subject : バー
一人の大柄な男が、やけに小さく見えるグラスをあおり、なにかをほおばった。
その隣に座る背の高い女は足を組み、その光景をじっと見つめている。
「あ?食いてぇのか、お前」
「いらないわよ、そんな悪趣味なもの」
そういうと、女は足を組みなおした。
「それより、準備は進んでる?」
「まぁな」
「念には念を入れて確認しとくのよ」
「分かってるよ」
男はカチャカチャと忙しなく動かしていた手を止める。
「あぁ、分かってる」
女は再び足を組み替える。
「だが、俺たちにとってこの計画はまたとないチャンスだ。俺たちに与えられたのは、がきのお守りなんていう誰でもできる任務だ。そのうえ、計画が成功すればあの研究にも、関われるかもしれない」
なにか宗教じみた物言いで男は遠くを見つめる。
「ええ。あの素晴らしい研究に、私たちの力が」
熱意のこもった視線を女は手元へとむけた。
女の手にはつらつらと文字のようなものが躍っている。
「終わりの結晶」
グラスに残ったワインを飲みほして男が席を立った。
「一週間後だ、タルファで待っていろ」
「了解」
女は手渡された円状のものを左手首にはめる。
それを心底愛おしそうに見つめた後、女は席を立った。