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再審の男  作者: 藤澤トオル
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ジヤヴォール

『ジヤヴォール』は探す様子もなく、陽介の方へ移動していく。歩かないのだ。宙に浮き、滑る様に動くのだ。

陽介は疑念を抱きながらも顔らしき場所に銃弾を数発撃ち込む。手応えは全くないどころか、貫通しても平然とこちらへ向かってきた。ミーシャとニーナの得物は銃だ。勝ち目はないだろう。

次に、火球を作り投げつける。これは手で払いのけた。少なくとも、銃弾よりは確実性が持てた。


そうまでした辺りで、ジヤヴォールは陽介の目の前にまで来る。近くまで来られて分かったが、黒い布の下には、何もなかった。正確には、『何も見えない』。真っ黒だった。そして何より、175ほどの陽介の身長の倍はある大きさであった。


陽介に不思議と恐怖は湧かなかった。問題は、どう隙を見つけるか、というところだった。

ジヤヴォールはゆっくりと右腕を上げる。チョップだ。陽介は自分の持てる全てを使い、それを受け止める。全力を出すほどの威力ではなかったが、それでも何もせずに受けたらひと溜まりもなかっただろう。


陽介は次に剣を突き刺す。無を貫いたかの様な感触だった。すぐさま剣を引き抜こうとするが、ジヤヴォールに刀身を掴まれ、固定された。かといって、ここで手放してしまうと攻撃手段が素手に限られる。陽介はジヤヴォールの腕に火球をぶつける。ダメージがあったのか、剣から腕を放した。


すぐさま陽介はジヤヴォールと距離をとる。今のところ有効手段は魔術のみ。もしくは、命中判定が腕と布のみ。

ジヤヴォールの周囲に漂う黒い霧に原因があるのでは、と考え霧を剣圧で吹き飛ばす。ジヤヴォールの姿が揺らめいただけであった。これではこちらが不利になるだけだ。


陽介が次の手を考えていると、ジヤヴォールが行動を起こす。先程とは比べ物にならないスピードで接近してきたのだ。陽介はそれに反応できず、ジヤヴォールに腕を掴まれる。レベル90相当の筋力を持つ陽介すら上回る力だった。

「離しやがれ!」

もう片方の腕で剣を振るい、ジヤヴォールの腕を斬る。食い込んだ。しかし、ジヤヴォールは気にせずに次の行動に移る。


自らの胴体に陽介の腕を突っ込んだのだ。陽介に痛みはなく、何かが悪化するというような事もなかった。むしろ何もなかった事が、陽介を恐怖させた。

レベルを吸いとられる、記憶を見られる、ダメージを与えられる、状態異常を付与される...対象に掴まれた時にやられたことはこれくらいだろうか。そのどれもに該当しなかったのだ。ただ、虚空に腕を入れられた。それだけなのだ。


やがて、ジヤヴォールは手を離すと利用価値はないと判断したように陽介を投げ飛ばした。少しとはいえ、積雪のお陰でいくらかダメージは減った。

すぐに腕を確認する。外傷は全くない。ただ、いくらか違和感がある。撤退するべきかとも考えたがもう少し情報が欲しい。剣を構える。


今度は陽介から仕掛けた。フェイントを踏まえて、両腕を切り落とす動きだ。ジヤヴォールの腕はあっけなくその場に落ちた。

ここで仕留めることが出来れば万事解決する。そう思い、追撃をかける。


それが全てを分けた。陽介の腕が、先程ジヤヴォールの体内に突っ込まれた腕が消し飛んだ。それだけではない、陽介から身体の力が抜けていく。追撃を加える前にその場に崩れ落ちた。剣を地面に突き刺し、無理矢理身体を起こす。目の前にはジヤヴォールが立っている。だが、何もしてこない。する気がないのだ。


陽介は剣をしまい、全力で逃走を試みる。追ってこない、興味を失われたのだ。それは陽介にとって幸運でもあり、屈辱でもあった。


ある程度離れたと思われる場所で魔術による連絡を試みる。ここで更なる不幸が訪れる。魔術が使えないのだ。火球を作り出すことも出来ない。ただ、剣術の才能は変わらなかったので『高速学習』を封じられた訳ではなさそうだ。

陽介は仕方なく、ありものでどうにか火を起こす。剣術が使えるのであれば、獣が襲ってきたとしても倒せる。問題はジヤヴォールが襲ってきた場合だ。陽介の敗北は確実と言える。否、すでに敗北しているのだ。


しかし、それは杞憂に終わった。アリシアが駆けつけて来てくれたのだ。

「ヨースケ!大丈夫か!?...その腕、斬られたのか!?止血は!?」

「事情を説明すると長くなる。多分治療魔術は意味がない。それと、俺は今魔術が使えない。その...あれだ、1度集合しよう」

「...わかったわ。...ごめんなさい、ごめんなさい」

アリシアはうつむきつつ涙を流しながら了解した。


数分後、ミーシャとニーナも合流した。

「そんな...!」

「すまない...損な役回りを与えてしまった」

「それはもういいんだ。とにかく、次の1手を決めないとまずい」

陽介はジヤヴォールに関する情報を3人に話した。


暫くの沈黙のあと、ニーナが呟いた。

「本体が別に存在するっていうのは?」

「その理由は?」

「伝承ではその姿も仮の姿なんでしょ?だったら別に本体がいるはずよ」

「なるほど。だがそれが概念の様なものだったらどうする」

「それは...」

「まあ、俺とニーナは全く打つ手はないからな。奴と交戦しても足手まといになるだけだろう」

ミーシャはそれとなく陽介とアリシアを見る。どうするかこちらに委ねるようだ。

陽介とアリシアは共に頷き、答える。

「私とヨースケでジヤヴォールと交戦するわ。その間に本体を探しなさい」

「...すまない」

「気にしないで。やりたくてやってるだけよ」


ミーシャとニーナが移動したあと、アリシアは陽介に尋ねる。

「痛みはないの?魔術の使用以外に弊害は?」

陽介は確認する。消し飛ばされた直後の脱力感はない。

「...大丈夫なはずだ。いや、大丈夫じゃないな。腕がねぇもん」

アリシアに頭を叩かれる。

「こっちは本気で心配してんだよ!でもまぁ...そんな風に言えるなら大丈夫...よね」

「多分な。断定はしないぞ。この話は終わりだ。さぁ、いくぞ!」


2人は再び進む、悪魔を刈るために。

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