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再審の男  作者: 藤澤トオル
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騎士の資格

「この地形は『フィヨルド』。氷河...溶けなかった雪の塊が降り積もって氷になり、それが沿岸部を削って出来た地形だ。特殊な地形だから重要な場所になりうる」

「なるほど、勉強になります」

「イーリスがこれからどうやって生きていくかは知らないが、こういった知識は増やしていくといい」


一行は現在、西の国沿岸部に来ている。西の国との交渉は『特別大使』という称号のおかげか、驚くほどスムーズに進んだ。

スヴィラホルム出発直前に聞かされたことだったが、東の国へは行く必要がないそうだ。海を渡る必要があるのと、私的に用事があるらしい。

そこで、イーリスの社会勉強と身体能力確認を含めて1度北ではなく西の端へと赴いた。

「俺も本物を見るのは初めてだ。だが...滑り落ちたら終わりだな」

「観光地や港としてはこの上ない場所だと思うけどね」



次に向かったのは森。

「この辺りは寒冷地帯だから葉の形は尖った物になる。高緯度...北国でよく見られる特徴だな。針葉樹って言うから覚えとけ」

「ん?それは私も初耳なんだけど」

「...聞かなかったことに」

「出来ませんねぇ!!」

「イーリス、君は他の人に比べて賢くなったな!!」

「は、はぁ。光栄です」



ある程度説明を終えた段階で、イーリスの戦闘力を把握する。火事場的に侵入するとはいえ、危険は多い。自衛能力によってはこれからの行動が大きく変更される。

最悪の事態を考え、相手は陽介が務める。武器は剣だが、鞘に入れたまま紐で固定している。

「さて、イーリス。何か攻撃手段を持っているか?」

「四肢に龍の特徴を出せます。具体的には...鱗と鍵爪です。あと、尻尾はそれなりに耐久性があると思います」

それを聞き視線をアリシアに移すと、彼女は頷く。『利用価値あり』ということだろう。

「アリシアの許可が下りた。使ってみてくれ。そのまま殴りかかってきても構わない。あ、手加減はいらないからな。したとこちらが判断したら容赦なく気絶させる」

「わかりました」


イーリスを深呼吸したあと、何かを呟く。陽介とアリシアは聞きとれはしたが、知らない言語であったため理解は出来ない。

呟き終わったあと、イーリスの四肢が氷に包まれる。その後、すぐに全身と周囲に炎が現れる。イーリスの姿を覆うほどの炎。彼女の姿が完全に隠れたあと、しばらくして炎は一瞬にして消える。

そこに現れたのは、四肢に龍鱗と鍵爪を持ったイーリスだった。

「...大丈夫です。お願いします」

「ああ。わかった、かかってこい」


イーリスは驚くべき俊敏さで接近し、鍵爪を振り下ろす。素人そのものの攻撃、陽介はいとも容易く受け流す。

「直線的だ、コースがわかりやすすぎる」

「はい!」

次は蹴りと袈裟斬りのコンビネーション。陽介は蹴りを避けたあと、袈裟斬りに入られる前に肩を剣で軽く打つ。イーリスは体勢を崩され、後ろに下がる。

「大振りの攻撃は隙が大きい。当たらなかった時の対処も即座に行え」

「はい!」


両手の鍵爪と蹴りを上手く組み合わせた攻撃。戦闘のセンスがないと言えば嘘になるだろう。しかし、陽介は的確に弾いていく。左手の攻撃が右手側の攻撃の邪魔をする様に、蹴りを放ちにくい姿勢に持ち込む様に。

「悪くない。今度はコースとタイミングをずらしてフィニッシュも決めてみろ」


凄まじい連続攻撃、といって差し支えないものだった。右手に持った剣だけで捌ききるつもりだった陽介も、左手による受け流しを使わざるを得なかった。

「攻撃に関しては合格だ。アリシアから何か意見はあるか?」

「んー、本当にそれだけしか出来ないの?私とヨースケはちょっとアレだけど、魔術とかって使える?」

「龍の力を引き出せば、ある程度は使えるかと」

「オッケー、次のステップに行ったらそれも組み合わせてみて。やることが増えるけど、動きが単調にならないようにね」


「じゃあ、次のステップに移る。アリシア、ちょっと協力してくれ」

「カウンターね、理解理解。速度は実戦?デモンストレーション?」

「出来るだけ見てわかりやすい速度で頼む。イーリス、お前の攻撃は素手が主体だからアリシアの動きが参考になる。見ていろ」


陽介がゆっくり剣を振る。アリシアは陽介の手首を打ってコースを変更させながら脇腹に拳を打ち込む。

「これが基本ね。手首じゃなくてもいいけど、手首が一番効果が実感しやすいと思う」

「アリシア、次だ」


陽介は先程と同じ様に振るう。同じ様にアリシアが手首を打つが、今度は脇腹を狙えるコースではない。そこで、アリシアは膝の横に蹴りを入れる。わざとらしく膝をついた陽介の顔の横に拳を軽く当てる。

