疑念
開拓を始めてはや数ヶ月、2人は今...見合っている。互いの距離は数十センチメートル、体を捻り、片手を腰の横に置く。この勝負、先に動いたほうが負ける。
しばらくの静寂ののち、2人は同時に叫ぶ。
「「じゃんけんぽん!!!!」」
「なんでなんだよぉぉぉぉぉ!!!」
「はーはっはっはっはっ!!!自分の弱さを嘆くといいわ!」
陽介達は開拓途中、毛量の多い動物と遭遇し、ほぼ外傷を残さずに仕留めることに成功した。そこで、これからの環境を考えて毛皮の服を作ることになった。...その担当を決めるじゃんけんである。
共に職業スキルとして『生物解剖』を持っている。ランクも一緒だ。
一緒に作業すればいいのではないのか?しかし、動物の血の臭いに別な動物が襲ってくるとも限らない。片方は索敵をせざるを得ないのだ。
解剖しながら陽介は愚痴を吐く。
「まったく...こういうので1度も勝った記憶ないんだが」
アリシアは立って周囲を見ながら返す。
「へっへっへっ。私には女神の加護があるからね」
「初耳だ。やっべ、内臓きっちまった...バレなきゃいいか」
「そこ、聞こえてるよ。まあ私も親からそうきいただけだけど」
一通り作製を終える。別な動物に襲われる事もなかった。かなり大型の動物だったので、2人分を完全に覆うことは出来ないが、それでも大半を覆うことができたので、以前よりも確実に防寒性能は高い。
「へぇ、なかなかいいじゃない。またこういうことあったらよろしく頼むわ」
「嫌だね、じゃんけんで決めさせる」
さらに北東へ進むと、急に温度が低下する。僅かに降雪した痕跡が見られる。
アリシアが方位磁石を確認すると、反応はない。未開拓領域だ。
「今の装備でこれ以上進むのは危険ね。1度『固定』してから少し南下しましょう」
『固定剣』を刺してから、地図で座標を確認する。その位置は...ビザンティスのほぼ真東だ。
「おい、おかしいぞ。もう一回試してみてくれ」
「なに?故障した?まあいいけど」
アリシアはもう一度刺し直す。
陽介が座標を確認すると今度は...はるか西の彼方だ。陽介は言い知れない恐怖を怯えながらもう1度アリシアに頼む。しかし、
「交代よ。あなたが刺しなさい」
今度は陽介が刺すことになった。故障ではないことを祈りながら地面に突き刺す。
アリシアに恐る恐る尋ねる。アリシアは少し沈黙してから答える。
「...ははは、現時点の人類最南端よ。やったわね」
ひきつった笑顔を浮かべ、冷や汗をかきながら青ざめている。陽介も苦笑いを浮かべるしかなかった。
陽介は必死に考察し、3パターン思い付く。1番ありえるのは、魔力の流れが不安定で、上手く固定が出来ない。2番目は、方位磁石の故障。そして3番目は...本当に最南端にたどり着いた。
次に、それらをさらに考えていく。まず、最初のは、高ランクの魔術耐性を持つアリシアが何も反応しなかったので変化が起きているとは考えにくい。2番目のは、開拓者用にカスタマイズされている方位磁石がそんなことで壊れるとは考えにくい。3番目は、そもそも人類最北端にたどり着いていない。
陽介は頭を抱える。駄目元でアリシアに尋ねる。
「魔術耐性所持者として、魔力の流れがおかしいとかはあるか?」
アリシアは地面と周囲の木を撫でてから答える。
「無いわ。今まで通り」
今度はアリシアが陽介に尋ねる。
「1回目と2回目の座標はどうだった?」
「ビザンティスの真東と、よくわからん西の彼方」
アリシアは腰に手を当て長いため息をつく。
「とにかくここで待機してても凍死か餓死よ。南下しましょう」
アリシアの提案に従い、2人は南下を始める。
しかし、数時間歩いても一向に気温は変化しない。本来ならば毛皮を脱いでも問題ないはずだが、毛皮を着た状態で適温のままだ。やがて日は落ち、灯りとなるものは...星と炎系の魔術しかない。
「...」
「...」
「...終わったな」
「嫌よ!せめて死体は誰かに見つけてほしいわ!」
「俺だって誰にも気づかれずひっそりと死ぬのはいやだよ!」
その直後、2人は即座に火を消して息を潜める。何かが遠くで揺らめいたのが見えた。動物か人か、どちらにせよこちらの居場所を悟られてはならない。
2人はそちらへ音を立てずに移動する。そこまであと10メートル...
「動くな」
男の声と共に、後ろに立っていたアリシアの後頭部になにやら硬いものが当たる。銃口だろうか?
陽介は異変に気づきすぐに後ろを振り向く。そして、彼の後頭部にも同様の感触が訪れる。
陽介の後ろから声がする。
「その毛皮...『ジヤヴォール』だな。私達の指示に従ってもらおう」
女性の声だった。どうであれ、陽介とアリシアは彼女らに従う他なかった。
突如訪れた寒冷と、狂える大地と、狂人2人と開拓者2人。明日に命はあるのか?




