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再審の男  作者: 藤澤トオル
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新世界へ

リカルドを追いかけてたどり着いた先、そこはビザンティスの中央広場。

中央に噴水、その周囲にベンチ、そして北の位置にはビザンティスが首都の国『ビザルカ帝国』の歴代皇帝で最優と称えられる『ユスティヌス』の像がある。

その像の前にリカルドは立っている。


彼は陽介を認識すると、語りかける。

「お前も薄々気づいてるだろ?この世界は俺らのいた世界と似て非なる世界だと。これが最も大きい証明になるだろう。この世界の技術基準は、元世界では『近世から近代』。だとしたらここは『イスタンブール』で、『オスマン帝国』。なのにここでは『ビザンティス』で『ビザルカ帝国』」

「それが...どうした!!」

陽介はリカルドを意に介さずに殴る。簡単に受け流される。


陽介の激しい攻撃をいなしながらリカルドは続ける。

「今のところ俺らは2人だけの転生者。俺らだけが、この世界の概要を知っている。わかるか?俺らはこの世界の奴らより優位。そんな奴らを気にしてなんになる?あの女の何がそんなにいいんだ?」


再び怒りに任せた拳を振るう。しまった。そう思った時にはもう遅い。リカルドは陽介の脇腹を貫き手で抉る。

「...甘いな、若さは時に蛮勇でしかないんだぜ?」

「そういうあんたも...ぬるま湯の世界出身...だろ」

「俺はこの世界で10年以上生きてる。ぬるま湯のお前とは...違う!」

リカルドは追撃を加える。顔面を掴み、膝蹴りを打ち込む。鼻骨と頬骨が折れる。痛みに苦しむ苦しむ時間はない。陽介は両手チョップでリカルドの首を打つ。首の骨が数本折れる感覚が陽介に伝わる。しかし意識は刈り取るには至っていない。


再度間合いを取って治療。ジヤヴォールの腕の霧の量がどんどん減少している。

「...ハハハ、どうやら互いにジリ貧か?だとしたら、俺の勝ちだ!」

今度はリカルドから接近。右手の籠手が槍の様に変形している。先程貫き手と思われたのは、この籠手である。

再び食らうのはまずい。陽介は紙一重で回避。間合いを取る。

「おいおいおい、速くしないとお前の大切なお友達はどうなっちまうのかな?あんな場所にひとりぼっちだ。根掘り葉掘り聴かれるんだろうな、可哀想に」




「...ああ、そうだな。俺が間違ってた。まだ俺はお前に遠慮してた。覚悟が足りてなかった」

陽介がそう言うのを見て、リカルドはこれまでにないほど集中する。明らかに様子が先程と違う。今までの様にいかないのは明白だった。


陽介は独り言の様に言う。

「『ジヤヴォール』、お前を捨てようと考えるのはやめだ。もういい、力をくれ。お前をこの世界に止める楔として俺を使って構わない、だからこいつを殺せる力をくれ」


瞬間、周囲に黒い霧が発生する。夜空に輝く月を覆い、少し離れて見える街の灯りすら消す黒い霧。見えるのはリカルドと陽介、互いの姿のみ。

「さあ、本当に最後だ」

陽介は悪魔のような笑みを浮かべ、そう言った。リカルドは、彼の後ろに黒い衣を纏った『何か』を幻視した。




リカルドは転生してから、自分がこの世界をより良く変えてみせる。そう思って生きていた。事実、彼はこの世界の発展に大きく貢献した。前人未踏のダンジョンをいくつも踏破した。世界の広さを教えた。それは、彼だからこそ出来たのだろう。

だが、3年ほど前から自らに比肩し始める者が現れ、技術も大きく進歩した。リカルドにとっては非常に喜ばしいことであり、誇りであった。

だが、人の思いと時の流れというのは残酷である。彼は埋もれていった、この世界に。人々が彼の功績にありがたみを感じなくなっていったのだ。

かつてない恐怖感がリカルドを襲った。絶対性を失い始めたことで、周りは自分のことを疎んでいるのではないか?このままでいれば、自分はそのうち忘れられてしまうのではないか?

本当にあるかもわからない恐怖から逃げはじめたその時から、彼の素行は劣化の一途をたどり、逆に功績は増え続けていった。


リカルドが転生始めに持っていた感情、無くしてしまったと思っていた感情。それを今、思い出した。

この世界を壊しうる悪魔を目の前にして、彼の心が訴えかける。『こいつはこの世界にいていい存在じゃない。止められる人間は今この場所にただ一人』。


リカルドの澱んでいた目に赤白い光が宿る。安全のための詠唱など必要なし、こちらもそれ相応の覚悟を持っているのだから。



リカルドと陽介、同時に踏み出す。ぶつかり合う『英雄』と『悪魔』。互いの限界を越えた一撃を放つ。


交差する拳、先に相手を抉ったのはリカルド。だが、より致命的な拳は陽介だった。右肩に命中した、陽介を吹き飛ばさんとするリカルドの拳を押し返しながら、陽介はリカルドの顔を壊そうとする左手をさらにねじ込む。

「うおおおおおおおおおお!!!!!」

リカルドは反対の腕で陽介の左手を押し返そうとする。その手を誰かが引き離す。



...お前は誰だ?



