クーピー・ハイランダー
《》内の言葉は「色の名前」です。
繰り返します。《》内の言葉は「色の名前」です。
大事なことなので二回書きました。
* プロローグ *
俺はクーピー・ハイランダー。
世界中に散らばった500色の色鉛筆の加護を宿す戦士の一人だ。
「俺はやるぜ。散っていった仲間たちの為にも……!
全ての色鉛筆戦士を倒し、俺が新世界の神になってやる!!」
戦いは激化し、戦士たちは見る見るうちにその数を減らしていく。
色んな戦いがあった。
色々な出会いがあった。
そのどれもが、俺の心の中に刻み込まれ、色濃く残っている。
「これが最後の……戦いッ……! 勝負だッ!!」
俺は目を閉じた。過去の激闘の記憶が去来する……!
* その1 *
「貴様がかの有名な《ラフレシアの謎》の使い手か。
我が名はオルドレッド! 誉れ高き《栗まんじゅう》の鉛筆使いよ!」
《栗まんじゅう》は強敵だった。
奴は俺の戦友《傷心のティラミス》を葬り去ったほどの手練れだ。
何度も死を覚悟するほどの試合を、かろうじて俺は制した。
紙一重の勝利だった。
「危なかった……《栗まんじゅう》。お前の強さと気高さ、そしてその甘さ……決して忘れぬ」
* その2 *
「貴様の持つ《神話の中の悲哀》! このオレ様がいただくぞッ!
《お母さんのおしるこ》の使い手ジェリドクラッド様がなァ!?」
《神話の中の悲哀》は、敵の戦士の持つ色鉛筆で心臓を抉られ――事切れた。
俺は泣いた。
「《お母さんのおしるこ》……! てめえ……!!
よくも俺の親友を! 共に戦ってきた、仲間をッ……!!」
「クックックック。馬鹿な事を抜かしおるわ、《ラフレシアの謎》よ」
《お母さんのおしるこ》の加護を持つ鉛筆使いは、喜悦の表情で俺を嘲った。
「親友? 仲間? 利用しているだけだろうがッ! 自分が生き残るために!
そうであろう? 我ら色鉛筆の戦士は互いに殺し合うが定め! 最後の一人になるまでなァ!
貴様のような、上っ面だけで友情だの家族だのほざく手合いは、心底ヘドが出るわッ!!」
「お前に……お前のような冷血漢に、《お母さんのおしるこ》の力を使う資格はないッ!」
「ほざけッ! 口ではなく力で証明しろ! それが我ら唯一無二の理よッ!!」
《お母さんのおしるこ》は悲しき戦士だった。
すでにその心は冷めきって――誰の口にも温もりを与える事はない。
* その3 *
「貴様と俺の色は似ている……! まるで双子のように瓜二つではないか!
《太陽のプロミネンス》と《カルガモの親子》は!」
「いいや……確かに似てはいるが、違う」
「何だとォ……!?」
戦士二人の色鉛筆が交差する。
刹那――倒れたのは《カルガモの親子》だった。
「ば……馬鹿な……この《カルガモの親子》が……な、ぜ……」
倒れ伏した戦士を見下ろす美少女は――悲しみを瞳に宿し告げた。
「あなたと私、《太陽のプロミネンス》とじゃ……心の熱さが違うのよ」
* その4 *
「なッ……! 信じられぬ……我が《ファラオの時代のナイル川》の力が通じぬ、だと……
貴様の《瀬戸内に浮かぶ小さな島》ごときに劣るというのか!?」
絶対の自信を持っていた色鉛筆使いは苦悶の声を上げ、倒れた。
「お前は《瀬戸内に浮かぶ小さな島》の……無限の可能性に気づけなかった。
一見ちっぽけな力でも、そこには団結があり、共に信じる仲間があり。
最後にはどんなものでも作り上げ、困難も成し遂げる真の強さに繋がるんだ!」
彼の持つ色鉛筆《瀬戸内に浮かぶ小さな島》……またの名を●ASH村という。
* その5 *
カツノリは仲間に向かって号泣した。
「クソッ! 貴様ら緑一族はカッコイイ名前が多いじゃねえか!
