邪龍と氷の王女
北の国、王都。『ブルーランド』国王の『クラウス』は遠くを見つめる。彼が見るのは王宮の景色ではなく、遠いどこかの風景。彼は後天的に種族スキル『龍眼』を所持している。
それにより、自らの治める領域全てを見ることができる。暇潰しというには語弊があるが、それでもクラウスにとってはなんというはことない、いつも通りの出来事であった。
これで、国内にいる裏切者を発見したり国外の怪しい動きを察知したりしている。それがクラウスの王政の要であり、東西南北4ヵ国の覇者たる由縁だ。
「...ん?あれは...」
西との国境、謎の3人組が入ってきたのが見える。西の国の使者だろうか?それにしては、礼儀を知らない服装だ。迷い人にしては顔の疲労感が薄い。
「...おい、そこのお前」
「はっ」
クラウスは近くの騎士を呼びつけ、命令する。
「西との国境付近に偵察隊を、西の首都に使者を行かせろ。早急にだ」
「承知しました」
騎士は一礼してから、王の間を退出する。
「さて、あの3人どう料理してくれようか」
不敵な笑みを浮かべながらクラウスはそう独り言を言った。
クラウスは自らの土地に無断で侵入する者を許さない。素性の知れない者なら尚更だ。
「止まれ、貴様ら何者だ」
クラウスが派遣した偵察隊はすぐに陽介達を発見した。王都出発から数時間後の出来事だった。
「我々は『スヴィラホルム特別大使』です。北の国の王に用事があり、ここまで来ました」
「特別大使?それもスヴィラホルムの...。その服装はなんだ」
「その事も含め、王に用事があるのです」
偵察隊は顔を見合わせ、会議する。
数分後。
「...いいだろう。2人というのはいささか違和感があるが...ついてこい」
「ありがとうございます」
アリシアは王都へ向け疾走する。最悪の予想よりも、発見が恐ろしく速い。
当初の計画では、3人が王都に到着する少し前に固定剣を刺す予定だった。イーリス及びアリシアが王と問答し、その隙に陽介がドラゴンの発見と封印の解除法を発見するはずだった。
そのどちらも不可能になった。3人で最速なのはアリシア。陽介とアリシアの役目が完全に交代してしまった。封印の解除法発見は絶望的と言える。
「...拘束解除」
アリシアはさらに速度をあげる。
発見から数時間、陽介とイーリスは王都に着く。非常に発展しているが、住民に活気はない。皆一様に何かに怯えているように見えた。
氷で出来ている、と思わせるほど光輝く巨大な王宮。陽介達の文化圏でもこれほどのものは見たことがなかった。元いた世界なら、ほとんどガラス張りの高層ビルが近い印象を抱かせるのかもしれない。
その外周の印象は、中に入っても変わらなかった。長い廊下を進み、ある一室に案内される。
「準備が出来るまでここで待て」
そう言い、騎士は扉を閉めた。
「アリシアは...どうだ?」
リカルドとの交戦により学習した『気配感知』を使い、アリシアの居場所を探る。王宮内の不審な気配...ある。既に侵入は成功している、という事は固定剣によるルート確保も成功しているだろう。
「イーリス、とりあえず作戦の第一段階は成功だ」
「あとは、どれだけ私達が王と何を話すかですね」
「2人だと?」
その報告に王は驚きを隠せなかった。確かに3人だ、『この眼』で見たのだ、間違えるはずがない。
「...もう一度国境付近に偵察隊を向かわせろ。捜索に長けた者達の数を増やせ」
「はっ」
「...偵察隊に見つからず先に王都にやってきた?フフ、まさかな」
「...これが王宮の見取り図か」
アリシアは近衛騎士すら全貌を知らない王宮の見取り図を入手する。改築に改築を重ねられ、最初の面影は王の間にしか残されていないのがわかる。
「ん?なんだろう、この空間。やけに広いし。構造から考えても不安定になるはず。それに、その前にある小部屋は...。いってみる価値はありそうね」
「2人とも、王の準備が整った。ついてこい」
騎士が扉を開け、陽介とイーリスを呼び出す。
「...いいか、手筈通りにな」
「はい」
王の間へ入る直前、騎士から注意を受ける。
「我らが王クラウス様は年若い。が、侮ってはならない。不遜な態度を取れば、いかな者であろうと排除なされる。...いいな?くれぐれも、我々の手をわずらわせる事態にはしてくれるな」
「承知しました」
それを聞き、騎士はノックをしてから王の間への扉を開ける。
「失礼します!『スヴィラホルム特別大使』2人を連れて参りました!」
「そうか、下がっていいぞ」
「はっ!...行け」
騎士に促され、中に入る。その瞬間、扉は閉ざされた。
「どうした?近寄ってこないか。そんな遠くにいてはまともに会話も出来ないというものだ」
王の椅子の前まで歩き、膝をつく。
「お初にお目にかかります。スヴィラホルムから参りました『ヨースケ・サエキ』と『イーリス』です」
「2人か?それにその服装...私が知らないものだな」
「はい。早急にお伝えする必要があると考え、2人ながら参上しました。服装については、これからお話する事に関わりがあります」
「始めに言っておく、嘘はつくなよ。私は嘘をつく者と隠し事をする者、そして恋に落ちている者が大嫌いだ」
「心に深く留めておきましょう。ではまずは」
「...なに、これ」
小部屋。そこはいわゆる監禁部屋であった。長らく使われていない事も、床に散らばる血の跡からわかる。ただ監禁するだけでなく、拷問器具もいくつかあった。さらに部屋の端には、誰の者ともわからない手足と頭があった。
吐き気を抑えつつ部屋を漁ると、あるものを発見した。
「...手記か?」
アリシアはページをめくり、読み始める。
『ここに閉じ込められてから数週間経ちます。やることもないので、手記というものを書いてみようと思います。
私と彼が初めて会ったのは、私が幼い少女の頃。召し使い達と王宮で遊んでいた時、うっかり迷い混んでしまった先に彼はいた。彼の目は片方なかったし、身体もボロボロだった。
彼は私を見ると、怒った顔をしながら近づいてきた。鎖と杭で縛られているにも関わらず。今考えると、とても馬鹿な事をしたと思うけど、私はその時彼にこう言った。《あなたは始めて見るわ!私と友達になりましょう》って。
彼は面食らった顔をしていたわ。私が彼に近づいて頭を撫でたら、彼は呆れた顔をしていたのを今でも覚えている。でも、そんな顔が私は大好きだった。
それから私は、隙を見つけては彼の元へ遊びに行ったわ。弟が産まれた直後も、すぐ彼に報告しに行った。それを聞いて彼は私が離れてしまわないか心配していたけど、《大丈夫だよ》って言ったらとても喜んでいたわね。
ある日、彼の元に行くのを弟に見られてしまいお父様に報告されてしまいました。彼にはもう会えないかもしれない、そう思って彼に別れを告げました。彼はとても哀しそうな顔をしていた、私もとても哀しかった。
最悪だったのは、それすら弟に見られていた事ね。お父様は怒り狂ってここに私を閉じ込めたわ。《そんなに彼が好きならば彼の傍にいさせてやる》って。
何度か拷問も受け、悲鳴もあげてしまった。私は大丈夫だったけど、彼に心配をかけさせてしまったのはとても心が痛む。
もうすぐ私の処遇が決められます。たとえどのような結末でも、私は受け入れましょう』




