subject : 今日は運がいい
「でるぞ」
イグナーツが低い声で言った。
あと3分。はやる気持ちを抑えながらも先生にばれないように出る支度をする。
「じゃあ、これで終わるぞー。挨拶」
今日は運がいい。
チャイムが鳴る2分前に授業が終わり、みな帰り支度を始めた。俺は、挨拶と同時に教室を飛び出した。高校の敷地を出て、人がいない路地裏まで走ると上空へと跳びあがった。
タルファにある小学校が目に入る。あそこだ。いや、あそこから西に行ったところだ。マンションの屋上から適当な建物に当たりをつけて空を跳んだ。
今日は運がいい。
すぐにイグナーツの姿が見えた。
「おい、じじい」
「若造、お前」
イグナーツは驚いた顔をして振り返った。
「瞬間移動したのか」
「いや、跳んだ」
そう言いながらアーデルベルトとアドラーを探す。いた。イグナーツの左右前方だ。
「はっ。全く、お前らの身体強化は意味わからんな」
二人の間には人影が三つ見えた。
「あいつらか」
「ああ、アディたちが横にぴったりついてる。こっちは逆に遅すぎて話にならんがな」
よく見ると、犯人はその両手に子供を連れていた。子供たちの頭は下がり、気を失っているようだった。
「ヴァッヘはどうした」
「あいつらを監視してた場所へ戻ったんじゃ」
悪い予感がする。
「俺も戻る」
「了解。連絡を忘れるな」
俺は前方へ全速力で駆け、空中で一回転して、壁を蹴った。イグナーツは俺の横を後ろに過ぎていった。ここまで駆けてきた道を今度は全速力で戻った。
やはり、今日は運がいい。
小学校のグラウンドに場違いな格好の男女を見つけた。
「見つけた」
「若造、何をだ」
イグナーツの声がイヤホンから聞こえる。
「敵、男女、小学校」
「ワシも戻る」
そこでヴァッヘからの報告がなかったことに気づいた。
「おい、ヴァッヘ、答えろ。今どこだ」
返答はない。
「若造、突っ走るなよ。情報源を無駄にするな」
歯ぎしりの音がキリキリと聞こえる。
耳障りだ。そう思い、イヤホンを外したが音は止まらなかった。
「殺す」