「とまあ、こんな感じに一ヵ所にこだわっちゃ駄目。今回は膝だけど、相手が頭に防具をつけていないなら...」

先程と同じだが、アリシアは陽介の首を手刀で打つ。

「こんな感じで上手くいけば一発で気絶させられるよ」


感心しているイーリスを見て、陽介は言う。

「少し組み合わせてやってみるぞ。さっきのイーリスの連撃、あれの途中にカウンターを出された時のカウンターだ」

アリシアがイーリスの動きをそれなりの速度で再現する。陽介はイーリスならば確実にダウンをとられるであろうタイミングで剣の柄と肘打ちを組み合わせて姿勢を崩してから、カウンターを放つ。

アリシアは手首と肘の内側を打ち付けてコースを反らし、がら空きになった顔面を掴む。

「こうなると、失明していない限り、相手は突然視界を奪われたことになるから再びターンはこちらに回ってくる。足を払って後頭部を地面に打ち付けてもよし、弱点を狙って殴り続けてもよし。イーリスなら、相手の頭を凍らせてもいいかもね」

「...すごい」


アリシアは離れ、イーリスにやるよう促す。陽介と向き合うが、その顔には不安が見える。そんな彼女を見かねてか、アリシアは声をかける。

「大丈夫大丈夫。こいつに勝てたら大抵の相手に勝てるから。勝とうとしなくていい、私みたいにやらなくていい。私だって無傷ではヨースケに勝てないし、ヨースケだって無傷で強敵に勝つには事前準備滅茶苦茶やってるし」

「...ありがとうございます。...いきます!」


中々にいい動きだった。しかし、変に魔術を使おうとしたせいか動きにメリハリと流れがない。

「動きが固い。魔術に気を取られるなら使わなくてもいい」

「わかりました!」

魔術を使わなければ、非常にいい動きになった。


「素手攻撃関連はいいだろう。次に魔術に関してだが...すまん。俺はちょっとあって魔術は使えない。アリシアも、『魔術耐性』があっていい例になると言えん。そこでだ」

イーリスは緊張した顔で次の言葉を待つ。

「魔術への対処法を敵の目線で言ってくから、それに対応してくれ」

それを聞き、イーリスは驚きアリシアは爆笑した。思わずイーリスはアリシアに言う。

「アリシアさん!?笑い事じゃないですよ!お二人とも私の魔術を知らないからそんな事言えるんです!」

「いや、ごめんごめん。えーっと、魔術だっけ?ヨースケなら大丈夫だから心配しなくていいよ。やってみるのが一番いい」


渋々ながらイーリスは構え、呪文を詠唱する。3節、相手によっては大きな隙となる時間だろう。しかし今回は訓練、陽介はイーリスの真正面に立ち、実戦同様の状態で構える。

「...いきます!!」

地面から氷の柱が立ち、それが一直線に陽介へと伸びていく。陽介は避ける素振りを見せず、縦に切り裂く。それにより、氷の柱は真っ二つに裂かれた。

「遠距離か。威力はありそうだが発生と攻撃速度が遅いな、読まれやすい。今度は威力は気にせず、速度を重視してくれ」

「わかりました」


1節。レベル70以上の魔術師ならば、これでも簡単に家屋を破壊できる魔術を放つが、イーリスは慣れていない。ただし、その速度は実戦でも使えるレベルだった。陽介は素早く切り裂く。

「牽制用としては合格だろう。次は...限界を試そう。自身が使える使える最高威力を頼む。今度は逆に速度は気にするな」


8節。成り立ての魔術師が、調子に乗って覚えたての大規模魔術を使うが、それを諦めるときとして有名な8節。熟練の高位魔術師が、面倒くさくなってダンジョンごと吹き飛ばすときとして有名な8節。それを、イーリスは唱えた。

炎と氷の奔流は、互いに渦を巻きながら陽介へと進んでいく。速くはないが、油断していれば回避は困難な速度であった。

陽介は左手を握りしめ、全力でソレを殴りつける。左手とぶつかった瞬間、ソレはかき消された。

「...やべぇな」

「ご、ごめんなさい!!まだ2回目なので...!!」

「気にするな、ダメージはない。アリシア、どうする?」

「んー。結論!魔術はピーキー!使えたら使う方針で!」

「了解オーナー。んじゃ、次は回避だ」

「陽介、交代。あなたがお手本」



数時間後、2人の戦闘講座は終了した。数回に分けて行うつもりだったが、イーリスの戦闘センスが高かったおかげで予想よりも数倍速く終わった。

実戦ではないためどこまで出来るかはわからないが、平均的な開拓者のやや下ほどの戦闘力と対応力は身に付いているはずだ。

「イーリス、最後の教えだ。これが終わったらお前は、色んな奴に狙われるだろう。そんときは...」

「そのときは?」

「...なんだっけ」

「はぁ...ホントに締まらないわね、ヨースケは」

「うるせぇ!格好つけると頭の中真っ白になっちゃうんだよ!」


アリシアが代わりに言う。

「遠慮なく私達を頼ってくれていいよ。たとえイーリスの周り全てが敵になっても、私達は味方でいるわ」

「...はい!」

「おっしゃ!腹ごしらえしたら北の国に行くか!」

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