リカルドはそのまま吹き飛ばされ、離れた木を数本折ったあと、叩きつけられる。リカルドが気絶するのを陽介が確認すると、周囲の霧が晴れる。

肩で呼吸をし、ボロボロになった身体を必死に動かしながらリカルドに近づく。

「...」

結局一度も使わなかった拳銃を取り出し、リカルドの額に押し付ける。

「...消えろ」




「殺すな!!!」

聞き覚えのある声に、陽介は引き金から指を離し、声の主を見る。

アリシアだ。

「私は...もういい」

「俺が許せない」

「そんな男でもこの世界では『英雄』。あなたはまだ『再審中』でしょ?」

「...そう...か」


陽介は全身の力が抜け、仰向けに倒れる。黒い霧が全て吹き飛ばしたのだろうか、夜空には雲ひとつなく沢山の星が瞬いている。

横にアリシアが座り、語りかける。

「...そういえば、お願いってなに?」

「...俺が無茶しようとしたら、止めてくれ」

「フフ、もうやってあげてるじゃん」



翌日、ビザンティス中に衝撃が走った。冒険者と開拓者がぶつかりあった暴動事件、それも高レベル同士、大きな功績を持つ者同士。大事にならないはずがなく、事件現場には野次馬が殺到し、人々にその影響の大きさと強大さを物語っていた。


また、この事件は『比肩する者あれど、未だ底知れぬ最強の英雄』と言われていたリカルド・ファルキを越えた、もしくは痛み分けに終わらせた『誰か』が現れたという話にもなっていった。


そしてこの事件の首謀者2人は現在、尋問を受けている。

「だーかーらー!知り合いがそいつに暴行されているのを見つけて殴りあいになったの!!」

「それは先程も聞いた。別な言い訳を聞こう」

「それしかねぇんだって!!」

「じゃあこの被害はなんだ!!殴りあいだけで魔術加工されている大通りにヒビが入るか!!」

「知らねぇよ!!!」


「お前は全面的に非を認める、と」

「あぁ。同意を得たとはいえ、彼の友人に暴行を加え、精神的苦痛を与えた」

「...リカルド・ファルキ。お前、変わったな」

「顔の形がか?最悪な皮肉だ」

「違うよ、なんだろうな...吹っ切れたってやつか?」

「...いや、それこそ違うね。思い出したのさ、昔を」



昼頃、2人は解放される。双方の言い分の一致と、リカルドが非を認めたことにより収束した。

警察署らしき場所の入り口で2人は再開する。

「...やぁ、『英雄』」

「そっちこそ、『勝者』」

「その...申し訳ありませんでした」

陽介は深々と頭を下げる。リカルドは面食らう。

「どうした、急に改まって」

「俺、あなたの事について理解が足りていませんでした。尋問官の方から話を伺いました、あなたの功績。...どれも、俺なら出来ていないような事ばかりでした。一時の感情とはいえ、あなたを侮辱したことに謝罪申し上げます」


リカルドは微笑を浮かべ、椅子から立ち陽介と同じように頭を下げる。

「こちらこそ申し訳ない。あなたの大切な友人を辱しめ、さらには暴言まで吐き捨てた。日本だとしたら当然許されることではない。本当に、本当に申し訳ない」


しばらくの沈黙の後、同時に頭をあげる。

「...君のおかげで昔を思い出せたよ。ではまたどこかで」

「...ええ、さようなら」

リカルドは出口へと歩いていく。その背中は闘いの時ものではなく、『英雄』と呼ぶにふさわしい背中だった。



しばらくしてアリシアがやってきた。服を着ているため、体の調子はわからないが昨日の夜とは違い、足を引きずるような状態ではなかった。また、彼女の顔にはアザが見られたが、それでも昨日見たときに比べたら回復している。

あれからお互いしっかり会うことがなかったため、とてつもなく気まずい。

「「...あのさ」」

かぶってしまった。余計に気まずくなる。

「...私から話すわ」

「了解」

「...その、さ。許してください、ヨースケにあんなこと言ったの」

「あ、あぁ。そういや、そんなことあったな」

「は?こっちはずっとそれで悩んでたんですけど」

「...すまん」

「まあいいわ。あなたも話すこと、あるんでしょ?」

「そうだ。俺、ちゃんと話し合いたくて、これからの事。...俺は、アリシアとずっと一緒にいたい。約束とか契約とかじゃなくて、俺自身のわがままでお前といたい」

「...いいよ、付き合ってあげる。あなたのわがまま」


2人はそっと唇を重ね合わせる。優しく、柔らかい唇だった。


少しの間、その時の感情に浸ったあと、唐突にアリシアは話を切り出す。

「話変わるけどさ、ジヤヴォールをどうにかしようってあったじゃん。私はもう吹っ切れたから転生してもいいんだけどさ。折角だから、アレで決めない?」

「アレ?...アレか!?」



集会所の広場、アリシアと陽介は向き合う。互いの距離は僅か。この勝負、先に動いた方が負ける。大勢の観客も、その張りつめた雰囲気に押され、黙って見守る。

拳を突き出す、そのタイミングは同時。となると、勝敗を分けるのは...運。




その日の夜、陽介は目を醒ます。もう見慣れた風景、あの駅舎だ。死神は語りかける。

「考えたな、あんた自身が『門役』になるとは。そうすりゃ、お前は悪魔に魂を売った訳じゃないから死後の裁判には影響しなくなると。あくまで『門』でしかないから。面白い奴だ、ジヤヴォールが忘れ去られないように刻んだ『マーキング』を逆手にとるなんて馬鹿か狂信者のやることだよ」

「昔言われた事を思い出したんだ。『神や悪魔が死ぬのは封印されたり、消された時じゃない。忘れ去られた時だ』って」

「...それで、決めたか?」

「...ああ」



翌朝、陽介は目を醒ます。早速服を着替え、友を越えた人の所へと足を運ぶ。

部屋の前、深呼吸する。家の中とはいえ、窓が開いているため空気は澄んでいた。

そんな爽やかな空気が陽介を満たしてから、ノックをして扉を開ける。



「おはよう。今日はどこを目指す?」

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