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再審の男  作者: 藤澤トオル
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気持ち

深呼吸をしてからノックをして、部屋に入る。アリシアはすでに準備を済ませていた。

「アリシア、話がある」

「なに?開拓する場所を変える?」

「...確かにこれからの事だが、もっと重要な話だ」

普段は笑っているアリシアも、この時は真剣な顔をした。陽介から色々感じ取ったのだろう。


再び深呼吸をしてから、陽介は話始める。

「...まず、隠してた事がある。俺が産まれ育ったのは、こことは別な世界なんだ。訳あってその世界で俺は死に、死後の裁判で...再審を言い渡された。それでこの世界に来てお前と出会った」

アリシアは閉じていた目を開き、微笑みながら返す。

「うん、出会ったときからなんとなく感じてた。あなたは、この世界について知らなすぎる。何か理由があるんじゃないかなーって。でもまさか他の世界から来たってのは予想外だったな」


陽介は驚いた。それなりにバレないよう振る舞っていたつもりだが、最も長く共にいたアリシアにバレていた。

気持ちを切り替えて、陽介は続ける。

「アリシアと出会ってからはお前との開拓を楽しんでいた。全てが新しかったし、全てに感動した。...話を本題に移す。昨日説明したこのジヤヴォールの腕、こいつを俺から外すためにできる手段は1つ...この世界を終わらせる。そうなると、お前を置いていくことになる。それは俺も望んでいない。だが幸運な事に、お前が望めば一緒に新しい世界で生きることができる」

陽介は深呼吸してから、言う。

「...アリシア、俺と一緒に来てくれ」



長い沈黙のあと、アリシアはため息をついてから話し出す。

「...そんなこと言うためにこんな改まったの?」

「じゃあ」

「私の前に2度と姿を見せないで。あなたが異世界からの転生者ってのを隠してたのも構わない。あなたが腕を治したいってのも構わない。そのためにこの世界を終わらせたいっていうのも構わない。...でも、私はこの世界の住人。この世界が終われば、私の人生はそれで終わり。そのあとどうなろうが、私の知ったこっちゃないわ」

「俺はお前との約束を守るために」

「『新しい世界に生きるアリシア』は『この世界に生きるアリシア』と同じ?それとも違う?答えは後者よ。私とあなたの約束は『この世界での』約束。...話は終わり。じゃあね、ヨースケ」

アリシアは荷物を纏めると、足早に部屋を出ていった。陽介は呼び止めることも出来ず、ただその場でうちひしがれるしかなかった。




ビザンティスの裏通り、膝を抱えて泣いている女性がいる。こんな薄汚れた場所にふさわしくない美しい金髪と、端正な容姿を持っている女性...アリシアだ。

「...どうしてだよ...なんで...ヨースケ...」




開拓者集会所のバーカウンター、ショットグラスを掴みながら突っ伏している男がいる。現代的ではあるが、この世界では異端とも言える服装に身を包む男...陽介だ。

「...なんでだよ...クソッ...アリシア」


そんな様子を見かねて、バーテンダーは声をかける。

「アリシアさんと何かあったのかい?」

「...ちょっと重大な提案をしたが、断られた」

いらぬ詮索も考えたが、これは客商売。深く聴くのはやめたほうがいいと考え、バーテンダーは追及よりも、なだめるほうに切り替える。

「どうして彼女は断ったと思う?」

少し考えたあとに、陽介は答える。

「...俺の提案が気にくわなかった」

「そりゃそうだろうが...もっと深く考えてみな。ほら、水だ」


陽介は水を飲んでから再び考え、答える。

「...俺の考えと、アイツの考えにズレがあった」

「そうだな。じゃあ次だ。お前と彼女の考え、どこでどのくらいズレが生じていた?」

「...俺は、彼女が俺の意見に賛同してくれると思い込んでいた。彼女は、俺とは違う死生観を持ってて、俺の意見がそれに反していた」


バーテンダーは客観的に、質問をする。

「お前は、彼女を諦めてもいい。当然だろう、開拓者のパーティーってのはそういうものだ。アリシアさんと死生観に対して大きなズレがあるなら、同じような死生観を持つ人組めばいいだけだ。逆に言えば、彼女をまだ追い求めてもいい。これもまた当然の権利と言える」

「...あんたも選択を俺に求めるのか」

陽介はショットグラスに残っている酒に口をつけながら皮肉混じりにそう言った。

バーテンダーは、笑いながら返す。

「当たり前だ。俺の人生じゃないからな、結局最後に決めるのは本人だ。極論を言えば、俺はお前に選択肢を与えているようで、与えていない。第三、第四の選択肢をヨースケ自身が見つけて、それを選べばいいだけの話。ヨースケ、お前は『何がしたい?』」



悶々としていると、隣に誰かが座ってきた。ヘレナだ。

「やぁ、今日は...あなた1人?」

「...ヘレナ、俺はどうすればいい」

「ちょっとどうしたの」

バーテンダーがヘレナにそれとなく事情を説明する。


「なるほどねぇ、ヨースケはアリシアのことどう思ってるの?」

「...最初は体のいい協力関係だった。ここに来て始めての友人と呼べる人だったし。でもそれが、開拓を続けていくうちに...変わっていった」

ヘレナは相づちを打ちながら質問する。

「どんな風に?」

「...さぁ、始めての感情だった。良いところを見せたい、一緒に楽しんで笑っていたい、共に乗り越えていきたい...彼女から離れたくない。不思議だったよ。最初は向こうから言ってきたんだぜ?『私を置いていくな』って。それが今となっては俺が置いていって欲しくないと願っている。口が裂けても言えねぇ」


ヘレナはニヤニヤしながら答える。

「今20だっけ?若いっていいわねぇ。その気持ちを伝えてきなさい。恥ずかしい?失敗するかもしれない?何か酷い事を言われたらどうしよう?そんなの今更考えてもしょうがないでしょ。失敗を恐れるな、あなたは開拓者でしょ?大丈夫よ、あなたがそんなにアリシアの事を思っているなら、彼女もそれ相応の思いを持っているはずよ」


陽介は2人の言葉を心の中で反芻する。『自分が何をしたいのか』。自分はアリシアをどう思っているのか。...その答えは明白だった。

かなりの量を飲んでいたはずなのに、頭は軽く運動した後の様に冴え渡っている。陽介は立ち上がる。

「ありがとうございます。ヘレナ、あんたいい女だよ」

「あなたもいい男よ。今の顔の方が、昨日あったときよりもずっと素敵ね」

陽介は代金を払い、アリシアを探しに集会所を飛び出した。




「マスター、『ジンライム』頂戴」

「...昔を思い出したか?」

「えぇ、そうね」

「「乾杯」」

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