好 カレン編
お待たせしました。
1話、物語が動き出します
好
「カレンー! 早く行かないと売り切れちゃうよー?」
「待ってよー、そんなに張り切らなくても売り切れないよ」
「なにいってんの、カレン! 1日20個限定、ビックリマウントゴールデンパフェ! 20個だよ!」
「ほんと好きだね〜、そんなに食べたらまた太るよ?美梨」
「んなっ、それを言っちゃ〜おしまいだよ! たべても、その分動けばいいのだよ!」
「はいはい」
始業式が終わり、そのまま制服でパフェ……何時もとなんにも変わらない日常。
友達と放課後にカフェやらファミレスやらへ寄って、あーでもないこーでもないと駄弁って、毎日が楽しい。不満を一つ挙げるなら……
「高校最後くらい、JKブランドが落ちないうちに彼氏ほしいなぁ〜」
○
「ギリセ〜フ、つかれたぁ」
美梨がソファ席にどっぷりと腰をかけ、大きく息をつく。
この、どうしようもなくおっさんに近い少女は中島 美梨。
若干茶色の入った肩にかかるくらいの長さの髪の毛は、扇子の起こす風に煽られゆらゆらと揺れている。
美梨とは中学校からの付き合いで、その頃からほぼ毎日一緒に登下校している。
美梨は甘いものが大好きで、週に2、3回はこうして一緒にパフェを食べにきている。
運動は抜群に出来るが、頭は下から3番目……典型的な脳筋です。
容姿は、身長は149cmと低くめで目はクリッと丸く、可愛らしい印象を受ける。毎年学園で行われている学園に通っている生徒の投票で順位を決める年末行事、「桜花学園美男美女グランプリ」で2年連続5位圏内にいる位は可愛くて、スタイルもいいし、優しいし……頭の悪さを除けば、なかなかの完璧人間。
その横に腰をかけている少女は、中ノ瀬 楓。
楓とは、高校1年の時に廊下でぶつかってしまったことがきっかけで仲良くなった。なんでぶつかったのに仲が良くなったのかは、また後の話で……。
学園5位圏内の美梨の隣に座っていても、全く見劣りのしないその容姿は、「可愛い」と言うよりも、「綺麗」の方が似合っている。
黒く艶やかな髪は、腰ほどまであり、何時も風に揺られている。スタイルもやはりいい方で、身長は159cmと標準に近い高さで、切れ長な目は若干、怖い印象を受けがちだが、よく見てみると、ほんの少しだけ目尻が垂れていてとてもキュート。
そんな楓もグランプリで2年連続5位圏内に入っている。
この二人といると、いつも自分だけが浮いているように感じてしまうのは気のせいでしょうか?
私自身も、2年連続で5位圏内には食い込んでいるんだけどな……。
「ほら美梨、股くらいは閉じなさいよ。はしたない」
楓は美梨のだらしのない格好、態勢を見て頭を抱えている。
「カレンもなんか言ってあげなさいよ? 友達でしょ? カレンは気にならないの?」
「まぁ、ちょっとは思うけどね……てか、楓は疑問文を一度に何度も言わないでよ〜。どれから答えていいのかわかんないじゃ……」
「お待たせしました。ビックリマウントゴールデンパフェです。それでは、ごゆっくりどうぞ」
私の言葉を遮りながら、目の前に高さ80センチはあろうパフェが置かれる。
「何度見てもデカいね……」
「うん……」
私と楓は美梨に連れられて、何度かこのデカ物を拝んでいるが、一向に慣れる気がしない。
対して、美梨はというと目をキラキラと輝かせて、よだれをダラダラと流している。
「美梨、汚ないわよ。よだれくらい我慢しなさいよ、本当にもぉ」
楓の言葉はどうやら美梨には届いていないらしく、もう我慢できないという顔でパフェと私たちを交互に見ている。
「食べてもいい?」
美梨は食事をお預け状態にされている犬のような目で、私と楓を見ている。
「はいはい。食べていいわよ、全く……」
「わーい! いただきまー……」
「お待たせ! 遅くなっちゃってごめんなさい」
美梨の至高の挨拶を遮り、銀髪の少女が私の横へ腰をかけた。
「んーん、全然大丈夫だよ。チーちゃん」
「仕事がお疲れ様、千華」
「カレンに楓もありがと」
「いえいえ〜」
