subject : 準備
「お前、髪長くね?」
それは、イグナーツ達が来た翌日の話だった。どれだけ飲んでも二日酔いにならないことは、俺にとってメリット以外の何物でもなかった。
「そう、かな」
「中学入ったときからだよな、その髪型」
耳にかかるほどの長さの髪の毛は、連絡をするイヤホンを付けているのが周りからわからないようにするためだった。任務を受け始めた中学生の時から師匠に伸ばすように言われたのだ。
「切らねえの?」
これが普通で、邪魔とも思ったことがなかった。それに、これからも任務を続けるには切るわけにいかない。実際、今もイヤホンをつけてスアレフからの連絡を待っている。
「気に入ってるんだ」
「ふーん、切らなくてもそれもってんだから結べば?」
大樹は俺の右腕についているゴムを指していった。
「顔良いんだから髪型がさっぱりすればモテると思うけどね、俺は」
にやっと効果音が付きそうな顔で大樹はこちらを見ていた。
「いや、どうでもいいし」
ちょっとだけ強がっていたのは事実だった。大樹はそーかぁ?とにやにやしていた。
「聞こえたら返事して」
そうスアレフの声が聞こえたのは7限が終わる5分前だった。
「聞こえてます」
「ワシだ」
「うーい」
声を出せない俺はイヤホンを二度たたいた。
「全員確認。即時戦闘準備。タルファで下校中の児童複数名が西へ連れ去られたことを確認。ヴァッヘが追ってる」
やはり、カールロルフが動いたか。
結局、どの幹部が動いているのか未だ分かっていない。
「マルスはすぐ出れる?」
俺は一度、イヤホンをたたいた。あと4分30秒。
「じゃあ、他三人はヴァッヘと連絡とりながら敵を追って。児童を連れて行った場所がわかったら、即時連絡。児童が危ないと感じたら、それぞれの判断で突入、救出してかまわないわ。敵から情報が得られそうならそうして」
こういったときに学生という身分は邪魔でしかない。
「マルスはなるべく早く三人に合流」
二度イヤホンをたたく。