《古代の翡翠の勾玉》とか《新緑の風》とかよォ……なのに何故!
オレだけ《おばあちゃんの草餅》なんだよォォォォォ!?」
カツノリもまた、俺と似た悲しみを背負った男。
俺の《ラフレシアの謎》とて、最初は皆名前を聞いただけで思わず鼻をつまんでいた。
色鉛筆なんだから臭う訳ないじゃないか、と幾ら説明しても、聞き入れてもらえなかった。
「カツノリ……お前は決して、一人なんかじゃない」
* その6 *
「フッ……いい戦いだったな……ひとつだけ教えてくれ。
無敵を誇る《アラスカのブリザード》たる俺様が何故、敗れた……?」
「確かにお前は強かった……だが。お前の鉛筆には暖かさが無い。
オレの《ゆでたてのさやえんどう》や、明子の持つ《旬の秋刀魚》のような、熱いハートがな……!
それがお前の敗因さ!」
「フッ……なるほどな……確かに、暖かくて……美味そうだ、な……
もうじき、秋だ……最期に一口、食べたかったなぁ……秋刀魚の……塩、焼き……」
それが絶対強者の一角《アラスカのブリザード》の遺言となった。
* その7 *
「キミは想像できるかね? 《トワイライトゾーンの雪》とか《謎めく無人島》とか言われて、何の色なのか……?
クックック、分かるまい。我が《カフェロワイヤルの炎》の色が分からぬ限り、キミたちは私に永久に勝てないのだ!」
英国紳士風の色鉛筆戦士は不敵な笑みを浮かべ、俺たちを翻弄した。
恐るべきトリッキーな敵だった。
「炎」という言葉に惑わされ、《カフェロワイヤルの炎》が実は彼の着るタキシードと同じ、水色系統だと気づく事ができなかったら……勝利は危うかっただろう。
* その8 *
「私の鉛筆は《人魚のまとうロープ》……」
「へえ。人魚のローブかぁ。なかなか素敵な名前じゃないか」
「いえ、ロープです」
「え?」
「だから、ロー『ブ』じゃなくてロー『プ』」
「……ロープを、まとってるの? 人魚が?」
「はい」
「緊縛プレイか何か?」
「さあ……?」
彼女との一晩の体験は、俺を新たな境地に導いたのだった。
* その9 *
「生き残ったのは我らだけか」
「はい、《コンロン山脈の闇のとばり》様」
王者の風格を纏う人物にひざまずく、四人の漆黒の色鉛筆戦士たち。
「このクーピー世界を支配するのは我々、黒の一族なのだ。そうであろう?
《木の幹のカブトムシ》!
《まつぼっくりのドアリース》!
《イカスミのスパゲッティ》!
そして《高野山の肝だめし》よ!」
『御意にございます!!!!』
凶悪なる「黒の一族」との戦いは、かつてない激しさと犠牲を俺たちに強いるのだった。
* エピローグ *
「クックック……よくぞここまで来た、選ばれし色鉛筆の戦士よ。
もはや生き残ったのも我ら二人だけ。お互い名乗ろうではないか。
我が名は《コンロン山脈の闇のとばり》! この世界の覇者となる!!」
数多の強敵を打ち倒した最強のラスボス、《コンロン山脈の闇のとばり》。
俺は強大なプレッシャーを感じつつも一歩も退かず……同じく名乗りを上げた。
「俺の名は……《アンデスの空ゆくコンドル》!!」
「…………へ?」ラスボスは思わず間抜けな声を上げた。
「いや、お前確か……《ラフレシアの謎》じゃあなかったか?」
「いいや違う! 俺は《アンデスの空ゆくコンドル》!
断じて臭そうな《ラフレシアの謎》なんて名前じゃあないッ!!」
そう、俺は……似たような色の色鉛筆使いで、格好良さそうなヤツに名を乗り換えたのだ。
「いざ尋常に勝負だッ! 《コンロン山脈の闇のとばり》よッ!」
「お……おう……」
ちなみに勝負は割とあっさり、《コンロン山脈の闇のとばり》側に軍配が上がった。
やはり色鉛筆の名前を誤魔化したのが良くなかったようだ。無念。
(おしまい)