捜索
裏通りをおぼつかない足取りで歩いていく。あてが有るわけでもない。何かを求めているわけでもない。ただ、願わくば空虚な自分を満たしてほしい。
アリシアにとって、誰かに対して強烈な怒りと悲しみを抱いたのは始めての経験だった。今までは、同じような事があっても『そういうこともある』と流していた。
なのに、陽介に対しては感情に任せてあのような事を言ってしまった。本当は嬉しかった、こんな自分を大切に思っている人がいるのだと。いつか忘れられると思っていた事を覚えているのだと。
陽介に酷い事を言ってしまった。今更彼に許しを請うことが出来るだろうか?...彼は強い男だ。忘れはしないだろうが、きっと彼は私との事はしっかり折り合いをつけて先に進んでいくに違いない。
...私は陽介ほど強くはない。
そんなことを思いながら歩いていると、男と肩がぶつかった。背格好はほぼ同じ。アリシアは淡い期待を抱きながら、その男の顔をみる。
人違いだった。今でも陽介を求めている自分に嫌気がさし、アリシアは再び歩き始める。
「おい女、待て」
さっきの男が声をかける。
「...なんですか?」
「ぶつかっておいて謝罪の言葉もないのか?俺は避けようとしたのに、酔っぱらいみたいな歩き方したから当たっちまったじゃねぇか」
「...ごめんなさい」
男は薄ら笑いを浮かべながらアリシアに顔を近づけ、肩に手をまわしてきた。
「そういうことじゃないんだよ...謝罪の意思があるなら...誠意を、な?」
すっかり日の落ちたビザンティス。とはいえ通りはまだ賑わっている。そんな中を陽介は人目も気にせずに走る。
「アリシア...!どこにいる...!」
陽介が最初に向かったのは先程までいた宿。望みは薄いが、向かう価値はあると判断した。受付に適当な言い訳をして部屋に入る。痕跡は一切ない。早々に捜索をやめ、次に移る。
次に向かったのは東の拠点行きの鉄道。それなりに人がいるが、アリシアは目立つ女だ。見落とすはずがない。しかし、見当たらなかった。
陽介は昨日集まった開拓者の人達にも頼み、手当たり次第に探し始める。陽介はまだ彼女がこの街にいることに賭けて、再び街を疾走する。
諦めかけた頃、ダンジョン探索者らしき男たちの会話を耳にする。
「なぁ、アイツ急にどうしたんだ?あんな美人引き連れて」
「大方、イチャモンつけて無理矢理だろ。女の方見たか?疲れきった顔してたし、服装が一般人じゃなかった。俺も同じような手を使おうかなぁ!?」
陽介はその男たちにゆっくりと近寄る。陽介のただならぬ気配を察知し、男達は警戒しながら振り向く。
「...なんだよ、アンタ」
ゆっくりと陽介は尋ねる。
「その話、もう少し詳しく聞かせてくれ。その女、俺の知り合いかもしれないんだ」
警戒を解いてから、男達は話始める。
「あぁ、なるほどね。でもやめておいた方がいいぜ?気の毒だが、その女...壊されてるかもしれねぇ」
「リカルド...その連れてった男な、ダンジョン探索者なんだがレベルが80超えの英雄級ですげえ功績がある。それを盾にして好き放題してんだよ。しかも性的嗜好が...あんまりよろしくない」
「...そうか、参考になった。そいつはどこにいる?」
男達は驚きと恐怖の混じった声で答える。
「あ、あっちの宿へ歩いていったぞ。...お、俺らの事は言うなよ!?」
「約束しよう」
左の包帯を外しながら、陽介は教えられた方へと走り出す。
「...アリシア!!」
「ハハハ!!お前も楽しめよ!なぁ!」
男...リカルドはアリシアに暴行を加える。彼は性的対象をいたぶる事で興奮を覚える。しかも、行為に及ぶ前には対象を縛り、決して逃げられないようにするという徹底ぶりだ。
当然ながら、アリシアはいたぶられる事で興奮はしない。苦痛なだけである。
「いやぁ、最高だな。英雄ってのは!!」
顔面を殴られる。アリシアは欠けた歯を口から吐き出す。こうなる前に抵抗することも出来たが、もはや全てがどうでも良くなっていたアリシアには、それすらもどうでもよかったのだ。
「俺は何をしても許される。それ相応の功績があるんだからな!」
今度は腹に蹴りを加えられる。思わず吐いてしまったが、陽介と別れてから何も食べていないせいか胃液と血液しか出ない。
「あーあー、床を汚しちまってよ...汚ねぇから掃除しろ、舐めてな」
アリシアは何もせず、リカルドを見据える。
「やれって言ってるだろうが!!」
顔面を踏まれ、自分の吐き出した物に顔を押しつけられる。
「あー、すまねぇ。速くやんないもんだから、手伝ってやったつもりなんだが...綺麗な顔が汚れちまったな。あ、もう殴られてるからボロボロだったか!ハハハハ!!」
髪の毛を掴まれて無理矢理顔を上げられたあと、首を掴まれ、絞め上げられる。アリシアは抵抗はしないつもりだったが、反射的に完全に絞められるのを避けてしまった。リカルドは興奮しているため、そのことに気がついていないのは幸運と言えるだろう。
「なぁ、話聞いてのか?あぁ!?」
「...」
なおもアリシアは黙って見据える。リカルドはアリシアを投げ飛ばし、下半身の服を脱ぎ始める。
「さて、そろそろ味見といこうか...」
唐突に窓ガラスが割れる。侵入者だろうか、それともいたずらか?
リカルドにはそのような心当たりが数えきれないほどある。実際、過去にも何度か同じような事は起こっている。その度に、ぶちのめ返してきた。それで周りを納得させてきた。今回も同じようにしてやる。リカルドは慣れた手つきで戦闘体勢を整える。
最大限警戒しながら窓ガラスの方に近づく。しばらくしても、誰も来ない。では扉から?それとも上?裏をかいて下?
リカルドは『気配察知』のスキルを最大限に使用し、周囲を索敵する。それらしき気配はなかった。ということは、いたずらか何らかの事故だろう。どちらにせよ、知ったことではない。リカルドは戦闘体勢を崩す。
次の瞬間、彼は2階の床にめり込む。上から頭を掴まれ、下に押し付けられたのだ。それも、レベル88の限界値まで鍛えられたリカルドのステータスを超える力でだ。
上からやって来た復讐鬼...佐伯陽介は叫ぶ。
「死ね!!!」