私の横へ腰をかけた少女は、九条 千華。 私たちの通う桜花学園の現生徒会長で、頭脳明晰、スポーツ万能。おまけに学園1の美貌をも兼ね備えている、完璧超人
。
身長は168cmと私よりも6cmも高く、髪はお尻くらおまである。
まさに美人を絵に描いたようなスタイルをしている。
顔の印象としては、切れ長で、すこし吊り上がっている目元の影響で、凛々しい印象を受けやすい。まさに、クールビューティー。
千華とは、幼少期から親ぐるみでの付き合いがあり、幼稚園から現在に至るまでずっと一緒の学校に通っている唯一無二の親友。
「あ、千華ちゃん遅かったな。いや、ちょうど今から食べるところだったから、ちょうどいいタイミングだったのか?」
美梨がニシシとからかうように言う。
「ちょっと仕事が多くてね。ほんとに間に合ってよかったぁ、前回みたいに美梨に全部食べられてしまう前に来られて」
「あ、あん時は、その……べ、べつにあたし一人で食べ切ったわけじゃねぇよ!?」
「あら、一人で食べたんじゃなかったんだ。これは失礼」
チーちゃんは美梨に意地悪く言い放ち、美梨はムスっとしている。
「まぁまぁ、チーちゃんも美梨も喧嘩しないの〜。さっさと食べちゃわないとパフェ溶けちゃうよ? ね、楓」
「ちょっと、いきなり私に話を振らないでよカレン」
「てへへ、ごめんごめん」
「んじゃたべるか!」
美梨の音頭に合わせてみんなで挨拶。
『いただきまーす!』
刹那、美梨とチーちゃんがものすごい勢いでパフェを頬張り始める。
その光景を横目に楓が声をかけてくる。
「ねぇカレン。毎回のように思うのだけれど、カレンと千華が一緒にいるとすごく目立っちゃうじゃない? 二人とも少し日本人とは顔の系統が違うし、二人ともすごく美人だし。 二人で出かける時って、ナンパとかされたことあるの?」
「んー、特にナンパとかはないよ〜? てか、楓も美梨もすっごくかわいいからそっちこそナンパとかされないの?」
楓さん、その質問何回目よってほど楓は私たちのことを気にかけてくれている気持ちはありがたいが、ないものは何回聞かれてもないのだ。ごめんね楓。
でも、楓の意見は最もなのも事実で、実際私とチーちゃんの容姿は学園内でも少々噂が経つ位には有名らしい。
その原因一つが、私たちの髪色。
私の両親は父が日本、母がイギリス出身の人で、私は生まれも育ちも日本なのだけれど、母の遺伝子で髪の色が金髪なのです。
対してチーちゃんは、巷で言うところのクォーターで、お婆さんからの隔世遺伝で髪色が銀色になったそう。
この金銀の髪色をした二人が一緒に歩いていたら目立つのは確実。学園内で「双子戦姫」なんて噂が流れてしまっていても、いささか仕方のないことだと思う。
なんで戦姫なのかと言うのは、私たち二人が武道を嗜んでいたからである。ただ、私とチーちゃんのどちらも武道を嗜んでいたことは誰にも話したことがないため、誰から、どこからその情報が漏れたのかは今だに謎である。
「カレンたちほどじゃないもの、そんな経験はないわよ」
楓が苦笑する。
「そうなんだ〜。 私がナンパしてあげようか?」
いたずらに言う。
「やめてよ、百合だと思われちゃうでしょ?」
楓が笑いながら返してくれたので、私も笑顔で返す。
「二人とも食べないの? 早く手をつけないと、私と美梨とで食べ切ってしまうわよ?」
言われてパフェに目をやると、この短時間で先ほどの半分位の高さまで減っている。
「どんだけ好きなのよ……」
楓が苦笑いを浮かべる。
「まぁまぁ、私たちも食べよ〜? 本当になくなっちゃいそうだし」
私は楓を促し、パフェへと手を伸ばす。
「それもそうね。食べましょうか」
言って、楓もパフェへと手を伸ばす。
私は、パフェの大部分を占めている、バニラアイスとよく熟れ紅い宝石のように輝く苺をスプーンですくい、口の中に放り込む。
瞬間、舌の熱でバニラアイスが溶け、バニラの濃厚な甘さが口の中一杯に広がる。それに追い打ちをかけるように苺を噛み締めると、苺の自然の甘みがまだ舌の上にいるバニラアイスと見事に絡み合い、口の中一杯に幸せが広がる。至福の瞬間。
