりました!」

 魔術師は呪文を詠唱する。するとどうだろうか、みるみる服にかかったものも含め、吐瀉物が青白い粒子状の物質に変化して消えていく。あらゆる危機は去ったのだった。

「危なかった...」


 「「うおおおおおおおおおお!!!!!」」

集会所は歓声につつまれる、新たな浄化魔術の使い道が発見されたためだ。開拓者達にとって、既存物の新用途開発は未開の地を生き延びていく術を増やすことに繋がるからだ。

「すげぇな魔術師の姉ちゃん!俺らのパーティーに加わってくれよ!」

「ちょっと!私達も欲しいんですけど!」

様々な開拓者達が魔術師の女性に群がり、スカウト合戦が始まった。


 そんな彼らをよそ目に陽介は吐いた女性を抱え、バーテンダーに尋ねる。

「すみません、彼女をどこか安静な場所で休ませたいのですが」

「2階に宿泊施設がありますので、ご自由にお使いください、鍵はこちらです」

陽介はバーテンダーに渡された鍵の番号を確認し、部屋のベッドで休ませ、目覚めたタイミングで女性に転生したという事は隠し、事情を説明した。



 そして、冒頭の状況に戻る。彼女は土下座をしたまま話を続ける。

「こんな私とパーティーを組んでいただける相手なのに不遜な態度をとった挙げ句、吐瀉物をぶちまけたにも関わらず、酔いつぶれていた私を介抱していただいたなんて返す言葉もございません。大変申し訳ありませんでした。どうぞ好きなように罵り下さい、なんならパーティー解消も構いません」

流石にそこまで謝罪の意を示されてはこれ以上咎める気にもならなかったし、何より呆れてしまい、吐瀉物をかけられた怒りも鎮まってしまった。

「罵りはしないし、パーティー解消は俺も困る。そして何より、まずは顔を上げてくれ、話が出来ない。あと名前を教えてくれ、なんて呼べばいいかわからん」


 女性は顔を挙げる。すっかり酔いは覚めているようだが、土下座で頭を地面に押し付けていた影響か額が赤くなっている。そこさえ気にしなければ、美人であるだろう。

「私の名前は『アリシア・シュタインベルク』。出身はビザンティスより北西の地です。大学での勉学の合間に職業適性検査を受けた結果、開拓者としての適性を見出だされたので、この地に来て共に進む相手を探しておりました」

 陽介は少し考える。ビザンティスをイスタンブールと仮定した場合、その北西というと現ドイツの辺りだろうか?そうだと色々齟齬が生じる...がこう考えても全く無意味だとすぐに感じる、ここは佐伯陽介の生前の世界とは違うなのだ、多少の齟齬は受け入れていくしかない。


 「あの、失礼でなければあなたのお名前もお聞かせ願えないでしょうか」

今度はアリシアが陽介に尋ねてくる。名前を聞いたからにはこちらも答えるのが筋だろう。

「敬語は使わなくていいぞ、こっちも反応に困る。んで、名前か。『佐伯陽介』。陽介がファーストネームだ。文化圏の違いで、ファーストネームは後に言う」

「なるほど、だからあまり見ない顔つきなのか...あ、申し訳ありません。少々考え事をしておりました」

「だから敬語やめろ」

「すまん」


 陽介はアリシアに話しかける、これからの事を決めなければならないからだ。

「さてアリシア、吐瀉物の件はもういいとして...互いのステータスと、これからどうするべきかを決めたいんだが」

アリシアは床に座るのをやめ、椅子に座りながら考える。

「そうだな...ここからの未開拓地域というと西と北以外か。東の方面は比較的向かう人達が多いから安心といえば安心だろう。とは言っても、それこそステータス次第だな」


 2人は下に降りて、互いのステータスが書かれた紙を受けとる。ステータス用紙には弱点も書かれているため、厳重に管理されていて、本人確認が取れなければ見ることが出来ない。勿論、本人同士がステータス用紙を交換するのは問題ない。


 陽介はアリシアのステータスを確認する。

 総合レベルは50。個人スキルは6個あり、そのうちAランク以上のものが2つ。1つは『基礎身体能力可変』。もう1つが『魔術耐性』。また、彼女には陽介にはない備考欄があった。そこには『秘匿ステータスあり。公開条件不明』と書かれている。陽介はそういったものにこの段階で深く関わろうとは思わなかったので、特にその事には触れずにアリシアに返却した。


 アリシアが陽介に返却したタイミングで話しかける。

「あなた絶対まともな人生送ってないでしょ。そうじゃなきゃ私とほとんど変わらない歳でこのステータスは無理でしょ。というかなにこの個人スキル、これだけで大抵の環境で生きていけるわ」

「まあ...俺にも色々あるのさ、お前と同じだよ。あ、俺はお前のそれ聞かねぇからな。そういうの聞くの嫌、気まずくなるし」

「あ、そうなの。良かったわ、聞いてたらパーティー解消してた」

何気に危機であった。


 「さて、じゃあ次は陽介の装備...といってもステータスを見た感じだと別にどんな装備でも大丈夫でしょ。なにか要望はある?お金ならあるから気にしないで」

陽介はそういうアリシアに対して即答する。

「防御よりは回避で、中近接戦を重視した装備。あと拳よりは剣の方がいい」

陽介がファンタジー系ネットゲームで良くするキャラメイクだ。


 彼は所謂エンジョイ勢で、特定のゲームを極めずに様々なゲームをかじってプレイするタイプだったので、上達は初心者に比べて速いが、ランキングに乗るようなレベルは上限にたどり着いた上でなお強さを求めるような上位陣には手も足も出ないプレイヤーだった。

 それゆえに、『プレイしてて楽しいか』を重視するキャラメイクになり、最終的にこの型に落ち着くことが多かったのだ。


 アリシアは陽介の要望を聞き、少し笑った後に言う。

「まるで始めからどうしたいか決めていたようね。まあいいわ、街に行きましょう。じゃあ準備を整えたら早速出発ね」


 2人は街へと向かう、未開の地を切り開くために。

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