「んっ、はふぅ〜♡」
口の中の幸せに、つい表情が緩んでしまう。
「カレンって、甘いもの食べると、こっちまで幸せになりそうなほど幸せな顔するわよね。あと、いつも以上に垂れ目が垂れるし」
「どう? 惚れそ?ってか、楓だって顔緩んでるよ?」
「えっ、うそ」
楓が頬を自分の手でつり上げる。
なんでこんなに可愛い子達ばっかりなんだろ……。
そんなことを思いながらパフェを頬張ってゆく。
「ふぅ〜、食った食った」
「やっぱり、久しぶりに食べるとパフェは最高ね。また明日からも頑張れそう」
「ほんとね〜。でも、明日から学校……しかも最後の1年か〜。なんかやだ」
「なんかやだって気持ちはわからなくもないけど」
楓が共感してくれる。
今朝、家を出る時に最後の1年だから悔いの無いように、後悔の無いようにと心に決め登校した。
あと1年しかこのメンバーで毎日顔を合わせることも、学校帰りにこうして、ああでもない、こうでもないとたわいの無い話をするのも出来ないとわかっていても、心の何処かでは、あと1年あるからまだまだ先のことだと思っていて、あと1年と言う期間の短さに実感がわかない。
「時間、期間の話をしたって、どれだけ望んでも伸びないわよ。でもまあ、もしかしたら美梨はもう1年あるかもね……」
チーちゃんがニヤリと笑う。
「ん? どう言うことだ?」
美梨はキョトンとしている。
「流石にそれは無いんじゃない? なんだかんだいっても、美梨はちゃんと毎回回避してるし」
「楓の言う通りだよ、チーちゃん? 美梨だってやれば出来る子だもん」
楓と私は、チーちゃんに笑いながら言葉を返す。
対して美梨は、頭の上に疑問符がたくさんでていそうな顔つきで唸っている。
「回避? やれば出来る? な、なんのことだか、さっぱりわかんない……」
え、まじで? 美梨さん、それはなかなかまずくないですか?
「え、本当にわからないの?」
先ほど、ニヤニヤしながら言ったチーちゃん本人も、本当に心配そうな顔で美梨に聞き返す。
「え、なんで三人ともそんなに顔が青ざめてんの?」
美梨がキョトンとこちらを見ている。
「あのね美梨。 今話してるのは、美梨が赤点を取って、留年しちゃうんじゃ無いのかなぁ〜って話だよ?」
「え、まじ?」
美梨が本当に驚いた顔で尋ねてくる。
「うん、まじ」
3人口を揃えて、美梨に言った。
○
「ふぅ〜。 今日もいっぱい喋ったね〜」
「本当ね。 我ながらよくもまぁこんなに毎日毎日話してて、話題が尽きないと思うわ」
「全く同感」
「でも、楽しいからいいんじゃない?」
空がほんのりと紅みを帯び出した頃、私たち四人は帰路に着いていた。
パフェを食べ終えた私たちは、それ以上何も注文することはなく、ドリンクバーだけでいろいろな話をしていた。
授業の話や学校で起きた出来事の話、部活の愚痴、恋の話など様々な内容で盛り上がり、時にはしんみりしたりして、楽しく話していた。
「あ、夕陽に照らさせて桜が綺麗」
満開を過ぎ、すこし散りかけている桜を指で差し、楓が笑顔でそう言った。
今はちょうど桜花学園の正門付近を歩いている。
なぜ、学園の前を通って帰っているのかと言うと、私たちの行きつけのマウンテン(さっきまでいたファミレス)と、私たちの家の丁度中間辺りに学園が建っているためで、なおかつ学園の前を通った方が近道になるので、何時もこの道を使っている。
「ほんと、綺麗ね」
「綺麗だなぁ」
みんな一斉に桜をみた。
でも私は、私だけは、桜を見ていなかった。いや、見ていられなかった。
楓の指差した先の桜の向こう……友達と楽しそうに会話しながら、ジュースを飲んでいる二つの人影の片方に私は強く惹かれていた。
あの人のことを知りたい、喋りたい、触れてみたい……。
まるで、身体中の細胞が麻痺したような感覚。
私はその場で立ち尽くし、脳が私に静かに、そして確実に告げた。
ーこの人だー
最後までご覧頂きありがとうございます。
次の話以降も読んでくださったら嬉しいです。